「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第二十話 宮古湾沖海戦・其の肆

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 アボルダージュ作戦に失敗した回天は官軍の追撃を受けつつも宮古湾沖を撤退、その途中ではぐれていた幡龍と合流することに成功した。
 二隻はそのまま撤退を続け、三月二十六日の夕方には辛うじて函館まで逃げ帰ることが出来たが、唯一高雄だけは別の運命を辿る。
 機関故障を起こしていた高雄は甲鉄と春日によって捕捉されてしまったのである。艦長・古川節蔵以下九十五名の乗組員は田野畑村付近に上陸、官軍に奪われるよりはと船を焼いたのちに盛岡藩に投降し、官軍に捕縛された。この戦闘によって官軍の勢いは更に増し、幕府軍は更に苦境に立たされることとなる。


 函館港に入港した回天から降り、五稜郭に戻ってきた土方を待ち受けていたのは、更に悲しい知らせだった。

「土方さん、お帰りなさい」

 笑顔で迎えた沖田だったが、その笑みにはどこか陰りが見える。それは総司の背後に控えている小夜も同様だ。そもそも何故沖田だけでなく、仕事で忙しい小夜まで土方をわざわざ出迎えに来たのか――――――小さな違和感を感じつつ、土方はわざと明るい声で沖田に語りかけた。

「何シケたツラしてやがる。別におめぇが戦場に出ていたわけじゃねぇだろうが!」

 しかし沖田は土方の言葉には乗ってこず、笑みを消した表情で首を横に振った。

「いえ、戦のことじゃなくて・・・・・・玉置くんが、亡くなりました。土方さん達が出港してから二日後の朝、というより昨日の朝と言うべきでしょうか」

 思いもしなかった玉置良三の死の報告――――――その一言に土方は目を大きく見開いた。

「何だって?俺らが出かける時はまだ大丈夫そうだったじゃねぇか!」

 流石に立ち上がることは出来なかったが、玉置は上体を起こし、土方を見送ったのだ。徐々に弱っては来ていたが自分達が帰還するまでは大丈夫だと思っていたのに――――――愕然とする土方に、沖田の後ろに居た小夜が詳細を語り始めた。

「皆はんが出陣した直後から容態が急変しました。夜には意識が混濁し始めて・・・・・・近藤センセや土方センセの名前を呼ばいながら、昨日の明け方に息を引き取りました」

「私もその場に居たんですが、まるで何かを追いかけるように手を伸ばして・・・・・」

 交互に語られる玉置の臨終の様子に、土方は唇を噛み締める。そして玉置の亡くなった時間帯にふとあることを思った。

「もしかして、あいつが事切れたのは日の出と同時くらいか?」

「え?ええ、そうですけど」

「丁度その時間、俺達は戦闘を開始していた。もしかしたら、玉置の魂は宮古湾に馳せ参じていたのかもな」

 土方は軽く鼻をすすると沖田に尋ねる。

「亡骸は?」

「称名寺さんに運んでおきました。埋葬する場所にちょっと手間取ってしまって明日の昼に埋葬をすることになってます」

「判った。今から行く。総司、案内しろ。相馬も一緒に来い」

 土方の言葉に沖田は頷き、小夜を五稜郭に残して三人は称名寺へと向かった。



 称名寺は函館に於ける新選組屯所でもある。帰還早々土方が顔を出したことで隊士達は驚き、歓声を上げる。

「お帰りなさいませ、土方隊長!相馬さん!」

「戦はどうでしたか?甲鉄は?」

 こちらにはまだ敗戦の知らせは入っていないらしい。幡龍に乗り込んでいた十名の隊士もまだこちらには戻ってきていないようだ。土方は大きく息を吸い込んだ後、宮古湾沖での出来事を語り始めた。

「期待に添えなくて悪ぃが、作戦は失敗だ。甲鉄をブン取るどころか高雄が捕縛されちまった。更に俺達が乗っていた回天からも・・・・・・野村は多分戦死しちまっているだろうな。あいつは――――――甲鉄の甲板に飛び降りちまって撤退に間に合わなかった」

