「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第二十一話 二股口の戦い・其の壹

 ←烏のがらくた箱~その三百七十八・町村総会こそ特区を利用するべきだと思う(๑•̀ㅂ•́)و✧ →鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~質実剛健、旧本間邸1
 ようやく白み始めた空の下、蒸気船の汽笛が鳴り響く。官軍旗艦・甲鉄を中心とした七隻からなる艦隊が江差沖を航行、うち二隻の兵輸送船が乙部まで進むと、そこで官軍陸軍兵千五百名が上陸したのである。
 勿論幕府軍も手をこまねいていた訳ではない。江差で官軍艦隊に気がついた幕府軍は陸を阻止すべく一聯隊百五十名を乙部に派遣したが、彼らが乙部に到着した時には既に官軍は上陸を果たしていた。それだけではなく官軍先鋒の松前兵によって撃退されてしまったのである。
 それだけではない。陸兵が乙部で小競り合いを続けている間に『春日』を中心とする官軍艦隊五隻が江差砲撃を開始したのである。勿論江差の砲台も反撃を試みたが砲弾の飛距離が違いすぎた。江差の砲台からの砲撃は敵艦隊には届かず、江差奉行・松岡四郎次郎ら幕府軍は松前方面への後退を余儀なくされた。

「江差の次は函館だ!」

 江差上陸を果たした官軍陸軍参謀・黒田清隆が気炎を上げる。乙部に上陸した千五百名に加え江差に上陸した官軍兵二千八百名、更に四月十六日にも増援部隊が江差へ上陸したのを機に、函館攻略計画を発表したのだ。

「まずは海岸沿いに松前に向かう松前口、次に山越えで木古内に向かう木古内口、更に乙部から鶉・中山峠を抜け大野に向かう二股口と同じく乙部から内浦湾に面する落部に向かう安野呂口、四方面からの函館攻略だ!この攻撃で幕府軍の息の根を止めるぞ!」

 黒田の激に兵士達が雄叫びを上げる。上陸の勢いそのままに、函館上陸最終決戦の幕が切って落とされた。



『官軍が乙部及び江差に上陸。それにより幕府軍は松前まで撤退』

 その一報が各地を守備していた幕府軍にもたらされたのは、官軍上陸の翌日、四月十日の事だった。

「既に松前で守備に当たっていた遊撃隊と陸軍隊が江差奪還に向けて出陣していると思うけど・・・・・・」

 緊急会議の場で大鳥の表情が曇る。

「双方合わせて兵の数は五百足らず。血の気が多い部隊とは言え、敵兵は千五百近いとの報告もある――――――三倍近い敵を相手には圧倒的不利だ」

「しかし、それだけ敵兵が多けりゃ全部を江差~松前に投入するとも思えないが」

 土方の発言に海軍奉行の荒井も同意する。

「可能性があるとすれば木古内方面からの攻撃かな。山越えはかなりきつそうだが」

「あと、乙部から鶉・中山峠を抜ける二股口があるね。そちらも守らないと」

 副総裁の松平太郎が意見を述べる。

「三方面か――――――兵を割かれるのは苦しいものがあるが、道が狭まっているところに兵を配置すれば多少の勝機はあるか」

 参加者の発言を全て聞いた後、議長でもある榎本が重々しく口を開く。

「松前方面は伊庭くんと春日くん、松岡くんに任せよう。海岸沿いは艦隊からの援護射撃も考えられる。撤退するにも身軽な方がいいし、他の方面の守備を考えるとこれ以上兵を投入することは出来ない」

 榎本の考えを受け、陸軍奉行である大鳥が頷き、具体的な提言をする。

「じゃあ僕は木古内を。あわよくば松前軍と敵を挟み撃ちにできるかもしれないしね。ということで土方くんは二股口を頼まれてくれないか?」

「承知」

 土方もそのつもりだったのだろう。何の質問もすること無く大鳥の提言を受け入れた。

「兵は好きなだけ連れて行っていいよ。こちらは松前と合流するだろうから、それほど多くなくても・・・・・・」

「衝鋒隊と伝習隊の三百名――――――それだけ預けてもらえば充分だ。二股口は他の道に比べて細い。むしろあまり多いと身動きが取れねぇ」

「敢えて新選組を連れて行かない理由は?」

 何故か愉快そうに目を細めつつ、大鳥が土方に尋ねる。

「山中の遊撃戦となると鉄砲隊が必要だ。残念ながら新選組は鉄砲が苦手ときている。更に云わせてもらえば新選組は市街戦なら無敵だが、山中遊撃戦では間違いなく後手に回るだろう」

「なるほどね。ならば新選組は函館の守備に残しておこうか。万が一僕らが全滅しても、函館だけは守れるように」

「そうしてもらえるとありがてぇ」

「じゃあ決まりだな。即座に準備をして夕方には出陣できるようにしてくれ」

 会議の終了を榎本が告げ、そこで会議は解散となった。



 会議が終わった直後、土方は鉄之助を小夜を自らの部屋に呼び出した。それを相馬から聞いた沖田は急いで五稜郭へ向かう。

(鉄之助くんと小夜を呼び出すなんて――――――一体何があったんでしょうか?)

