「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章・結

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 嗄れた声の語りが静かに終わり、代わりに蛙の鳴き声が中越と千香子の耳に飛び込んできた。否、最初から蛙の声はしていたのかもしれないが、沖田老人の話に入り込んでしまい、他の音が聞こえなかったらしい。

「・・・・・・それが、鉄之助君との最後だったのですか、沖田さん?」

 沖田老人の話が一区切りついたその時、中越は思わず問うてしまった。

「彼は、無事任務を果たせたのでしょうか?」

 当時の横浜、東京は間違いなく官軍が跋扈していて監視の目も厳しかったはずだ。彼は行きて任務を果たすことができたのだろうか――――――中越は心配になって沖田老人に尋ねる。すると沖田老人は苦笑に近い笑みを浮かべつつ中越を宥めた。

「安心してくださいよ、中越さん。彼は日野へ――――――おのぶさんのところへ無事たどり着いて、そこで二年間ほどお世話になっていたそうです。その後、実のお兄さんからの連絡を受けて大垣へ戻ったらしいですよ」

 沖田のその一言に中越と千香子はほっと胸を撫で下ろした。

「良かったぁ、無事だったんですね鉄之助くん」

「若いとは言え元服していたら成人扱いですものね。捕まったら酷い目にあうんじゃないかとハラハラしました」

 口々に感想を述べる中越と千香子を沖田老人は孫を見るような優しげな目で見つめた。

「何せ土方さんが国友村の行商から無理やり新選組に引き込んだくらい頭のいい少年でしたからね。石田村の土方さんの実家はもぬけの殻だったそうで、それならばと彦五郎さんやおのぶさんを頼って日野へと向かったそうです。乞食の姿に身をやつしていたから最初は判らなかったそうですけど」

 穏やかに笑いつつ、沖田はふぅ、と大きく息をついた。いつの間にか部屋には明かりが点いており、ささやかな明かりを求めて夏虫が纏わりついている。

「新選組は――――――江戸幕府の最後の輝きに魅入られた夏虫のような存在だったのでしょうね。身を焦がすほど憧れて、だけど中に入り込んだら焼き尽くされ・・・・・・それでも命をかけて生き抜いてきたんです」

 それは沖田老人の、否、新選組に所属した隊士らの青春そのものだったのだろう。全てを語り終えた沖田老人は柔らかな笑みを二人に向けた。

「これで私が知っている全てを語り終えることができました。心残りはありません」

 まるで菩薩のような悟りきった表情に中越と千香子は言葉を失った。



 翌日、中越と千香子は横浜へ戻った。沖田老人と出会う前の日常に戻っただけなのだが、何故か空虚さに襲われる。それほどまでに沖田老人の語りは生々しく刺激的だったのだ――――――失って初めてそれに気がつく。だがそんな中越を更なる衝撃が襲うこととなる。



 沖田老人が亡くなったとの電報が中越の勤め先に送られてきたのは中越達が横浜に帰ってからその十日後のことだった。中越は急遽休暇を取り、沖田老人が療養している娘の佳世の自宅へと向かったが、夏場ということもあり沖田老人の亡骸は既に土葬された後だった。

「心に抱えていた重い荷物をやっと下ろすことができて、安心したのでしょう。まるで眠るような穏やかな旅立ちでした」

 位牌を前に、佳世は呟いた。新選組隊士だった過去、そして佳世の実の父親ではないという事実を隠しつつ生きた人生は確かに気が休まらなかったかもしれない。だが人生の最後の最後で中越に出会い、全ての隠し事を吐き出した後にあの世へと旅立っていったのだ。否、心の重石が取れて気が抜けてしまったのかしれない。

(きっと新選組の仲間やお小夜さんのところで一息ついているのかもしれないな、沖田さんは)

 戦争を生き抜いた幹部達も既に亡くなり、沖田老人がほぼ最後だったはずである。きっと先に旅立った仲間達が沖田老人を出迎えてくれるに違いない――――――真新しい線香の香りが漂う中、中越は改めて位牌に手を合わせた。



 暫く佳世と故人について語らった後、中越は佳世の家を後にし、教えてもらった沖田老人の墓へと向かった。夏の午後の日差しは眩しく、中越は思わず掌で日差しを遮る。

「俺は・・・・・・沖田さんのような、男一生の仕事に出会えるのだろうか」

 光り輝く眩しさに憧れて近づいてみたものの、自分に力がなければ焼き尽くされる。そしてそれがわかった瞬間には遅すぎるのかもしれない――――――幸い沖田は戦場から逃げおおせることができたが、新選組幹部で生き残ったものはわずかだと聞く。そんな苛烈な生き方は流石に自分にはできないと中越は思う。

「できないからこそ。憧れるのかもしれないな」

 辿り着いた沖田老人の墓の前で中越は手を合わせる。そして胸ポケットから一冊の手帳を取り出し、墓前へと置く。

「せっかく語って頂いた話ですけど、これはやはり沖田さんと共に葬らねばならない話ですので」

 沖田老人の死の知らせを聞いた瞬間に、中越はこうしようと決意していた。だが沖田老人の話を聞いた半年間は決して失われることはない。

「沖田さん、本当にありがとうございました」

 中越は沖田の墓に深々と一礼する。そして踵を返すと振り返ること無く沖田の墓の前から去っていった。



UP DATE 2017.8.12

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休載期間も含め、およそ7年半がかりのこの話もようやく結末を迎えることができました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。長きに渡るお付き合い、本当にありがとうございますm(_ _)m

全てを語り終えたジジイ総司ですが、全てを語り終えた安堵と、夏の暑さが体に堪えたのでしょう。中越に全てを語り終えた十日後にあの世へと旅立ってゆきました。当時の平均寿命などを考えると老衰と言ってもかまわないような年齢ですけど、つい一ヶ月前までぴんしゃんしていたジジイがぽっくり亡くなって中越も驚いたかもしれません。ま、大きな病気にもならず、大して苦しみもせずにあの世に行けたのは日頃の行いが良かったからと言うことに・・・して良いのでしょうか(^_^;)
そして中越は沖田老人から聞いた話をまとめた手帳を墓前へと置くことを決意しました。やはりこれは世間に公表してはいけないもの、そして沖田老人と共にあの世へ送らねばならないものと思ったのでしょう。それでもジジイと出会い、話を聞き続けた半年間は中越にとって大事な宝物になったはずです(*´ω`*)

ジジイほどでないにしても私もようやく『夏虫』という長い話を書き終え、重い荷物を下ろすことができました(*´ω`*)次週は拍手文のシリーズを書かせていただきますが、その後の予定はまだ立っておらず・・・取り敢えず9月いっぱいは土曜日はお休みを頂き、新連載の計画を練らせていただきます。

改めて7年半のお付き合い、本当にありがとうございましたm(_ _)m帰省から帰ってから完成祝の美味しいお酒をゆっくり飲ませていただきます❤(ӦvӦ。)
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S様、お返事遅くなりまして申し訳ございませんm(_ _)m 

こんにちは(*^_^*)連載終了への労いのお言葉ありがとうございます。そしてスマホの通知の調子が悪く、コメントに気づくのが遅れ誠に申し訳ございませんm(_ _)m
7年半に渡る昔語りがようやく終わりを迎えました。きっとすべてを語り終え、満足して沖田老人はあの世へと旅立っていったに違いありません。一抹の寂しさはございますが、全てを書き終えることができてホッとしております。
次の作品の予定はまだ立っておりませんが、短編を中心に書かせて頂く予定ですので、宜しかったらお立ち寄りくださいませ。
コメントありがとうございましたm(_ _)m

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