「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第十七話 宮古湾沖海戦・其の壹

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 年が明けた函館新政府だが、そのきしみは徐々に大きくなっていった。その最たるものは資金である。元々徳川幕府が発行していた貨幣の他に、函館新政府によって鋳造された新貨幣を流通させようとしたのである。勿論函館の町人は拒否反応を示し、それに対応するため箱館奉行の永井と新選組の相馬が対応に追われるという事態が発生した。

「新入り達が花街で新貨幣を使おうとしたら拒絶されたとのことです」

 騒動の処理を終えて帰ってきた相馬が、疲れ切った表情で土方に報告する。

「・・・・・・商人の気持ちも判らないではないんですけどね」

「相馬、お前がそれを言うな。俺達だって内心そう思っているんだから」

 苦虫を噛み潰したような表情で唸る土方の一言に、周囲から苦笑が漏れる。

「初期の新選組のときとは規模が違いますからね。これだけの組織を維持していくには上納金の教養や関門の通行税だけじゃどうしようもないですよ」

 懐かしそうな響きをにじませた島田の言葉に沖田も頷く。

「そうそう。芹沢さんが近藤先生や土方さんを引き連れて商家を脅していましたよねぇ」

 物騒すぎる沖田の言葉に、当時を知らない隊士らはぎょっとした表情を浮かべるが、古参隊士達はむしろ懐かしげに頷き、口の端に笑みさえも浮かべた。

「ああ。あの人は嫌な仕事を自ら引き受けていたからな。それにあの頃の俺達はかなり頼りなかったと思う・・・・・・少なくとも今の自分から見たらよくあれでやっていけたと感心するぜ」

 土方もぬるくなった茶をすすりながら遠い目をする。

「新選組も何度も組織解体の危機に瀕しながらも何とかここまで生き残ってきた。しかしそれは小さな組織ゆえの身軽さがあったからだ――――――ここに着いた当初で千五百人、穏やかな日に海を渡ってやってくる幕軍参加の兵士を加えて今や二千人近くになている。この大所帯が持ちこたえられずに崩壊するか、それとも敵との戦いに敗れるか――――――どっちが先か、ってところだな」

 縁起でもない不吉な言葉だが、それを否定しようとする新選組隊士は誰一人居なかった。



 そんな不吉な気配を含んだ函館に桜の花が咲く頃、その一報は舞い込んできた。



「仙台の諜報からの連絡が入った」

 緊急招集の幹部会議の席で、榎本が開口一番こう切り出した。

「官軍艦隊――――――甲鉄、春日、丁卯、陽春の軍艦四隻および徳島藩の戊辰丸、久留米藩の晨風丸および飛龍丸、豊安丸の軍用輸送船四隻が宮古湾に入港すとのことだ。この機会に奇襲をかけ、あわよくば軍艦の一、二隻を奪還しようと思う」

 軍艦の奪還――――――物騒すぎるその言葉に場がざわつく。

「榎本くん。僕は門外漢だからよく判らないのだけど・・・・・・そんな僕から見ても敵の軍艦を奪還するなんて難しいと思う。流石に双方無傷でとは行かないまでも、そんなことが可能なのかい?」

 大鳥が敢えて『陸軍奉行』として、その場に居た者達の疑問を代表して口にする。敵軍艦が全部で八隻もあるのに対し、幕府軍に残された軍艦は回天、幡龍、高尾の三隻しかない。それなのに戦いに勝つどころか敵軍艦を奪い取ろうというのは無謀なのではないか――――――そんな疑問に榎本は応えた。

