「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第二十六話 函館総攻撃・其の貳

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 それはどこまでも爽やかな五月晴れの日だった。朝日が新緑を照らしてゆく正にその時、函館湾に大砲の轟音が鳴り響き、幕府軍と官軍の最後の戦いの幕が切って落とされた。
 官軍の艦隊に対し、四日前の戦いで蒸気機関を壊され、敢えて浮き砲台と化した回天と、唯一残った幡龍がここぞとばかりに砲弾を撃ちまくる。特に幡龍の活躍は凄まじく官軍の朝陽を撃沈する。

「なかなかやってくれるじゃねぇか、海軍の奴らは」

 朝陽撃沈の一報を聞いた土方は、してやったりとばかりににやりと笑う。

「それにしても大丈夫ですかね、弁天台場にいる新選組の皆は。今は幡龍が頑張ってくれていますけど限度があるでしょう」

 土方の横に控えていた沖田が小声で囁く。確かに予想以上に幕府軍が検討しているが、兵力・軍備双方官軍には劣っているのだ。そんな沖田の心配に、土方も眉間に皺を寄せる。

「時間の問題、ってところだろうな。海軍の奴らが頑張ってくれたとしても敵が上陸するのは時間の問題だろう。その際俺達が援軍として出陣することになっているが・・・・・・解っているな、総司?」

 土方は沖田に対して『あの件』――――――自らの暗殺について念を押す。

「勿論」

 土方の問いかけに、沖田は無邪気な笑顔を見せた。だが土方の横にいる鉄之助の顔は強張り、青ざめている。

「鉄君、大丈夫ですか?あまり顔色がよく無さそうですが?」

 流石に『大役』を任されているだけあってかなり緊張しているのだろう。だが、それを隠すどころか沖田はわざと人に聞こえるように大きな声で鉄之助に尋ねた。

「へ、へぇ・・・・・・何とか」

 沖田の真意が理解できず、鉄之助は辛うじて言葉少なに返事をする。

「今のうちに少し休んでいてくださいね、鉄君。でないと戦場に行く前に倒れてしまいそうですから」

 そんな沖田の言葉に、近くに居た守衛新選組の仲間たちが振り向いた。

「おい、大丈夫か?無理して出陣しなくても」

「そうだぞ。お前はまだ若いんだし」

 口々に心配そうに声をかけてくれる先輩達に、いたたまれない思いを抱きつつ、鉄之助は首を横に振る。

「い、いいえ。大丈夫です。ちょっと緊張しているだけやと・・・・・・ご心配おかけしてすんまへん」

 その声は緊張に震えていたが、それに気が付いた者は沖田と土方以外居なかった。

「なら良いんだが。無理はすんなよ」

 そう言って守衛新選組の仲間たちは出陣準備に再び取り掛かった。

「・・・・・・これなら途中で離脱しても怪しまれないでしょ。尤も鉄君の顔色はほんとうに心配ですけど」

 仲間たちの後ろ姿を見つめつつ、沖田が土方や鉄之助に語りかける。

「大丈夫ですか?もし辛いようでしたら今からでもこの任務から・・・・・・」

「いいえ、わてがやります!わてかて・・・・・・新選組の隊士いう自負があります」

 唇を噛み締め、鉄之助は沖田を睨む。

「土方隊長を苦しまへんように・・・・・・わてが一発で仕留めてみせます」

「その心意気だ」

 土方は穏やかな笑みを見せ、鉄之助の肩をぽん、と叩いた。その時である。

「敵軍上陸!函館市街を制圧された!」

 斥候の悲鳴に近い叫び声が五稜郭に響き渡った。



 最終決戦との意気込みで奮闘していた幕府軍だったが、官軍の勢いには敵わなかった。艦隊砲撃戦に勝利した官軍は四千名もの大軍を上陸させ、函館に進軍してきたのである。
 それに対し幕府軍では大鳥圭介が五稜郭北方の進入路にあたる亀田新道や桔梗野などに伝習歩兵隊、遊撃隊、陸軍隊などを配置して指揮を執っていた。大鳥自ら東西を奔走し、自ら大砲を撃って力戦していたが、徐々に押され気味になっていた。
 また幕府軍が五稜郭の北に急造した四稜郭では、松岡四郎次郎率いる一聯隊が防戦していたが、五稜郭との中間に位置する権現台場を新政府軍に占領されてしまい五稜郭へ敗走を余儀なくされている。
 更に官軍の奇襲上陸に対し、箱館奉行・永井尚志は弁天台場に入り守備を固め、瀧川充太郎が新選組、伝習士官隊を率いて箱館山へ向かっていた。だが山頂からの攻撃は圧倒的で、大森浜沖の陽春からの艦砲射撃もあって一本木関門付近まで退き、さらに五稜郭まで後退した。
 このような状況の中昼近くには箱館市街は制圧されたが、逃走の際に弁天台場の幕府兵が材木屋に放火、瞬く間に火が広がり、町家を焼失した。
 燃え盛る箱館市街を制圧した官軍は勢いのまま一本木関門方面に進出する。これに対して、土方歳三は孤立した弁天台場の救出に向かう事になったのである。

