「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第十話 江差哀歌・其の貳

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 大滝山の戦いを圧倒的な勝利で終え、土方隊は逃げていった松前藩兵を追うように江差へと向かった。

「海軍は完全に先に行ってしまったみたいですね」

 左手に広がる鉛色の海を眺めながら沖田が呟く。その視線の先には遠く開陽と神速丸が蒸気をもくもくと上げ進んでいた。明らかに陸軍を置き去りに江差へと向かっている速さだ。

「青森に出向いた回天と幡龍も後を追いかけてくるんでしょうか」

 島田も土方と沖田の会話に入ってくる。

「多分どちらか一方だけだろう。少なくとも一方は青森の反応を五稜郭に伝えなきゃならねぇだろうし。っていうか別に両方来なくても何ら問題はねぇんだけど」

「ですよね。大滝山も海軍の援軍無しで片付けちゃいましたし」

 沖田の一言に土方は少し押し黙り、ぽつりと呟いた。

「もしかしたら江差は海軍が先に攻撃している可能性があるかもしれねぇな」

「まさか!」

 その場に居た全員が笑い出すが、土方だけは真顔のままだった。

「だが、榎本さんも奴らを抑えきれていねぇようだし、その可能性はあるだろう。もしかしたら俺達が江差に付いた時には方がついているかも知れねぇぜ」

 冗談半分の土方の言葉だったが、それがまさか現実のものになるとは思いもしなかった。



 土方軍が江差に到着した時、いるはずの松前藩兵の姿はどこにも見当たらなかった。あたりは静かな漁村であり、ひっそりとしている。この地域独特の家は細長く、一端は海に面しておりそこから漁船が出入りするようである。
 そんな漁村に入り込んだ土方らを子供らが恐る恐る見つめている。それに気がついた土方は鉄之助に耳打ちする。

「承知!」

 土方の名を受けた鉄之助は頷くと、こちらを伺っている子供らの方へと走っていった。

「もしかして鉄くんに状況を聞き出してこい、と?」

 現地の子供らの方へ走ってゆく鉄之助の背中を見送りながら、沖田が土方に尋ねる。

「まぁな。少なくともこの部隊の中ではあいつが一番警戒心を抱かれないだろう。お国言葉でどこまで通じるかは定かじゃねぇが」

 そんな会話をしている内に鉄之助が帰ってきた。

「松前藩兵は朝の内にいなくなってしもうたとのことです。何せ海からの大砲がうるさくてうるさくてって・・・・・・本当に勘弁してほしいってみんなも愚痴っていたって言うてました。っていうか・・・・・・」

 鉄之助は振り返りある場所を指差した。

「砲弾で一部の家屋が壊れてしもうたって。色々尻拭いが大変そうですよ」

 鉄之助のその一言に、部隊から何とも微妙な苦笑いが沸き起こる。

「よっぽど鬱憤が溜まっていたんでしょうな、海軍は」

 土方に近づいてきた星がくすりと笑いつつ土方に声をかけた。

「確かに今までは陸軍が手柄を取ってきたからな。先回りできるのをこれ幸いと江差で砲弾を打ちまくったんだろ。榎本さんもきっとぼやいているだろうよ」

 そして土方は全体に命令を下した。

「各部隊手分けして村の被害状況を調べ上げろ。俺は庄屋に詫びを入れてくる」

「・・・・・・と言いつつ、食料も分けてもらうつもりでしょう」

 誰にも聞こえないような小声で呟いたつもりの沖田だったが、土方はそれは聞き逃さなかった。

「当たり前じゃねぇか。こんだけ大食いの野郎どもを抱えているんだ。松前でだいぶ調達できているとは言え」

 確かにそのとおりである。これから先熊石まで松前軍を追いかける予定だし、食料は僅かづつであっても現地で調達しないと、五百名もの兵士らの胃袋を支えられない。

「ま、無理だったら榎本さんに一旦五稜郭まで引き返してもらって、何かしらの食料を持ってきてもらうさ」

 アレだけ大きな軍艦ならそれも可能妥当と土方は口にしたが、それは意外な人物に止められることとなる。



「食料は出来る限りの事をいたしましょう。しかし今日はあの船を動かすのは絶対に止めておいたほうがいい」

 挨拶がてら幕府軍の状況及び食料の提供を頼んできた土方に、江差の庄屋が眉間にしわを寄せつつ進言した。

「今夜はタバ風が・・・・・・かなりひどい嵐がやってくるでしょう。そんな中動くのは危険です。あの大きな船は安全な場所に停泊させて、タバ風が収まるのを待つべきです」

 蝦夷の訛のため半分くらいしか意味は取れなかったが、とにかく動き回るのだけは止めたほうが良いと言うのだけは理解できる。そして庄屋の表情からも、やってくる嵐が極めて危険だということも――――――。これは無視することは出来ないと、土方の勘が訴える。

