「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第六話 松前侵攻・其の貳

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 十月二十八日、小降りになった雪の中、土方隊は松前へ向かって出立した。『少数精鋭』とはいえ大砲を引きずっての五百名もの進軍だ。初日はあまり無理をしないようにと有川村での宿陣にしたのだが、到着したのはすっかり日が暮れた後だった。
 だが思い通りにならない進軍よりも更に厄介なのは春日率いる陸軍隊である。この日も土方らが軍装を解く間もなく『春日と野村がまた口論を始めた』と陸軍隊の隊士から助けを求める訴えが入ったのだ。

「またですか?あの隊長の性格が解っているんだから、野村もいい加減一歩引いときゃいいのに」

 野村と割合仲が良い蟻通が、呆れたように溜息を吐く。本来であれば正式に陸軍隊を脱退し、新選組に再入隊をしたかったところなのだが如何せん松前への出陣が早すぎた。反りの合わない上司から逃げ出す間もなく野村も出陣することになってしまったのだから、こればかりはしょうがないだろう。

「仕方ないですよ、蟻通さん。本人達がどんなに努力してもどうにもならない相性というものはありますから。京都での伊東参謀と誰かさんもそうでしたしねぇ」

 沖田がちらりと土方を見ながら呟くと、以外なことに土方がぷっ、と吹き出した。

「確かにそうだな!どんなに頑張っても腹に据えかねる野郎っていうのはいるもんな!」

「いや、土方さん。ここは怒るところでしょう」

 土方の思わぬ反応に沖田が困惑するが、土方はそれを無視して更に言葉を続ける。

「いいや。ここ一年色々ありすぎてすっかり忘れていたよ、野郎のことは――――――何だかんだ言って内輪もめをやらかしていただけ当時は平穏だったんだ。だが、今はそうじゃねぇ」

 土方は立ち上がり、鉄之助に声をかける。

「鉄、付いてこい。野村に助け舟を出しに行く。今の状況で殺り合われたらたまったもんじゃねぇ」

 土方の言葉に守衛新選組全員が深く頷いた。小さな不満でも放っておけば取り返しのつかない大事になるのだ。そして軍服も脱がぬまま、土方は問題の現場へと足を運んだ。

「春日さん、野村、またやらかしてたそうだな」

 隊士らに腕を捕まれ引き離されている両者に土方は笑いながら声をかける。

「如何なされた、土方隊長?」

 部下に引き止められながらも、不満を顕に春日は土方に食って掛かる。だが土方はそんな春日を歯牙にもかけず不敵な笑みを浮かべた。

「春日さん、どうやら『うちの野村』があんたに迷惑をかけちまっているようで」

 その一言に野村の顔は明るく輝き、春日は眉間にしわを寄せる。

「『うちの』とは?この男は陸軍隊の隊士だが?」

 あくまでも野村は自分の部下である――――――その異常なまでの支配欲の強さに土方は内心呆れるが、それを表情に出すことはなく事実だけを口にした。

「だが、野村は元々新選組隊士だ。しかも近藤局長に付き従って共に投降したほどの猛者だぜ?壬生狼を舐めてかかったら喉笛を食いちぎられるのがオチだ」

 怒りに青ざめる春日にそう言い放つと、土方はまるで猫の子を掴むように野村の首根っこを掴んだ。

「うわっ!俺は猫じゃありませんよ、土方隊長!」

 首根っこを掴まれた野村はジタバタと暴れるが土方は涼しい顔でそのまま引っ張る。

「松前に行く間だけこいつを預かる。きちんとした所属に関してはこの遠征から帰還してから改めて決めよう――――――おら、野村!いい加減大人しくしやがれ!」

 いつまでも暴れる野村に土方が一括すると、野村は急に大人しくなる。その様子を見た春日はしばらく土方を睨みつけた後、低い声で返事をした。

「――――――承知」

 矜持を傷つけられたような、不服そう表情を浮かべる。だがこの時点での上役である土方の命令であるし、事あるごとに衝突する野村を預かってくれるというのである。春日にとっては願ったり叶ったりの人事だ。
 この一件で野村は実質土方の配下に付き、この事は遠征帰還後の人事に大きく影響することとなる。。



 五稜郭を出立してから七日後にあたる十一月四日、ようやく松前の手前福島に土方隊は到着した。
 五稜郭から松前へ向かう道は、蝦夷の中でも特に整備されている道である。雪さえなければ大砲を持っていっても三日で到着できたであろう。だが今は雪が降りしきる冬場である。慣れない雪道は兵士達の足を捉え、体力を奪い尽くしていた。宿陣の支度が整うなり、疲労困憊した兵士達は食事を掻き込み、泥のように横たわる。

