「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第七話 松前侵攻・其の参

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 十一月五日早朝、やや小降りになった雪の中に松前城が幕府軍の前に浮かび上がった。西洋様式の五稜郭と違い、松前城はどこまでも日本的だ。普通であればその美しさに見惚れてしまうところだろう。しかし今、幕府軍はこの美しい松前城に攻撃を仕掛けようとしていた。

「額兵隊、砲撃開始!打て!!!!!」

 星恂太郎のよく通る声と共に、耳を劈く砲撃音が松前城下に響き渡る。雪によってだいぶ音は吸い取られてはいるが、それでも耳を塞がねば鼓膜が破れるほどの大音響だ。

「陸軍隊!新選組!俺に続け!」

 前日の内に松前城裏に潜伏していた土方が、砲撃音と同時に出陣命令を下す。その命令と共に守衛新選組と陸軍隊は一気に守りの薄い裏門からの突入を果たした。

「思ったよりあっさり突入できましたね、土方隊長!」

 島田の嬉しそうな声が響くが、土方の表情は固いままだ。

「気を緩めるな、島田!どこに敵が隠れているか判らねぇぞ!」

 だが、土方の喝とは裏腹に隠れている兵士は裏側には殆ど居なかった。

「やけに少ないですね。まるで既に逃走をしてしまった後の城のようです」

 この少なさは余りにも異常だ――――――沖田は違和感を覚え、土方に近付き声をかける。

「ああ。正面の攻撃に気を取られているにしても少なすぎる――――――半数以上は既にこの城から脱出しているのかもしれねぇ」

 警戒心を解かぬまま周囲を見回しつつも、松前城にはそれほど兵士は残っていないと土方は判断した。

「土方隊長、搦手門が破られ、額兵隊が入城しました!」

 内部偵察に出向いていた沢が土方に報告する。これで勝敗はほぼ確定だろう。あとは星が率いる額兵隊らによる制圧を待つだけだ。

「もうそろそろ落城、ってところか。じゃあ正面はあいつらに任せて俺達は中にどれだけの人間が残っているか偵察だ、陸軍隊!数名ずつの組に分かれて奥向き周辺の調査を!」

 と、土方が命令したその時である。土方の命令に真っ向から異を唱えるものが出てきたのである。

「土方殿、我らを愚弄するおつもりか?女子供が集まっていそうな奥向きの調査とは!」

 その声の主は春日左衛門だった。どうやら奥向きの調査を任されたことにより、自分が力量不足だと言われたと思ったらしい。
 そんな春日を、土方は僅かばかり目を細めながら睨みつける。その険悪極まりない視線を見た瞬間、守衛新選組全員の表情が強張った。

(沖田はん、あの目はあかんでしょ)

(ですね。確実に『鬼の副長』の顔に戻っています)

(ああなると手がつけられませんからね、土方さんは。斬り合いにならないことだけを願うばかりです)

 土方の背後で言いたい放題のひそひそ話を始めた守衛新選組だが、そんな彼らの心配を他所に土方の唇から出た言葉は意外と穏やかで、しかしある意味期待を裏切らないものだった。

「旗本出身のあんた達の方が、貴人の扱いには慣れていると思っていての采配だったんだが不満のようだな。尤も貴人を守護している兵士は場内でも有数の手練に違いないが――――――もしかしてそれに怖気づいているのか?」

 その一言に、春日は怒りに顔を赤らめ、春日以外の兵士達は失笑する。確かに土方の指摘通り、貴人の警護であれば腕に自信のある武士が付くだろう。それを指摘された春日は、怒りに打ち震えながら怒鳴り散らした。

「お、俺を愚弄する気か!判った、奥向き周辺の調査をしてやる!」

 怒り心頭の春日は足音も高らかに、部下を引き連れて土方の前から去っていった。

「もう、土方さんは人を怒らせるのが得意なんですから」

「春日さんはああいうの、真に受けそうですからね。あとが大変ですよ」

 去ってゆく陸軍隊の兵士を見送ったあと、守衛新選組隊士らは笑いを噛み殺しつつ土方に訴える。だが部下たちが本気でないように、土方もまたあまり深刻には受け取っていなかった。

「ああいう無駄に矜持が高いやつには『無理難題』っぽい仕事を与えておきゃ良いんだよ。そもそも戦を目前にしたら、てめぇより嫁を先に逃がすもんだろうが。きっと奥向きはもぬけの殻さ」

