「vague~道場主・作間駿次郎顛末記」
港崎遊郭連続誘拐事件の章

vague~鬼垣の尋問手腕・其の貳

 ←烏のおぼえ書き~其の二百二十四・昭和初期の自然科学系研究所・その2 →烏のまかない処~其の三百二十二・今年はお高め福島農産物(>_
作間が尋問部屋を出て、その足音が遠ざかったのを見計らい垣崎は郁三郎の傍に立ちはだかった。

「おい、色男さんよ。あんた、『宮刑』って知っているか?」

 垣崎の問いかけに、郁三郎は黙ったままそっぽを向く。そのふてぶてしい態度に垣崎の部下である同心達が憤然とし、刀の柄に手をかけるものも出る。
 だが垣崎は涼しい顔のまま、まるで睦言を囁くかの如く甘い声で『宮刑』の正体を郁三郎に明かした。

「どうやら知らないようだな、郁の字よ・・・・・・簡単にいえば魔羅をちょん切る刑罰だ」

 その瞬間、郁三郎はびくり、と肩を震わせ、怯えた視線で垣崎を見上げる。魔羅、すなわち男性性器を切断すると言われ、慄かない男はまずいない。ようやく怯えを見せた郁三郎に、垣崎は愉快そうな笑みを口の端に浮かべた。

「尤も今じゃ宦官どもが『自宮』と称して自ら羅切を志願してるって話だが――――――まずは裸にしてからっ!」

 垣崎が声を張り上げると同時に脇差が抜かれ、郁三郎の目の前を縦に一閃する。すると郁三郎の帯が斬られ、はらりとめくれた着物の合間から生白い肌が顕わになった。

「じ、冗談は、や、止めましょうよぉ。旦那ぁ・・・・・・」

 情けない声を上げつつ刃先から逃れようと足掻く郁三郎だが、柱に縛り付けられていて逃げることなど出来ない。せめてもの悪あがきと、郁三郎はまだ縛られていない脚をばたつかせるが、垣崎は容赦なく郁三郎を追い詰めてゆく。

