「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第十六話 蝦夷共和国の入れ札・其の肆

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 祝言のその日から沖田と小夜は夫婦で一つの部屋を充てがわれた。元々たった一人の女性医療関係者である小夜に充てがわれていた小部屋であるが、寝るだけなら夫婦二人でも問題ないだろうと言うことで夫婦二人の部屋になったのだ。端的に言ってしまえば沖田が小夜の許へ転がり込んできたような形になってしまったが、こればかりは致し方ない。

「まさか函館に来て夫婦二人だけの部屋がいただけるとは思いませんでしたね・・・・・・というか、私が転がり込んだという方が良いかもしれませんが」

 沖田は小夜の布団に潜り込みながら囁く。本州の人間にとって函館の夜はやはり寒い。行軍の間はその寒さを気にする余裕さえ無かったが、ほっと落ち着くと寒さが気になってしまうものだ。流石に三畳の小部屋には火鉢を置くこともままならないので自然と互いの身体で暖を取るような形にならざるをえない。

「・・・・・・戦がどれくらい続くか判りませんが」

 沖田は小夜のぬくもりを感じつつ、頬を擦り寄せた。

「戦が終わったらもう少し広い場所に家を借りましょう。そこで家族を作って・・・・・・子供も五、六人くらいは欲しいですよね」

 二年前、京都西本願寺に屯所があった頃は思うことさえ許されなかった夢を語ることができる――――――その事に沖田はささやかな幸せを感じる。雪が溶け、若葉が芽吹く頃になれば戦が始まり自分の戦死するかもしれないが、官軍と幕府軍の交渉がうまく行けばこの地で生活することもできるかもしれないのだ。
 余りにも儚い願いかもしれないが、すがりつけるものがあれば生きて行ける。沖田はそんな未来への夢の尻尾を掴みつつ、眠りへと落ちていった。




 年も押し迫った十二月二十八日、幕府軍閣僚を決める第二回入れ札が行われた。前回の反省を踏まえ、参加するのは自分の意見を述べることに慣れている各部隊幹部のみ、更に十日以上の熟考期間を設けたのだが、むしろこの期間が迷いを生じさせる結果となった。
 元からの部下であれば主君に当然札を入れるのだが、その他の幹部たち――――――いわゆる『浮動票』を持っている者たちは誰に入れて良いものやら迷うことになる。更に『我が主君に一票を!』という選挙活動も活発だ。前回の選挙の際は江差遠征に行っていた土方や守衛新選組の面々もその激しすぎる選挙活動に辟易するほどだ。
 更に厄介なのは投票する役職が四つもあることだろう。一つは主君に入れるとしても、他の役職に誰を入れれば良いのか、その事に迷い混乱する者が相次いだ。

「土方さんには『俺に入れる必要はないから』って云われているけど、他の方の人となりってよく判らないんですよね」

 選挙の前日、思わず愚痴を零してしまった沖田に、安富が同意する。

「確かに。土方隊長を陸軍奉行か副総裁に入れるとしても残り三人・・・・・・正直大鳥さんくらいしか直接話したことがなくって」

「あ、俺も。あと榎本艦長くらいかな?あの人は割と気さくで下の者にもまめに声をかけてくださるだろ?海軍と陸軍の違いはあれど、海軍奉行はあの人かなぁ」

 沖田と安富の会話に相馬も加わった。その動きにつられたのか、一人、また一人と入れ札参加者が話に加わってくる。

「いや、榎本さんは総裁でしょう。他に適当な人が見当たらないですし・・・・・・あと松平太郎さんはどうですか?」

「ああ、確か幕府の御蔵から軍資金を調達してきて、官軍に襲われながらも二十両を届けたって言われているな。外国奉行支配組頭だったから各国との交渉にも強そうだ」

「あと、戦場に出陣できなくてもイライラはしなさそうですよね」

 島田のその一言に全員は『あっ』と声を上げ強く頷いた。

「土方さん、絶対に副総裁は無理だ・・・・・・と言うか、陸軍奉行も耐えられるかどうか」

「いや、少なくとも副総裁よりは戦いに出向ける機会があるかも。となると大鳥さんがはじき出されるか・・・・・・難しいですね、入れ札って」

 沖田の一言に全員が同意し、深い溜め息をついた。



 本来、誰に入れるかは個人個人で決めることであり、相談することはいけないのだろう。しかし入れ札そのものが二度目の彼らにそれは難しすぎた。否、むしろ新選組内だけで相談しているだけ他の部隊の者よりはマシであろう。
 自分たちの指導者を自分達で選ぶ――――――身分社会の中で生きてきた彼らにとって、今までの価値観を根幹から揺るがしかねない第二回目の入れ札は、土方を始め大野、相馬、森、島田、角ケ谷、安富、立川、沖田が参加し、投票をした。



 第二回目の入れ札は投票人数を絞ったこと、そして二回目ということでやり方が解っているとのことで一刻ほどで投票を終えることが出きた。そして仏蘭西人指導者らの立ち会いのもと、即座に開票が行われた。その結果は以下の通りである。


