「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第二十五話 函館総攻撃・其の壹 

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 夏の日差しが生い茂った木々に煌めき薄暗い部屋に光の欠片を撒き散らす。まるで白い蝶のような光を頬に受けつつ、土方は重々しく背後にいる二人に語りかけた。

「おめぇらに頼みてぇことがある――――――否、命令だ。最終決戦の戦場において、俺を殺せ」

 青天の霹靂とは正にこの為に作られた言葉であろう。土方の信じられない命令に沖田と鉄之助の理解は追いつかず、言葉さえ失ってしまう。そしてようやく衝撃から立ち直り、鉄之助が口を開いたのはかなりの時間が経過してからの事だった。

「な、何言うてはるんですか、土方隊長・・・・・・そんな冗談、おもろくも何とも」

 鉄之助が笑い飛ばそうとするが、その声は震え、表情は強張っている。

「冗談じゃねぇ。本気だ」

 鉄之助が冗談で済ませようとするのを良しとせず、土方は厳しい声で言い放つ。そしてくるりと踵を返し、二人に向き合った。

「次の戦いで俺達は敵に降伏せざるを得なくなるだろう。だが、俺は奴らに捕まる気は毛頭ねぇ。だったら戦で華々しく散りてぇところだが」

 土方はそこまで言うと、一旦黙り込む。そして暫しの沈黙の後、再び口を開いた。

「――――――俺を仕留められるだけの腕を持つ敵は居ねぇだろう。だからおめぇ達に頼みてぇ。もし、俺が死なずに本陣へ戻ってきたらその時に・・・・・・」

「イヤです!なんでそんな事をせなあきまへんのや!」

 何故親以上に信頼し、慕っている上司をこの手で殺めねばならないのか――――――混乱のまま鉄之助はいやいやと首を振る。しかし、そんな鉄之助とは対照的に沖田は淡々とした表情のまま土方の命令に頷いた。

「承知。私は介錯で宜しいんですよね?」

「沖田センセ?何言うてはるんですか!ふざけるのも大概に・・・・・・」

 あまりにも非情に思える沖田の返事に鉄之助は激高するが、そんな鉄之助を落ち着かせるように、沖田は優しく鉄之助の肩に両手を置いた。

「鉄君、ちょっとだけ落ち着いて考えて見てください。戦場で死ぬことが出来るならまだ幸せなんです。土方さんを殺すのが私達だとしても。でもね」
 
 沖田は昔を思い出すように目を細め淡々と続ける。

「生け捕りにされたら死ぬより酷い地獄が待っているんです。特に新選組は最前線で不逞浪士らと戦い、彼らを多く殺めてきています。その新選組の副長である土方さんが、すんなりと処刑してもらえると思いますか?」

「処刑って・・・・・・切腹も許されへんのですか?」

 処刑、の一言に我に返った鉄之助は震える声で沖田に聞き返す。それに対して沖田はできるだけ鉄之助を怯えさせないよう、優しい声音で語り続けた。

「勿論です。近藤先生だってまるで罪人のように土壇場に引きずり出されたんですよ。少なくとも土方さんはそれ以上の屈辱を味わう可能性があります。だったら・・・・・・私達の手で自害のお手伝いをするべきだと思いますが」

 静かに語り続ける沖田の言葉に、鉄之助は反論もできず唇を噛みしめる。

「鉄君、君の腕なら土方さんを苦しませずに逝かせることが出来るでしょう。その後の介錯は私がしますから、できるだけ心の臓や頭を狙って・・・・・・」

「いや、腹に撃ち込んでくれ」

「土方隊長?」

 土方の意外な要求に、鉄之助は勿論沖田も思わず目を見張る。そんな二人に土方は己の思いを吐露した。

「百姓の子とは言え、できれば最後の最後まで武士を気取っていたいんでな。鉄砲玉でも腹に撃ち込みゃ切腹みてぇなもんだろ」

「変なところに拘りますよね、昔から」

「悪いか?」

「いいえ、最後の最後まで土方歳三らしくて良いんじゃないかと――――――だったら徹底的に土方歳三の最期の花道を飾らせていただきますよ」

 沖田の笑顔に土方も屈託のない笑みを見せる。だが未だ完全には納得がいかないのか、鉄之助は少し不服げだ。

「詳細の打ち合わせは出陣が決まったらでいいだろう。そもそもどこに出陣するかも定かじゃねぇしな。じゃあこの話はこれまでだ。鉄、この書類を大鳥さんに届けてくれ」

 そう言って土方は机の上に積み上げられていた書類の束を鉄之助に渡し、まるで追い出すように部屋の外に鉄之助を追いやった。 そして鉄之助の足音が遠くなるのを確認したのち、土方は沖田に声をかける。

