「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第二十四話 二股口の戦い・其の肆

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「せっかく榎本総督直々の出陣だったんだけどねぇ」

函館に帰還した土方を出迎えた大鳥が、大仰な溜息を吐き首を横に振った。その芝居がかった態度に、土方は『相当落ち込んでいるだろ、あんた』と指摘した

「どこまでハッタリが上手ぇんだか・・・・・・最も陸軍奉行様に落ち込まれちゃあ士気に関わるからな」

「やはり新選組の鬼の副長にはハッタリは通用しない、って訳だね」

クスクスと笑いながらも、大鳥はこう続けた。

「そりゃあ二百五十名近くの兵士を失ってしまったからね。流石に僕でも落ち込むさ」

 乾いた笑いを浮かべつつ、大鳥は土方に木古内での戦いの状況を語りだした。

「木古内で伊庭くんや春日君らの部隊と合流した後、二十日に総攻撃があってね。額兵隊や遊撃隊が頑張ってくれて昼ごろまでは耐えていたんだが、結局七十名以上の死傷者を出してしまって泉沢に撤退した」

「・・・・・・やはり官軍の援軍はそっちに集中していたのかもしれねぇな」

「ということは、二股方面の敵はそれほど多くなかったと?」

「ああ、一度撤退した後再び攻撃を仕掛けてきやがったんだが、武器の補充はしていたようだが人数はあまり変わらなかった」

「それは少々不気味だね。援軍が集中したいたと言う割には、こちらも抵抗できる程度の兵士だったし・・・・・・まだ兵力を温存しているのかな。となると、次の戦いは相当厄介なことになる」

珍しく険しい表情を浮かべつつ、大鳥は続きを語る。

「その戦いの後かな。本多幸七郎君が率いていた伝習隊の援軍を加えてから知内に孤立した部隊三百名を救うために再び木古内へ向かったんだ。尤も孤立していた部隊も木古内突入を決めてくれたんで、一度は官軍を木古内から追い出すことができたんだが・・・・・・」

「が?」

「明らかに敵部隊より少ない人数で木古内に陣を張るのは不利だと思うだろ?だから木古内を諦めて地形的に有利な矢不来まで後退し、砲台と胸壁を構築して布陣した」

「そりゃ当然だな」

「そうしたらどうだい、敵もさるもの二十九日に千六百もの部隊を率いて本道、海岸、山上の三方から矢不来を攻撃してきたんだ。しかも甲鉄・春日等による艦砲射撃のおまけつきさ・・・・・・この攻撃で衝鋒隊の大隊長・天野新太郎君や永井蠖伸斎君などを失った」

 大鳥の瞳が暗く陰る。土方が大鳥のそんな昏い瞳を見るのは初めてだった。この戦いで大鳥は何かを悟ってしまったのかもしれない――――――そんな風に土方が感じたその直後、大鳥は急に明るい声を出した。

「ま、いちいち負け戦の数を数えても仕方がない!それよりも目の前にいる敵を食い止めなきゃならなかったからね。撤退しながら富川で部隊を立て直そうとはしたんだが、結局有川まで下がることになってしまって・・・・・・そこで榎本くんに総指揮を変わってもらった」

 その一言に土方は深く頷いた。やはり土方が思った通り、矢不来での戦いで大鳥は相当精神的に打ちのめされてしまったのだろう。でなければ榎本が陸上戦で指揮をとることなど有り得ない。案の定幕府軍は完全に崩壊、函館方面への撤退を余儀なくされ土方隊も退路を絶たれる前に函館へと戻ってきた次第である。

「敵の動向は斥候達が調査している。今日中には戻ってくるだろう。その状況報告を受けてから仏蘭西人顧問らを函館から脱出させると榎本くんが言っていた」

「・・・・・・もう、そこまで来ているのか」

 それは疑問形ではなく、確認の一言だった。最終決戦はもう目の前まで来ているのだ。

「君の部下――――――いや、小姓の市村君と限定しておいたほうが良いかな。元服は済ませてあるようだがまだ子供だろう?早めに脱出させるなら今の内だよ」

「その命令を素直に聞くような奴なら一ヶ月前にとっくに函館を後にしているさ。古参隊士の特徴だが・・・・・・特に守衛新選組の野郎は頑固でな。あと、ああ見えて鉄は新撰組一の小銃の名手だ。戦力としちゃ下手な大人よりもよっぽど役に立つぜ」

