「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第十ニ話 江差哀歌・其の肆

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 土方や榎本が沈みゆく開陽を見守っていたその頃、松岡四郎次郎が率いる一聯隊は熊石に到着した。しかし松前藩主はごく身近な君臣男女六十余名と共に弘前へ逃亡した後であり、松前藩氏三百人が残されていた。勿論取り残されてしまった兵士の戦意は喪失しており、戦うこともなく一聯隊に投降する。これにより蝦夷地平定は一区切りとされた。



 一聯隊と江差で合流した後、幕府軍は函館への帰還を始めたが、まず向かうのは松前である。何せ三百名もの松前藩士が投降したのだ。彼らを五稜郭に送り込むため稼働できる『回天』に乗せてしまうと沈没した開陽や神速丸所属の兵士は乗せきれない。それ故、一旦松前まで出て、そこから海軍の兵士は船に乗り込もうというのである。

「歩いて帰ったほうが早いんじゃないか?少なくとも地べたを歩いてりゃ座礁も沈没もしねぇだろ、榎本さん」

 土方の言葉に、榎本は露骨に嫌そうな表情を浮かべる。

「歩いて?冗談じゃない!こんな起伏の激しい雪道、海軍は間違いなく陸軍の足手まといになるだろうが。ただでさえ大事な軍艦を沈めちまって全員落ち込んでいるっていうのに――――――それに俺達は足元が揺れていないと落ち着かない」

「どんな性分だよ、まったく」

「それが船乗りってもんだ。ただ今回ばかりは二隻もの軍艦をダメにしちまったんで、その罰を兼ねての松前までの雪道行軍だな。如何に軍艦が有り難いものかを俺達が知るには必要だろう」

 例え罰であろうとも、松前からは『回天』で戻る気らしい。その意地の張り方が面白かったのか、土方は更に榎本をからかう。

「罰だったら函館まで歩けよ、榎本さん。ここから松前よかよっぽど楽だぜ」

「陸軍の奴らの『楽』ほど信じられねぇものは無い。一体どんだけ大鳥さんには騙されたことか・・・・・・」

 幹部筆頭の二人はそんな戯言を交わしながら雪道を進む。ともすれば沈みがちになる部隊の雰囲気を幹部は馬鹿話で吹き飛ばそうと彼らなりの努力していたのだろうが焼け石に水、群全体は沈鬱な雰囲気のまま行軍はのろのろと進んでいった。



 江差での開陽・神速丸沈没の知らせは、松前軍捕虜を一足先に函館へ連れ帰った回天によって五稜郭の大鳥に知らされた。

「う~ん、二隻が一気に使えなくなったか。榎本さんも相当落ち込んでいるんだろうな。真っ先に帰ってくりゃ良いものを、わざわざ捕虜を先にこっちへ運ばせるなんて」

 報告を受けた大鳥は何とも言えない苦笑いを浮かべる。きっと挫けてしまった心を癒やす時間が欲しかったのだろう――――――大鳥はそう感じた。

「でも流石に松前からは乗ってくるんだろ、榎本さんは?」

 大鳥は目の前にいる『回天』からの使者に尋ねる。

「その予定ではありますが・・・・・・我々は榎本艦長の予定は一切聞いておりませんので」

 困惑の表情を浮かべる使者に、『たぶん帰ってくるよ』と笑顔を向けると大鳥は小さな声で呟いた。

「それまでは土方くんに慰めてもらうのが一番かな。同じ江戸の出身だし、ガラの悪い江戸弁で愚痴でも言い放っていれば少しは気が晴れるだろうし」

 流石に海軍の長ともなれば迂闊な相手に愚痴をこぼすのも難しくなるだろう。その点土方は江戸出身であるし、多少の――――――もとい、かなりガラの悪い言葉が飛び交っても受けてくれるだろう。『愛艦』を失った榎本にはその時間が必要だ。

「となると、皆が帰ってくるのは十二月十五日すぎか・・・・・・それに合わせて『あれ』をやるかな」

 大鳥は使者を下がらせた後、榎本が提唱した理想郷――――――『蝦夷共和国』に向けての第一歩を踏み出す為の準備に取り掛かり始めた。



 土方隊が松前藩に勝利した知らせは、勿論函館に残されていた新選組関係者に逐一報告されていた。だが、ようやく帰還のめどがたった知らせが小夜たちのもとに届いたのは大鳥が報告を受けた翌日だった。

