「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第十八話 宮古湾沖海戦・其の貳

 ←烏のがらくた箱~その三百七十五・嗚呼、カール・・・(/_;) →鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~夢の名残の相馬樓1
 函館港を出港した回天、幡龍、そして高尾は互いを大綱で繋いだ一列縦隊で宮古湾へと進んでいく。その姿を土方は一人回天の船尾楼から眺めていた。本来ならば威風堂々と海原を突き進むべき幕府軍の軍艦だが、たった一本の縄で一列に繋がれたその姿は余りにも心許ない。空は晴れているが、妙に生暖かい、湿った風が土方の首筋を撫でていく。近いうちにやってくるであろう雨の予感も土方の心に小波を起こしていた。

「・・・・・・まるで弟が迷子にならねぇように手を繋いでいる、ガキみてぇだな」

 正体の知れぬ不安が、思わず土方の唇から零れ落ちてしまう。その時である。

「言い得て妙だね、歳さん。確かに手を繋いで恐る恐る進む子供のようだ」

 背後から聞き慣れた声が聞こえ、土方は思わず振り返る。そこに居たのは海軍奉行・ 荒井郁之助であった。土方より一切年下のこの男は土方とは『下戸仲間』である。更にこの男は無類の甘味好きと来ていた。新選組にも甘味好きの島田や沖田がいるためか、陸軍海軍の垣根を超えた付き合いをしている数少ない人物でもある。多分新選組名物『島田汁粉』を食べることができるのは、隊士以外では荒井くらいだろう。
身分・学歴をおごらず、温和でひどく謙遜家でもあるこの男と、土方も親しく付き合っている。

「郁さんか・・・・・・あんたも出てきたのか?」

「ああ。仕事はすべて艦長の甲賀くん以下船員たちがやっているからね。『海軍』の頭なのに暇でしょうがない」

 荒井は高らかに笑いながら土方の隣にやってきた。

「甲賀くんからの情報によると、これから嵐がやってくるかも知れないとのことだ。だからはぐれないように縄をかけたってことだけど・・・・・・お守り程度の気休め、って言っていたな」

「はぁ?その程度の役しか立たねぇのかよ?」

 土方の心許なさを更に上塗りするような荒井の一言に、土方は素っ頓狂な声を上げた。

「要は気持ちの問題さ。大丈夫たと思えば大丈夫、万が一縄が切れたとしても船と船は繋がっているってところかな――――――離れ離れになっても兄弟は兄弟だろ?そんなものさ」

 これから戦場に行くとは思えないほどのんびりした口調で荒井は土方に語りかける。その語り方は土方を安心させるためであろう――――――それを感じた土方は軽い苦笑いを浮かべた。



 翌二十二日、偵察のために鮫村に寄港し情報を得たあと、幕府軍艦隊三隻は宮古湾を目指して更に南下した。だが恐れていた雨――――――否、暴風雨がその日の夜にやってきてしまったのである。大海原を木の葉のように翻弄される軍艦三隻はそれぞれ必死に舵を取り、沈没しないように必死だ。

「沖へ進め!座礁だけはさせるな!!」

 暴風雨にかき消されまいと怒鳴る甲賀の声に、海軍の操縦士達は必死に応じる。そんな中、荒井と土方を始めとした陸軍兵士は小部屋に集まり横たわっていた。というか忙しく動き回る海軍兵の邪魔にならぬよう息を潜めていた、という方が適切だろう。できるだけ船酔いをしないようにと横たわっていたが、それでも気分が悪くなるほどの揺れである。

「これじゃあ三隻を繋いでいた縄も切れてしまっているだろうね」

 その場にいる人間の中で、唯一平然とした表情の荒井がポツリと呟く。その一言に土方が食って掛かった。

「郁さん!他に心配することがあるだろうが!こんなに煽られちまったらそれこそ沈没しかねねぇ!川泳ぎならいざ知らず、流石に大海原に放り出されたら命はねぇぞ!そもそもあんたは俺よりも泳ぎが出来ねぇだろうが!」

 流石に船酔いを覚えている土方が、青白い顔で喚く。だが、荒井は全く応える様子もなく、凝った首周りを解すようにポキポキと首を鳴らした。

「大丈夫だよ。回天は沈没しないから。むしろ小さな幡龍や高雄のほうが沈没の可能性が高いから心配しているんだ。せめて縄で繋がっていれば多少船が壊れたって曳航できるけど、切れたらそれも出来ないしね」