「なっ・・・・・・!」

 隊士達は驚き、更に土方から詳細を聞き出そうとするが、それを止めたのは相馬だった。

「詳しい話は俺が後でしてやる。土方隊長は戦死した甲賀艦長に代わって撤退処理をしていたから――――――野村に関しては俺のほうが詳細は知っているから暫く待ってろ」

 その言葉に隊士以上に土方が驚く。

「おめぇ、もしかしてあの戦いの中見ていたのか?」

「ええ、船の舳先に這いつくばってですけど・・・・・・冥土で近藤局長に会っても恥ずかしくない戦いぶりでしたよ」

 滲む涙を袖で拭いつつ、相馬は土方を促す。

「それより玉置くんに会いに来たんでしょう?あいつだって魂を飛ばして野村と共に戦っていたはずですから――――――ところで亡骸は?」

「ホトケならあそこにありますよ、相馬さん。ず~っと隊から隔離されていたんで、せめて弔う前くらい一緒に居させてやろうと思って」

 一分隊差図役の青山次郎が指差した方向を見ると、布団をかけられた小さな体がそこにあった。土方らが近付き、顔にかけてあった白布をめくると、苦しげな玉置の顔がそこにあった。今際の際、かなり苦しい思いをしたのだろう――――――そしてその表情は同時に何かと戦っているようば厳しさも感じられた。

「こいつも、戦ってんたんだろうな」

 土方はしみじみと呟き、玉置の亡骸を前に両手を合わせた。



 翌日、土方及び新選組隊士らによって玉置良三および野村利三郎の予備の脇差しが埋葬された。相馬の話によれば野村は善戦し、二名の敵に斬りつけたものの撤退命令前に敵の銃弾に撃たれ、甲鉄の甲板に倒れていたとのことであった。頭も撃ち抜かれていたため、間違いなく死んでいるだろうとの事で、野村の弔いも一緒に行うことになったのである。

「明日は我が身・・・・・・とはいえ、仲間の野辺送りは気分の良いものではありませんな」

 埋葬が終わった後、島田が沖田に語りかける。

「そうですね――――――何度も行っているはずなのに、未だに慣れません」

「だが、そうも言ってられねぇぞ、総司。島田」

 厳しい表情の土方が二人に――――――と言うより、その場に残っていた非番の隊士らに語りかけた。

「斥候からの連絡が昨日の夜入った。敵の艦隊が青森に到着しているとのことだ」

 その瞬間、ざわりと空気が動き、臨戦態勢さながらの緊張感が隊内に走る。

「尤も敵も無傷じゃいねぇ。回天の砲撃で損傷した運送船・戊辰丸の姿は見当たらねぇらしい。向こうもそれなりの体勢を整える時間が必要だろうから――――――こっちに向かってくるのは四月の頭だろう。それまでにこちらも迎え撃つ準備をしておくぞ」

 土方の激に隊士達は威勢のいい雄叫びを上げる。その声は己の心にまとわりつく不安を吹き払うかのようであった。



 土方の読み通り、官軍艦隊は三月二十六日には青森に到着したもののすぐには攻撃を仕掛けなかった。戊辰丸野代わりにイギリス船『オーサカ』とアメリカ船『ヤンシー』を兵員輸送用にチャーターしたため、その準備に時間がかかってしまったのだ。しかし時間をかけても確実に幕府軍の息の根を止める――――――その覚悟と、決意を確実なものにする余裕が官軍にはあった。
 そして海陸軍参謀・山田顕義率いる官軍兵千五百名は四月六日に青森を出発、三日後の九日早朝、乙部に上陸することとなる――――――箱館戦争、地上戦の開始はすぐそこまで迫っていた。



UP DATE 2017.6.10

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土方を待ち受けていたもの―――それは小姓の一人・玉置くんの死でした(´・ω・`)不治の病で助かることはないと解っていましたが、かなり急な出来事だったようで(´;ω;`)向こうっ気の強い子でしたからきっと魂だけは宮古湾沖の回天に飛んで行き、土方や野村とともに戦っていたのかもしれません(´・ω・`)
しかし仲間の死を悲しむ余裕はありません。既に敵は青森、そして蝦夷地に上陸を果たそうとしているのですから・・・次回更新は6/17、官軍の蝦夷上陸、そして各地での激戦となります(>_<)
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