「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第一話 蝦夷上陸・其の壹

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 明治元年十月十二日、軍艦・回天を先鋒とした幕府艦隊は折浜港を出向した。回天の後に続くのは幡竜、神速、長鯨、鳳凰、そして新選組が乗り込んだ大江と、殿を務める開陽丸である。これらの中には三千名近くの兵士達と彼らを支える物資――――――米、薪、油、塩などが積み込めるだけ積め込まれている。

「途中で補給を入れたが、これで函館まで持つだろうか?」

 榎本との細かな打ち合わせのため開陽丸に乗り込んだ大鳥が、心配そうに榎本に尋ねる。それに対し榎本は顎に手を置きながら渋い表情を浮かべた。

「ぎりぎり、っていうところだろうな。進軍が長引いた場合、地元民に食料を分けてもらわないとならないかもしれない・・・・・・アイヌの集落なら『松前と敵対している』と言えば何とかなるかな。噂では松前にだいぶ搾取されていたと聞いているから」

 その言葉に大鳥はくすり、と笑う。

「手段を選びませんね、榎本さん。松前を売るとは・・・・・・元々は同じ幕府の下にいたのに」

「今は薩長側に寝返っているから関係ねぇ。徹底的に利用させてもらうさ」

 どのみちなりふりなど構っていられないし、土地勘がない函館や松前での戦いに於いてはアイヌ達の協力がなければまず勝てないだろう。むしろ食糧援助をきっかけに彼らと繋がりを持ち、諜報活動を手伝ってもらえれば御の字だ。

「願わくば意思の疎通がきちんとできれば良いんですけど。アイヌ語を理解できる輩はこの船に誰もいないでしょう?」

「と思ってさっき停泊した港でアイヌ語を多少理解できる男たちを荷物運びとして雇い入れた。細かなことはともかく日常会話くらいなら何とかなるだろう」

 その言葉に大鳥は目を丸くする。

「本当に榎本さんは手回しが良いというか、先手先手を打ってきますね。その気働きの良さ・・・・・・さぞや花街の芸妓にはもてたでしょう」

 冗談半分に大鳥が榎本の手筈の良さを褒めるが、榎本は以外なことに少ししょっぱい表情を浮かべた。

「残念ながら、芸妓にはもてなかったな。むしろかみさんを怒らせない為に気働きは役にたったが・・・・・・あいつは普段は武士の妻っていう猫を被っちゃいるが、実家が実家だ。まぁ気が強いのなんのって」

 すると大鳥も『ああ』と深く相槌を打った。

「確か松本法眼の血の繋がった姪御さんでしたよね?なるほど・・・・・・お察し致します。ところで話は全く変わりますが」

 大鳥が不意に真顔になる。

「蝦夷に到着した後の進軍です。直接函館港に入港しますか?それとも・・・・・・」

「いや、鷲ノ木で上陸して、そこから箱館府に送る嘆願の使者を出そうかと思っている」

「嘆願?何の、ですか?」

「我々の軍を――――――いや、国家を認めてくれという嘆願だ。尤も聞き入れてもらえるとは思えないが」

「・・・・・・ということは、時間稼ぎ、と?」

「そういう事だ。向こうが嘆願書を吟味している間に、一度くらいは仙台に残してきた奴らを迎えに行くことができるかもしれない」

「なるほど。でしたら函館関連は陸軍に任せてもらえませんか?そうすれば軍艦が自由に使えます。少なくとも半分くらいは仙台に出向いても大丈夫かと」

「そうしてもらえるとありがたい」

 だが、得てして『皮算用』というものは前提から覆ることが多い、旧幕府軍の箱館府への嘆願書提出という思惑も、箱館府の知事・清水谷公考がすでに青森に避難してしまったことにより頓挫することになる。



その頃大江艦内では新選組の怪我人が小夜によって傷の手当を受けていた。

「申し訳ありませんね、お小夜さん。これくらいなら自分らでできるのに」

 島田が大きな体を小さくして小夜に詫びる。

「いいえ。やはり素人はんやと怪我を悪化させてしまう事もあります。尤もこれができるのもこの船の中だけやと思いますが」

「確かに、いざ戦闘になったら重傷者の治療にてんてこ舞いになりますからね」

 小夜を護るように、小夜の傍にべったりくっついている沖田の言葉に、その場に居た隊士らは全員頷いた。実際会津の時がそうだった。次から次へと運ばれてくる怪我人の中で、直接医学の心得があるものが診る事ができたのはごくわずか、あとは仲間同士や小者などが手当を行っていた。蝦夷でも戦闘が激しくなれば同じことが起こるだろう。

