「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十一章

夏虫~新選組異聞~ 第十一章・序

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 中越と婚約者の智香子は、翌日朝八時に改めて沖田老人の自宅を訪問した。そして昨晩のうちに佳世がまとめていてくれていた荷物を持つと、小田原へと出立した。



 江戸時代であれば丸一日かけなければ到着出来ない小田原だが、大正時代の今では多くの汽車、電車が行き交っている。鈍行でも半日もあれば余裕で小田原に行けるのだ。
 しかし元々体調を崩していた沖田老人にとってはそんな短い旅でも体に堪えた。フラフラになりつつ佳世の家に到着するなり、すぐに寝込んでしまったのである。

「中越さん、智香子さん、今日は本当にありがとうございました」

 沖田老人を眠らせた後、娘の佳世が二人に頭を下げた。辛うじて自宅までは倒れずに済んだ沖田老人だったが、道中倒れるようなことがあったら佳世だけではどうにもならなかっただろう。

「いえいえ、こちらこそお・・・・・・藤堂さんにはお世話になっておりますので」

 ついいつもの癖で『沖田』と口走りそうになった中越は、慌てて言い直す。これならば気が付かれないだろう――――――そんなほんの僅か無い言い淀みだったはずだが、聞いていた相手はその小さな言い淀みに気がついていた。

「父は・・・・・・いえ、沖田総司は中越さんたちには本名を名乗っていたのですか?」

 まさか佳世からその名前が出てくるとは思っていなかった中越と智香子は、驚きを露わにする。

「お佳世さん、何故その名前を・・・・・・」

 すると佳世は寂しげに微笑みながらその理由を教えてくれた。

「生前、母から聞きました。私がここに嫁ぐ前日に全てを――――――確かに不幸な出来事で母は私を孕み、産みました。しかし、父はそれさえも全て受け入れ、私を実の娘と同様に育ててくれたんです。むしろ、母以上に愛情を注いでくれたかもしれません」

 佳世は沖田が寝ている隣室へ視線をやりつつ、呟いた。

「そう、だったんですか」

 言葉に窮した中越は辛うじてそれだけ言うと黙りこくってしまう。

「・・・・・・本当は、こちらに到着した際に残りのお話を聞こうと思ったのですが、流石に今日は無理そうですね。後日改めて」

「そうしていただけると助かります」

 既に時刻は4時を過ぎている。横浜へ帰ることを考えるとそろそろ出立するべきだろう。

「では挨拶と次回の約束だけ・・・・・・でも、起きていらっしゃいますかね」

 心配そうに中越は隣の部屋を覗き込むと、その物音に目覚めてしまった沖田老人が目を覚ましたところだった。

「すみません、起こしてしまったようですね」

 上半身を起こした沖田老人に中越が謝る。

「いえいえ、お気遣いなく。久しぶりの遠出は堪えますな。昔は蝦夷に到着した直後の強行軍も何とも思わなかったものなのに」

 沖田老人は懐かしむように遠くに視線を飛ばす。

「そのお話、続きを聞きたいのは山々なのですが、今日は流石にお疲れですよね?近々――――――来週か、再来週にでも時間を取って改めてお話を伺いたいんですけど」

 すると沖田老人は何を思ったのか、はっきりと首を横に振った。

「いえいえ、そこまでご足労願うにも申し訳ない――――――佳世、中越さんたちをお泊めする部屋はあるかい?」

「ええ、ありますよ」

 夏の昼は長いとは言え、日は西に傾きかけている。沖田老人の話の長さにもよるが、最後まで話を聞いていたら確実に終電には間に合わないだろう。

「では、お佳世さん。お言葉に甘えさせていただきます」

 中越が答える前に智香子が口を挟んだ。

「え、智香子さん?あなたは近くの旅館なりホテルに泊まっても・・・・・・」

 婚約中とは言え流石に同じ屋根の下に泊まるのは如何なものかと中越が言おうとしたが、それをピシャリと智香子は黙らせる。

「冗談じゃありませんわ。おじいちゃんの面白いお話を独り占めしようだなんて。私も最後の最後までご相伴させていただきます!」

 智香子の勢いにたじたじになる中越を見て、沖田老人は思わず笑い出す。

「ははは!結婚なされたら確実にかかぁ天下ですな。尤も夫婦なんてそれくらいが丁度いいかもしれませんが」

 沖田老人は大きく息を吸う。

「では、早速始めましょうか」

「ちょっと待ってくださいな、お父さん。せめて夕餉を食べてからでも良いでしょう?作五郎さんが患者さんから鮎を沢山頂いたんですって。私達だけじゃ食べきれないし、お二人にも食べていただいてもいいでしょう?」

「ああ、それは良いね。じゃあそれをお出しして」

「何から何までありがとうございます」

 泊めてもらうだけでなく夕食までごちそうになるとは――――――何から何まで世話になっている佳世に、二人は深々と頭を下げた。



 どうやら佳世の夫は貧しい患者からは診療代を物品で支払わせているらしい。地主や企業から資金援助受け、無料診察もできるのだがやはりそれだと気兼ねして病院に来なくなってしまう者もいるらしい。大根一本でも喜んで診療を行っている作五郎の人柄を慕ってか、診療所は盛況で、物品払いも家族が食べきれないほど集まってくる。鮎もそのうちの一つであり、中越は生まれて初めて食べきれないほどの鮎を食べることとなった。

「羽目をはずしてしまってすみません。美味しくてつい」

 膨れた腹を擦りながら中越は苦笑いを浮かべる。

「いえいえ、酒匂川の鮎は地元じゃ美味で有名ですからね」

 一匹だけとは言え、しっかり鮎を平らげた沖田老人もにこやかに微笑む。電球の下とは言えだいぶ顔色は良いようだ。

「では、鮎の力を借りまして最後の話といたしましょうか。我々が蝦夷に到着したのは十月も終わりの頃、既に雪が振り始めておりました――――――」

 もうすぐ立秋を迎える真夏の夜が、一瞬にして凍てつく蝦夷へと変わる。淡々とした沖田老人の語り口だが、そこには得も言われぬ迫力があった。まるで老木が命絶える前に満開の花を咲かせるがごとく――――――不吉な予感を孕みつつ、中越と智香子は沖田老人の話にのめり込んでいった。




UP DATE 2017.1.7

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終わりの始まりである第十一章、ようやく始めることが出来ましたε-(´∀`*)ホッ
ホームグラウンドから転戦に転戦を重ね、最後の地となる函館に到着する旧幕府軍。雪の中の行軍は必死だったと思われます。しかし戦争以外の部分で不協和音が鳴り始めるのもこの時期で・・・(´・ω・`)
そんな中、新撰組はどう戦っていったのか、そしてどう散っていったのか――――――そして沖田と小夜はどうやって横浜に落ち延びたのか。どんな話でも着地は難しいものですが、それだけに慎重に話を進め上手く不時着できればと思います(*^_^*)
本編残りが(たぶん)30話弱・・・もしかしたらそれ以上になるかもしれませんが今年中には完結を迎えられるかと。数年に渡り長マガト続いてきた話ですが、できれば最後までお付き合いのほどよろしくお願いいたしますm(_ _)m
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