「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第五話 松前侵攻・其の壹 

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 土方隊の一悶着があってから暫く後、本道を進軍してきた大鳥隊がようやく函館手前の赤川に到着したとの使者が土方隊の許へやってきた。時間にして二刻ほどの遅れだろうか。脇道をすんなりとやってきた土方隊と違いかなり満身創痍らしい。

「新選組に籍を置いていたものも二人ほど亡くなったとのことだが・・・・・・これはむしろ唐津藩の戦死者だな」

 土方は手渡された戦死者の書付に視線を落とし、少し困惑気味に眉を下げた。戦死者の一人、三好胖は唐津藩元藩主・小笠原長泰の四男であり、もう一人の戦死者・小久保清吉は三好の従者だ。大名の息子でありながら新選組に入隊しなければ蝦夷に行くことも叶わず、更に戦闘の前線で十七歳という若い命を散らさなければならなかった無念を思うといたたまれない。

「・・・・・・確かに『長男以外の入隊は構わぬ』ってぇのが新選組だけどよ。まさか大名の息子が入ってくるたぁ思わなかったよな」

「ええ。新入隊士を集めるのに苦労していたのがほんの五年前ですよ・・・・・・はるか昔のことのように思えます」

 土方の呟きに沖田が応える。

「そういやおめぇも何か使者から書付を手渡されてたな」

「ええ、小夜から・・・・・・先程の死者二名の事もですけど、新選組の他の怪我人と、玉置くんの病状の報告が。土方さんが手すきの時に知らせてくれ、って事なんでしょう」

 京都時代から名前は同じでもその実情は全く異なってしまっている新選組である。更に土方の立場も新撰組副長というより事実上の幕府軍副総督となってしまっている。そんな状況ではいくら新選組であっても率先して現状報告とは行かないものである。

「昔の気楽さは、もうのぞめねぇな」

「同感です」

 二人のやり取りに、他の守衛新選組隊士らも深く頷いた。



 翌十月二十六日、合流した大鳥隊と土方隊は順次五稜郭への入城を果たした。
 五稜郭は、江戸時代末期に江戸幕府により蝦夷地の箱館郊外に建造された、稜堡式の城郭である。予算書時点から『五稜郭』の名称は用いられていたが、築造中は、亀田役所土塁または亀田御役所土塁とも呼ばれた。また、元は湿地でネコヤナギが多く生えていた土地であることから、『柳野城』の別名を持つ。
 幕府崩壊後は箱館府が政庁として使用したが、土方が湯の川の到着した二十五日に清水谷知事が青森に逃走しており、既にもぬけの殻になっていた。それゆえ入城そのものは至ってのんびりした雰囲気で行われたが、五稜郭の実情が判明していくうちに大鳥の眉が徐々にしかめられていった。

「こりゃ思っていたよりもひどいね。道理で箱館府は籠城戦に持ち込まなかったわけだ」

 一通り五稜郭を見て回った大鳥が土方に向かって嘆く。

「役所としてはまぁまぁ使えるけど、要塞としては全く使い物にならない。清水谷君が逃げるのも頷けるよ」

 土方を相手にした大鳥の愚痴は更に続く。

「胸壁上には二十四斤砲が備えられているけど、あれじゃあ射的の用には全然使えないし、築造だって終わっていない。僕ら程度の軍備でさえ逃げ出すほどだ、官軍が大々的にやってきたらここはひとたまりも無いよ」

 大鳥の指摘に土方も頷かざるを得なかった。

「取り敢えず敵が攻めて来る前に堤の修復と大砲の設置、 濠外の堤や門外の胸壁を構築は最低限やっておかねぇとまずいだろう」

 すると大鳥は土方に流し目をくれて、ぼそりと呟く。

「土方君、今言ったことを引き受けてくれる気はあるかい?」

 すると土方は目を大きく見開き、ぶるぶると首を横に振った。

「冗談はやめてくれ。それが嫌で武士になったんだぜ?」

 その様子が相当面白かったのか、大鳥は大声を上げて笑う。そしてひとしきり笑った後、土方に対してこう命じた。

「じゃあ地道な土木作業は僕が責任を持ってやっておくから、君はちょっと遠征に行ってきてくれないか。そうだね・・・・・・取り敢えず松前、そして雪に阻まれなければ江差まで、かな」