「・・・・・・総司、おめぇには別の頼みがある」

「鉄君を無事に函館から逃がせ――――――ってところですか?」

 土方が言葉にする前に、沖田は先回りをした返事を返した。その腕ば響く回答に、土方は満足げに頷く。

「解ってるじゃねぇか。最悪捕まったとしても、俺の首を差し出せばあいつの命くらいは助けることが出来るだろう」

「申し訳ありませんが、その方法は使えません。私を含めて誰が新撰組副長の首を敵に渡すものですか。そんなことをするくらいなら玉砕覚悟で敵の本陣や甲鉄に突っ込みますよ」

「だろうな。全く、この妙な忠義心は誰に似たんだか」

 土方は苦笑いを浮かべたあと、真顔になる。

「だったらこいつを俺の実家まで――――――鉄に届けさせれば、てめぇの命を粗末にすることはねぇかな」

 そう言って書類が乗っていた机の引き出しから取り出したもの、それは土方のポトガラフィと一房の髪の毛、そして辞世の句と思しき内容の俳句が認められた細い紙だった。それらに視線を落とした沖田はあることに気がつく。

「あれ?このポトガラフィ、以前小夜が預かったものとはちょっと違いますね」

 沖田は小さなポトガラフィをしげしげと見つめながら土方に尋ねる。

「ああ、流石にあっちの写真を家族に・・・・・・ってぇのは」

 珍しく歯切れが悪い土方に、沖田は『ふぅん』と頷く。

「左手の薬指、でしたっけ?決まった相手がいる場合に指輪をつける、っていうのは。そう言えば近藤先生もおツネさんに指輪をお土産にしていましたしねぇ」

 沖田の意味深な笑みに、土方は耳まで真っ赤にする。

「う、うるせぇ!だからこそ家族にゃこっちの写真を渡すんだろうが!あんな左手の薬指に指輪をくっつけた、チャラチャラしたモンを渡せるかってんだ!」

 まるで逢引の現場を目撃されたような土方の反応に、沖田は笑いを噛み殺した。

「はいはい、承知しました。じゃあ皆にも鉄之助くんが函館脱出の手助けをしてくれるよう・・・・・・」

「いや、函館を出ても安心はできねぇ。そこで、だ」

 土方は今まで以上に声を潜める。

「おめぇには江戸に到着するまで鉄の保護を――――――最悪でも横浜まで鉄に付き添って、あいつを守って欲しい」

  つまりこの時点で沖田も戦場で死ぬことを禁止されたのだ。沖田は困惑の表情を浮かべ、呆れたようにふぅ、と息を吐いた。

「全く・・・・・・土方さんはいつからそんなに甘い人になったんですかね。鉄君だけならいざしらず、私にまでその甘さのお零れが回ってくるとは思いませんでしたよ。私は――――――近藤先生や土方さんの後を追うつもりだったんですけどねぇ」

「殉死なんざされてもちっとも嬉しかねぇよ。それに、お琴に預けてあるおめぇらの娘の事もある。どうもお小夜は未だ蟠りを持っているようだし、義理とは言え父親は居たほうがいいだろう」

「義理とはなんですか、義理とは!確かに血はつながっていませんけど、私と佳世はれっきとした親子ですから」

 冗談めかしながら、しかしきっぱりと沖田は言い放つ。

「――――――お気遣い、ありがとうございます。状況がどう転ぶかわかりませんが、少なくとも新撰組副長・土方歳三の最後の命令だけは絶対に果たして見せましょう」

 いつの間にか新選組・一番隊隊長の顔に変わっていた沖田の返事に、土方は満足げに頷いた。


 仏蘭西人顧問が去った後、幕府軍と官軍の間には数度に渡る小競り合いこそあったものの、大きな戦いには至らなかった。特に幕府軍は状況打破を試みるため、大鳥圭介らが七重浜の官軍を数度に渡って夜襲したが、失敗に終わった。
 そして五月十一日、とうとう官軍は箱館総攻撃を開始、海陸両方からの攻撃が幕府軍に襲いかかった。




UP DATE 2017.7.15

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『自分を殺せ』―――土方の命令は己の命と引き換えに、部下を守るための決断でした。本当の目的は『自分の首と引き換えに新選組隊士の助命嘆願を』といったところだったのでしょうが、それをあっさり沖田に却下されております/(^o^)\
比較的従順で土方の命令を素直に聞くタイプの沖田でさえこれです。他の隊士であればほぼ間違いなく玉砕を選ぶでしょう(-_-;)
というか『暗殺命令』だって絶対に聞かないと思われます。唯一、近藤局長の処刑をその目で見ている沖田だからこそ、土方の命令を受け入れた―――――拙作ではこのような解釈の上で書かせていだ抱きましたm(_ _)m

次回更新は7/22、官軍の函館総攻撃を受けて幕府軍、そして土方歳三最後の出陣となります(๑•̀ㅂ•́)و✧
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