「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第十三話 蝦夷共和国の入れ札・其の壹

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 蝦夷共和国の閣僚候補として入っている――――――あまりに突飛過ぎる大鳥の言葉に、土方は訳が解らず目を白黒させた。

「い、一体どういう事だ?俺はてっきりあんたや榎本さんが中心となって組織を作っていくものだとばかり思っていたんだが」

 庶民の祭り当番ならいざ知らず、政治組織の人事を入れ札―――――――つまり選挙で決めるという概念の無い土方にとって、大鳥の言葉は青天の霹靂である。驚きに目を見開く土方に、大鳥は穏やかな笑みを浮かべながらその理由を説明した。

「その方が楽だと思うけどね。でもそれだと朝廷を中心とした官軍との差が諸外国には解りづらい。小さいながらも我々が一つの国であることを諸外国に認めさせるには、今までとは違った方法での幹部の決め方を――――――入れ札で、誰もが平等に幹部になれるという、西洋風のやりかたをしないと難しいんだ」

「なるほどね」

「尤も、初めての入れ札はどうしても自分達の元主君に入れてしまいがちになるだろう。そこで・・・・・・」

「元・百姓の子の俺に引っ掻き回してもらいてぇ、と?」

 挑むような土方の物言いに、大鳥はさも嬉しそうにぽん、と手を叩いた。

「ご明察。元々の新選組隊士は確か二十五、六は居るだろう?彼らが君に投票してくれるだけでも充分に予定調和を壊すことができる」

「なるほどね。しかし外面を整えるのも色々面倒だな」

「仕方ないさ。これしか僕達が――――――蝦夷共和国が生き残る道は無いんだから」

 大鳥のいつにない真剣な声音に、土方も思わず頷く。

「戦と違ってどこまで役に立てるか判らねぇが、新選組ともども参加させてもらうぜ」

 取り敢えず参加さえしてもらえればいい――――――そんな大鳥の言葉に気を楽にしたのか、土方は気構えもにせずに参加を表明した。だが、この決断が身内の大騒動へと発展する事となる。



「入れ札で閣僚を決定する、ですって?」

 土方から話を聞いた新選組の面々は驚きの表情を露わにした。それもそうだろう、『人事は上層部が決めるもの』と思っていたのに、いきなりその決定権が自分達に下りてきたのだ。凱旋祝いの酔もいっぺんに冷めてしまい、中には顔を真っ青にするものまで現れる。そんな驚き、慌てふためく部下達に、土方は『そんなに気負う必要はねぇぞ』と笑いだした。

「俺達には馴染みがねぇ方法だが、西欧諸国はこの方法で自分達の主君を決めているらしい。で、昼飯を食ったら早速午後にも投票が行われるらしいが」

「そんな急にですか・・・・・・入れ札ですから、主君になってもらいたい人の名前を書けば良いんですかね」

 不安げな表情を浮かべる部下達だったが、土方はそれさえも笑い飛ばす。

「取り敢えず『場を引っ掻き回せ』と大鳥さんに言付かってる。百姓の息子の名前が上がるだけでも脅威だからな。今回は入れ札の練習がてら閣僚候補の絞込、細かな人事は後日改めて入れ札で決めるとのことだ。適当に知っている名前を書いて放り込んでおきゃあいいんだよ」

 とにかく今回は入れ札という方法に慣れれば良いんだから――――――そう言う土方だったが、そんな土方の気遣いを一番の古参隊士がひっくり返した。

「つまり今回沢山票を集めれば、土方さんも閣僚に入れるってことですよね?」

 沖田の一言に、新選組隊士全員がざわつき出す。

「本当に、こんな簡単な方法で閣僚に入り込めるのか?だったら土方隊長を推すしかねぇだろ。他のお偉いさんなんてどんな輩か解ったもんじゃねぇし」

「だよな。どのみち沢山票を集めるのは悪いことじゃねぇだろう」

「俺、新参の奴らにも声をかけてきます!蝦夷に元の主君が来ていなけりゃ、土方隊長に票を入れてくれる奴もいるかも」

「俺も彰義隊の奴らに声をかけてくる!」

「じゃあ俺は額兵隊に!星さんなら絶対に土方隊長に入れてくれると思わねぇか?」

「確かに!星さんから額兵隊を説得してもらえればかなりの票が入るぞ!」

 そう口走るや否や、半分以上の隊士たちは土方が止める間もなくその場から走り出した。

「まったく・・・・・・何考えているんだか、あいつらは」

 部下達の思わぬ暴走ぶりに土方は頭を抱える。そんな土方を横目で見ながら沖田は小声でつぶやいた。

「部下は上司に似るんですよ。特に憧れの強い部下は・・・・・・じゃあ土方さん、もし近藤さんが今の土方さんと同じ立場だったとしたらどうしますか?」

「そりゃあ近藤さんを頭に押し上げるために、使えるだけの人間を使って票集めの算段をだな・・・・・・あ!」

「でしょう?皆だって同じなんですよ」

「そういうオメェは飛び出していかねぇな」

 土方は沖田を睨みつけながら低い声で唸る。だがそんな脅迫などどこ吹く風、沖田はヘラヘラ笑いながら、遠くで他の兵士らを説得している仲間を見つめた。

「私は土方さんに憧れているわけではありませんし、既に票集めは他に部隊もやっているような気がするんですよね。ここは大鳥さんの仰るように我々だけで引っ掻き回すだけでも良いんじゃないかと・・・・・・迂闊に閣僚になったら面倒な仕事がますます増えますよ」

