「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第十五話 蝦夷共和国の入れ札・其の参

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 ブリュネとの会話を終えたのち、沖田は小夜を連れて医務室を後にした。

「そ、総司はん?一体どこに?」

 小夜の手を引いてずんずんと進む沖田に、小夜は困惑を覚えどこに向かっているのか尋ねる。すると沖田は小夜の方を振り向き、とんでもないことを口にした。

「土方さんの居室です。私達の仲人を頼もうと」

「な、仲人?」

 全く予想もしていなかった沖田の返事に、小夜は思わず素っ頓狂な声を上げる。

「ええ。蝦夷共和国は身分に囚われない、新たな国にするという理念があるそうです。だったら私達も・・・・・・正式な夫婦になれるんじゃないかと」

「・・・・・・まつりごとと私事は違うんやと思いますけど」

 頭に血が昇っている沖田より、小夜の方がかなり冷静である。それだけ小夜は身分で苦労させられてきたのだろう。だが、そんな小夜の心配を他所に、沖田はずんずんと土方の居室へ向かい、襖の前に立った。

「土方さん、失礼します!」

 内側からの許可が無いまま沖田は襖を勢い良く開ける。するとそこには大量の書類に囲まれるように座っている土方がいた。

「総司か。どうした、夫婦揃って雁首並べて」

 いきなり押しかけてきた弟分に驚くこともなく、ちらりと見やった土方は、再び書類に視線を落とす。どうやら急ぎで提出しなければならない書類に取り組んでいるらしい。

「夫婦って言っても内縁です。その事について頼みたいことが――――――正式な夫婦になりたいので、仲人になって頂けませんでしょうか」

 飛びかからんばかりの勢いで土方に訴える沖田を、土方は再び視線を上げ、愉快そうにニヤニヤと笑って見つめた。

「何がおかしいんですか、土方さん!」

 どことなく人を小馬鹿にしたような土方の笑みに、沖田はムキになって突っかかる。しかしそんな沖田を土方は軽くあしらった。

「いや、俺もとうとう仲人を頼まれる程のジジイになったんだな、と。ま、悪い気はしねぇが」

 そう言いながら土方は重たげに腰を上げる。

「どのみち落ち着いたら、隊士達の酒の肴代わりにてめぇらの祝言でも挙げるかとは思っていたからな――――――だが『正式』な、となると話が変わってくる。内輪の祝言ならいざ知らず、『蝦夷共和国』でそれが許されるかちょいと解らねぇ。取り敢えず榎本さんと大鳥さんに尋ねるからおめぇらも付いてこい」

 その言葉に沖田と小夜は顔を見合わせ、土方に付いていった。



「大鳥さん、失礼するぜ」

 兄分と弟分はよく似るものなのか、中からの返事を待たずに土方は大鳥の部屋に入る。立場からするとかなり失礼な行為だが、大鳥は怒るどころかむしろニコニコと笑いながら開口一番こう答えた。

「沖田くん。君はそれほど声を張る人ではないと思っていたんだが、一世一代の事となると流石に違うね。こっちまではっきりと聞こえてきたよ」

 因みに大鳥の部屋は控えの間を一つ挟んでの隣同士だ。つまり控えの間を挟んでも聞こえるくらいの大声で沖田は自らの結婚を土方に訴えていたことになる――――――それを理解した瞬間、沖田は顔を真赤にする。

「済みません、大鳥さん。お騒がせして・・・・・・・」

「良いじゃないか。家庭をもつことは悪いことじゃないよ。それに君達の婚礼は他の者に比べたらまだましだし」

「まだ、マシ?それはどういうことだ大鳥さん?」

 土方は眉間にしわを寄せ、険しい表情を浮かべる。

「ほぼ一年近く戦に明け暮れていればおなごの肌が恋しくなるというものだろう、男ってものは。しかも函館で一息ついたら尚更だ――――――だけど和人の芸妓は幹部達の相手で手一杯。となるとアイヌの娘と懇意になるものが出てきてね」

 大鳥は事情を語りながら少し困ったように眉毛を下げる。

「ただの恋仲や、内縁関係だったらこちらも大目に見るんだが、中には正式な夫婦にさせてくれと言い出すものも現れているんだ。全くこちらについてひと月も経っていないというのに気が早いというか何というか・・・・・・色恋は人を盲目にさせるよね」

 そうぼやきつつ、大鳥は土方の背後に居る沖田と小夜に改めて視線を向けた。

「だからまず手始めに沖田くんとお小夜さんの祝言で、身分違いの婚礼の『既成事実』が作れれば、後が楽になると思うんだ。どのみち『蝦夷共和国』を発展させるには後に続く子孫がいなければならないしね」

