「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第十四話 蝦夷共和国の入れ札・其の貳

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 投票しない者がいたり、逆に主君に当選してもらいたいからと二度も投票しようとした者がいたりとやや混乱があったものの、蝦夷共和国を作るための、初めての投票は無事終えることが出きた。そして投票が終わったら今度は開票である。不正が行われないようにとの仏蘭西人指導者の提言のもと、幹部を筆頭に手が空いている者およそ三百人ほどが見守る中、開票作業が始まった。

「榎本釜次郎、一票!次、松平太郎、一票!」

 幕府軍兵士が見守る中、大声での読み上げは続く。その読み上げる名前は予想以上に多岐にわたっていた。
 一応榎本武揚が暫定的な幕府軍総督になっているとは言え、元藩主や元幕府老中といった大名らも幕府軍には参加している。その家臣であればやはり主君に一票入れたくなるのも無理からぬ事であるし、また『陸軍派』と『海軍派』の派閥も無視できない。更に『陸軍派』には彰義隊や陸軍隊、新選組など多くの派閥があるのだ。
 それだけにかなり票が割れるのは致し方ないだろう。しかし何だかんだ言っても今までの実績により榎本、元外国奉行支配組頭の松平太郎、そして大鳥圭介に票が集まった。
 その他、元長崎海軍伝習所の総監理で若年寄まで出世した永井尚志などに票が集まったが、意外な人物にも票が入っきてていた。

「一票、土方歳三!一票、松岡四郎次郎!一票、土方歳三!」

 やはり活躍した部隊の隊長というのは憧れがあるのだろうか。一聯隊隊長である松岡四郎次郎と新選組の土方歳三が以外にも多くの得票を集めたのである。

「土方さん、あの様子だと若い連中の『得票工作』が功を奏したんじゃないですか?」

 沖田の囁きに土方も苦笑いを浮かべざるを得ない。

「全くよぇ・・・・・・どんなに頑張っても実らねぇ無駄な努力がある、てぇ事を教えるつもりだったんだが、これじゃあものの役にも立たねぇ」

 それでも得票を重ねるのはまんざらでもないらしい。耐えようとしてもどうしても溢れてしまう笑みが垣間見えた。そうこうしている内に票の読み上げは終わり、第一回目の投票結果が大広間の正面に張り出された。

榎本釜次郎 百五十六票
松平太郎 百二十票
永井玄蕃 百十六票
大鳥圭介 八十六票
松岡四郎次郎 八十二票
土方歳三 七十三票
松平越中 五十五票
春日左衛門 四十三票
関広右衛門 三十八票
牧野備後 三十五票
板倉伊賀 二十六票
小笠原佐渡 二十五票
対馬章 一票

 全体的に陸軍関係票が割れてしまった。これは派閥の関係上致し方ないだろう。また、勝手が判らなかったというのもあるのだろうが、どうしても人気投票的な色合いが出てきてしまったことも否めない。

「う~む、困ったな。本当ならば、役職選挙も全員に参加させようと思っていたんだが」

 得票結果を見た榎本があからさまに渋い表情を浮かべる。

「下の奴らはどうも指導者選びと人気投票を履き違えているようだな」

「仕方ないでしょう。そもそも入れ札で上役を決めるという概念が無いところへ投票しろ、と言われても――――――尤も自分が望む上役を、というのなら人気投票も指導者選びもそうそう変わらないんでしょうけどね」

 渋い表情の榎本とは打って変わって、こちらは何かを悟ったような笑みを浮かべる大鳥である。

「そういった意味では土方くんに七十三票も入ったことは喜ばしいことじゃないか?だって元々は百姓の息子を自分達の指導者に、ってことだろう?」

「ああ、それは言えるな」

「だが、選ばれたからと言ってそいつに能力があるとは限らねぇぜ」

 二人の会話に入ってきたのは他でもない土方だった。

「俺も部下と話をしていて気になったんだが・・・・・・上司にどんな人間を選べばいいか、全く解っちゃいねぇ。今回の役職選挙は士官以上の奴らだけでやったほうが良いんじゃねぇか、榎本さん?」