「良ちゃん、土方はんの部隊が十五日に帰ってきはるんやて」

 小夜の弾むようなその言葉に、横たわっていた玉置良三が上体を起こす。長旅の疲れからか五稜郭に到着した途端寝込んでしまった玉置だが、ここへきてようやく上体を起こせるまで回復していた。

「本当ですか?どんな戦いだったのか、詳しく話が聞きたいなぁ」

 やはり仲間の戦いぶりが気になるのだろう。目を輝かせながら小夜に尋ねる。

「そんなこと言うてると大変なことになりますえ?守衛新選組で参加してはる方は意外と饒舌やし」

 冗談半分、本気半分の小夜の言葉に玉置は思わず笑ってしまったが、その直後にむせて咳き込んでしまった。

「大丈夫?」

 なかなか止まらない咳に、小夜が心配そうに背中をさする。

「す、すみません・・・・・・ゴホッ、一度咳き込んでしまうと・・・・・・なかなか」

 ゴホゴホと咳き込みながらも、玉置は呼吸を整えようと必死になる。

「病が病やからそれは仕方あらへんね。せやけど皆が帰ってくる前に少しは体調を整えておかんと、うち以上に笑わせられますえ?笑い死にしとうなかったら・・・・・・」

「そんな脅しは止めてください!あの面子なら本当の話になりかねません!」

 咳き込みながらも玉置は首を横にふる。その様子は意外と元気そうだ。

(これならば、夏までもってくれるかもしれへんな)

 雪で閉ざされ、軍隊が動くには向かない季節だが、病人が療養するには余計な事に煩わされず良い季節かもしれない。再び横たわった玉置に無理は禁物とひと声かけ、小夜は部屋から立ち去った。



 軍艦二隻を失うという損害を出しながらも松前・江差侵攻は成功した。その功績を祝福し、凱旋はかなり盛大に行われることとなった。先に函館入りしていた海軍によって、祝砲百発が台場から撃たれ、満船五色の旗章が翻る中、堂々の函館入りだ。更に夜になると祝賀の宴があるとのことで、函館の町人達が既に花燈を店先に飾っている。それらを眺めつつ五稜郭入りした土方は、休む間もなく大鳥のところへ挨拶に向かった。

「おかえり、土方君。かなりの成果だったね」

 土方の顔を見るなり、大鳥が満面の笑みを浮かべる。その笑顔を見て土方もようやく帰還した実感が湧いてきた。

「ああ。星が俺の予想以上の働きをしてくれて助かった。できればこれから軍内で重用してもらいたいんだが・・・・・・」

「ああ、その件だが、ちょっと待っていて欲しい。これから入れ札をして各自の所属を決めてから報奨とかその他諸々を決める予定なんだ。今回の報奨を決めるのは『蝦夷共和国』の閣僚選出を終えてから――――――あ、勿論土方君にも閣僚候補として今回の入れ札に参加してもらうからそのつもりでいて欲しい」

 閣僚候補――――――あまりに突飛過ぎる大鳥の言葉に、土方は訳が解らず目を白黒させた。



UP DATE 2017.4.1

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松前・江差侵攻はこれにて終了となります(*´ω`*)慣れない蝦夷という土地、そして本州では考えられない雪の中の行軍とかなり大変だった中、勢いのみで突き進み勝利をもぎ取ったように思えます。しかしその代償は軍艦二隻―――――ーその内の一隻は旗艦・開陽という大きなものでした(´・ω・`)しかも本当であれば必要でない出陣で・・・これはかなり榎本さん落ち込んだんじゃないでしょうか。
なので拙作では役職が役職なので本当ならば真っ先に『回天』に乗って五稜郭に帰還しなければならないはずなのに、なかなか五稜郭に戻りません。土方と馬鹿話に興じてうだうだと帰ってこない様はテストで悪い点を取ってなかなか家に帰ってこない子供と同じようなものだと思っていただければ(^_^;)

しかしいつまでも落ち込んでばかりはいられません。函館に帰還した直後、彼らに待っていたのは『蝦夷共和国』設立のための組閣人事――――閣僚選びと相成ります。本当の意味での民主主義にはだいぶ遠いのでしょうが、組織トップを選ぶのに選挙という方法を使う、それだけでも彼らにとっては一大事だったんじゃないかと。その詳細は次回から書かせていただきますが、次回更新は旅行のため、一週間空けまして4/15の予定です。誠に申し訳ないのですがご了承くださいませm(_ _)m
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