「しかし大鳥さんが良くても他の幹部は・・・・・・」

「榎本くんが『諾』を出せば他の者は反対しないだろう。それにお小夜さんの仕事ぶりは誰もが認めているところだ――――――榎本く~ん!」

 大鳥は隣の部屋にいるはずの榎本に襖越しに声をかける。

「今の話、聞いていただろ?二人の婚礼を認めてもいいかな」

 すると、襖越しに榎本のよく通る声が聞こえてきた。

「ああ、俺はかまわないぜ」

 榎本は大鳥の問いかけに同意しながら襖を開け、大鳥の部屋に入ってきた。

「あと、できればまだ元服を済ませていない奴らの元服祝いもまとめて済ませちまってくれ。本土から持ってきた酒にも限度があるんで、そう何度も祝いの席をやられちまうと困るんだ。それと――――――」

 不意に榎本が真顔になる。

「官軍に捕まった少年が慰み者になっているという噂が聞こえている。それよりは一人前の武士(おとこ)として殺されたほうがマシだろう」

 その言葉に全員が深く頷いた。

「判った。じゃあ遠慮なくこいつらの祝言と市村、玉置二名の元服祝いをさせてもらうぜ」

「良ちゃんのも、ですか?」

 小夜が軽く驚きの声を上げる。ここ最近体調は安定しているとは言え、治る見込みのない病を持っている。それなのに――――――と訴えようとした小夜を土方は制した。

「どうせ死ぬなら『一人前』になって死んだほうが良いだろう。それは戦であっても病であっても。ガキとは言えあいつだって新撰組の隊士だ。覚悟ができてねぇとは言わせねぇ」

 土方の言葉に小夜は何も言い返すことが出来ず、そんな小夜の肩を沖田は支えるようにそっと手を差し伸べた。

「あと、二回目の選挙が二十八日だから、その日だけは外してくれ。それ以外だったらどの日でも構わねぇから」

「承知」

 土方は榎本に深々と一礼すると、沖田と小夜を連れて二人の前から退いた。



 翌日、土方と沖田は連れ立って平隊士らが詰めている新撰組屯所へ出向き、三日後に沖田の祝言と小姓組の元服式をやることを伝えた。

「今残っている中で一番いい酒を回してくれるとのことだ。だけどその事を他の部隊に口外するんじゃねぇぞ。でねぇと祝いの席があっても二度と酒を回してくれなくなる可能性があるからな」

 土方の言葉に、隊士たちは何時になく真剣な表情で頷く。流石に『酒を回してもらえない』という一言には堪えたらしい。

「しかし玉置の奴、体調は大丈夫なんですか?ずっと寝込んでいるようですけど」

「あ、ここ最近はだいぶ調子が良いようですよ。でも流石にこっちに来るのは難しいので五稜郭の一室を借りて行うことに」

「そもそもこの屯所で祝い事はむさ苦しすぎるだろうが。祝いの席くらいいい場所でやらせてもらうさ」

 土方の冗談とも本気とも取れる一言に皆が大笑いをする。

「じゃあ三日後、市街巡察を終えたらそのまま五稜郭へ来い。そのまま忘年会も兼ねた大宴会をするぞ!」

 翌日は新選組の巡察は休みだし、潰れるまで呑んでも構わねぇ――――――その一言に隊士たちは一斉に沸き立った。



 三日後、土方歳三仲人による沖田と小夜の祝言、そして市村鉄之助と玉置良三の元服式がごく内輪でささやかに行われた。元服祝いの二人は勿論、祝言の沖田や小夜でさえ晴れ着は無く、普段着での祝いである。
 だが、その分宴そのものの賑わいは相当なもので、一晩中飲めや歌えやの宴会は続いた。更に酒の匂いに誘われた別部隊の兵士らがいつの間にか紛れ込み、最終的には三十人ほど増えていた。
 因みに彼らは年明けに別部隊――――――陸軍隊や彰義隊―――――から新選組に移籍することになるのだが、それは余談である。





UP DATE 2017.5.6

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再びのお休みをいただき、ようやくUPできました~ε-(´∀`*)ホッ
内縁の夫婦でしか無かった沖田と小夜ですが、ようやく土方の仲人により正式な夫婦となりました(≧∇≦)/
土方&新選組内部としては『今まで医者として働いてくれていた小夜だし、平民扱いでもいいよね』的な空気があったと思います。しかし外部からそれが理解してもらえるかとなるとまた別で・・・他の部隊の兵士らがアイヌやその他の女の子にちょっかいを出していなければ一蹴されていた可能性は大いにあります。そういう意味では上陸後一ヶ月しない内に地元の女の子に手を出したろくでなしに感謝です(^_^;)(少なくとも総司たちは数年に渡って夫婦同然の暮らしをしていたし、二人共軍に貢献しているので♪)

なお祝言&元服式は諸般の事情によって極めてささやかなものとなっておりますので描写は割愛させていただきますm(_ _)m
(この状況で小夜の晴れ着はまず無理でしょうしねぇ。そうなると総司も裃を着るわけにはいきませんし・・・要は気持ちです、気持ち。あと歳の仲人ということが最大かな(^_^;))

次回更新は5/13、第二回幹部決定選挙の状況及び結果、できれば正式な夫婦となった総司たちのやり取りなども詰め込みたいと思っております(๑•̀ㅂ•́)و✧
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