「おい、幾らなんでも松前はまずいだろ?ここと違って松前城は流石に城郭だってしっかりしているだろうし。江差までなんて到底無理だと・・・・・・」

 すると大鳥は『その点は問題ない』と妙な太鼓判を押す

「志摩守は蒲柳の質だし、家中も色々とあって一枚岩では無いらしいんだ。だから大砲の数台でも持っていけばすぐに降参交渉に応じてくれると思う。流石に大名だし、箱館府のようにもぬけの殻、というわけには行かないだろうけど」

「承知した。脇道組はろくに戦いもせずに函館まで来ちまっているし、鈍った腕を鍛えるには丁度いい」

 頼もしい土方の言葉に、大鳥も安堵の笑みを浮かべた。

「では出陣は明後日。できるだけ早く動いてもらわないと雪で帰ってこれなくなってしまうから」

 冗談半分、笑いながら土方を脅す大鳥だがその眼は笑っていなかった。確かに五稜郭に到着するまでの風雪でさえ手こずったのだ。本格的な冬になったら手も足も出ないだろう。

「そうならないよう、早速出陣だな」

 余りにも本気めいた土方の口ぶりに、二人は思わず笑ってしまった。



 土方を隊長とする松前侵攻軍総勢は総勢五百名、先陣・彰義隊、本陣に額兵隊と陸軍隊、更に工兵と砲兵が付随し殿は衝鋒隊が務めることとなった。土方は関連部隊を招集し、二十八日朝に出陣する旨を伝えた。そしてその会合の後、土方は守衛新選組及び現・新選組幹部を呼び寄せる。

「安富、中島、俺達が出陣して五日過ぎても松前落城の知らせが行かなかったら、新選組を連れて松前まで来てくれ。尤もそれほどでかい戦いにはならないだろうって大鳥さんの読みだが」

 すると中島が土方に思わぬことを提案した。

「土方隊長、伊庭八郎さんを覚えていらっしゃいますか?」

「ああ、確か遊撃隊は大鳥さんの下に居たな。八郎治がどうかしたか?」

「進軍中に土方隊長の話で盛り上がりまして・・・・・・もし宜しかったら遊撃隊も共に援軍に向かっても宜しいでしょうか?」

「なるほど。あいつも暇を持て余していやがるとみた・・・・・・構わねぇ。大鳥さんからは俺から伝えておく」

「ありがとうございます!」

 中島の笑顔に皆もつられて笑う。だが松前侵攻に盛り上がっていたのは陸軍だけであった。腕を振るうこともままならず鬱憤を溜め込んでいる集団が直ぐ側にいることに、流石に土方も気づくことはできなかった。



 五稜郭、榎本武揚の居室に数人の海軍幹部らが押しかけ、気勢を上げていた。

「榎本艦長!何故海軍は松前進攻に・・・・・・手柄を立てに行くことが出来ないのですか?」

「陸軍ばかりが美味しいところをさらって、我々は事後処理ばかりではないですか!こんなことなら仙台で陸軍を乗せるんじゃなかった!」

「俺達にも出陣命令をお願いします、榎本さん!」

 気色ばんだ部下達に迫れて榎本は困惑していた。今回の松前進攻は五稜郭よりも小さな計画である。実際陸軍からも五百名ほどしか出していない。万が一に備えて遊撃隊と新選組にも出陣命令が出ているらしいが、それはあくまでも先発隊が危機に陥った場合のみと大鳥からも聞かされた。
 つまるところ、海軍がいちいちでていく必要などないのである。否、むしろ蝦夷の荒天に出くわしたら沈没の危険性さえある。だが、このままでは部下達が収まらず、函館で問題を起こしかねない。

「・・・・・・判った、開陽を出そう。だが無茶な行動はするなよ」

 榎本は頭に血が昇った部下達に念を押す。だが彼のこの判断が、後に幕府軍にとっての大きな悲劇を生むこととなる。




UP DATE 2017.2.11

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無事五稜郭への入城を果たした幕府陸軍ですが、休む間もなく土方は松前、江差方面への進軍を命ぜられました。大変といえば大変ですが五稜郭に残って土木作業の指揮を執るよりはむしろ松前出張のほうが良かったのではないでしょうか(^_^;)
500名という、比較的小規模な進軍ですし、万が一のときには新選組や遊撃隊も援軍に来てくれる、比較的余裕のある進軍ですが、それゆえに黙っていられない集団もいるようで・・・(-_-;)『後の悲劇』はこのタイトルの後、江差編で書かせていただく事になります。
ということで、次回更新は2/18、土方隊の松前進攻&その中でのとある出会いの初っ端が書けるかどうか・・・次会をお待ちくださいませm(_ _)m
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