「短編小説」
江戸瞽女の唄

江戸瞽女の唄~新春の疫病神

 ←烏のがらくた箱~その三百五十三・今年もお世話になりましたm(_ _)m →鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~偉大なる熊本城2
 新春の空に鳶の声、そして遠くから微かに汽車の音が聞こえてくる。江戸瞽女のみわと、その手引の隼人は国道1号を脇道に逸れ、汽車の音がする方向――――――遊行寺へと向かっていた。

「電車、乗りたかったなぁ。乗ったら国府津まで半日で行けるのに」

 みわがぽつりと呟く。鉄道が張り巡らされた昭和初期、関東地方内の目的地に行くだけなら半日もあれば到着するだろう。しかし門付けの得意先を廻りながらの旅はそうは行かない。江戸時代と変わらぬ徒歩の旅、否、それ以上の長旅を強いられる。

「仕方ねぇだろ。藤沢までは街道沿いにお得意が多いんだからよ・・・・・・とは言っても一軒一軒の距離は長いけど」

 単純に歩くだけなら一日半で辿り着くはずの藤沢だが、得意先に立ち寄りながらだと五日かかってしまう。だが、みわ達の旅が大変な理由はそれだけではなかった。関東大震災――――――数年前の地震による被害が未だに尾を引いているのである。
 関東大震災の際、目の不自由な瞽女仲間の多くが逃げ遅れてしまい、みわ達が属している江戸瞽女の一門は壊滅的なダメージを受けてしまっていた。上得意の多くは他の地域の瞽女に半分以上奪われ、生き残った瞽女の負担は増している。だが、その客さえ失ってしまったら生活していくことさえできないのだ。

「俣野さんのところで春駒を歌ったら国府津まで電車に乗るから、それまでは辛抱しろ」

 そうこうしているうちに二人は遊行寺に辿り着いた。初詣客で――――――というよりは、近くにある遊郭目当ての客で賑わっているが、遊行寺の本堂はまだ震災被害の修理途中だ。

「まだ直らねぇな。一体いつになったら・・・・・・おい、おみわ」

 手引の隼人の手を離れみわはふらりと近くの銀杏の木へと向かう。そこにはしくしくと泣きじゃくっている子供が居た。今どきの子供とは違い、白く、古風な狩衣を身に着けている。

「どうしたの?」

 みわは泣きじゃくっている子供の傍にしゃがみ、見えない目でその顔を覗き込む。その姿はまるで子供の姿が『見えている』ようだ。そんなみわに気がついた子供は顔を上げ、みわに訴えた

「御印が・・・・・・門松もお飾りも無くてお家に入れないの」

「おい、おみわ。追い出された歳神にいちいちかまっていたら日が暮れちまうぞ」

 隼人は渋い表情を浮かべつつ、子供の歳神を牽制するようにみわに近づいていった。



 隼人とみわは東京生まれではない。とある村から東京にやってきたのだが、二人の出身の村では時に『人でないモノ』を見る能力を持つものがまま生まれる事があった。そしてみわと隼人はその能力を偶然にも持ち合わせていた。
 だがそのようなものにいちいちかまっていたら身が持たない。なので隼人はできるだけ無視を決め込もうとするのだが、みわは性格の優しさ故、ついついそういった『モノ』に関わってしまうのである。

「あそこのおうち。本当は入れるはずなのに御印もないし、疫病神もいるの」

 みわの優しさに訴えるように子供の歳神は一つの家を指差した。その家には門松はおろかしめ縄一つさえ飾っていない。明らかに荒んでいる家の前にはニヤニヤと嗤っている疫病神が居座っている。その疫病神のせいで歳神は家に入ることが出来ないのだ。

「かなり厄介そうな疫病神ね」

 みわは見えない目を疫病神の方へ向ける。盲目のみわだが『この世のものではないもの』だけは何故かはっきりと見えるらしい。だが見えるからと言って関わってはいけないものもある。特に疫病神のように人に災いをもたらすものは尚更だ。

「おみわ、もういいだろ。その歳神も遊行寺に連れていけばいいだろう」

 隼人はみわの手を取り立ち上がらせる。そして歳神に声をかけた。

「俺達についてくることはできるだろ?すぐそこの遊行寺ならばきっとあんたを迎え入れてくれる人間が居るはずだ」

 疫病神に魅入られた家が立ち直ることは極めて難しい。それこそ家に住む者達の血の滲むような努力や、神職や僧都によるお祓いがない限り、末代まで祟られるのがおちだ。そして迂闊に近寄るものもまたしかり――――――隼人やみわはそんな家や人をいくつも見てきている。

「震災から6年も経つのに、疫病神の多さは相変わらずだな。景気が良くなりゃ少しは減るんだろうけどよ」

 ケタケタと人を小馬鹿にする嗤いを立てる疫病神を背に二人と歳神はその場を離れていった。




UP DATE 2017.1.1 

Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ

INランキング参加中v
こちらはブログ村の小説ランキングにリンクしております。




こちらは画像表示型ランキングですv




例年であれば旧年中にUPする拍手文新作ですが、今年はインフルエンザの影響で新年にまでずれ込んでしまいました(>_<)しかも設定だけはやけに多いのに短編過ぎてわけのわからない話になってしまった・・・本当に反省しておりますorz
というわけで、簡単な設定をば以下に書かせていただきますm(_ _)m


時代:昭和四年前後。関東大震災の傷跡がまだ残っているもののだいぶ復興が進んでいる時代ですね(*^_^*)
ただ、現代以上に格差も大きかった時代、ふと横道に逸れると魑魅魍魎のたぐいが蠢いている闇が広がっている、といったところでしょうか。この話では現実のもの&精霊に近い神仏&狐狸妖怪などをひっくるめて『怪しげなもの』としております。
(ゆる~い感じで『やばいもん』と認識していただければ^^;)

登場人物
みわ:江戸瞽女の娘。だいたい18~20歳位の設定(関東大震災の時、瞽女の師匠について2~3年といったところ)同郷出身の手引・隼人と組んで東京近郊のドサ回りをしている。全盲の瞽女ではあるが、『この世のものではないもの』ははっきりと見える、というか肉眼での認識では無いと思われマス(^_^;)性格は『ほやや~ん』と言ったところでしょうか。危なっかしく、いろいろな意味で『手引』が必要。
隼人:みわと同郷の青年で、瞽女の世話係(手引)をしている。何故彼が手引になったのかは追々話に書かせていただきますが、ちょっと複雑な事情がありまして・・・単純にみわを追いかけて、というだけではありません。
彼もみわと同様『この世のものではないモノ』を感じる力がありますが、みわほど強くはないですね。うっすらと感じる程度&危険なものから逃げる判断力がある程度です(^_^;)

基本的に不条理で薄暗く、私の作品にしては後味が悪い作品が多くなる可能性があります。今回も疫病神に取り憑かれた家を助けるわけでもなく、歳神と共に逃げちゃっていますので(´・ω・`)
悪と正々堂々戦えるヒーローはいませんので、それが地雷でなければ一年間お付き合いのほどよろしくお願いしますm(_ _)m
関連記事
スポンサーサイト

 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のがらくた箱~その三百五十三・今年もお世話になりましたm(_ _)m】へ  【鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~偉大なる熊本城2】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のがらくた箱~その三百五十三・今年もお世話になりましたm(_ _)m】へ
  • 【鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~偉大なる熊本城2】へ