「短編小説」
江戸瞽女の唄

江戸瞽女の唄~退屈なトォキィ映画と賑やかし

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「行ったって面白くないわよ、トォキィ映画なんて。やっぱり映画は講談師がいなきゃ」

 稲荷神社の使いである狐が、細い目を更に吊り上げながらふみや隼人に忠告する。

「音の出る紙芝居、ってところね、トォキィは。講釈師がいるから登場人物の心理描写や状況が判りやすいのに、いちいち自分で考えなきゃならないなんて面倒くさいったらありゃしない!ねぇ、お岩様もそう思いませんこと?」

 狐が口角泡を飛ばしながら、困惑顔を浮かべている神社の祭神――――――『お岩稲荷』のお岩に同意を求めた。

「う~ん、そうねぇ。私は煽られずにゆっくり映画を楽しめて良かったけど」

 歌舞伎や近代舞台、そして映画での描写されたように、お岩のその面立ちは決して美しくはない。しかし元々武士の娘であり、妻であった人である。神として祀られるようになっても武家の女らしい凛、とした雰囲気は変わらない。
 ただ、そんなお岩にも多少の欠点はある。生前に行くことができなかった未練に加え、自分が演目の主人公になっているという興味からか、歌舞伎や浄瑠璃、その他もろもろの民間演芸には目が無いのだ。
 死後、神として祀られるようになってからというもの、お供の狐を引き連れてはあちらこちらに見に行っているらしい。
 ある意味目の肥えたお岩が『ゆっくり映画を楽しめる』と言うからにはそれほど悪いものでは無いのでは・・・・・・とおみわは思ったが、次の瞬間隼人が口を挟んだ。

「ってことは、おみわにゃちょいと判りづらい、ってことか?目が見えなくても講談師のおしゃべりで何とか内容は解っていたみたいだけどよ」

 どうやら隼人はトーキー映画ではみわが内容を理解できないのでは?とその点が心配らしい。その疑問に対して、お岩は深く頷き、自分が見たものを思い出しつつトーキー映画の様子を語り始めた。「

「ええ、残念ながら。目が見えないとちょっと辛いかもしれないわね。殆どが俳優の科白と僅かなナレェションだけだったから」

「なれぇしょん?」

「あ、台本で言うところの『ト書き』ね。トォキィでもある程度の状況説明がないと話がわからなくなるから」

 お岩は説明する。流石にあちらこちら観劇をしているだけあって、お岩の芸能に対する知識はかなり深い。

「そこそこのお金も取られるから心配だろうけど、話のネタに取り敢えず、一度見に行ってみたら?それに二人共一生懸命働いているんだから、たまには息抜きも必要ですよ」

 自分が生きていた時、ろくに遊びに行けなかったこともあるのだろうか。お岩は二人に映画鑑賞を勧める。そしてその言葉に背中を押され、二人は映画鑑賞へと向かった。



 確かにトーキー映画はお岩の言うとおり、講談師に煽られることもなく静かに見ることが出きた。だがやはり盲目のみわには講談師が説明する映画よりも判りづらく、幾度も場面の状況を隼人に聞かなければならなかった。

「ねぇ、隼人。今の場面の場所はどこ?室内に入ったの?」

 小さな囁き声が隼人の耳をくすぐる。

「ああ、今の場面はな・・・・・・」

 あまり大声で話すことはできないため、互いに耳許に口を寄せての会話となるが、その仕草がまるで恋人同士の会話のようで、隼人は柄にもなくドギマギする。

(これは・・・・・・トォキィの状況説明が足りないから仕方ないんだ)

 そう思い込もうとすればするほど胸の高鳴りは更に強くなる。押さえた声、小さな息遣い、襟足から立ち上る甘い香り――――――この場が映画館でなければ間違いなくみわを抱きしめて、押し倒しているかもしれない。唯一隼人の理性を繋ぎ止めているのは、トォキィの退屈なナレーションと白々しい科白であった。

(この映画は狐たちからは面白くないって言われたけど・・・・・・この退屈さはむしろ俺にとってはありがたかったな)

 淡々と進んでいく話に意識を繋ぎ止めつつ、まだまだ続きそうな苦行に隼人はただひたすら耐え続ける。

(やっぱり、次回からは講談師のいる映画館で見ることにしよう。尤も講談師がいつまで活躍できるか判らないが)

 この映画館でも講談師がクビになり、再就職を求めるデモが起こったというが、講談師の活躍できる場所は更に減ってゆくだろう。
 気楽に楽しめる講談師付きのサイレント映画が良いのか、それとも今のように互いにささやき合いながら映画を見るトォキィのほうが良いのか――――――答えが出せぬまま映画は淡々と進んでいった。




UP DATE 2017.7.17 

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スミマセン、すっかり失念しておりました『江戸瞽女の唄』(>_<)以前の連載が月に一度のお休みがあったのと違い今の連載は毎週休まずの更新のものですからタイミングをすっかり失しておりました(^_^;)以後ここまで遅れないように気をつけます(>_<)

今回の話に登場いただいたお岩様は、御存知の通り『四谷怪談』に出てくるお岩様です(*´ω`*)子供の頃は単に『こわいお化け』という印象だったのですが、江戸時代にハマり、江戸文化を調べていく内に『何でここまで忍耐強いんだ。もっと伊右衛門フルボッコにしてもいいじゃねぇか(おいっ)』と思うように(^_^;)何せ女性上位の江戸の街、庶民のおかみさんだって旦那が気に入らなけりゃ文句を言いたい放題、殴られりゃ2倍3倍にして返すし更に気に入らなけりゃ三行半をもぎ取るというバイタリティがあったのです。それを『下級武士の妻』という身分故にあそこまで耐えなけりゃならないとは(´;ω;`)創作とは言え気の毒すぎます(元ネタはあるらしいのですが、いろんな話がかなりまぜこぜに・・・そもそもお岩様と累(かさね)のキャラクターが被っている)
閑話休題、生前は不幸であっても於岩稲荷の祭神として祀られるようになったお岩様(*^_^*)昔は『四谷怪談』をやるとけが人が出るとか言われていたところからヒントを得て『自分を取り上げた舞台&映画はすべてチェック→いつの間にか他のものも見るようになってかなりの芸能ヲタクに』という設定を取らせていただきました(*^_^*)良いじゃないですか、エゴサしちゃって舞台をくまなくチェックするお岩様(*´艸`*)
そんなお岩様に背中を押されてトーキー映画に初挑戦した二人ですが、何かアヤシゲな雰囲気に(^_^;)特に隼人の方は理性を保つのが大変のようです。薄暗いし距離は近いし、会話も近けりゃねぇ( ̄ー ̄)ニヤリもしかしたらこの辺を狙ってお岩様も二人を映画を勧めたのかもしれません♥
 次回更新は8月中に・・・できるだけ早めにUPします(>_<)
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