「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第二十八話 函館総攻撃・其の肆

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 薄暗い山の中で沖田と鉄之助は地面に穴を掘っていた。先住民の案内でここなら土地勘のないものなら入れないだろうと云われた場所である。確かに道から外れており土方の首が的に見つけられることは無いだろう。

「いつか・・・・・・土方隊長をちゃんとしたお墓に埋葬できる日がくるんやろか」

 だいぶ深く掘った穴にそっと土方の首を置きながら、鉄之助はポツリ、と独り言を漏らす。しかしその独り言につれない返事をしたのは沖田だった。

「難しいですね。そもそも私達が案内なしにこの場所に再び来るのは無理でしょうし、その前に敵に捕まって殺されるかもしれません」

「・・・・・・ソッチのほうがありそうやというのは笑えまへんな」

 鉄之助は苦笑いを浮かべつつ、土方の首を埋めると自らの大刀を墓標代わりに建てた。

「良いんですか、鉄君?武士の魂を墓標にして」

「使いこなせへんものを持ってたかてしょうがありまへん。むしろ怪しまれてしまうし。それでなくてもこの髪じゃ」

 そう言って鉄之助は自らの髪をつまんだ。会津で切ってしまった髪は肩に届くか届かないかくらいまで伸びてはいたが、まだ髷を結うには短すぎる。

「そうなんですよねぇ。私もこれじゃあ髷を結うにはちょっと・・・・・・この髪で官軍にバレてしまいそうですしねぇ」

 その時である、二人をこの場所まで案内してきた先住民の男が口を挟んできた。

「あの、差し障りがなければ暫く俺達の集落に隠れているのはどうでしょう?」

「え?良いんですか?見つかったらあなた達にだってとばっちりが」

「今更ですよ。元々アイヌと和人との間には色々ありましたし」

 青年は言葉を濁しながら沖田らを促す。

「ただヒジカタさんは俺達を対等に扱ってくれました。その縁の人を助けるとなれば仲間たちも許してくれるでしょう」

「・・・・・・確かに土方さんの判断基準は『使えるか使えないか。裏切るか裏切らないか』の単純明快さでしたからねぇ」

 元々流血の穢とは切っても切れない縁を持つ新選組だ。それ故死穢に関わる身分の者でも分け隔てなく近藤や土方は接していた。そんな行動がこの助けになっているのだ――――――沖田と鉄之助はありがたさを噛み締めつつ申し出を受け、先住民らの集落に厄介になることとなった。



 そして三ヶ月後――――――荷役に変装した沖田と鉄之介は函館港にいた。遠くに官軍兵らしき男らがおり、胡散臭そうにこちらを見ているが近づいてくる様子はない。何故なら沖田らがいる場所は外国人居留地側の港だからである。近づきたくても近づけないのだ。

「まさか貿易を通じてアイヌの人達と欧州側に繋がりがあるとは思いませんでしたよ」

 沖田の囁きに鉄之助も小さな笑みを浮かべる。それは潜伏を始めてからひと月後のことであった。灰燼と化してしまった函館の街で食料が調達できないからと、居留地の商人が沖田らが隠れていた先住民集落にやってきたのだ。そこから話がトントン拍子に進み、二人の髪がようやく束ねられるようになった七月初旬、横浜行きの船に乗船することが可能になったのである。

「横浜に到着したらまずは長吏かひにんの鑑札を貰わないと」

「そんなアテ、あらはるんですか?」

 船に乗り込みながら鉄之助が尋ねる。

「う~ん。アテ、というか横浜を仕切っている親分がいると思うんで、そこで事情を話せば何とか・・・・・・乞食とはいえ勝手にやると色々問題が起こりますからね」

 そんな会話をしている内に船が動き出した。どんどん距離が離れてゆく函館港を見つめながら、沖田は今まで張り詰めていた何かが体の内側でほどけてゆくのを感じていた。



 二人を載せた商船が横浜港に到着したのは函館を出発して三日後の事だった。半日ほど嵐に遭遇してしまったが、それ以外は極めて順調な航海だったといえるだろう。

「じゃあ、早速行きますか」

 船を降りた沖田と鉄之助は早速関内の出口がある北へ向かって歩き出した。二年前の火事によって大々的に道が整備されたので、迷うこともない。そして一旦外国人居留地側から作業員用の関門を通り抜ける。その際、官軍側の兵士が検問に立っていたが、特に怪しまれることもなく二人は拍子抜けしたほどだ。だが、大変なのはこれからである。

「紙くずの収集とかその他の仕事の利便性を考えるとすぐ傍にその手の街が・・・・・・あ、あった!」

 沖田が指し示したその先には敢えて雑に作られたと思われるあばら家の密集している、いかにも貧民窟然とした地域があった。その奥にはこの土地の長が住むちゃんとした建物があるはずだが、このあばら家たちが一般庶民を近づけない役割を果たしている。
 沖田と鉄之助は貧民窟の細い路地を通り抜け、一番奥にある屋敷の門番に声をかけた。