「せめて函館に到着するまでは大きな戦いが無いことを願いたいところですよね、沖田先生」

 蟻通の言葉に沖田も頷く。せめて自分たちの『本陣』となる場所ができればまだ何とかなるはずだ。

「しかし、函館で直接降りるとなると俺達の出番はないかもな」

「確かに函館沿岸の艦隊戦にしろ、砲撃戦にしろ海軍の奴らの仕事だ。俺達は見てるだけだろう」

「悔しいけど、それが妥当か」

「でも海軍戦用の砲弾は貴重なんだろ?だったら近場で陸軍をおろして地上戦ということも考えられるんじゃ?」

「だったら面白いけどさ。こればかりは上の思惑次第だろうな」

 この時点で鷲の木上陸を知っているのは先鋒の回天と殿の開陽丸の上層部だけだった。なので新選組の隊士達が蝦夷のどこに上陸するのかヤキモキするのは当然だろう。一体どこで上陸するのか――――――そんな議論を戦わせている隊士達の輪の外には掻巻にくるまっている玉置が横たわっていた。その玉置の傍に小夜と沖田が近寄っていく。

「良ちゃん、大丈夫?」

 小夜が玉置の額に手を当てる。するとやや微熱があるのか、じんわりとした熱さが小夜の手に伝わってきた。

「すみません・・・・・・ごほっ、お小夜さんに、お手数かけ・・・・・・させて」

「何いうてんの。そんなしおらしいこと言うてると、仙台の松本センセのところに送り返されますえ?」

 やんわりとした脅しをかける小夜に、玉置は首を縮める。

「確かにそれはあるかもしれませんね。昔の土方さんだったら『野郎なら戦で死にやがれ!』って怒鳴りつけるところでしょうけど」

 そう言いながら沖田は玉置がくるまっている掻巻の裾をつまんだ。

「今はまぁ、隊士を甘やかす甘やかす。この掻巻も土方さんが各所に無理を押し通して船に積ませたものらしいんですよ。流石におおらかな大鳥さんも『乳飲み子を抱えた母親じゃあるまいし』って呆れてました」

 沖田の声は決してよく通る方ではないし、病人相手なだけに穏やかな囁きに近い声で語りかけていた。しかし隊士達の激論がちょうど止んだ時の呟きだったために、その声は部屋中に響いてしまい、隊士全員の目が沖田に集中した。

「沖田さん、その話本当ですか?土方さんが大鳥さんに『母親じゃあるまいし』って言われたのって」

「ええ、横で聞いていましたので。でも昔に比べたら土方さんだいぶ丸くなっていますよね?」

「確かにそんな感じはしていましたが、まさか隊士以外の人から指摘されるとは」

 中島の言葉に皆も笑う。確かに近藤の斬首を聞いてから土方の隊士らに対する態度は変わってきている。それは時間が経過するに従ってますます大きくなってきているようだ。
 そしてその変化を隊士たちも好意的に受け取っていた。というよりは転戦に継ぐ転戦によって土方と隊士らの絆が更に強く、深いものになってきているのだろう。

 この絆の強さは蝦夷上陸後にますます強くなってゆく。あぶれた藩士達が多く入隊してきた新選組とはまた別個に、土方親衛隊とも言える『守衛新選組』が結成されるのもこの直後のことである。



UP DATE 2017.1.14

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『夏虫』最終章の本編にようやく突入いたしました(๑•̀ㅂ•́)و✧
いや~難産(>_<)というか、やはりどんな話でも書き始めは難しいんですよ・・・特に最終章の始まりなだけにどうしようかと悩みました(^_^;)でもとりあえず滑り出せたので、あとは最終話まで流れてくれれば・・・(希望的観測)

蝦夷上陸ですが、旧幕府軍としてはやはり時間が欲しいところ。仙台に残してきた仲間も迎えに行きたいですしねぇ。更に時間稼ぎをして、本格的な雪の季節になれば新政府軍は無謀な攻撃は仕掛けてこないでしょう。そうすれば冬の間に軍を立て直すことができるという思惑もあったのかもしれません。また、函館に突入したとしても敵がこちら側より優れた武器を持っていたらあっという間に敗戦ですからねぇ(´・ω・`)そこは幹部として慎重にならざるを得なかったのだと思います。
その一方、攻撃を受けない艦内の新選組はのんびりモードwww我らが土方隊長をオカン呼ばわりしております(^_^;)確かにあのマメさに優しさが加われば完璧な『オカン』でしょう/(^o^)\しかしそれが却って旧来の新選組の結束を固め、『守衛新選組』となってゆきます。この話にも新選組本隊よりこちらの守衛新選組のほうが多く出るかと・・・のこりあと1章、宜しかったらお付き合いくださいませm(_ _)m
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