「その計画に関しては既に海軍士官候補生ニコールの発案で荒井と甲賀が作戦の立案をしてくれた――――――敵の旗艦・甲鉄の奪還だ」

 力強い榎本の一言に、全員が息を呑む。

「その計画の中身を俺とブリュネで精査し、承認した。第一の目的は甲鉄、あわよくば他の軍艦や輸送船も欲しいところだが、あまり欲張りすぎて失敗したら元も子もない」

 冗談めかした口調だが、その目は笑っていなかった。

「詳細な計画についてはは海軍奉行・荒井郁之助から説明してもらう。荒井、前へ!」

「はっ!」

 榎本の呼びかけに応えた荒井は前に進み出て、懐から何やら書付を取り出した。どうやらそれが計画書らしい。

「来る三月二十三日、我が幕府軍は敵軍旗艦・甲鉄へのアボルダージュによってこれを奪取する」

「あぼる、だぁじゅ?」

 初めて聞く、不思議な響きの言葉に土方を始め陸軍幹部たちは怪訝そうな表情を浮かべる。

「日本語に訳せば『接舷攻撃』というところだな。昔の海賊がよくやっていた方法だ」

 榎本自ら『アボルダージュ』という言葉について陸軍幹部に説明する。

「なるほど、聞きなれねぇ言葉だが、要は船の略奪だもんな。やる事ぁ海賊と大して変わらねぇか」

 ガラの悪い土方の一言に、荒井がコホン、と咳払いをする。

「土方殿、他人事のように捉えられているようですが、この作戦には切り込み部隊として陸軍にも協力してもらいますからな」

荒井は不機嫌そうに口をへの字に曲げつつ、更に説明を続けていく。

「各軍艦への乗船は以下のように振り分ける。各幹部は配下に即時伝えるように」

 と、次々に割り当てを述べていった。


旗艦・回天
海軍 : 海軍奉行・荒井郁之助、艦長・甲賀源吾、以下二百余名、元仏海軍・ニコール
陸軍 : 陸軍奉行並・土方歳三、添役・相馬主計、同介・野村利三郎、彰義隊十名、神木隊三十六名

蟠竜
海軍 : 艦長・松岡磐吉、以下百余名、元仏海軍・クラトー
陸軍 : 新選組十名、彰義隊十名、遊撃隊十二名

高雄(第二回天)
海軍 : 艦長・古川節蔵、以下七十名、元仏海軍・コラッシュ
陸軍 : 神木隊二十五名


「なお、甲鉄への接舷は蟠竜と高雄の小型艦二隻で実行、大型の外輪船で接舷が難しい回天はその援護にあたる予定である。回天、蟠竜、高雄の三艦は外国旗を掲げて宮古湾に突入し、攻撃開始と同時に日章旗に改めて甲鉄に接舷、陸兵が斬り込んで舵と機関を占拠する」

「流石に榎本くんが『海賊』と喩えるだけあるね。陸軍からすると騙し討のように思えるのだが」

 大鳥の言葉に荒井は更に厳しい表情を浮かべたが、榎本はカラカラと笑い大鳥に説明する。

「確かに!でも第三国の旗を掲げて近づき、攻撃直前に自国の旗を掲げる方法は万国公法で認められているんだ。安心して陸軍は海賊になりきって欲しい」

「とんでもない総督だね。でも雪に埋もれて陸軍の兵士も鬱憤が溜まっている頃だろう。特に荒っぽい、海賊に転職してもやっていけそうな輩を選んで乗船させるよ」

 冗談めかした大鳥の言葉に、その場は笑いに包まれた。



 旗艦・開陽を江差で失った幕府軍は海軍戦力で劣勢に立たされている。その劣勢を逆転する一か八かの作戦――――――宮古湾海戦の計画はかくして成立した。
 幕府軍が第一に狙う『甲鉄』は当時日本唯一の装甲艦である。元々甲鉄はフランスで建造されたアメリカ連合国海軍のストーンウォール号という名の軍艦であった。それを江戸幕府がアメリカから購入したのだが、戊辰戦争が勃発してしまったため幕府軍は引き取ることができず、官軍の手に渡ってしまったという経歴を持つ。
 そんな『甲鉄』さえ入手できれば対外交渉においても有利に働く――――――江戸脱走以前から甲鉄の引渡しについてアメリカと交渉をしていた榎本はそう考えていたのだ。その機会が巡ってきたとあっては手をこまねいているはずもない。準備は着々と進み、三月二十一日未明、出港の準備は整った。
 そして土方およびその添役の相馬主計と野村利三郎、選抜された新選組隊士十名がそれぞれ割り当てられた船に乗り込んでゆく。

「じゃあ、総司。万が一俺が帰ってこなかったら、新選組を頼んだぞ」

 船に乗り込む際、土方は見送りに出向いていた沖田に告げる。

「承知しました――――――が、命を散らすなら陸の方が良いと思いますよ。土方さんじゃ海の上では足手まといになるだけでしょうから」

「言ってくれるぜ。帰ってきたら嫌ってほど俺の武勇伝を聞かせてやるから耳掃除をして待っていやがれ!」

 土方は捨て台詞を残し、回天へと乗り込んでいく。そして多くの兵士が見送る中、三隻の軍艦は静かに函館港を出港し宮古湾へと向かっていった。



UP DATE 2017.5.20

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この話もとうとう宮古湾沖海戦までたどり着いてしまいました・・・これが終わったら次は函館決戦ですよ(●´ω`●)ちょっと感慨深いものがあります。

しかし管理人の感慨深さとは関係なく、函館新政府は設立早々早速経済難に陥っております(>_<)確かに出ていくお金ばかりで収入源が関税くらいしかありませんからねぇ・・・そんな中、官軍の艦隊がやってくるという知らせが入り、幕府軍は一か八かの賭けに出ます(๑•̀ㅂ•́)و✧八隻の軍艦に三隻の軍艦・・・奇襲とは言え成功する可能性は低いようなきがするのですが(´・ω・`)
次回更新は5/27、函館港を出港した三隻が官軍の船と出くわす直前まで書けるんじゃないかと思います(^_^;)
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