「冗談だぁ?そんなんで済まされるんじゃ奉行所は要らねぇんだよ!」

 情けない声で訴える郁三郎を恫喝すると、垣崎は更に凄みを利かせた声で郁三郎に『宮刑』の説明を続けた。

「で、裸にしてから身体を押さえつけるんだ。江川、兼田、こいつの脚を押さえつけろ!」

 垣崎の命令に、垣崎の部下が左右から郁三郎の両足を押さえつけた。垣崎の脇差によって割かれた着物はさらにはだけ、緋縮緬の下帯まで丸見えとなってしまう。

「さすが岩亀楼の二階廻し、小洒落たモンを身につけやがって」

 堅気の男ならまず身につけない代物に垣崎らは侮蔑の色を浮かべた。だが、責問はこれで終わった訳ではない。

「次に魔羅の根本を縛り付け、おっ勃てさせてから一気に斬るんだが・・・・・・ちょいとこいつが邪魔だな」

 その瞬間、再び垣崎の脇差が郁三郎の鼻先を掠める。

「ひ、ひぃぃっ!」

 郁三郎の悲鳴と共に今度は郁三郎の下帯が斬られ、全てが露わになった。恐怖に郁三郎の分身は縮こまり、芋虫のように叢に潜り込んでいる。

「ふん、今にも殺されそうな悲鳴を上げやがって。安心しろ、俺だってそこまで鬼じゃねぇ。魔羅を斬った後の手当はちゃ~んとしてやるからよ」

垣崎は脇差の腹で縮こまった郁三郎の分身を軽く叩きながら、針責め用の太い針を手に取った。

「魔羅をちょん切ったらまずは熱した灰で血止めをする。そしてその後でこの針を尿の道に通して栓をするんだが――――――」

「も、もう勘弁して下さいよ、与力の旦那ぁ」

 目の前に太い針を見せつけられた郁三郎は、恐怖に耐えられず垣崎に許しを請う。だが郁三郎が怯えれば怯えるほど垣崎は畳み掛けるように脅しをかけ続けてゆく。

「――――――栓をしたら冷水に浸した紙で股ぐらを覆う。おい木下、駿次郎先輩がそろそろ灰を持ってくる頃だろうから、その前に盥に水を張って懐紙を浸けておけ!」

 垣崎の声に木下と呼ばれた同心は黙って頷き、水瓶から盥に水を汲み上げ始める。その様子を郁三郎は震えながら見つめることしか出来ない。

「おいおい、ここまではまだ序の口だぜ。問題はここからだ」

 童顔に邪悪な笑みを浮かべつつ、垣崎は郁三郎の耳許に唇を寄せる。そして止めとも言える垣崎の一言が郁三郎の耳に囁かれた。

「紙で包んだ後、三日三晩水を呑まずに寝て過ごし、三日後にこの針を抜いた時小便が出ればそれで良し。だが、出なけりゃ・・・・・・」

「で、出なけりゃどうなるんですかい?」

 震える声で郁三郎が尋ねると、垣崎は真顔で答える。

「体中に毒が回って死ぬ事になる。勿論専門の医者がやればまぁ失敗は無いが、俺達は素人だからなぁ」

 その時である、微かな軋み音を立てて仕置部屋の扉が開き、作間が部屋の中へ入ってきた。手には熱した灰を入れた壺を持っている。それを見た瞬間、郁三郎は大声で泣き叫んだ。

「い、言います!全部洗いさらい言いますから、魔羅を・・・・・・金玉をちょん切るのだけは勘弁して下さい!そもそもあの浅黄裏がマックウィル、ってぇ毛唐をうちの日本人館に引き入れたのが始まりなんです!」

 じわじわと真綿で首を絞めつけるような垣崎の責めに耐え切れなくなった郁三郎は、堰を切ったように今までの悪事のことを喋り始める。

「幕府転覆の為に甲鉄艦とやらを欲しがっている浅黄裏どもと、海外で羅紗緬を売りたい、っていう毛唐の利害が一致して、一連の拐かしを・・・・・・」

「幕府転覆だと?じゃあ何故おめぇはそこに加担したんだ!」

 間髪挿れずに垣崎は、郁三郎が仲間に加わった理由を問い詰める。その怒声にびくっ、と身体を強張らせ、郁三郎は顔中を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら洗い浚い白状した。

「あ、浅黄裏どもが・・・・・・幕府に代わって天下を取ったら、羅紗緬の監察管理の権利を俺に寄越すと・・・・・・」

 幕府転覆といい、誘拐した娘達を海外で売りさばくといい、予想していたより遥かに大きな話に垣崎は眉を顰める。
 そんな緊迫した空気が漂う中、唯一人作間だけは部屋に戻って来たばかりで状況が飲み込めない。しかしこの緊迫感を壊すわけにもいかず、垣崎から少し離れた場所にいる同心の木下に小声で尋ねた。

「・・・・・・垣崎の奴、一体どんな手を使ってあの二階回しを自白に追い込んだんだ?」

 着衣こそ刀で割かれているが、その生白い身体には髪の毛一筋ほどの傷も見当たらない。それなのに郁三郎は恐怖に慄き、自ら進んで今までの悪事について喋っているのである。作間が不思議がるのも無理はない。
 そんな作間の質問に対して、木下は笑いを噛み殺しつつ種明かしをする。

「実は垣崎さん、ここにある道具を総動員して『宮刑』にすると脅したんです。いや~『鬼垣』の落とし技、なかなかの見ものでしたよ。」

 そう聞かされて作間は水に浮かべてある懐紙の理由に納得した。『宮刑』については作間も練兵館の講義でちら、と聞いたことがある。垣崎ももしかしたらそれを覚えてい尋問に利用、もとい悪用したのだろう。

(まったく・・・・・・伊織に関わるとろくなことがない)

 郁三郎から他の犯人達の名前や特徴を聞き出している垣崎を見つめつつ、作間は心の中で溜息を吐いた。そんな作間の心情を知ってか知らずか、垣崎はさらに厳しく郁三郎を問い詰める。

