「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第二十七話 函館総攻撃・其の参

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「おいっ、連携が崩れ始めているぞ!!一旦退却して立て直しだ!!」

 敵陣深くまで攻め込んだはいいがやはり寄せ集めの部隊、徐々に連携がバラけてきた味方の陣形を立て直そうと、土方は声高に叫び踵を返した。

(ちっ。本当はもう少し敵の道連れを増やしたかったところだが、仕方ねぇか)

 馬を走らせながら土方は心のなかで思う。せめて弁天台場にいる新選組の仲間を救出してから沖田や鉄之介が待つ一本木関門に戻りたかったところだが、戦の流れだけはどうしようもない。自分が死ぬことになっても、せめて仲間が一人でも多く生き残るように――――――ここが潮時と土方は馬を走らせる。

(あいつらの事だ。俺がいなくてもやってくれるさ)

 土方は自分に言い聞かせながら馬の尻に鞭を当てた。すると馬は一声いななき更に速度を増してゆく。その速度に付いてこれるものは誰もいない従者として付いてきてきた立川と安富の二人も後方へと引き離されてゆく。

(もう少し、離れたほうが良さそうだな)

 鉄之助のことだ。ほぼ一発で自分に命中させてくれるだろう。だが急に風が強く服などの突発的な事故もある。万が一を考えて周囲には誰も居ないほうが望ましい。そうこうしている内に一本木関門が見え始めてきた。まだ見えないが、そこには沖田と鉄之助が待っているはずだ。

(外すんじゃねぇぞ!)

 心の中で叫びつつ、土方は鐙に引っ掛けた足に力を入れ、腰を持ち上げる。これならば多少狙いは付けやすいはずだ――――――そう思った刹那、函館の青い空に銃声が一発響き、土方の腹部に激痛が走った。更に立て続けにもう一発銃声が鳴り響く。


どさり


 自分が地面に叩きつけられる音と共に土方の目の前に真っ青な空が広がるった。その所々に浮かぶ白い雲はどこまでも白く、眩しい。そして青と白の対比は何故か新選組結成当初に着ていた浅葱の羽織を彷彿とさせた。

(空の青と浅葱は違うはず・・・・・・なのにな)

 急速に薄れていく意識の中、土方はぼんやりと思う。腹の傷からは予想以上の出血があり、土方の生命を奪っていた。これならばそれほど苦しむこと無く死ぬことが出来るだろう。

(腹に受けた鉄砲玉じゃそう簡単に死ねねぇと思っていたが、これも鉄の腕なのか・・・・・・総司に介錯の手間は取らせねぇで済みそうだな)

 ふぅ、と大きく息を吐き、土方は瞼を閉じる。その瞼の裏に浮かぶのは先に逝った仲間たちだ。次々に浮かんでは消える仲間の顔の最後に出てきたのは近藤の笑みであり、土方に向かって手を差し伸べている。

(待たせたな、近藤さん・・・・・・今、行く)

 近づいてくる足音を遠くに聞きながら、土方は静かに息を引き取った。



「土方隊長!」

 手にした銃をかなぐり捨て、鉄之助は土方の許へ走り出す。戦場において危険極まりない行動だが、実の息子のようにかわいがってくれた土方をその手で殺してしまったのだ。こればかりは仕方がない。沖田は鉄之助が放り投げた小銃を手に、周囲に気を配りつつ土方と鉄之助の方へ向かう。

「ひじかた・・・・・・たいちょお・・・・・・」

 鉄之助は土方の亡骸にすがりついて泣きじゃくっている。できれば落ち着くまで暫く泣かしてやりたいところだが、それだけの時間は二人にはない。

「鉄くん、感傷に浸らせてあげたいのはやまやまなんだけど、ちょっとだけ後にしてくれませんか?」

 あまりにも冷静な――――――聞き用によっては冷たすぎる物言いに鉄之助はムッとした表情を沖田に向ける。だが沖田は平然としたまま鉄之助に今の状況を告げた。

「土方歳三暗殺は私達が土方さんから命じられた『密命』です。誰にもバレちゃいけなんですよ――――――彼らがこちらにたどり着くまでに土方さんの首印を取って隠れてしまわないと」

 沖田が指差す方向には土方が率いていた部隊の集団が見え始めている。特に土方の従者として付き従っていた二人の速さは群を抜いていた。そう、彼らがここにたどり着くまでに沖田と鉄之助はこの場を去らねばならないのだ。

「できれば土方さんの上体を起こしてくれると助かりますけど・・・・・・無理なら引き切りに」

「待ってください!やります!」

 鉄之助は慌てて土方の亡骸の上体を起こす。

「鉄君、できるだけ体は離していてくださいね」

 鉄之助に注意を促すと同時に沖田は刀を抜き、素早く振り下ろした。その刀は鉄之助の鼻先を掠め土方の首を切り落とす。既に心臓が止まっていたためそれほど激しく血は吹き出さなかったが、鉄之助は土方の血潮に汚れてしまう。

