「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第二十二話 二股口の戦い・其の貳

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 乙部に上陸した官軍先発隊はそれぞれの進路を突き進んでいた。その一つである二股口は箱館へ至る最短路で、から二股を抜けて大野村に至る峠越えの道だ。
 その二股を抜けるためには、谷を穿つ大野川沿いの道を進み、川が二又に分かれる地点で渡河、そしてその正面の台場山を越えるか、迂回するかしなければならなかった。官軍は、軍監・駒井政五郎が松前・長州藩兵などからなる五百名の兵を率いてこの道を進軍していた。
 そしてそれを迎撃するため、幕府軍は陸軍奉行並・土方歳三が衝鋒隊二個小隊と伝習歩兵隊二個小隊などからなる三百名の兵を率いて二股の台場山に本陣を置いた。土方軍は、天狗山を前衛として台場山周辺の要地に二日がかりで十六箇所の胸壁を構築、官軍を待ち構えた。

「何とか・・・・・・間に合ったようですね」

 泥だらけの頬を手の甲で拭いながら沖田は隣りにいた島田に話しかける。

「ええ、本当に。江差の戦況からするともう少し早く進軍してきてもおかしくない筈なんですけどね」

 官軍が進軍してくるはずの道を見下ろしながら島田は怪訝そうな表情を浮かべた。峠越しの道とは言えそれなりに整備されている道である。乙部、江差に到着した日から鑑みたら、本隊はともかく偵察隊の影くらい見えていてもおかしくない頃合いだ。しかし今のところその気配は感じられない。

「進軍準備に手間取っているのか、それともこちらを警戒して探りながらの進軍なのか・・・・・・」

 沖田が珍しく眉間に皺を寄せ、考え込んだその時である。

「敵先発隊が中山峠を超えたとのこと!明日昼頃には天狗岳に到着するぞ!」

 斥候らの声が胸壁が連なる台場山に響く。その一報にその場に緊張が走った。

「判った!今のうちに休めるやつは休んで・・・・・・」

「ちょっと待ってください!」

 土方の命令を鉄之助が止める。

「銃を冷やす水がこれじゃあ足りまへん!戦闘が始まったらいくら水場が近くても汲みにいけまへんし。それにこの天気・・・・・・弾薬が濡れへんようにせぇへんと」

 鉄之助のその言葉に土方は空を見上げた。確かに今にも雨が振りそうなほどどんよりと重く雲が立ち込めているし、頬を撫でる風も湿気を帯びている。だが、弾薬を守るような建物を作っている時間も無いし、胸壁作りで疲れ果てた兵士を少しでも長く休ませたい。土方は少し考えた後、ぶっきらぼうに言い放つ。

「んなもん、てめぇの上着でも掛けときゃいいだろう。どうせ湿気る前に撃ちまくっちまうんだから」

「はぁ?何ですか、それ!。幾ら何てもひどすぎ・・・・・・」

「そんな暇があったらこいつらを休ませた方がいい。弾薬を撃つ人間が疲れでやられちまったら湿気るも何もあったもんじゃねぇ」

 土方のその言葉に、鉄之助は不満げな表情を浮かべつつも黙る。確かに今は胸壁作りで疲れ切った兵士を休ませることが先決だ。土方の命令は守衛新選組を通じて各部隊へと伝わってゆく。そしてその命を受けた兵士達は仕事が終わると順次休息に入っていった。



 翌日十三日昼過ぎ、斥候の報告どおり官軍部隊が天狗山に到着、そのまま台場山本陣に対して攻撃が開始された。

「弾切れなんざ気にするな!撃って撃って撃ちまくれ!!」

 ガラの悪い土方の命令と共に台場山からも銃撃音が鳴り響く。数では劣る幕府軍だが、予め作っておいた胸壁が官軍からの銃撃を防いでくれるので守りは完璧に近い。更に狭い道のため官軍はあまり数的有利を活かし切ることができずにいる。次々と兵を入れ替え銃撃を繰り返すが、攻撃力そのものは二小隊ずつ交代で銃撃を行っている幕府軍と同等だ。

「何をしている!敵は少数なんだぞ!」

 指揮官の駒井政五郎が檄を飛ばすが、銃撃戦は膠着状態だ。双方ただひたすら銃撃を続ける中、日が暮れ始め、空からぽつり、ぽつりと雨が降ってきた。

「雨だ!そろそろ弾薬に上着を掛けておけ!湿気った雷管は懐にでも入れて乾かせよ!」

 そんな土方の命令を待つこともなく兵士らは自発的に上着を予備の弾薬に掛け、戦闘を続ける。

「何時頃に終わりますかね!」

 沖田はエンピール銃の引き金から手を離し、声を張り上げて土方に尋ねた。辺りに鳴り響く銃撃音と、その音から耳を守るための詰め物で声が聞きにくいため、ついつい大声になってしまう。勿論それは土方も同じだ。冬を超え、すっかり色白になってしまった顔を真っ赤に染めつつ、怒鳴り声で言い返す。

