「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第二十三話 二股口の戦い・其の参

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 四月十三日から十四日にかけての戦いで撤退を余儀なくされた官軍だったが、勿論二股を突破することを諦めたわけではない。
 四月十六日、江差に第二陣二千四百名が上陸すると、その中から薩摩、水戸藩兵が二股口への援軍に派遣、弾薬と食料も補給された。だが、その全ての兵士が幕府軍の攻撃へ使われるわけではない。数を利用したもう一つの二股口の突破方法――――――それを実行するため、官軍は密やかに動き始めた。



 土方が滝川充太郎率いる伝習士官隊2個小隊と共に二股に帰還したのは十九日の事だった。援軍に沸き立つ兵士らを横目に、土方が守衛新選組の面々に声をかける。

「おい、敵の攻撃はあったか?」

 流石に自分が留守中に攻撃にあったら、と気が気では無かったらしい。そんな土方に立川が首を横に振りつつ、答えた。

「いえ、至って静かなもので・・・・・・もう敵は二股口の突破は諦めたんじゃないでしょうか?」

 この道を突破しようとするには、あまりにも敵の動きがなさすぎる――――――そう訴える立川だったが、土方は即座に『否』と答える。

「立川、それは甘いな。敵は間違いなく援軍を引き連れて攻撃してくる。何せこの道は函館へ向かう一番の近道だ。おいそれとは諦めねぇだろ」

 そして持ってきた食料や銃弾の配備を沢に命じた後改めて立川に答えた。

「俺達が待ちくたびれた頃に狙われると思え。敵の数はどんどん増えているし、俺達の側は減る一方だ。油断したら一発だぞ」

 土方は軽口めいた口調で窘めると、食料、銃弾の配備に動き回っている兵士達に大声で声をかけた。

「準備はしっかりしておけよ!今回は銃弾を冷やす水も運んで来れるはずだ!迎え撃つ準備万端で臨むからな!!」

 その言葉は半ばハッタリ――――――長年の付き合いのある沖田は瞬時に理解する。もしかしたら土方にも勝算は無いのかもしれない。しかしここで土方が弱気を見せてしまったら兵士らの士気に関わってくる。このハッタリによって新選組もどれほど無茶な仕事をこなしてきたか――――――沖田は思わずくすっ、と笑ってしまった。・

「総司!何笑ってやがる!」

「いえね。京都に居た時分から土方さんのハッタリには随分助けられてきたなぁ、って」

 他の兵士らに聞こえぬよう、小声で囁いた沖田に、土方は顔を真赤にする。

「・・・・・・その事を絶対にバラすんじゃねぇぞ」

「承知。ハッタリも武器の一つですから」

 小声でそう言い残すと、沖田は配備に勤しんでいる仲間たちの方へと歩いていった。



 土方が二股に戻ってきてから二日後、敵の再攻撃が始まった。だが先日の激戦時に比べると心なしか兵力も少なく打ち込まれる銃弾も少ない。官軍のその攻撃力の弱さに、土方は勿論下っ端の兵士らも違和感を覚えた。

「敵の援軍・・・・・・本当に来ているんでしょうか?何か前の戦いよりも兵が少なくなっているような気がするんですが」

 戦闘が終わった後、沖田が土方に囁く。

「・・・・・・俺もそう思う。奴ら、何を考えているんだ?」

 力技で二股を強引に突破してくるかと思ったら違うのか――――――土方は唸る。ここの突破を諦め、松前や木古内に兵力を集中している可能性もある。そちらならば艦隊からの砲撃の援軍も得られるし、数で優勢ならば広い迂回路のほうが断然有利だ。

(もしかしたらここを離れ、木古内に向かったほうが良いのか・・・・・・)

 悩むところだが、万が一ここを離れてしまった後に敵に攻め込まれたら、一気に函館に向かわれてしまう。

「ここは、我慢のしどころだな」

 でん、と構えるのは苦手だが、今回ばかりは仕方がない。ようやく昇り始めた二十二日の月を見上げつつ、土方は溜息を吐いた。
 しかし土方を始め幕府軍の兵士らはまだ気が付いていなかった。夜の静寂の中、官軍はある行動に出ていたのである。



 龕灯の明かりだけが頼りの暗闇の中、男達の荒い息遣いと鍬や鋤が振り下ろされる音だけが響く。

「急げ!二股口の銃弾の雨の中をくぐりたくなければ、この道を切り開くしか無いんだぞ!」

 激しい、しかし押し殺した叱咤の声が周囲に響く。声の主は自らの声が漏れぬよう、そしてその声が誰かに聞かれぬよう気を使っているらしい。それもその筈、彼らは幕府軍に見つからぬよう、山に道を切り開こうとしている官軍兵なのだ。
 二股の土方隊の堅塁を抜くことが容易ではないことを痛感した官軍は、四月十七日以降、厚沢部から山を越えて内浦湾に至る道を山中に切り開き始めた。ここから兵と銃砲弾薬を送り込んで、幕府軍の背後から二股口を攻める作戦を計画しているのだが、この作業も困難を極めている。

「武士が百姓や樵のような真似をするのは矜持が許さぬだろう。だが国許では年老いた親や女房子供が待っているんだ。こんな北の最果てで、亡骸さえ拾うことさえままならぬ場所で死にたくなければ耐えてくれ」