「すみません、汚してしまって。じゃあ行きましょう」

 沖田は上着に土方の首を包むと急いで物陰へと走り出す。その後を追いかけるように鉄之助も沖田が隠れた物陰へと飛び込んだ。

「土方隊長!」

 仲間たちの驚愕の声が聞こえたかと思った瞬間、首のない土方の亡骸に兵士達が集まってきた。

「・・・・・・何とか、間に合ったようですね」

「せやけど、ここで見つかったら」

「それを見つけられないようにするのが私達の努めです」

 そう言い切ると、沖田は傍の土を握り、土方の返り血を浴びてしまった鉄之助の顔や服に塗りたくる。

「流石に血まみれじゃ目立ちますからね。じゃあ行きましょうか」

「ど、どこへ?」

「取り敢えず土方さんの首を埋められるところまで――――――本当は函館山が良かったんですけどねぇ。流石に無理でしょう」

 沖田は笑顔を見せつつ、土方の首を抱えたまま歩きだす。そしてその後を慌てて鉄之助も付き従った。



 自分達が辿り着いた時には既に土方は死んでいて、首も斬られていた――――――
土方に代わり新選組を率いていた相馬主計にこの報告がなされたのは数日後のことだった。幾ら周辺を探しても土方の首はおろか犯人の足がかりになるようなものも見つからなかったとの立川の報告に、相馬は頷く。

「・・・・・・もしかしたら、土方隊長は自ら生命を断つ所存だったのかもな」

 相馬の呟きに、何故か全員が納得する。

「確かに・・・・・・生け捕りにされたら、どんな目に遭うか」

「近藤局長も切腹さえ許されなかったと聞く。となると土方隊長は更にひどい目に遭うやも知れぬし。それにこの場に新選組一、二を争う手練が二名ほどいないのも気になるところだ」

 相馬の指摘に、多くの隊士が初めてその場に沖田と鉄之助がいないことに気がついた。

「いいか。敵に捕まってもあの二人のことは知らぬ存ぜぬで貫き通すぞ。鉄之助は戦場で行方不明になった、でいいだろう。沖田さんは確か名前を変えてこちらに来ていたはず――――――江戸で死んだことにする」

 その瞬間、言いようのない空気がその場に流れる。

「そうだな・・・・・・沖田さんなら、絶対に土方さんの首を敵に見つからないところに隠してくれるだろう。我々はそれを黙っていることしかできないが」

 島田の重々しい呟きに全員が小さく頷いた。


 五月十七日朝、総裁・榎本武揚、副総裁・松平太郎ら幕府軍幹部は、亀田の会見場に出頭、陸軍参謀・黒田清隆、海軍参謀・増田虎之助らと会見し、幹部の服罪と引き換えに兵士たちの寛典を嘆願した。
 しかし、黒田は、幹部のみに責任を負わせると榎本を始めとする有能な人材の助命が困難になると考え、これを認めなかった。その為、これ以上の戦闘継続は困難であった榎本が折れ、無条件降伏に同意。官軍が降伏の手順を明らかにする実行箇条の提出を要求してこの会談は終了した。その後、榎本は降伏の誓書を亀田八幡宮に奉納して一旦五稜郭へ戻り、夜には実行箇条を提出させる。
 そして翌五月十八日早朝、実行箇条に従い、榎本ら幹部は亀田の屯所へ改めて出頭し、昼には五稜郭が開城する。そして郭内にいた約千名が投降し、その日のうちに武装解除も完了した。ここに箱館戦争及び戊辰戦争は終結した。 それは土方の死後七日のことだった。

 その後、降伏した幕府軍の将兵は、一旦箱館の寺院等に収容された後、弘前藩ほかに預けられ、ほとんどが翌年に釈放。幹部については、榎本武揚、松平太郎、大鳥圭介、荒井郁之助、永井尚志、松岡磐吉、相馬主計の7名が、東京辰の口の軍務官糾問所の牢獄に投獄された。
 その際、生死がはっきりしないもの、行方不明者の尋問がなされたが、新選組所属の全員がまるで口裏を合わせたかのように同じ答えを述べたと伝えられる。




UP DATE 2017.7.29

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とうとう歳がお亡くなりになりました(´;ω;`)実質これが新選組の終焉ですよね・・・戦後処理をした相馬さんは本当にお疲れ様でした(´・ω・`)

そして土方の首を切り、それを抱えていった総司と鉄之助はどこへ行ったのか・・・本編最後は土方の首級の埋葬&蝦夷からの脱出、そして鉄之助の土方の小姓としての最後のお仕事&総司と小夜の再会を駆け足で書いていくことになりそうです(^_^;)
(もしかしたら総司と小夜の再会はジジイの昔語りで云わせてもらうかも^^;)
本編が残り1話、そして『夏虫』の本当のラスト1話の残り2話となりましたが、後ほんの少しだけお付き合いのほどよろしくお願いいたしますm(_ _)m
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