「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第三話 蝦夷上陸・其の参

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 明治元年十月二十二日早朝、幕府陸軍は函館への進軍を開始した。ふた手に分かれての進軍ではあるが途中森宿までは一緒に行軍、そこから大鳥隊と土方隊に分離して函館を目指すこととなる。

「今日は森村まで進むとしようか。人家が二百軒もあるから宿泊も何とか成るだろう」

 地図を指し示しながら大鳥は土方に提案する。すると土方は暫く考えた後、自らの考えを口にした。

「だったら俺達は先に進んで砂原まで行っちまったほうが良くないか?幾ら森村がでかいとは言え、これだけの人数をとなると流石に大変だろうし、明日は天気が崩れそうだと地元の案内人が言っていた。少しでも距離を稼ぎたい」

 土方のその言葉に、大鳥は少しだけ心配そうに眉を下げる。

「確かにその方がありがたいけど・・・・・・あのクセのある連中を率いて砂原までの強行軍、できそうかい?僕としては今夜しっかりと意思疎通をしてからでも遅くないと思うけど」

「そこをやらなきゃ、いつまでも幕府軍はまとまらねぇ」

 土方の妙に強気は発言はハッタリかもしれない。だが、その強気に大鳥は敢えて賭けてみようと決心する

「確かに。ではお手並み拝見といこう」

 まるで物見遊山にでも行くような口ぶりで大鳥は土方の提案を承諾した。

「じゃあ一応二十六日に函館・五稜郭で会おう。どちらかが遅れることになった場合は無理に五稜郭を落とさず、双方揃ってからということで・・・・・・でないと先陣争いが厄介そうだからね」

 皮肉がこもった大鳥の一言に、土方は思わず吹き出してしまった。



 大鳥との打ち合わせ通り土方隊は森村を昼過ぎに通過、すっかり日が暮れた後に砂原に到着した。人数が少ない身軽さはあるものの、流石に大鳥隊の二倍近くの距離を進軍した事もあり、守衛新選組以外の兵士は泥のように眠っている。

「思っていたよりも穏やかにここまで来ましたね。天候も、部隊内部も」

 沖田の正直過ぎる感想に、土方及び守衛新選組全員が思わず苦笑を漏らす。

「確かに。三つ巴のいざこざが起こっても仕方ないかと諦めていましたけど・・・・・・額兵隊の星さんが意外と気さくな方でありがたかったですよね」

 立川が心の底から『助かった』と言わんばかりの声音を出した。

「ああ。噂では激高し易い方だ、って聞いていただけに俺もちょっと不安だったんだが」

 島田の言葉に全員が頷く。記憶にあたらしいところでは仙台藩の命令を聞かずに出撃し相馬城を占領したという『実績』もあるし、額兵隊の部下達からも諸々の武勇伝が聞こえてくる。だがそんな噂とは裏腹に星は土方に対して非常に協力的で、この日も星の助けがなければ砂原まで辿り着けなかっただろう。

「横浜に赴いては、アメリカ人の貿易商人ヴァンリードの店で使用人として働きながら、夜は西洋軍学を学んでいただけあって外国語も堪能だしな。ブヘーを大鳥さんに押し付けられた時どうしようかと本気で悩んだが、星さんが居てくれているんで本当に助かっている」

 土方の言葉に皆が頷いた、その時である。

「みんな、相変わらずだな」

 厠に行って帰ってきたところなのだろうか、新選組の輪に野村利三郎が声をかけてきた。元々新選組隊士の野村だが、紆余曲折を経て今は春日左衛門率いる陸軍隊に属している。

「あ、野村さん!ちょっと白湯でも飲んでいきませんか」

 島田の誘いに頷き、野村は新選組の輪の中に入ってきた。

「それにしてもよく無事にここまで・・・・・・近藤局長のお付きで敵の軍門に降った時、正直命はないものだと覚悟していたんですが」

 蟻通の言葉には感慨深さが含まれていた。多くの仲間が離脱し、死んでいった中、再び逢えることなど夢のまた夢である。それを野村は実現したのだ。今は別部隊であるが、新選組の仲間としての意識は変わらない。
 勿論野村もそれを感じているのだろう。涙を浮かべながら言葉を紡ぎ出す。

「蝦夷地で皆に逢えたのも、ひとえに局長のお陰です。ご自身の命と引き換えに俺達の助命嘆願をしてくれましたんで。けれど・・・・・・」

 野村は不意に声を落とす。

「陸軍隊に潜り込んだまでは良かったんですけど、ちょっと『頭』が・・・・・・近藤局長や土方副長と比べたらいけない、っていうのは解っているんです。でも我慢ならないことも多くて」

「・・・・・・どういうことだ?」

 野村の愚痴に、土方の表情が険しくなる。部下の不満は放っておけば幕府軍崩壊にも繋がりかねない。土方は厳しい表情ながらもできるだけ穏やかに、野村から事情を聞き出そうとする。

「ここにいるのは昔からの馴染みばかりだ。洗いざらい吐いちまえ。こいつらの口の堅さはおめぇが一番良く知っているはずだ」

 土方の促しに同調するように、守衛新選組の全員も深く頷いた。その空気に後押しされるように野村は口を開く。

「陸軍隊の春日左衛門なんですが、あまりにも自己中心的で・・・・・・自分が一番でないと気がすまない人ですし、素行も良くない。あと、これはあくまでも噂で聞いた話ですが、彰義隊頭並に任命されていたにも拘らず上野戦争では山門で酒を飲みつつ傍観していたらしいです」