「なるほど――――――承知した。食料に関しては甘えさせてもらおう。干し魚か何かあればありがたいが」

 松前で米や味噌はある程度の調達をしているので、おかずになるものがあれば助かると土方は告げる。漁村では野菜のほうが貴重品だ。それは流石にもらうわけには行かないだろう。

「ニシンでよろしければ」

「ありがたい。京都じゃニシンの昆布巻きをよく食べたもんだ」

 土方が懐かしそうに目を細める。

「そう言えばニシンを食べるようになったのは上洛してからですよね」

 元々豊かな魚資源がある江戸ではニシンはあまり重宝されていない。しかし四方を山に囲まれた京都ではしめ鯖や身欠きニシンなど保存が効く魚しか海の魚は手に入らなかったのだ。それ故、土方や沖田も上洛してからニシンは食べるようになったクチである。

「そうだな。たまに安いニシンが入って生きた時は賄所のやつらが大量に買い込んで辟易したが」

 そして改めて庄屋に頼む。

「明日にはここを出立する。だから一日の宿と身欠きニシンを少しばかり分けて欲しい」

「勿論です。宿は既にもぬけの殻になっている桧山奉行所と順正寺をお使いいただけたら宜しいかと」

 あそこなら幕府軍の兵士全部収まりますよと、庄屋は笑顔で答えた。



 夕方から海は荒れる――――――予言じみた庄屋の言葉は当たってしまった。日が暮れる頃になり風は激しくなり雪も降り始めてきた。沖に停泊している開陽も神速丸もまるで木の葉のように波に翻弄されている。

「ありゃまずいな」

 土方は奉行所の門にある松の傍らで翻弄されている船を見つめていた。時折蒸気を蒸す音が聞こえてくるから、流されないよう使える動力をすべて使っているのだろう。錨をおろしているからまだ何とかなっているが錨の鎖が切れたら瞬く間に何処かに流されかねない。

「土方さん、漁師たちに助けを求めたほうが」

「いや。ここで出ていったらますます被害がでかくなる。万が一の時の救援は頼むが、流石にいま出ていくことは出来ねぇだろう」

 不安はあるが、まだ軍艦は無事だ。このまま嵐をやり過ごしてくれれば――――――だが土方の願いはあっけなく潰える。夜も更けてきた頃、風雨の音を切り裂き激しい衝撃音が江差の村に響いたのである。その音に土方隊の兵士らは勿論、江差の漁民らも驚き、闇が広がる海を見つめるが、伸ばした指先さえ見えなくなるような闇の中では何が起こっているかまるでわからない。

「一体何が起こっているんだ――――――畜生!判らねぇ!!」

 だが、今にも消えそうな松明の灯りでは、海の様子までは見渡すことが出来ず、ただ不吉な闇が広がっているだけだった。





UP DATE 2017.3.18

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辛うじてUPできました『江差哀歌・其の貳』ですが、もしかしたらあとで手直しを入れるかもしれません(>_<)なんか片頭痛がひどくて集中できず、やらかしている感が・・・何かお気づきの点があればご指摘、大歓迎です(*´ω`*)

ようやく江差にたどり着いた土方軍ですが、先に海軍が江差の松前軍に攻撃を仕掛けてしまい追い出してしまったようです(-_-;)よっぽど鬱憤が溜まっていたのでしょう。しかしその後に残されたのは海軍の砲撃によって壊されてしまったニシン小屋の修繕(^_^;)陸軍は体のいい尻拭いです/(^o^)\
しかしそれだけならまだしも、今度は大きな嵐に襲われてしまい・・・相当な田舎に行かないと判りにくいかと思いますが、照明がない夜って本当に何も見えない(>_<)一応『伸ばした指先が見えない』とやんわりした表現にしておきましたが、それもあくまでも松明を付けていてのこと。そうじゃなければ目の前に誰かが立っていても顔さえわからないでしょう。そんな中で起こってしまった海での出来事。あの大きな音の正体は一体何なのか?次回3/25をお待ちくださいませm(_ _)m
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