「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第九話 江差哀歌・其の壹

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 松前藩主夫人及び従者達を乗船させ、幕府軍の嘆願書を携えた回天、幡龍を青森総督府へ送り出した後、土方軍は江差に向けて進軍を開始した。松前攻撃から既に六日、松前藩主率いる松前軍は江差、またはその先の乙部や熊石まで逃げているかもしれない。
 だが、『松前軍を壊滅さえなければ』という気概は土方軍には無かった。むしろ無駄な戦闘を極力避け、松前藩主にはさっさと蝦夷から逃げ出してもらいたい――――――それが本音だ。
 榎本が官軍に『共和国として認めてくれ』という嘆願書を提出してはいるが、それを『はい、そうですか』と官軍が受け入れるとは到底思えない。ほぼ間違いなく雪解けと共に戦闘が始まるであろう。それまで出来る限り兵力は温存しておきたい――――――それが土方の本音であった。
 だが、本音と建前は別物である。幕府軍の『建前』として松前軍を追いかける土方軍は大滝山近くの小砂子村に土方隊は宿陣した。そして到着するなり更なる斥候を放ち、詳細を偵察させる。

「しかし、今回はかなりぞろぞろとやってきたんですね、海軍は」

 鉛色の空に、遠く聞こえる開陽の汽笛を聞きながら沖田が土方に語りかける。

「ああ、今は青森に向かっている回天と幡龍、そして開陽に迅速丸――――――ちょっと多すぎだよな。榎本さんも部下を押さえつけるのに相当苦労しているらしい」

「判る気がします。陸軍だって色々大変なのに・・・・・・・」

「特に海の男は気性が激しいですからね」

 守衛新選組の雑談にも花が咲く。だが土方には一つだけ心配なことがあった。

「榎本さんが言っていたんだが、江差の辺りは意外と暗礁が多いらしい。というか、軍艦が接岸できる港自体日本にゃ殆ど無ぇとのことだが」

 土方の不吉な一言に、昔からの部下達は厳しい表情を浮かべる。

「確かに軍艦が接岸できるとなると神戸や函館くらいですよね。横浜や品川、難波でも艀を使って行ったり来たりしていましたし」

「斥候の報告でもあったな。小さな漁船なら停泊できるが流石に軍艦は難しいって・・・・・・」

 土方が言いかけた、まさにその時である。

「松前軍が大滝山にて布陣!山の中腹にて大砲を構え待ち伏せております!」

 若い斥候の、鋭い声が穏やかな仲間同士の会話を切り裂いた。



 飛び込んできた斥候の叫びに、部屋中に緊張が走る。だが、そんな空気などお構いなく斥候は更なる報告を続けた。

「街道の右手に大滝山、左手はすぐ海になってます。四、五丁ほどの道幅はあるのですがかなり曲がりくねっていて、その死角を利用する形で大砲が用意されておりました」

「人数は?」

「百人から百五十人ほど。もしかしたら歩兵が隠れているかもしれませんが二百人は超えないものと思われます」

「なるほどな――――――鉄、星さんを呼んできてくれ!」

 土方の命令に鉄之助は素早く動き額兵隊の星を呼び出した。

「何でしょうか、土方さん」

 いきなり呼び出された割には、妙に嬉しそうに星が尋ねる。人間同士の『相性』というものがあるならば、土方と星は正にそれなのだろう。並の人間にとってとんでもない命令であっても、星にとってはやりがいのある楽しみでしか無いのかもしれない。

「大滝山への攻撃だ。多分本隊は既に江差へと向かっているようだが、一部の砲撃隊が大滝山中腹で待ち構えているらしい」

「確かに山の上からのほうが有利ですしね。しかし中腹とは・・・・・・砲撃距離の関係でしょうか?」

 高く登りすぎても砲撃距離が稼げなければ意味がない。きっと松前軍の大砲は大滝山中腹で一番その性能を発揮するのだろう。

「多分な。そこで額兵隊には迂回路から大滝山へ登ってもらい、山頂から松前軍攻撃をしてもらう。額兵隊だけで充分だよな?」

「ええ、勿論です。むしろ他の部隊が入ると動きにばらつきが出てしまいそうです」

 星はまるで子供のような無邪気な笑みを浮かべた。松前城の時は額兵隊が正面からの攻撃だったが、今回の相手は本格的な砲兵隊だ。流石にある程度の大きさの迂回部隊が必要となってくるし、司令系統がきっちり確立していない混成部隊での迂回は危険すぎる。そういった意味でも額兵隊は手頃な大きさだった。

