「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第四話 蝦夷上陸・其の肆

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 明治元年十月二十四日、前日は雪風に翻弄されながらも敵に出くわさずに済んだ土方隊だったが、この日はその逆だった。天候はだいぶ穏やかになったのだが、それだけに敵も出陣しやすくなっていたのである。

「土方隊長、川汲峠に敵軍!ニ小隊が待機してます!」

 鉄之助他数人の斥候の報告に土方は頷き、自らの横に副官よろしく陣取っている額兵隊隊長の星恂太郎に声をかける。

「星さん、あんたは部下を連れて新道を進んでくれ。俺は陸軍隊と衝鋒隊を率いて旧道を行く。そして川汲峠で挟み撃ちだ」

 ニ小隊ならば数の上では勝っているが、『窮鼠猫を噛む』ということもある。慎重には慎重を期してふた手に分かれ攻撃することを土方は提案し、星も同調した。

「承知。お互い流れ弾にだけは気をつけましょう」

「ああ、猪や鹿じゃねぇし鉄砲玉で、しかも流れ弾で殺されるのだけは勘弁してもらいてぇ」

「確かに。そう言えば蝦夷地には本州にはいないような大きな熊がいるとのことですよ。アイヌたちが言うには下手な軍隊よりも恐ろしいとか」

「ははは!幾らなんでもそりゃあ大仰すぎだろう!尤も、新政府軍の小隊だったらそれもあるか」

 土方の冗談に周囲に居た兵士達も大声で笑う。

「ま、嫌でもなんでも武器は小銃だ。ここだったら銃が熱を持って雪に突っ込んで冷やせばいいからありがてぇ」

 その言葉に星も深く頷いた。鳥羽・伏見に始まり転戦をしてきたが、どこでも銃の使いすぎに拠る熱には手こずっていた。条件としては敵も同じだが掌の火傷を気にせず戦えることはありがたい。

「じゃあ川汲峠で合流しましょう」

 星の言葉に土方は小さく頷き、その言葉と同時に軍はふた手に分かれ進軍を再開した。



 川汲峠の戦いは土方隊の奇襲によって、予想以上にあっけなく勝敗が決した。敵は殆ど戦うこともなく逃げていってしまったのだ。小隊での出陣のようだったが、もしかしたら偵察隊で戦う気など毛頭なかったのかもしれない。
 だが、戦いはあっさり勝ったものの別の問題が土方を襲っていた。

「畜生!厄介な灌木だな、まったく!」

 奇襲をかけようとした際に灌木をくぐり抜けようとした土方だったのだが、その際繁みに髪が絡まってしまったのである。鉄之助や沖田、島田らが灌木を折ろうとするのだが、若木なのでなかなか折れてくれない。かと言って刀を使えば刀が傷んでしまいいざという時使えなくなる可能性もある。仕方ないと言えばそれまでだが、かなり厄介だ。

「もうちょっとで折れますから・・・・・・ってやっと折れました!」

 だが、灌木は折れただけであり、髪の毛から解けたわけではない。折れた枝を髪に絡みつかせたままの土方に、隊士達は笑いを必死にこらえたのだが、ただ一人沖田だけは吹き出してしまった。面白くないのは土方である。

「だいぶ愉快そうだな、総司。おめぇの髪にも灌木絡みつかせてやろうか?」

 睨みつける土方に、沖田は首をブルブルと横に振る。

「いえいえ丁重にお断りさせていただきます。それにしても笑えますね、お洒落には人一倍気を使う土方さんが髪に灌木を絡みつかせ・・・・・・ぷぷっ」

「バカにしやがって・・・・・・こいつが無駄に長いからいけねぇんだ!」

 沖田の笑いがよっぽど腹に据えかねたのか、それとも蝦夷上陸以来色々不便を強いられてきた長い髪に嫌気が差したのか、土方は脇差を引き抜くと髻からバッサリ髪を切ってしまったのである。

「土方隊長?何てことしはるんですか!!」

 鉄之助は、土方が放り投げた灌木付きの髪を慌てて拾う。

「まっとうな大人が何考えてはるんですか!これやったら髷を結えなく・・・・・・」

「まっとうな大人じゃねぇからいいんだよ」

 まるで反抗期の少年のような物言いに、守衛新選組の面々はただ呆れるだけだった。

「そりゃあ解っていますけど、ここは大人になってもらわな困ります!」

 鉄之助の言葉にふてくされる土方だったが、翌日この土方よりも更に子供っぽい行動をしでかす輩が出てくることをこの時は誰も気づくことはなかった。



 翌日、土方隊は大鳥隊より一日早く湯の川に着陣した。というか土方隊は予定通りの着陣であり、大鳥隊がやや遅れていると言ったほうが正しい。

「島田!蟻通!連絡用の焚き火を!」

 先に着いたほうが狼煙を上げるという約束だったが、既に日も暮れ狼煙では見ることができない。どうせ暖を取らねばならないのだから、連絡も兼ねて大々的に焚き火をすれば兵士達も身体を暖めることができるだろう。
 更にこの場所には豊かな温泉が湧き出ている。敵の攻撃がなければ五稜郭入城の前に身体を清めることができる筈だ――――――そんな胸算用を描いていたその時、アイヌの斥候が五稜郭の偵察から帰ってきた。