 そして五稜郭の土方の部屋の前に到着すると、丁度二人が部屋から出てくる所であった。その姿に沖田は驚きに目を丸くする。

「どうしたんですか、小夜?泣きはらして・・・・・・」

 沖田の声を聞いて小夜は驚いたように顔を上げる、そして人目もはばからず沖田にしがみつき泣きじゃくり始めたのである。その一方、鉄之助は今まで見たことのないような怒りの表情である。

「て、鉄くん?一体何が・・・・・・」

「最終決戦が近いから、女子供は函館から出て行け言われました!元服したのに子供扱いやなんてふざけてると思いまへんか?これでもず~~~~~っと新選組隊士として戦ってきた自負はありますし、鉄砲の腕は隊内一やと思っております!」

「・・・・・・函館も、危険やから逃げろと・・・・・・土方センセに言われました・・・・・・総司はんとも、二度と会えへんかもしれないと・・・・・・」

 小夜が沖田に訴えたまさにその時、土方は部屋から出てきた。

「総司、お前からも説得してくれ。鉄に関しては諦めたが、お小夜は女だ。捕まったら男以上に悲惨なことになる。近々仙台藩を脱藩した兵士らが外国船に乗って来ることになっているから、その船に乗って函館から脱出してもらいたい。多分それが最後の機会だ」

 そして土方は胸ポケットから何やら包みを取り出し、沖田に手渡した。

「お小夜が函館を脱出する際に持たせてくれ。逃走資金と――――――俺のポトガラヒーだ。これをお琴に届けて欲しい」

「――――――承知」

「総司はん?」

「お小夜、ここでは何ですからちょっと別室に行きましょう」

 そう言って沖田は小夜の肩を抱きかかえたまま土方と鉄之助の前から立ちさった。



 沖田は小夜を連れて別室へ入ると、小夜を座らせ向き合った。

「小夜――――――ここまで付いてきてくれて本当にありがとう。だけど、幕府軍は多分この戦いで敵に降参することになるでしょう」

 その言葉に小夜の目から新たな涙が零れ落ちる。

「敵に捕まり、私が新選組の沖田総司だと敵に知られれば間違いなく斬首でしょう。もしかしたらその前に戦死するかもしれませんが――――――だからこそ小夜には生き続けて欲しいのです。敵に汚されること無く」

 その言葉に小夜ははっ、と我に返った表情を浮かべる。

「ここに残っていたら、土方さんの言うとおり女性は悲惨な目に遭うでしょう。ましてや私の妻と知られれば――――――だからこそ小夜にはここから逃げて生き残って欲しいのです。佳世のこともありますし・・・・・・」

「総司はん・・・・・・」

「もし逃げおおせることが出来たら、ほとぼりが覚めるまで横浜か神戸辺りで身を潜めていていてください。外国人居留地ならば官軍もそう安々と手を出すことは出来ないでしょうし、多少の仏蘭西語がわかるあなたなら生活にもそれほど困らないでしょう。それに・・・・・・」

 ほんの少しだけ言い淀んでから、沖田は意を決したように口を開く。

「万が・・・・・・万が一、私が函館から逃げおおせることが出来たら、狭い外国人居留地の方が小夜を見つけ出しやすいですからね」

「ほな、約束してください。嘘でもええから・・・・・・必ずうちを探し出してくれると」

「それだったら・・・・・・たとえ幽霊になっても絶対に小夜を探し出しますよ」

 沖田は小夜に微笑みかけ、そっと抱きしめる。その腕の名家で小夜は肩を震わせ、いつまでも泣き続けた。



 四月十四日、仙台藩を脱藩した二関源治率いる見国隊四百名が英吉利船で鷲ノ木近くの砂原に到着した。その部隊と入れ替わるように小夜と重傷者数名は仏蘭西人軍事顧問の口利きで英吉利船に乗船することが許された。

「取り敢えず横浜までは無事辿り着ける筈です」

 小夜と重傷者を鷲の木まで送り届けた仏蘭西人顧問の一人、ブッフィエがわざわざ出陣先の二股にやってきて土方と沖田に告げる。

「マダムは幕府軍の医者であり、幹部の妻だと告げたら船長室に次ぐ一等船室に案内されました。内側から鍵もかけられますし、英吉利にもプライドがあるでしょうから問題ないでしょう」

 勿論それだけの支払いもしているのだろうが、『医師で幹部の妻』であればそれなりの対応をしなければ国の恥にもなろう。

「これで、小夜は・・・・・・助かりますよね」

 二度と会えなくなる可能性が極めて高いが、少なくとも愛しい人は生き延びてくれる――――――その事実に沖田は安堵し、更に力が漲るような感覚を覚えた。




UP DATE 2017.6.17

Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv


  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)







大変遅くなりました~(>_<)そしてここで一旦総司と小夜が別れま~す/(^o^)\
というのも最終決戦を目の前にして、幕府軍でも結構避難している人が多いんですよね~。史実では鉄之助が4月15日にイギリス船に乗って函館を脱出しているのですが、拙作では小夜にその役割を担ってもらいました。医者とは言え女性、男としては逃してやりたいと思うのが当然ですしねぇ(特に長州兵の女性暴行の噂を聞いていたら尚更・・・会津ではかなりひどいことになっていたようですし(´・ω・`))
ということで、小夜には『土方の写真を琴に届ける』という建前も付けて本州→取り敢えず横浜へと送り出しました。話としてはここで総司が生き残るかどうかハラハラさせるべき何でしょうが、何せこの話を語っているのはジジィ総司/(^o^)\生き延びるというのは百も承知で、果たしでどうやって生き延び、小夜の許へと逃げ込むのか・・・最終話までかかりますがぜひともお付き合いを(*^_^*)
来週は各地での戦いの模様&できれば二股口の戦いに突入したいところです(๑•̀ㅂ•́)و✧
関連記事
スポンサーサイト

 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のがらくた箱~その三百七十八・町村総会こそ特区を利用するべきだと思う(๑•̀ㅂ•́)و✧】へ  【鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~質実剛健、旧本間邸1】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のがらくた箱~その三百七十八・町村総会こそ特区を利用するべきだと思う(๑•̀ㅂ•́)و✧】へ
  • 【鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~質実剛健、旧本間邸1】へ