「出撃だ!行くぞ!」

 馬上から出撃命令を下し、出撃する土方の後からは彰義隊、額兵隊、見国隊、伝習隊杜陵隊など五百名以上からなる部隊が連なる。その前方に位置していた沖田と鉄之助だが、一本木関門を過ぎたところで部隊から離脱する。

「どうした、沖田さん!鉄之助!」

 二人の離脱に気がついた立川主税が心配そうに声をかけてくる。

「すみません!鉄くんの調子がやっぱり悪くって!すぐに追いつきますので土方さんを頼みます!!」

 近寄って来ようとする立川を制止し、沖田が土方に付くよう促す。そう云われてしまえば立川としても土方に付かざるをえない。

「判った!鉄之助には無理をさせるなよ!」

 元服を済ませているとは言え、鉄之助はまだ十六歳だ――――――そのことが頭にあるのだろう。立川はそう言い残すと土方に追いつこうと馬に鞭を当てた。

「う~ん。確かに子供扱いされても仕方のない年頃ですけど、新撰組一の銃の使い手にあの扱いはないですよねぇ、鉄君」

 沖田の言葉に、顔を上げた鉄之助もくすり、と笑う。

「少なくとも銃を持ったら立川はんに勝てる自信はあるんやけど」

 そう言いつつ鉄之助は周囲を見渡し、落ちている木切れを拾い始めた。

「何をするんです?」

「銃の『足場』いうんか・・・・・・ブレへんような支えを作っておこうかと」

 やはり僅かばかりの不安はあるのだろう。定めた狙いを狂わせないよう鉄之助は小銃用の支えを作り始めた。とはいえ、三本の木切れを鼎のように組んだだけの簡単なものではあるが――――――。

「状況がどうなるかは判りませんが、土方さんはきっと味方を率い、先頭に立ってこちらに戻ってくるでしょう。そこを狙えばいいとは思うのですが」

 そう言いつつ沖田は空を見上げた。

「問題はこの風ですかね。やや強めなのが気になりますが」

「これくらいやったら微調整できますえ?」

 沖田の心配を他所に、鉄之助は自信ありげに答えた。

「沖田センセは充分知ってはると思いますが、国友村一の腕前、披露しまひょ」

「あ、それに新選組一というのも付け加えておいてください。多分幕府軍の中でも五本の指に入る名手だとは思いますけどね」

 そう言いつつ、沖田はじっと弁天台場の方を見つめる。

「どうやらひと段落付いたようですね。土方さんが戻ってきましたよ」

 沖田が指し示す方向、はるか遠くに幕府軍の影が見える。その先頭を走るのは土方だ。しかも背後の兵士達を引き離し、かなりの速さでこちらに向かってくる。

「・・・・・・本当に変なところで気遣いの人だからなぁ、土方さんは」

「へ?」

 銃を準備しようとしかけた鉄之助が、訳がわからないと言った風情で沖田の顔を見る。そんな鉄之助に一瞥もくれず、視線を土方に向けたまま沖田は語る。それは鉄之助にと言うよりは、自分自身に語りかけているかのようだった。

「あんなに早く走ってきて――――――他の兵士に流れ弾が当たらないよう、そして私達が逃げられる時間を作ろうとしているんですよ。その気遣いを自分自身に向けてくれればいいものを」

 そして沖田は口を閉じ、鉄之助を目で促す。その促しに軽く頷いた鉄之助は銃を鼎状の支えに起き、引き金を引く。

「土方隊長――――――今まで、ありがとうございました!」

 血を吐くような言葉と共に、鉄之助は引き金を引く。その瞬間、乾いた銃声が一本木関門に響き渡った。




UP DATE 2017.7.22

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とうとうこの場面がやってきてしまいました(´;ω;`)しかし引っ張ります・・・そう簡単に死なせられないのです。+゚(゚´Д`゚)゚+。

最終決戦出陣前、『暗殺命令』を受けた沖田と鉄之助は出陣からしばらくしてからうま~く部隊を離脱します。史実だと数日前には鉄之助は函館から離れていたようですが、拙作では既にこの辺は史実ガン無視ですから(おいっ)鉄之助&沖田にも出陣途中まで付き合ってもらいました(*´ω`*)
そして土方を狙いやすい場所で離脱した・・・ということにしたのですが、その辺本文で余り書いてない(^_^;)次回土方目線の話の際に書かせてもらう予定でおりますのでご容赦くださいませm(_ _)m

次回はとうとう土方死す・・・その後の沖田&鉄之助の函館脱出まで盛り込めたらな~と思います。本文終了まで残りあと2話、頑張らせていただきますo(*'▽'*)/☆゚’
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