「いいか!明日の朝に攻撃だからな!それまでに疲れを取っておけ!」

 各部隊を周りながら土方が檄を飛ばす。その声を隣で聞きながら沖田はぽつり、と漏らした。

「・・・・・・むしろ出陣させたほうが疲れが取れそうな気がしますけど」

 以前だったら拳骨のひとつでも飛んで来るであろう、不謹慎極まりない沖田の一言だったが、土方からの拳骨はなく、その代わり更にとんでもない一言が返ってきた。

「だから休ませるんだろうが。思い通りにならない雪道の進軍だったんだぞ?その直後に鬱憤晴らしよろしく攻撃させてみろ。上役の言うことなんざ聞かなくなるだろうが」

「・・・・・・耳が痛いです」

 沖田だけでなく土方の護衛として周囲に居た守衛新選組全員も苦笑いを浮かべた。確かに我慢に我慢を重ねての進軍の直後に暴れまくったら軍として制御が聞かなくなる可能性がある。特に土地勘がない場所ではそれが命取りになるだろう。
 まずは心身ともに体勢を整え、綿密な現地調査の上で攻撃を仕掛けるべきだ。そんな話をしている最中、松前城を偵察しに行かせていた斥候らが帰ってきた。

「既に籠城戦の構えをしております。ただ想定よりは小規模かと」

 元々それほどの兵力は残していないだろうと踏んでいたが、斥候の報告だとどうやらそれ以下の兵士しか残っていないらしい。確かに道中の襲撃もかなり小規模なものであったし、松前藩としてもこの時期の本格的な戦闘は避けたいのかもしれない。もしかしたら箱館府同様一部は青森へ避難している可能性もある。土方は斥候らの報告に頷き、部下に命令を下した。

「立川、星さんを呼んできてくれ。明日の総攻撃で正面からの攻撃を任せたいから、その詳細を打ち合わせたいと」

「土方隊長自ら正面では無いのですか?」

 怪訝そうに尋ねる島田に、土方は『その通りだ』と言葉を返す。

「俺達と陸軍隊は裏手からだ。互いに得意分野を受け持ったほうが良いだろう」

 土方の言葉に全員が激しく頷いた。元々新選組が得意なのは市街戦であり、砲撃戦はそれほど上手いとはいえない。それは陸軍隊も同様だった。ならば砲術に長けている額兵隊に正面からの砲撃を任せ、自分達は裏手から攻めるべきだろう。

「本当に星さんには助けられっぱなしですね」

 長島の一言に全員が笑う。噂では激高しやすいと言われていた星だが、単に煮え切らない上に、後手後手に回る上からの指示が嫌いだっただけのようである。その点、土方の命令は状況に対して迅速で的確だ。理論的な命令に対しては、これ以上はないほど的確に仕事をこなす、それが額兵隊隊長・星恂太郎なのである。

「ああ。そのおかげで昔以上に寄せ集め状態の新選組を立て直す余裕が出来ている。今の新選組が使い物になるのは多分春を迎える頃だろうしな」

 既に京都以来の隊士は殆どおらず、各藩からの寄せ集め集団になっている新選組を『一つの統率の取れた部隊』に構築するまで一、二ヶ月は最低かかるだろう。せめて年が明ける頃までには使い物になっていてくれれば――――――灯明に使っている魚油の臭気に辟易しつつ、土方は願わずにいられなかった。




UP DATE 2017.2.18

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松前侵攻、前夜まで到達いたしました~/(^o^)\
相変わらずな春日vs野村に関しては土方がずるずる猫の子のように引き離され、取り敢えず一件落着?と相成りました(^_^;)本当ならばきちんとした手続きを取るべきなんでしょうけど、余りにも時間がなさ過ぎ(^_^;)
そして雪の中、七日間賭けてようやく松前に到着いたしました。函館から松前までおよそ100km、きちんど整備されていた道ですので手ぶらの武士だったら急げば2日、大砲を引きずっていても3日あれば到着できるはずなんです・・・雪さえなければ(-_-;)如何に蝦夷地の雪が本土の人間にとって大変だったか理解できます(>_<)
そんな行軍を果たし、ようやく翌日は松前攻撃・・・次回こそ例の出会いを書けるようにしたいです(>_<)
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