「五稜郭には既に誰もいないとのことです」

 通訳の言葉に土方が頷く。そして順番に湯を使うよう指示をしようとしたまさにその刹那、闇夜を切り裂く鋭い声が辺りに響いたのである。

「ふざけるな、春日左衛門!今まで部隊の後ろをノコノコついてきた腰抜け野郎の分際で!」

 怒りに打ち震えたその声は、土方にとって聞き覚えのあるものだった。土方を始め守衛新選組が振り向いたその視線の先には、抜刀した野村利三郎が春日左衛門と対峙していた。

「おい、野村!刀を納めろ!一体どうしたっていうんだ!」

 土方が近づき野村の肩に手をかける。 すると野村はわなわなと唇を震わせつつ事情を説明し始めた。

「こいつ、今まで安全な場所でのうのうとしていた癖に、五稜郭入城の時には先陣を務めるって言い出しやがったんですよ!」

 だが、春日左衛門も負けてはいなかった。ふんぞり返るように顎を上げ、ふんと鼻を鳴らす。

「陸軍隊の隊長は俺だ!俺が先陣を務めて当然だろうが!」

 どうやら他の部隊の存在は春日の目に入っていないらしい。とにかく自分が名誉ある先陣をやるという一点張りである。まるで頑是ない子供のような主張に土方も呆れ果てた。

「おいおい、旗本のお坊ちゃんよ。ここは戦場なんだぜ?一番の働きをしたやつが一番の名誉を受けるのが当然だろうが――――――おい、星さん!」

 土方は部下達の温泉入りを采配していた星を呼びつける。

「はい?何でしょうか?」

 土方に呼びつけられた星は怪訝そうにその場に居た者達の顔を見回す。

「とばっちりを受けさせるようで悪いが、こいつらの代わりに五稜郭入城の先陣を勤めてくれねぇか?」

「はぁ・・・・・・別に構いませんけれど、一体何が?」

 いきなりの命令に訳が解らず、星は土方に尋ねる。すると土方は星の耳許に口を寄せ耳打ちをした。

「くだらねぇ先陣争いさ。本当ならば元々新選組だった野村に引くように、って言うべきかもしれねぇが・・・・・・俺も流石に春日に五稜郭入城の先陣は任せられねぇ」

 周囲に聞こえぬよう気を配った土方だったが、それでも何かを感じているのか春日はわなわなと震えている。

「今回の進軍で事実上の副官として働いてくれた星恂太郎に五稜郭入城の先陣は任せる!衝鋒隊、陸軍隊もそのつもりで!」

 よく通る土方の声に星の部下である額兵隊は勿論、何故か春日の部下の陸軍隊の兵士達もがやんやの喝采をあげた。その歓喜の声に更に気を悪くしたのか春日は不機嫌さをそのままにぷいっとその場を離れてしまった。

「大丈夫ですかね、あれ」

「まぁ、ほっときゃ何とか成るだろう。何とかならなきゃこの厳しい状況の中、死ぬしかねぇしな」

 ある意味投げやりとも言える土方の言葉だがまさにそのとおりである。沖田はただ頷くことしかできなかった。




UP DATE 2017.2.4

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特に大きな敵と対峙すること無く順調に湯の川まで進んできた土方隊でしたが、最後の最後で野村vs春日の確執が表沙汰になりました。確かに今までの行軍でず~~~~っと安全な場所に居たくせに入城の際の先陣だけはやりたいというのは余りにもわがまま(-_-;)野村が怒るのも無理はありません。そしてその際の対策として取ったのが星恂太郎の先陣というwwwある意味とばっちりを受けた星さんですが、昔は春日以上に切れたらコワイタイプだった人( ̄ー ̄)ニヤリ春日左衛門くらい軽くやり込めてしまうでしょう、言葉でも腕力でも(おいっ)更に直属の部下達からも『星さん歓迎』のやんやの喝采が/(^o^)\流石に今回は引き下がらざるを得ません(^_^;)しかしこのままで行くんでしょうかねぇ・・・どうなんでしょう(・・?

次回更新は2/11、五稜郭入城&松前・江差出兵編となります(≧∇≦)/
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S様、いつもコメントありがとうございます(*´ω`*) 

こんにちは、ご来訪ありがとうございます(*^_^*)
寄せ集め集団の中、春日左衛門はかなりアクが強かったようで(^_^;)
土方も諸事情により髪を切らねばならなくなりました。戦いやすくはなりましたが、それだけ過酷な状況に置かれていることでもあり・・・これからが内外ともに大変そうです(´・ω・`)
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