「・・・・・・だな。もう少し状況を見極める時間が必要か」

「ええ。そもそも我々は遠征に出ていたんですから、他の候補者と同じように戦う事自体無理があります」

 多分投票が始まるまで一刻あるかないかだろう。本気で勝ちを取りに行くには時間があまりにもなさすぎる。それ故土方も沖田も傍観を決め込むつもりであるが、若い部下達は妥協をするつもりはないらしい。

「ま、盲目的な努力が無駄になる経験もさせておくのも悪くねぇか。やるんなら徹底した状況分析が必要だってことを叩き込むには良いかもな」

「ええ、確かに。しかもそれが武器を使う戦場でないことはありがたいです」

 そんな話をしていると、大鳥の部下が土方を呼びに来た。どうやら入れ札が始まるらしい。土方は沖田と鉄之介だけを連れ、大鳥の部下の後についていった。



 土方らが大広間に入ったとき、既に半分ほどが埋まっていた。大広間前方には指導役の仏蘭西人らと通訳がおり、彼らの前には大きな箱が置かれている。その中へ兵士達は次々に自らが記入した札を入れ、終わったものから次々に部屋から退出していた。

「本当に全員が入れ札に参加するんだな」

 ようやく前方へたどり着いた土方が、仏蘭西人の隣りにいた大鳥に声をかける。

「ああ、勿論だ。しかし中には投票を拒否するものもいて困っているんだ」

「入れ札の拒否、ですか?」

 沖田が怪訝そうに尋ねる。

「ああ。主君筋に当たる人が参加しないから、とか武士は二君に仕えずとか言い出して。あと訳も解らぬものに参加して後々責任を負いたくない、というのもあるらしいんだ。幾ら無記名だからと言っても納得してくれなくて」

「根っからの武士は気難しくていけねぇな」

 そう言いつつ、土方はサラサラと一筆をしたため、箱の中へ一票を投じた。それを横目で見た沖田は、少々納得しかねるといった表情を浮かべつつも自らも一票を投じる。

「じゃあ俺は他の奴らも投票するように言ってくるわ」

「頼んだよ」

 大鳥は笑顔を向け、三人を送り出した。

「・・・・・・土方さん、大鳥さんに入れたでしょう」

 大広間から離れてしばらくした後、沖田が咎めるように土方に尋ねる。

「それがどうした?」

「他の隊士には絶対に言えないじゃないですか。皆頑張って土方さんに票を集めようとしているのに」

「何言ってやがる。入れ札、ってぇのは人気番付と違うんだぜ?誰を閣僚にしたらよりよい仕事ができるか、そういう人物に入れるのが当然だろうが――――――って、そうか」

「土方隊長・・・・・・どないしたんですか?」

 何かに気づいたような土方に鉄之助は何事かと尋ねるが、それには答えず土方はやや興奮した口調で喋りだす。

「おめぇらみたいな考えの奴も少なからずいるから、今回は具体的な役職は出さす、人員の絞込だけにしたんだろうな。なるほど、榎本さんや大鳥さん、仏蘭西人の奴らも考えたもんだ」

 独り合点をしつつ頷く土方に、沖田と鉄之助はついていけず、思わず顔を見合わせた。




UP DATE 2017.4.15

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大変お待たせいたしました、2週間ぶりの夏虫、今回からは蝦夷共和国で初めて行われた選挙になります(●´ω`●)
明治新政府との違いをはっきりさせ、諸外国に蝦夷共和国を認めさせるために取った『選挙でのリーダー決め』という方法、外国留学経験のある上層部はともかく、下の者ほど理解しがたい制度だったと思います。現代でさえ『何かを自分の責任で決める』ことを忌避するする人が居るくらいです、幕末当時は更にその抵抗感が大きかったでしょう。この話を書くにあたり、全投票数を計算したのですが、1500人近くいたはずの幕府軍なのに投票数は800人ちょい・・・幹部だけの投票とするには多すぎる票数ですが、全員分では無かったのです。きっと『決められない』『決めるのが怖い』といった兵士たちも少なからずいたのでしょう。
そんな投票率50%ちょいほどの絞込選挙の結果は4/22の更新にて発表させていただきます(๑•̀ㅂ•́)و✧
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