「短編小説」
江戸瞽女の唄

江戸瞽女の唄~老俥夫のお出迎え

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「瞽女様、本当にお宿までお送りしなくて宜しいのですか?」

 玄関から出ようとしたみわと隼人に家の主が心配そうに声をかける。どうやらこの家の主はかなり心配症らしい。盲目のみわだけでなく手引の隼人にまでやたら世話を焼こうとする。

「ええ、大丈夫ですよ。取っていただいたお宿も一町ちょっとの距離ですし」

 流石にみわも苦笑いを浮かべるしか無い。主の申し出を丁重に断る。

「送らせていただく車なら腐るほどありますし・・・・・・タクシー会社なので」

 冗談とも本気ともつかない主の言葉にみわと隼人は思わず笑ってしまった。

「それにしても先代は流石ですね。一代でここまで店を大きくしたとは」

 草履を履いた隼人は改めて玄関を見渡す。大きな梁が通った天井に一枚板の上がり框、飾られている薩摩焼の大壺もかなり高価なものだろう。だが、主は少し困ったような表情を浮かべつつ、昔話を語りだした。

「そうですね。でもこれらを手に入れるのに父は相当頑張りました。しがない俥夫が士族のお姫様と駆け落ちして、向こうの家に認められるようにならないと、と必死でしたから。私も子供自分には父の顔なんて一ヶ月に一度、見れれば御の字でしたよ」

 玄関も含め、かなり立派な家構えは三ヶ月前に亡くなったという先代の意地だったのだろう。そして先代という良人を亡くした主の母も気落ちして寝込む日々が続いているという。それを慰めるために、昔の歌を知っているみわ達が呼ばれたのだが、寝込んだ老母はだた微かに微笑むだけだった。彼女の生命もあともう少し――――――そんな風情が感じられた。

「では失礼します」

 主に深々と一礼して玄関を出たみわと隼人だったが、大きな門を出たその時、思わぬ『人物』がその場に居座っていた。



 玄関脇に居座っていたその人物は老俥夫だった。昔流行っていた短い煙管を加え、随分と年季が入った俥の前に座り込んでいる。

「あの・・・・・・どなたかお待ちですか?」

 その男にみわが声をかける。盲目のみわが見える相手――――――それはすなわち『この世のものではない』存在である。その割には輪郭もしっかりしており、生きていた当時とそう変わらない姿だ。それは死んでからまだ間もない――――――せいぜい半年以内に亡くなった人物であろう。
 煙管を咥えた俥夫の幽霊は、声をかけてきたみわと隼人をギロリ、と睨みつけるとぶっきらぼうに言い放った。

「お嬢を待っているんだ。ほっといてくれ」

「おみわ、行くぞ。でないと日が暮れちまうし、他所様の家の『死』に関わるんじゃない」

「そっちの野郎のほうが物の道理が解っていそうだな――――――お嬢が出てくるのは月の出の頃だ。そうなると家が騒がしくなるだろうからその前にここを離れな」

 そう言い切ると老俥夫はしっしっと野良犬を追い払うように手を振った。

「月の出の頃・・・・・・」

「ほら、足元に気をつけろ」

 隼人はみわの肩を抱えるように抱くと、その場から足早に離れる。

「――――――わざわざご亭主があの世から奥方を迎えに来たんだ。逢瀬の邪魔をするような無粋はやめておけ」

 隼人の言葉に、みわは小さく頷いた。



 夏空も、立秋を過ぎるとやや暮れるのが早い。夜風に含まれる微かな秋の気配を感じているのか、蟋蟀や鈴虫の鳴き声が道端の草むらから響いている。そんな宵闇に紛れるようにタクシー会社社長の自宅から、一人の娘が周囲を気にするように表へと出てきた。年の頃は十七、八くらいだろうか。小花をあしらった越後上布を身にまとった娘は、老俥夫の顔を見ると、ホッとしたような笑みを見せた。

「良かったぁ。もう来てくれていたのね、佐次郎さん」

 愛くるしい笑みを見せたその娘に、気難しい表情を浮かべていた老俥夫も顔を綻ばせる。

「当たり前だろう。駆け落ちしたあん時みたいにオメェを20分も待たせたりしねぇよ」

 そう言いながら老俥夫は娘を――――――長年連れ添ってきた妻を俥へと誘った。

「それにしてもめかしこんできたな。別に今の婆姿のままでも良かったのに」

 すると妻は頬をぷぅ、と膨らませ唇を尖らせた。

「おなごは好きなお方の前ではきれいでいたいものなんです。それにせっかく迎えに来てくださるんですもの。しっかりお洒落しないと」

 そんな妻の頭を撫でつつ、老俥夫は自らの顔を妻の顔に近づけた。

「お前はどんな姿でもきれいだよ。出会った時の姿でも、添い遂げきった七十の婆の姿でも」

 そして娘を俥の座席に座らせたその時である。

「お母さん!息を吹き返してください、お母さん!!」

 悲痛な男の叫び声と、妻と思われる泣きじゃくる女の声、バタバタと走り回る複数の足音が聞こえてきた。

「全くあいつ五十路にもなるのに何でもかんでも大仰に――――――会社を任せるのはちと不安だが、仕方ねぇか。ま、くれぐれも俺が気張ってでかくした会社を潰してくれるなよ」

 老俥夫は梶棒を握ると『ほっ!』と軽く気合を入れ走り出す。そしてそのまま月光が作り出す天空への道を駆け上がり、星空へと消えていった。




UP DATE 2017.8.19 

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今回はみわ&隼人は脇役に回ってもらいました(^_^;)
今回みわ達を呼んだタクシー会社の社長は昔の歌を母親に聞かせるため、みわを呼んだのでしょう。だけどどうやら臨終間近だったようです(´・ω・`)そしてそんな妻を迎えに来た先代社長―――妻が17,8歳の、夫と出会った頃の姿になったように、彼にとって年老いた俥夫の姿は一番好きな姿だったのでしょう。年老いてもなお車くらい引けるぞという心意気というかなんというか(*´ω`*)
そんな二人の恋路を邪魔しちゃいけないと隼人はさっさとみわを引きずってその場を離れていきましたが、子供らにとっては一大事ですよね(>_<)母親が亡くなってパニック状態の子どもたちに一抹の心配をしつつ、老俥夫は妻の魂を連れてとっととあの世へと旅立ってしまいました(*^_^*)きっとあの世で誰にもじゃまされずゆっくりと逢瀬を楽しんでいるに違いありません(*´艸`*)
(生前は妻の親に認められるように必死に仕事をしていたでしょうから、ゆっくり家に帰る暇も無かったに違いありません(´・ω・`)今のブラック企業も真っ青な仕事をしていたであろう当時ですが、現代に比べ仕事の密度は緩かったですからね~。)

来月の拍手文は・・・そろそろみわと隼人の距離を縮めに入りたいな~と目論んでおります(๑•̀ㅂ•́)و✧
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