「俺が知ったことか!死にたくなけりゃあっちが引くまで撃ち続けるしかねぇだろ!つべこべ言ってる暇があったら撃ちやがれ!でねぇとてめぇの嫁が蝦夷を脱出する前に敵に追いつかれるぞ!」

 冗談とも本気ともつかない土方の脅しに、沖田はブルリ、と身震いすると熱を帯びてきた銃に新たな銃弾を詰める。まだ銃身を水で冷やすほどではないが、戦いが深夜に及んだらその必要が出てくるかもしれない。

「ある意味、雨が降ってくれていることで多少は銃身が冷えているんでしょうかね」

 沖田は耳の詰め物を直した後、改めて銃の引き金に指をかけ、銃撃を再開した。



 幕府軍、官軍双方による銃撃戦は結局一晩中続いた。ここまで幕府軍が粘るとは予想していなかった官軍は銃弾をすべて撃ち尽くしたため稲倉石まで撤退、疲労困憊のまま改めての進軍に備えることとなった。
 一方幕府軍も三万五千発の銃弾を消費、残っているものは殆ど無かった。

「援軍要請と銃弾補給に行ってくる」

 土方は自ら馬にまたがり、鉄之助と共に五稜郭へと向かおうとする。

「何もわざわざ土方さん自ら行かなくても・・・・・・もしかして情報収集も?」

 沖田の不安げな問いかけに、土方は小さく頷いた。

「ああ、それもある。海側や大鳥隊がどんな状況なのか心配だ。もしかしたらここを撤退して他に援軍に向かわなきゃならねぇ可能性もある」

 確かにこの細い道での戦いにさえ援軍を要請しなければならない状況だ。他の戦地は更に援軍を欲しているかもしれない。そうなると使者を通じてより指揮者本人が出向いたほうが早く行動できる。

「承知。その間の指揮は」

「おめぇに任せる――――――とはいえ敵に鉄砲玉ぶち込むだけだがな」

 それだけ言い残すと、土方は瞬く間に沖田の前から去っていった。



 馬を走らせ、五稜郭に戻った土方を待ち受けていたのは各地の苦しい戦況だった。

「遊撃隊と陸軍隊、これでも一応は頑張ったんだぜ」

 偶然こちらも五稜郭に報告に上っていた伊庭八郎が唇を尖らせながらぼやく。

「両軍合わせて五百名、根武田付近で敵の斥候を蹴散らして、翌日には一気に茂草まで進したんだ。一時は奴らを江差まで退却させたのに、敵が木古内に回り込んでいるって情報が入って結局松前へ撤退さ」

 よっぽど『撤退』の二文字が嫌いらしい。まるで駄々っ子のように頬を膨らませる伊庭に土方が慰めの言葉をかける。

「仕方ねぇさ。別におめぇさんらが負けたわけじゃねぇんだからよ」

「そりゃあそうだけどよ。木古内隊の分が思っていたより悪くてよ」

 今まで子供のような表情を浮かべていた伊庭が不意に真剣な表情を見せた。

「俺達の他、大鳥さんが率いていた伝習隊、額兵隊、そして彰義隊が合流して小競り合いを繰り返している状況なんだが、あっちには背後に軍艦がついている。補給に関しては圧倒的にこちらが不利だし、艦砲射撃が有効な距離まで海側に近づいちまうと挟み撃ちにされる――――――厄介な戦いを強いられているよ」

「なるほど・・・・・・となると、こちらに援軍を寄越してもらうのは難しそうだな」

 土方は腕組みをして唸る。

「ああ、せいぜい二個小隊くらいかな」

 土方と伊庭の会話に入ってきた榎本が土方に告げた。

「その代わり小銃の銃弾はそちらに多く回す。それでなんとか頑張って欲しい」

「承知。あと大鳥さんにできるだけ頑張ってくれと伝えておいてくれよ」

 冗談めかしつつ土方は伊庭に告げると、早速銃弾と援軍手配のため動き始めた。




UP DATE 2017.6.24

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およそ16時間にも及ぶ二股口の戦い・初戦は辛うじて幕府軍に軍配が上がりました・・・ほぼ引き分けですが(-_-;)
使い果たした弾丸3万5000って・・・一応少しは残っているって本文では設定しておりますが、もしかしたら幕府軍も撃ち尽くしていたかもしれません。官軍の持ち玉があと少し多かったら突破されていたんだろうなぁ、ここも((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

各地でも苦戦が強いられている中、弾薬も援軍も限られた補給しかできない幕府軍、果たしてこれから先どうなるのか・・・次回更新は7/1、二股口の戦い後編&各地の戦況なども書かせていただきたいと思いますm(_ _)m
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