「本当に頼りにしっぱなしで申し訳ねぇ」

「いえいえ。私としてはむしろ素早い判断で矢継ぎ早に支持を出してくれる上役のほうがありがたいですね。何せ今までの上役はまぁだらだら会議ばかりが長くて」

 おどけた星の物言いに、土方を始め守衛新選組の皆は思わず吹き出してしまった。



 翌朝、まだ夜が明け切らぬ内に星率いる額兵隊は大砲を携え大滝山山頂への迂回路を進み始めた。

「なるほど。敵は中腹にいますね」

 沖田が目を細めながら大滝山を指し示す。朝日を背にしている大滝山だったが、影の中に明らかに異質なものが見え隠れしている。

「俺達は暫くの間あいつらの気を引いておく。額兵隊がどれくらいで山頂まで到達するか判らねぇが、出来るだけ粘れよ」

「それにしても険しい山ですね」

 島田の一言に沖田も頷く。これだけの急峻を大砲を引きずりつつ迂回して登らねばならないのだ。

「新選組並にこき使われていますよねぇ、額兵隊」

「いや、額兵隊というより星さんが土方隊長に良いように使われていると言ったほうが」

「星はん、ほんまにお人好し言うか隊長の言葉を素直に聞きすぎる言うか・・・・・・あんなよう働いてくれる御方を使いこなせなかったなんて、今までの上役は何やったんでしょうか」

「文字通りの『適材適所』なんでしょう。普通の人だったら土方さんの人使いの荒さに既に音を上げています」

 土方の背後で気楽な会話をしている守衛新選組の面々だったが、それにはれっきとした理由がある。松前軍の大砲の射程距離のギリギリ外側――――――幕府軍はそこに陣を張っていたのだ。そこから数尺でも前に進んでしまえば確実に砲弾や銃弾が飛んで来るだろう。だが土方はその絶妙な距離を保ったまま先へ進もうとはしなかった。
勿論何もしないわけではない。一応砲撃や銃撃をしつつ、松前軍を山から引きずり降ろそうとする『演技』だけは見せている。

「そろそろお昼も近くなってきましたねぇ。お腹減ってきませんか?」

「いい加減額兵隊も山頂に着くでしょう。お昼はもう少し我慢ということで・・・・・・」

 立川がそう言いかけたまさにその時である。


どぉぉぉぉん!!!!!


飛び交っていた砲撃音や銃撃音とは明らかに違う砲撃音が周辺に響き、山頂から松前軍へ砲弾が降り注ぎ始めたのである。

「ようやく主役のご登場かい」

 にやりと笑いながら土方が山頂を見つめる。そこには刀を振りかざした男と、幾つもの大砲が並んでいた。そして男が刀を振りかざすと陽光が刀に反射して煌めき、大砲が更に砲撃を始める。

「キラキラ光っているのは星さんですかね」

「だろうな。大変な思いをしてあそこまで大砲を運んでもらったんだ。アレくらい目立ってもらわねぇと」

「・・・・・・報奨金、弾んであげてくださいよ。でないと働き損です」

「解ってるって」

 砲撃は更に激しさを増し、松前軍は大砲を残したままその場から逃げ去ってゆく。

「全員が揃って江差の方向に向かっているというのは、やはりあっちに本隊が逃げているんだろう」

 敗走者の背中を見つめつつ土方は呟いた。




UP DATE 2017.3.11

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スミマセン、だいぶ遅くなりました(>_<)今松前侵攻を無事終えた土方軍は、松前軍を追いかけ江差へと向かいます(๑•̀ㅂ•́)و✧
とはいえ、慣れない雪道に初めての土地・・・かなり苦労しているようです、星さんがwww
書きながら資料を漁っているのですが、まぁ額兵隊がこき使われるこき使われる/(^o^)\峻険と云われる大滝山に大砲持って迂回し、山頂から松前軍攻撃って・・・それまで上司の言うことを聞かなかったヤンチャとは到底思えないのですが(-_-;)
これも上司と部下の相性なんでしょうかねぇ・・・人使いの荒い土方&社畜・星、このタッグに凶器を持たせては絶対に行けません(^_^;)

次回更新は3/18、ようやく江差へたどり着き、開陽と合流いたします(๑•̀ㅂ•́)و✧
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