 土方の提言に、榎本も渋々頷くしか無い。

「・・・・・・君もそういう結論に達したか、土方君」

「ま、一足飛びにいかないのは仕方ないね。役職選挙は上級士官のみで行うことにしようか」

 大鳥も思うところがあったのか、次回の入れ札は幹部だけでやろうと提案した。

「そうだな。一応『総裁』『副総裁』『海軍奉行』『陸軍奉行』の四名を決めて、選ばれた人間が自分達の部下の配置を決めるということで」

「それが良さそうだな。流石にそれを全員の入れ札で、となると間違いなく混乱が予想される」

 官軍との違いを、と考えての入れ札だったが、流石に一般兵士にとっては理解の範疇の外だったのだ。こればかりは数年かけて教えていかなければならないと幹部たちは顔を見合わせ、頷いた。



「・・・・・・ということだ。だから次回の入れ札には大野、相馬、森、島田、角ケ谷、安富、立川、長島、蟻通、沖田の十名を参加させるようにとの通達を受けた」

 土方は次回行われる第二回入れ札――――――具体的な役職選挙について部下達に説明をする。本当であれば全員に参加させるべきなのだが、まだまだ彼らにとって指導者を選ぶことは難しい。なので代表者に入れ札をさせ、その他の者たちはそれを見て学習するよう、そう告げようとしたその時である。

「すみません、俺はその入れ札から外してもらえませんか?」

 真っ先にそう言い出したのは蟻通勘吾だった。

「役職に相応しい人物を選んで、というのはちょっと俺には難しすぎて・・・・・・どの役職にも土方隊長を入れてしまうと思うんです」

「実は俺も・・・・・・今回は様子を見させてもらえないでしょうか」

 蟻通に続き入れ札参加を辞退したのは長島五郎作だった。幹部候補生であってもやはり入れ札は不安な伴うらしい。それを理解しつつも土方は少し声を荒らげる。

「おいおい、若い長島が辞退する、ってぇのは理解できるが蟻通、おめぇは古参だろう?いい加減幹部の話にも入りやがれ」

 だが、頑なに拒む蟻通に無理強いはできず、土方は今回の入れ札参加者から蟻通を外した。

「じゃあ残り八名は誰に入札するか考えといてくれ。次の入れ札の日程はまだ決まっていねぇが、今年中に済ますとのことだ」

「承知」

 取り敢えずこれで一歩は踏み出せる――――――それを確認した後、集合していた新選組関係者の集会は解散となった。



 集会を終えた後、沖田は医務室に居るはずの小夜を尋ねに出向いた。遠征、そしてそれに続く入れ札と慌ただしかった日常がようやく一区切りついたのだ。帰還の挨拶さえしていないだけに沖田の足取りも自然と早くなる。
 だが沖田が医務室にたどり着いたその時、小夜には『先客』がいた。仏蘭西人指導者のジュール・ブリュネが通詞立ち会いの下、小夜と共に何やら話し込んでいるのだ。どうやら医療衛生上の問題を小夜に語っているらしい。しかし仕事の上での話とは言え、他の男と小夜が話をしているのはやはり面白くない。沖田はわざと足音を立てて三人へと近づいていった。

「あ、総司はん!お帰りなさい」

 沖田の顔を見た瞬間、嬉しそうに破顔する小夜を見て沖田の心は一瞬で晴れたが、やはりブリュネの存在は面白くない。彼を睨みつけつつ、沖田は小夜とブリュネの間に割って入った。

「ただいま、小夜。一体何の話を?」

「医療ベッド――――西洋式の寝具を増加するように、との話をしてました。ここの雑事はうちが担当させてもろうているので。あと敷布の洗濯をどないしようかと。この天気やと洗濯もんは乾かへんので、どこまで妥協できるんやろか、と」