蝦夷共和国総裁
榎本釜次郎 155票
松平太郎 14票
永井玄蕃 4票
大鳥圭介 1票

蝦夷共和国副総裁
松平太郎 126票
榎本釜次郎 18票
大鳥圭介 7票
永井玄蕃 5票
荒井郁之助 4票
土方歳三 2票
柴誠一 1票


 副総裁の開票で自らの名前が呼ばれた土方はぎろり、と部下達を睨みつけたが、沖田以下全員は『自分達ではない』とふるふると首を横に振った。

「だって戦が始まったら土方さん大人しくなんてしていられないでしょ?新選組の副長ならいざ知らず、蝦夷共和国の副総裁は戦には出られませんし」

 沖田の言葉に入れ札参加組は強く頷いた。その言葉に嘘はないらしい。土方は胡散臭そうに部下を睨んだあと、入れ札の結果発表がなされている正面に視線を戻した。



海軍奉行
荒井郁之助 73票
澤太郎左衛門 14票
柴誠一 13票
甲賀源吾 9票
松岡磐吉 2票
古屋佐久左衛門 1票

陸軍奉行
大鳥圭介 89票
松平太郎 11票
土方歳三 8票
松岡四郎次郎 6票
伊庭八郎 1票
町田肇 1票


「・・・・・・これだな、てめぇら」

 陸軍奉行にきっちり八票。ほぼ間違いなく土方の目の前にいる八名が入れたものだろう。唸るような低い声で尋ねる土方に、今度は全員が苦笑いを浮かべた。否、どちらかというと親に悪戯がバレた子供のような笑みというべきか。

「大鳥さんにしようか迷ったんですよ、一応」

 言い訳をするように沖田が口を開く。その言葉に続くように他の隊士達が己の気持ちを土方にぶつけてきた。

「でも、我々にだってなけなしの意地はあります。自分達をここまで率いてくれた土方歳三にはそれだけの力があるって――――――」

「他の部隊の奴らに取られるのは少々面白くないところもあります。だけど命を預けることができるのは土方隊長だけなんですよ、俺達にとっては」

 口々に自分を慕ってくれる部下の言葉に、いつの間にか土方の口の端に笑みが滲む。そして一通り部下の訴えを聞いたのち、重々しく口を開いた。

「本当に馬鹿野郎だな、おめぇらは――――――俺は『新選組の鬼の副長』だけで充分だ」

 絞り出したその声は、心なしか湿っているように沖田には聞こえた。



 入れ札の結果を受け、最多票を得た四人によって、後日その他人事が決められた。その結果が以下になる。

総裁 榎本武揚
副総裁 松平太郎
海軍奉行 荒井郁之助
陸軍奉行 大鳥圭介
陸海裁判官 竹中重固、今井信郎
陸軍奉行並 土方歳三
箱館奉行 永井尚志
松前奉行 人見勝太郎
江差奉行 松岡四郎次郎、 小杉雅之進
開拓奉行 澤太郎左衛門
会計奉行 榎本道章、川村録四郎
海軍頭 松岡磐吉
海軍頭並 甲賀源吾、根津勢吉、小笠原賢蔵、古川節蔵、浅羽甲次郎
歩兵頭:本多幸七郎、古屋佐久左衛門
歩兵頭並:滝川充太郎、伊庭八郎、大川正次郎、松岡四郎次郎、春日左衛門、星恂太郎、天野新太郎、永井?伸斎
砲兵頭並:関広右衛門、中島三郎助
工兵頭並:吉沢勇四郎、小菅辰之助
器械頭並:宮重一之助、渋沢成一郎


 選出された幹部には得票を得ていないものもいたが、そこは『使いやすい人材』を入れ札で選出された四人が選んだからに他ならない。特に土方の『陸軍奉行並』は海軍奉行の下には無い役職だ。この点において土方は大鳥にとって絶対に必要な右腕であったのだろう。

「色々大変だけど頼むよ、土方君」

 気楽すぎる大鳥のこの一言に、土方は頷くことしかできなかった。


 入れ札の終了、そして慌ただしく迎えた新年は新たな時代を予感させた。しかし春に吹く風は時として芽吹いたばかりの新芽を凍てつかせ、枯らしてしまう。
 蝦夷共和国という新芽は果たしてこのまま成長していくのか――――――一抹の不安を残しつつ、雪深い新春は瞬く間に過ぎ去っていった。





UP DATE 2017.5.13

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お陰様で第二回入れ札も無事終了することが出来ました(≧∇≦)/
そして部下8人の悪巧み?によって『陸軍奉行 土方歳三』に八票も入ることに/(^o^)\
史実では誰が入れたのかは定かではありませんが、間違いなく部下か土方に心酔している者が投票したに違いありません(๑•̀ㅂ•́)و✧私もその場にいたら間違いなく一票投じちゃいそう(^_^;)

しかし雪深く穏やかな春は幕府軍にとって極めて短く―――――次回は一気に戦闘モード、『宮古湾沖海戦』に突入いたします(๑•̀ㅁ•́๑)✧ここから一気に進みますからねぇ(-_-;)連載終了まであともう少し、地道に頑張ります(๑•̀ㅂ•́)و✧
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