「すみません。幕府軍の逃亡兵なんですが、長吏かひにんの鑑札をお借りしたく・・・・・・」

「それなら後にしてくれ。今けが人が出て取り込み中だ」

「けが人?」

 沖田が怪訝そうに尋ねる。

「おうよ。上方からやってきた新政府軍の兵士がうちの若旦那に言いがかりをつけやがって」

 忌々しげに吐き捨てた門番に沖田は調子よく相槌をうった。

「若旦那さんが怪我なんてそれは大変ですね。薩長の政府が統治してからやはり治安は悪くなっているんでしょう?」

「ああ。少なくとも以前はよっぽどのことがなけりゃお役人は俺達を黙認していてくれていたからな。しかし今の政府とやらはそうじゃねぇ。全く昔は良かったなんて、ジジイが言う言葉だと思っていたのにまさか自分が言うことになろうなんて」

 その時である。屋敷の扉の奥から会話が聞こえてきた。どうやら医者の診断が終わったらしい。

「あれ?この声って・・・・・・?」

 まず気が付いたのは鉄之助だった。それに対して沖田は少し気難しい表情を浮かべる。

「まさか・・・・・・できるだけ目立つ行動は慎めって、あれには言い含めておきましたよ」

 その時である、扉が開き中から二人が予想した人物その人がいきなり出てきたのだ。

「小夜・・・・・・!!」

 その顔を見た瞬間、沖田は驚き思わず名前を叫ぶ。それは小夜も同様で、切れ長の目を大きく見開き、口に手を当て驚きの表情を浮かべた。

「そ、総司はん?何でこんなところに?」

 すると小夜の背後から、怪訝そうな声がかかってきた。

「お小夜先生、そちらのお方は?」

「すんまへん、ひと様の玄関先で・・・・・・生き別れていたうちの主人どす」

 小夜が慌てて振り向き、顧客――――――長吏の長らしい、初老の男に沖田を紹介する。

「初めまして。小夜の夫で新選組副長助勤の沖田と申します。ちょっと事情がありまして長吏かひにんの鑑札をお借りしようと訪ねたのですが」

 新選組ならば通りが良いだろうと沖田は懐かしい役職で自己紹介をする。すると長吏の長と思われる初老の男はびっくりした表情を浮かべ、三人に上がるよう促す。

「だったら上がってください。本当にあいつらには腹が立って腹が立って!息子もあいつらのせいで怪我をしたんですよ!」
 
 憤懣やるかたないといった風情で怒りを露わにした長吏の長は半ば強引に沖田らを屋敷に上げると、早速鑑札の手配を始めた。

「関八州、とまではいきませんが、相模、多摩、江戸くらいはこれで問題ないでしょう。もしそれ以上の範囲で動くようでしたら浅草の弾左衛門に早馬を出しますが」

「いえ、それには及びません。尋ね人はたぶん多摩にいると思われますんで」

 とは言え一抹の不安はあった。土方の家族も官軍の手を逃れて逃げている可能性があるからだ。もしかしたら土方の家族を探すのに時間がかかるかもしれない――――――そう思った沖田は小夜に向かって口を開く。

「小夜、申し訳ないんですが私は鉄君と共に土方さんの家族を・・・・・・」

「それなら大丈夫です、沖田センセ」

 沖田の言葉を遮るように言い放ったのは小夜ではなく鉄之助だった。

「そのお使いならワテ一人でも大丈夫です。というかむしろ一人のほうが怪しまれんような気がするんです。それに石田村の庄屋はんやったらどこかに潜伏していても見つかるような気が・・・・・・それが駄目やったら日野のお姉はんのところとか」

「ああ、それなら大丈夫かもしれませんね。流石に日野宿本陣は取り締まれないでしょうし」

 そして沖田は真顔で鉄之助に向かい合う。

「では、私は暫くの間横浜に潜伏しています。もし何かあったらこちらに連絡を――――――すぐに駆けつけますから」

「そうならへんよう、頑張ります」

 鉄之助は沖田に力強く言い放ち、笑顔を見せる。そして翌日、乞食の姿に身をやつした鉄之助は多摩へと旅立っていったが、これが沖田と鉄之助の永遠の別れとなった。




UP DATE 2017.8.5

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すご~~~~く長いことかかりました『夏虫』の本編、ようやく最終話ですヽ(=´▽`=)ノちょっと尻切れトンボ的な終わり方になっておりますが、これは本当の最終話~ジジイ総司最後の語りにつながってゆくものですので、そのへんはご容赦を(^_^;)

土方の首を街道から外れた山中に埋めた沖田と鉄之助は、髷が結える間まで潜伏し函館を脱出したと拙作ではさせていただきました(*^_^*)鉄之助の函館→日野ルートは諸説あるのですが、意外と髷に関しての考察が無いような気が(-_-;)そもそも短すぎる散切り頭であるという時点で幕府軍兵士=捕縛ルートまっしぐらです(>_<)そんな状況で函館から動きだすとは思えないんですよ・・・もしかしたら外国人居留地に潜伏していたかもしれませんし、先住民の集落に隠れていたかもしれません。いやもしかしたら普通の家だったかも・・・でも髪の毛が伸びるまではおとなしくしていたであろうと妄想させていただきました(*^_^*)
そして髪の毛が伸びて辿り着いた横浜で、小夜との再会も果たしましたε-(´∀`*)ホッご都合主義は否めないのですが、こうでもしなければ話が終わらない(^_^;)どちらにしろ長吏、ひにんの助けがなければ鉄之助も日野にはたどり着けなかったでしょうから、この設定にさせていただきました(*´ω`*)

長々と続きましたこのシリーズ、残りあと一話ジジイの最後の語りとなりますが、お付き合いのほどよろしくお願いいたしますm(_ _)m
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