 土方の言葉に全員が頷く。確かに普通に考えれば幕府軍が侵攻してくると判った時点で正室側室揃って女たちを先に逃がすのが常識だ。

『面倒くさい奴にはそれっぽい仕事を与えて満足させておけばいい』

 土方も、そして守衛新選組隊士らもこの時点ではそう考えていたの。だが、このことが直後に大きな問題を起こすことになる。



 砲撃の後、いつまでも続いていた銃撃の音もいつの間にか無くなり、城内調査も半分以上進んだ。どうやら藩主は幕府軍攻撃の前に城を脱出していたらしい。 そして城内で攻撃していた残留兵らも地蔵山方面へと逃げ出していた。
 幕府軍の被害も殆ど無く、松前城侵攻は大成功と言っても問題ないだろう。むしろ問題なのは城下で起こってしまっている火事だった。松前軍が逃亡する際、自分達の街に火をつけて逃げていったのだ。流石にこのままにはしておけないと、消火及びその後の救済について星と相談していたその時である。

「土方隊長、大変です!春日さんが!」

 陸軍隊の兵士の一人が土方らがいる部屋に飛び込んできた。その表情はかなり切羽詰まっている。

「また春日が何かやらかしたのか?」

 呆れたように尋ねる土方に、飛び込んできた兵士は肩で息をしたまま起こってしまった出来事を報告した。

「仏間に隠れていた奥女中らに刀を向けて・・・・・・その中の一人がどうも松前の御簾中らしいのです!」

「はぁ?何だって?何でこんなところに奥方が居残っているんだよ!」

 土方は声を荒らげ、立ち上がる。

「新選組!付いてこい!状況を確かめに行く!!」

「私もご相伴しましょうか。これでも腕に覚えはありますから」

 松前藩主夫人が城内に残っているとなればかなりの大事である。流石にのんびり待ってはいられないと星も同行を土方に求めるが、土方はその申し出に首を横に振った。

「いや、あんたはここに居てくれ。そして万が一俺に何かあった場合、部隊を頼む」

 どんな状況かまだ判らないが、事と次第によっては春日とやりあう可能性もある。守衛新選組の隊士らの腕を信じないわけではない。だが万が一を考えた場合、やはり部隊を率いる能力を持っている星には安全な場所で待機していてもらいたい――――――そんな土方の思惑を星は一瞬にして解し、頷いた。

「承知」

 そして土方は守衛新選組だけを引き連れ、案内されるままに奥向きの仏間へと足を運んだ。そこには五、六人の女達が一人の女を護るように団子状に固まっており、その集団に向かって春日が大刀の切っ先を向けていたのである。

「春日左衛門、刀を納めろ!相手は丸腰の女だ!怪我でもさせようものなら末代までの恥だぞ!!」

 数人の女性らに刀を向けていた春日に土方が一喝する。そして仏壇の前にかたまり、震えている女らの前に進み出た。着物の豪華さからすると、中央に守られている女性が奥方らしい。その腹は子を宿しているのか、かなり大きかった。もしかしたら臨月なのかもしれない。

「なるほど。そちら様が身籠られていたから逃げ出せなかったのですね?」

 土方は女らの前に膝をつき、一番高官と思われる中年の女官に語りかける。

「お尋ね申し上げます。そちらにおわす方は松前藩主の御簾中でございましょうか?」

 とにかく怯えている女らを落ち着かせてからだ――――――土方は穏やかな笑みを浮かべ尋ねた。その瞬間、中年の女中は恥ずかしげに頬を染める。

(流石新撰組一の色男、京都中の芸妓や娼妓を落としまくっていただけはありますよねぇ)

(あの特技がこんなところで活かされるとは思いませんでした。これで尋問のかなり楽に進むんじゃないかと)

(取り敢えずこれで我々がここに来る直前までの松前の事情はわかるでしょう。尤も余計なことまで喋られそうですけど)

 女中とは言え高官ともなれば表の状況についてもある程度知っているはずだ。そして彼らの思惑通り、女官達は口々に知っていることを語り始めた。





UP DATE 2017.2.25

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松前侵攻、既に藩主らが逃げていたこともあったのでしょう。一日で松前城は陥落してしまいました(๑•̀ㅂ•́)و✧
むしろ問題だったのは城そのものではなく城下の火事だったようで・・・これの鎮圧に時間がかかり松前藩主及び松前兵は逃げる時間を稼げたようです(>_<)
それでも逃げ出せなかった人もおりまして・・・それが臨月だった松前藩主夫人です(>_<)産み月間近でなければまだ逃げることが出来たのかもしれませんが、どこで産気づくかわからない状況ではむしろ城内にとどまったほうが安全だったのかもしれない・・・(´・ω・`)
(なお、近くの納屋でという説もあり)
そんな奥方&奥女中達に事情を尋ねる土方ですが、何せ天性の女たらし( ̄ー ̄)ニヤリその笑顔一つでどれだけの情報を得ることができるのか、次回はそのへんから書かせていただきます。
(総司いわく『鬼の副長より仏の幕府軍参謀の尋問のほうがコワイ』とのことwww)
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