「何ですって?」

 野村の言葉に沖田が険しい表情を浮かべた。

「あの戦いでは原田さんが亡くなっているんですよ?その戦いで・・・・・・酒ですって?」

 沖田の詰問するような口調に、重く、淀んだ空気が漂う。だがその空気を打ち破ったのは土方だった。

「仕方がねぇ・・・・・・それは過ぎちまったことだ。それよりも気になるのがおめぇだ。今からでも遅くはねぇ、新選組に戻る気はねぇか?」

 信頼できない上司の下に居て士気が下がってしまっては元も子もない。土方は野村に新選組への復隊を求める。すると野村は嬉しそうな笑みを浮かべつつも少しだけ悲しげな表情を浮かべた。

「本当はそのつもりでした。仙台で新選組が隊士の受け入れを大々的に行っているのを聞きまして、本当はすぐにでも再入隊をしたかったんですが・・・・・・そうなると今回の船で蝦夷に行けなくなると云われまして」

「なるほど。それでは本末転倒ですものね」

 沖田の言葉に野村は頷く。

「取り敢えず新選組再入隊の話は函館で落ち着いたら改めてお願いいたします。この行軍中は仕方ないですけど、あの男の下に付くしか」

「鬱憤が溜まったらこっちに来て吐き出しちまえ。何なら他の仲間も連れてきて構わん。新選組は来るもの拒まず、だ」

 土方の心遣いに野村は子供のような、心の底からの笑顔を見せた。



 翌二十三日は荒天の中進軍が行われた。大鳥率いる本隊は峠下で敵と出くわしてしまい戦闘を余儀なくされたが、土方率いる間道部隊は幸い敵と出くわすことは無かった。しかし間道部隊の『敵』は他に居た。それは荒天による雨まじりの雪と激しい風である。
 乱暴に吹きすさぶ風に束ねただけの髪は舞い、付着した雪によって衣服は瞬く間に凍りつく。外套も雨よけの笠もない行軍の中、兵士達は歩くことにさえ苦慮する。
 そんな中、唯一短髪の鉄之助だけは髪に煩わせること無く先へと進んでいた。寒さは皆と同じだろうが、髪の毛で煩わされないのは大きい。少年特有の身軽さも相まって時に斥候の役割も買って、土方に逐一の報告をする。

「この先菅部村までもう少しです。そこでお昼を取らさせてもらえるよう手配してきます」

 吹き付ける雪に顔をしかめつつ、鉄之助は土方に告げる。だが短い髪は鉄之助の動きを一切邪魔することはなく頭の形にへばりついているだけだ。それを土方は羨ましげに見つめる。

「ああ、頼んだ・・・・・・にしても、その短髪、動きやすそうだな」

 あまりに実感がこもった土方の一言に、鉄之助が唇を尖らせた。

「何言うてはるんですか!陸軍参謀ともあろう御方が、髷も結えへん髪なんて恥ずかしいだけどす。確かに鬢付油さえ付けられへん上にこんな横殴りの雪やったら鬱陶しいのもわかりますけど」

 鉄之助はちらりと土方の長い髪に目をやる。みぞれに濡れた髪は強風で瞬く間に凍りつき、更に寒さを助長する。髪を鬢付油で固めることができればまだ何とか耐えられるのだろうが、戦時中にそんな贅沢は許されない。それは土方も勿論理解しているだろう。
 だが目の前にいる自分の小姓が軽やかに動き回っているのを見るにつけ凍った髪の鬱陶しさがますます強くなるらしい。恨めしそうな土方の視線から逃げるように鉄之助はその場を去る。

「切っちまおうかな、こいつ」

 凍りついてしまった髪を触りつつ、土方は呟いた。




UP DATE 2017.1.28

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函館・五稜郭への進軍、ようやく始まりました(≧∇≦)ふた手に分かれた大鳥隊と土方隊、流石に本道の方が敵と出くわす事が多いようですが、土方隊には土方隊の厄介事があるようで(^_^;)
その一つが『春日左衛門』の存在でしょう(^_^;)改心し、幕府軍に殉じる覚悟を決めた星恂太郎とは違いどうしても『自分ファースト』から脱却できないようです(-_-;)元・新選組の野村利三郎もその事を愚痴っておりますし・・・この燻りが例の『先陣争い』&『陸軍隊から新選組へ20名もの移籍』に発展してゆきます/(^o^)\どんだけ人望がないんだか・・・何となく某国の大統領を彷彿とさせるのは気のせいでしょうか(^_^;)
一方土方本人は激しい雪&風と戦っております。よっぽど束ねた長い髪が鬱陶しいんでしょうか、鉄の短髪が羨ましいようで・・・水れに濡れた長い髪は重たい&寒いでしょうしねぇ(-_-;)

次回更新は2/4、五稜郭入城直前まではたどり着きたいです(^_^;)
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S様、ご無沙汰しております(*^_^*) 

こんにちは、コメントありがとうございますm(_ _)m
戦場での長髪は戦闘に直接参加しなくても良い将校の特権ですよね(´・ω・`)実際劣悪な環境で戦っている兵士達にとって長髪は引っかかる部分が多くなるだけに不利にしかならないかと・・・。
近いうちに土方歳三の短髪姿が登場すると思いますので、お付き合いのほどお願いいたしますm(_ _)m


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