 すると沖田の存在を怪訝に思ったのかブリュネが通詞に何か語りかけた。

「S'il y a l'Est ce qu'il ya pour vous?」

「お小夜さん、ブリュネが『そちらの方はあなたにとってどのような存在ですか?』と聞いております。何と答えたら良いでしょうか?」

 すると小夜は少し困ったような表情を浮かべた。

「内縁の夫婦・・・・・・言うてもええですか、総司はん?」

 小夜の困惑気味のその言葉に、総司ははっ、とする。

「そ、そうですよね。私たちはちゃんとした祝言も挙げていないですし」

 すると通詞は悟ったように沖田達にこう告げた。

「では『内縁の夫婦』ということで伝えておきますね。そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫ですよ。欧州でも宗教上の関係で正式な結婚が難しく、内縁の夫婦でいる方もいるそうですから」

 通詞は動揺を見せる二人に気遣いを見せつつ、ブリュネに『Ils sont un couple du bord interieur.』と告げる。するとブリュネは『Oh!』と大きな声を挙げ、沖田の手を強く握り何かをまくし立てた。

「え~っと、あなたの妻は素晴らしく・・・・・・優秀だ。しかも・・・・・・え~っと」

 あまりの早口に通詞も耳がついていかないらしい。困惑しつつも一生懸命ブリュネの言葉を聞き取り、辛うじてその役割を果たす。

「家に妻を閉じ込めておく男性が多い中・・・・・・野戦病院で、働かせる・・・・・・なかなか、できない。あなたは、勇気のある人だ・・・・・・かな?」

「ど、どうやら褒めていただいては居るようですね」

 ブリュネ本人の態度、そして通詞が訳する言葉からするとブリュネは小夜に対してやましい気持ちは一切抱いておらず、むしろ医師及び看護婦としても仕事をこなしている技術者として見ているらしい。
 それはありがたかったのだが、沖田にはどうしても心に引っかかるものがあった。

(私は小夜を・・・・・・正式な妻として紹介できない)

 たまたまブリュネは理解のある人物であったから良かったものの、そうでない外国人も居るだろう。また、正式な夫婦で無いことから小夜に言い寄る男もいるかもしれない。過去の藤堂との関係のように・・・・・・。

(ここ函館なら――――――指導者さえ自分達で決める事が可能になった函館なら、小夜との正式な結婚も許されるかもしれない)

 未だ何かを喋りまくるブリュネに愛想笑いを浮かべながら、沖田はある決断をした。




UP DATE 2017.4.22

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大変遅くなって申し訳ございません(>_<)入れ札の結果は本文のとおりになり、榎本さんが得票第一位を取りましたヽ(=´▽`=)ノ
陸軍は派閥によって得票が割れてしまいまして・・・(^_^;)大鳥さんがあまり票を伸ばせなかったのとは対照的に、歳に何故か七十票以上も入ってしまいました(^_^;)これを見ても如何に彼らにとって入れ札が難しいものだったかわかります。人間性がわからない人物には入れられませんからねぇ・・・ついつい有名人物に票が集まってしまうのも致し方がありません(>_<)
そして第二回投票ですが、新選組からは八名が参加することになりました。彼らがどんな投票をするか、それは後日改めて(*^_^*)

一方、沖田のプライベートでも動きがありそうです( ̄ー ̄)ニヤリ
ブリュネは単純に医療環境をもう少し改善してくれと小夜に訴えに来ただけでしょうが、その現場に総司が出くわし、妙なヤキモチを焼いてしまうというwwwただ、やはり『内縁の妻』という表現しか出来ないのは心苦しいのでしょうね、この件に関して次回動きがありますが・・・29日から帰省が( ;∀;)頑張って書き上げたいところですが、もしかしたら再来週にずれ込む可能性が・・・てかほぼ再来週・・・更新日時が決まりましたら『がらくた箱』にて連休スケジュールとともに報告させていただきますm(_ _)m
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