 地を吐くような上官の言葉に、兵士達は無言のまま手を動かす。刀は勿論、小銃さえ握れぬ屈辱の中、それでも来る勝利を信じ兵士達は山を少しずつ切り開いていった。



 山を切り開き、背後から攻撃するにしてもその計画が早々に幕府軍に漏れてしまっては元も子もない。官軍は先日よりも少ない人数ながらも幕府軍への攻撃を続けていた。

「土方隊長!あの山!あいつらいつの間にあんなところに!」

 長島五郎作の、悲鳴にも似た声に幕府軍は騒然とする。官軍は街道からの攻撃ではなく、急峻な山の側面から攻撃をしてきたのだ。

「撃て―――――――!!」

 山中に響き渡る土方の声と同時に幕府軍から一斉に銃弾が放たれる。そのまま銃撃戦は続き、初日同様夜を徹しての戦いとなってしまった。

「土方さん、これじゃあ埒が明かない!」

 夜空が白み始めた頃、流石に業を煮やした滝川充太郎が土方に訴えてきた。

「頼む!伝習士官隊に突撃命令を!絶対にヘマはしないから!」

 そのまま土下座までし始めた滝川に土方が慌てる。

「おい、そこまでしなくても良い――――――むしろ、こっちが頼みてぇくらいだ。危険な任務だが・・・・・・頼まれてくれるか?」

「承知!この滝川にお任せあれ!絶対に敵隊長の首級を取ってきましょうぞ!!」

 嬉しげな高笑いと共に滝川は即座に部下を呼び寄せる。そして『敵陣に突入する!』という、単純明快すぎる命令を下すや否や自ら馬にまたがり、敵陣へと走り出した。

「俺達も続くぞ!!」

 上官が上官なら部下も部下である。一斉に抜刀すると、滝川に続き敵陣へ走り出したのだ。

「やる気満々ですね、伝習士官隊は」

 勢い良く敵陣へと突入する伝習士官隊の後ろ姿を頼もしげに見つめながら沖田は土方に語りかける。

「ああ、援軍に来ていながら何も活躍できなかったら大鳥さんに顔向けできねぇ、ってぼやいていたからな。あまり無茶はして欲しくねぇんだが・・・・・・こればかりは埒が明かねぇだろうし」

 できれば被害が少なくて済む銃撃戦で敵を撃退したいところだが、このままだとまだまだ戦いは続くであろう。更に敵は前回以上に銃弾を補充している可能性が高い。こちらの銃弾が切れてしまうまでに決着を付けなければ二股を突破されてしまう。その葛藤に苦しんでいた土方だったが、その心配を蹴散らす働きを伝習士官隊は見せてくれたのである。

「滝川充太郎、参る!!」

 いきなり馬で飛び込んできた滝川に不意を突かれた官軍は慌てふためく。更に追い打ちをかけて伝習士官隊の隊士らが斬り込んできたのだ。官軍は混乱し、敗走を食い止めようとした隊長の駒井政五郎は銃弾を受けて戦死する。

「敵将が戦死したぞ!!」

 流石に激戦の最中、首をかき斬るのは困難なので、采配と合印だけを拾い上げ滝川が声高に宣言する。

「伝習士官隊、撤退!あとは銃撃戦だ!!」

 確かに『頭』がいなくなれば指揮系統は崩れ、攻撃もばらばらになるだろう。それを確認した滝川は部下を率いて幕府軍本隊へと戻る。それと同時に今度は本隊からの銃撃が激しくなった。

「熱くなった銃身は水で冷やせ!敵将を討ったんだ!あとは気合で押し切れ!!」

 叫ぶ土方の頬を朝日が照らす。その光と共に幕府軍の攻撃は激しさを増してゆく。その勢いに押されたこともあるが、駒井を失った官軍は部隊を立て直すことが出来なくなっていた。ばらり、ばらりと兵は逃げ出し、官軍は総崩れとなってしまった。

「これで暫くは持ちこたえられそうだな」

 戦闘跡を見渡しつつ、土方は額に滲んだ汗を拭う。だがやはり微妙な違和感が残っていた。

(どう考えても敵が少なすぎる――――――)

 多分自分のこの印象は間違っていない。実際最初の攻撃よりも敵の兵数は少なくなっていたのだ。だがその理由は未だに判らない。

「理由は後からついてくる――――――そういや斎藤がそんなことを言っていたな」

 土方は呟き、踵を返す。土方が感じた違和感――――――それは正しいものだった。この戦い以後、官軍は台場山攻略を諦め、迂回路作りに専念することになったのである。だがその迂回路ができる前、四月二十九日に矢不来を官軍が突破れ、退路を断たれる危険があった土方軍は五稜郭への撤退を余儀なくされる事となる。



UP DATE 2017.7.1

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プライベートのトラブルで更新が遅くなってしまって申し訳ございませんm(_ _)m結局セキュリティソフト2種類を駆使してもランサムウェアには太刀打ちできず、結局初期化をすることに/(^o^)\その前に旦那は車を定期検査にそして私は無理くり新作を書き上げた次第です(-_-;)取り敢えず今日中にUP出来てよかった・・・。

閑話休題、本文ですが双方援軍を得て戦いが再開されましたが、土方隊が本街道での戦いに全兵力を注いでいるのに対し、官軍は新たな側道を作るためにそちらに兵を割いていたようです。それ故の幕府軍・土方隊の勝利だったのかもしれませんが、それにしても強い(≧∇≦)/土方歳三不敗神話はまだまだ続いております((o(´∀`)o))

次回更新は7/8函館に撤退した土方隊ですが、他の部隊の戦況、そして最終決戦への決意などなどを書かせていただきますm(_ _)m
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S様、コメントありがとうございますm(_ _)m 

こんばんは。今回の災難にねぎらいのお言葉ありがとうございますm(_ _)mご心配おかけしましたが初期化&バックアップによって事なきを得ることが出来ました。
連載へのお言葉もありがとうございます。スランプとのこと、無理をして書いても良い作品はできません。英気を養いくれぐれもご自愛の程を(*^_^*)
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