 『回天は沈没しない』という妙な自信と幡龍・高雄に対する冷静な杞憂――――――相反する荒井の言葉に、土方は頭を抱えた。

「開陽だって沈没したっていうのに、回天に対するその絶対的な信頼感は何なんだよ・・・・・・本当に、あんたにゃ叶わねよ」

 揺れる船の床にへばりつきながら、土方はぼやいた。その時である。

「縄が・・・・・・縄が切れた!高雄も幡龍も見えない!」

 船尾楼方面からの叫びに、土方を始め同じ部屋に居た陸軍兵士らも思わず部屋を飛び出す。すると忙しげに動き回っている海軍兵が部屋のすぐ外にいた。

「おい、陸軍!あんた達は部屋に戻っていろ!」

 土方らに気がついた海軍兵は、安全のため部屋に戻るように指示するが、それを素直に聞く土方ではなかった。

「縄が切れたって本当なのか?幡龍にも高雄にも我々の同士が乗船しているんだぞ!」
 
 土方が海軍兵士に詰め寄り、海軍兵の胸ぐらを掴む。

「まぁまぁ、歳さん、落ち着いて」

 流石にまずいと思った荒井が、土方と海軍兵の間に割って入る。そして海軍兵の方へ顔を向けると厳しい怖声音で尋ねた。

「ところで君、今現在解っているだけでいいから状況を教えてくないか?これは海軍奉行命令だ」

 その瞬間、海軍兵は反射的に姿勢を正した。流石に相手が海軍奉行ではわけが違う。直立不動の姿勢のまま、海軍兵は荒井に対して状況を告げる。

「はっ!嵐によって縄がちぎられた模様!取り敢えず座礁しないよう一旦沖へ出てから、嵐が収まり次第最寄りの港に避難するとの命令が出ております!」

 手短にそう言うと、海軍兵は一礼し荒井の前から走り去った。

「畜生・・・・・・本当に、海の上では俺達は手も足も出せねぇ」

 苦々しく呟く土方の肩に荒井は慰めるように軽く手を置いた。



 丸一日が経過をした二十四日、ようやく嵐が落ち着きを見せた頃に回天と高雄はようやく合流に成功した。だが幡龍は周辺には見当たらず、高尾も嵐によって機関を損傷していた。このまま宮古湾の官軍艦隊に突っ込むのは無謀すぎる。

「流石にこのまま航行することは難しい!どこか最寄りの港で修理をしたいのだが!!」

 高雄艦長・古川節蔵が甲板から声を大にして訴える。その声に回天の艦長である甲賀が答えた。

「判った!回天が曳航する!山田湾にて機関の修理をし、幡龍との合流を試みよう!」

 嵐が弱まった今のうちなら何とか縄をかけ直し、曳航することも可能である。回天の船尾から投げられた縄を高尾の船首にかけ、二隻は宮古湾の南に位置する山田湾へと向かった。その際敵の斥候がいる可能性も考慮し、回天にはアメリカ国旗、高雄にはロシア国旗を掲げる。

「あ~あ、回天もマストが一本折れちまったんだな」

 甲板に這い出てきた土方がアメリカ国旗が掲げられたマストを見上げながら呟く。そのがっかりした口調に、一緒について来た野村利三郎も頷いた。

「たった二本のマストで大丈夫なんでしょうか?」

「一応蒸気船だから大丈夫だろう。実際動いているわけだし」

 普段使っていた猪牙舟や三十石船ならいざ知らず、流石にここまで大きな軍艦となるとその動力源やマストの有無の重要性などはちょっと解らない。だが動けなくなった高雄を曳航しているくらいだから動力は問題ないのだろう。そんな会話を陸軍仲間同士でしている内に二隻は山田湾に入港し、高雄の修理が早速始まった。

「それにしても幡龍はどこにいるんでしょうかね」

 一旦陸へ上陸した相馬が近くに居た荒井に尋ねる。

「う~ん、もしかしたら出向前の打ち合わせに従って鮫村に行ってしまったかもしれないね。そうなると連絡も取りづらいかな」

 荒井は厳しい表情を崩さず腕組みをする。

「もし居なかったとなると、他にアテはねぇしな。沈没さえしていなけりゃ宮古湾沖で合流できるかも知れねぇから、それに賭けるしかねぇんだろうな」

 土方も荒井の考えに同意し、頷いた。その時である。

「土方隊長!漁師たちからの情報を海軍の奴らが持ってきました!宮古湾鍬ケ崎港に官軍艦隊が入港しているとのこと!」

 弾む声で野村が情報を土方に伝える。それを聞いた瞬間、荒井は小さな溜息を吐く。

「仕方ない・・・・・・歳さんも来てくれないか。艦長たちとの会議のあと、すぐに出港の運びとなるだろう。この機会を逃しては、僕らに勝ち目は無くなる」

 即座の出港、そしてそれは幡龍との合流を諦めるという決定でもあった。戦う男の表情に変わった荒井の言葉に、同じ表情の土方も頷く。
 そして臨時会議によって高雄が甲鉄を襲撃し、回天が残りの艦船を牽制するという二隻のみでの作戦に変更、決行は二十五日夜明け――――――幕府軍によるアボルダージュ作戦が実行されることになる。




UP DATE 2017.5.27

Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv


  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)





大変お待たせいたしました(>_<)実は半分ほど書いた時点で登場させていたキャラの一部がこの作戦に参加していないということが判明してしまいまして・・・名前を取り替えるだけではすまない場面もそこそこあり、半分以上書き直しする羽目になっておりました( ;∀;)本当に申し訳ございません(>_<)

宮古湾沖海戦、函館を出港したのは良いのですが、途中で出くわしてしまった嵐によって三隻は散り散りに、高雄に至っては機関が壊れてしまいました(´・ω・`)更にタイミングが悪いことに敵が近くにいるという情報が・・・(>_<)
無理をおしての出陣になりそうですが、果たして成功するのかそれとも返り討ちに合うのか・・・次回をお待ちくださいませペコリ
関連記事
スポンサーサイト

 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のがらくた箱~その三百七十五・嗚呼、カール・・・(/_;)】へ  【鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~夢の名残の相馬樓1】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のがらくた箱~その三百七十五・嗚呼、カール・・・(/_;)】へ
  • 【鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~夢の名残の相馬樓1】へ