「で、他の野郎どもは今どこにいる?」

「が、外国人居留地の、マックウィルの別宅です。俺もそれがどこにあるかはっきり判らねぇ」

 郁三郎の口から外国人居留地という言葉が零れたその瞬間、垣崎は忌々しげに舌打ちをした。幕府が治外法権を認めてしまった海外居留地に、奉行所は捜査に入ることは出来ない。
 犯罪者が外国人居留地に逃げ込んだら、各国の公使館を通じて解決してもらうしかないのだ。だが、奉行所としてはそう簡単に公使館に助けを求める事もできない。垣崎はここへ来て逡巡を示す。

「おい、伊織。悩んでいる時間はないぞ。ここは恥も外聞もかなぐり捨てて公使館に頼み込むしか無いだろう」

 悩んでいる様子の垣崎に、作間が進言する。

「奉行所の面子や手続きの煩雑さがあるなら俺が行ってやる。拐かされた娘達を取り返すには今動かないと間に合わない。明朝にでも黒船で出航されたら打つ手はないんだぞ」

 出航されたら打つ手はない――――――作間のその一言に、垣崎は覚悟を決めたのか唇を噛み締めた。

「駿次郎先輩、お願いします。俺はこれから奉行に事の次第を伝えてきます。全ての責任は俺が負いますから、絶対に娘達の救出を・・・・・・頼みます!」

 垣崎は作間に対し深々と頭を下げる。それは与力の職と引き換えに、娘達の救助を公使館に頼む事を意味していた。

「判った、任せておけ――――――ところでマックウィルという男は何人だ?英吉利か、それとも仏蘭西か?」

 横浜には各国の公使館や領事館がある。国を間違えて飛び込んでしまったら元も子もない。万に一つも間違いが無いよう、作間は念入りに確認を取る。

「名前からすると、たぶん英吉利です。そうだな、郁の字!」

 垣崎の恫喝に、郁三郎は壊れた人形のようにかくかくと頷いた。

「身体的特徴はさっきその男が言っていた通りでいいんだな?間違いが無いのなら今すぐひとっ走り英吉利公使館に行ってくるが」

 作間とて先程から行われていた尋問をただぼんやり聞いていたわけではない。犯人の名前、人数、それぞれの身体的特徴をきっちり把握していた。

「ええ、だけどちょっとだけ待っていてください」

 今にも仕置部屋を飛び出そうとすつ作間を垣崎が止める。

「今、簡単に犯人捕縛の申請書を書きます。略式でも書類があるのとないのとではあちらの対応も違いますから・・・・・・兼田、紙と矢立!」

 垣崎の声に、郁三郎の脚を押さえつけていた兼田が即座に懐から巻紙と矢立を取り出す。そしてそれを受け取ると、垣崎はさらさらと犯人捕縛の申請書をしたため始めた。




UP DATE 2017.08.30

Back   Next



にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv


こちらは画像表示型ランキングです。
押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)






ドS鬼畜役人・垣崎の本領発揮というところでしょうかwww着物こそ斬っちゃってますが郁三郎本人には傷一つ付けず、脅しだけで自白に追い込みやがりました( ̄ー ̄)ニヤリこんな後輩に顔を合わせる度におちょくられている作間もたまったもんじゃありません(^_^;)
そんな脅しが功を奏して犯人が逃げた場所を突き止めましたが、そこは治外法権の外国人居留地内、神奈川奉行所もおいそれとはてが出せません(>_<)一応作間の訴えて一か八かの勝負に出ましたが、これがうまくいくかどうかは公使館の担当者に話を聞いてもらうまでは判らず・・・(-_-;)
次回更新は9/6、今度は作間が活躍する番です(๑•̀ㅂ•́)و✧
関連記事
スポンサーサイト

 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のおぼえ書き~其の二百二十四・昭和初期の自然科学系研究所・その2】へ  【烏のまかない処~其の三百二十二・今年はお高め福島農産物(>_】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のおぼえ書き~其の二百二十四・昭和初期の自然科学系研究所・その2】へ
  • 【烏のまかない処~其の三百二十二・今年はお高め福島農産物(>_】へ