 大鳥に言い切った土方は笑顔を見せる。その時、臨時会議を知らせる鐘の音が五稜郭内に響き渡った。

「どうやら斥候が帰ってきたみてぇだな」

「そうだね。どんな報告を持ってきたのか――――――腹をくくって聞かないと」

 二人は軽口を交わしながら、会議が行われる大広間へと足を向けた。



 斥候の報告は思っていた以上に深刻なものだった。五月一日現在、松前・木古内から進軍した東下軍と二股から進軍した南下軍が有川付近に集結、箱館攻撃の態勢を整えていると、震える声で斥候らが訴える。

「あの様子では、それこそ明日総攻撃が起こってもおかしくありません。すぐさま戦の準備を整えられたほうが宜しいかと」

 普段は作戦等に一切口出ししない斥候が控えめながら準備を訴えるなどということは今まで一度もなかった。それ故、その場に居た幹部らにも動揺が広がり、部屋中にざわめきが沸き立つ。

「静粛に!」

 榎本の一喝で皆が一斉に黙り込む。

「――――――承知した。斥候部隊は和人の者だけを残し原住民の斥候は戦場から逃がすように。市中への報告は新選組、伝習隊らを中心に行ってくれ。他の部隊は敵の総攻撃を迎え撃つ準備を!そして・・・・・・」

 榎本は近くに居たブリュネらの席に自ら近づき、その手を取った。

『あなた達仏蘭西人顧問には大変お世話になった。我々はここで最終決戦を迎えるので、あなた方はこの場を・・・・・・函館を脱出してください』

 榎本は通詞を通さず、自らフランス語で顧問達に語りかける。その言葉にブリュネらを始めとする仏蘭西人顧問らは涙を流す。

「わかりました・・・・・・あなた方に幸運を」

 たどたどしい日本語でブリュネは言葉を返した。その様子を見ていた幹部らも思わずもらい泣きをする。そしてそれと同時に最後の戦いに向けての決意を新たにした。



 戦闘準備がなされたからと言ってすぐさま官軍が攻撃を仕掛けてくるわけではなかった。非戦闘員の避難する時間、そして最終交渉などだ。官軍にとっては余裕を持って勝てる戦であるが、海外各国の『目』がある。あまり野蛮な制圧の仕方をすれば『日本人は欧米の文化を理解しない野蛮人だ』とすぐさま武力攻撃を仕掛けられてしまう可能性もある。今後の国家運営の方向性などを見定めながらの交渉は煩わしいものではあるが致し方がない。

「外国の評判ばかりを気にしやがって・・・・・・武士の風上にも置けねぇような奴らばっかりだぜ、官軍はよ」

 今日もまた五稜郭にやってきた使者の背中を窓から見送りながら、土方は鼻を鳴らす。その時である。

「ま、敵もできるだけ少ない損害に押さえたいでしょうからね」

 土方の部屋に入ってきながら沖田が笑う。その背後には鉄之助も付いてきていた。

「ところで何ですか、土方さん。私達だけを呼び出したりして」

 沖田の質問に鉄之助も頷く。二人はできるだけ人目につかぬよう、土方の部屋に来てくれと言われたのだ。そんな怪訝そうな表情を浮かべたままの二人に背を向けたまま、土方は重々しく口を開く。

「おめぇらに頼みてぇことがある――――――否、命令だ。最終決戦の戦場において、俺を殺せ」

 思いもしなかった土方の信じられない命令に理解が追いつかず、二人は硬直した。

 

UP DATE 2017.7.8

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とうとう函館に追い詰められてしまった幕府軍、最終決戦はもう目の前です(>_<)大鳥さんもこの戦いでかなり凹んでしまったようで・・・陸の戦いで海軍の榎本さんに指揮を任せるって(^_^;)それだけ叩きのめされたんでしょうね(´・ω・`)多分部下には弱みを見せていないでしょうが、幹部同志ではちらりと弱みを見せていたり・・・というところにちょっと萌えを感じてしまって、土方に弱みを見せております(#^.^#)
そして最後の戦いに頑張って士気を振り絞っているそんな中、土方は沖田と鉄之介に『自分を殺せ』というとんでもない命令を(@@)その思惑は何なのか・・・次回、土方の思惑&トンデモな命令に対して沖田や鉄之助はどう答えるのか?次回をお待ちくださいませm(_ _)m
(そうそう、次回からは本編最終タイトルです!ここまで長かった・・・お盆前までに本編を終わらせることができそうです(^_^;))
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