「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章・結

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 一陣の夏風が、潮の香りを伴って部屋の中を吹き抜ける。その瞬間中越と智香子は我に返った。そう、ここは船に乗り込もうと幕府軍の兵士がひしめき合う仙台港ではなく、穏やかな汽笛の音が響き渡る横浜なのだ。
 初冬の幕末――――――否、明治初頭から一気に大正に引き戻された二人は、妙な居心地の悪さを感じた。まるで自分達が幕末人で、無理やり大正時代に吹き飛ばされるような感覚、とでも言うのだろうか。それほどまでに沖田老人の話は真に迫っており、過去と現在の境界を曖昧にさせていた。

「ああ、いつもながら沖田さんの話には夢中にさせられてしまいます」

 中越は大きく息を吐きだしながら沖田老人に笑いかけた。首筋や背中はじっとりと汗ばんでいるが、沖田老人の話が終わるまで全く気づくことはなかった。むしろ濃霧の中の母成峠の話や初冬の仙台港の話を聞いているときなどは寒ささえ感じたほどだ。それは智香子も同様らしく、レースのハンケチで自らの首筋を押さえている。そんな二人を沖田老人は目を細め見つめた。

「そう言っていただけると光栄です。ようやく仙台まで来ましたからね。あとは蝦夷だけなんですが・・・・・・今日はだいぶ遅くなってしまいましたね」

 気がつけばだいぶ日が西に傾いている。夏場故に油断していたが、もう夕方の六時を過ぎていた。既に夕飯時だ。

「でしたら近くの鰻屋から出前でも取りましょうか。勿論僕のおごりで。丑の日じゃないですけど、土用のうなぎで少しは精をつけてもらいますよ」

 話が終わる目前で、沖田老人に倒れられては堪らない。今までの話の謝礼の意味も込め、中越は沖田に鰻を提案する。

「ははは、中越さんもしっかりしていらっしゃいますね。こりゃ全部話しきらないと離してもらえ無さそうだ」

 取材が終わるまで相手を離さない、新聞記者根性を垣間見せた中越に、沖田老人は思わず笑う。そんな沖田老人につられ、中越や智香子も思わず吹き出してしまった。



 佳世がやってきたのは空になった重箱を洗っている最中であった。

「中越さん、本当に有難うございます。まさか父がこんなに早く倒れるとは思ってもいなくて」

 中越の顔を見るなり、佳世は深々と頭を下げる。そして沖田老人の傍に近寄ると、諭すように訴えた。

「お父さん、もういい加減一緒に小田原で暮らしましょう。お母さんの一周忌も無事終わったんだし、いつまでも横浜にこだわらなくてもいいでしょう?作五郎さんもそうしよう、って言ってくれているんだし」

 一ヶ月前の元気な沖田だったら娘の申し出をあっさり断っていただろう。だが、自分自身何か感じているのか、沖田老人は佳世の申し出をあっさりと受け入れた。

「でしたら、僕にも引っ越しのお手伝いをさせて頂けますでしょうか」

 傍で話を聞いていた中越が申しでる。尤も引っ越しとは言え沖田老人の持ち物は極めて少ない。柳行李一つどころか半分で済んでしまうかもしれない。一番かさばるものは小夜の遺品である薬箱だろうか。だが老人や女性がまとめて小田原まで持っていくとなると少々厄介だ。中越はそこに敢えて手を上げたのである。

「ささやかではありますが、今まで取材させて頂いたお礼をしたいんです。それと・・・・・」

 中越が少し言い淀む。すると沖田老人が気を利かせ、言葉を繋いだ。

「確かに最後の最後で尻切れトンボはありませんよね。勿論最後の最後までお話はいたしますよ」

 沖田老人の言葉に中越は安堵の笑みを零す。

「申し訳ございませんが、よろしくお願いします」

 長い、長い話も始末はきちんと付けなければならない――――――それが果たせることを確信した中越は改めて沖田老人に深々と頭を下げた。



 翌日、朝八時に再び訪問することを約束し、中越と智香子は沖田老人宅を後にした。

「何とか沖田さんから全部の話を聞けそうだな」

 中越の呟きに智香子も頷く。

「ええ。最後の最後で聞きそびれることだけはしたくありませんものね。小夜先生が函館でどんな活躍をされたのか、そして二人がどうやって横浜に戻ってきたのか・・・・・・そこまで聞かないとこの話は終わりませんもの」

 智香子の言葉は、そのまま中越の気持ちでもあった。

「浪士達の救済から始まった新選組が、紆余曲折を経ながらここまで成長するなんて、当時は誰も思わなかったでしょう。ここは最後の始末まで聞かないことには終われませんよ・・・・・・あ、そうだ。明日有給を取るのをこれから言いに行かないと。この時間だったら多分山代さんか編集長はまだ会社に居るはずだよな」

 早くも西に傾きかけた上弦の月に照らされつつ、中越は熱のこもった夜気を胸いっぱいに吸い込んだ。




UP DATE 2016.12.24

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第十章・会津戦争編もようやく終りを迎えました(*´ω`*)そしてジジィ総司はとうとう娘と同居するために小田原へ行くことに/(^o^)\
流石に身体だけは丈夫な頑固爺も覚悟を決めたようです(´・ω・`)

しかし函館の話は一体どこで聞くことになるのでしょうか?流石に佳世や他の乗客がいる電車の中は難しいでしょうから、小田原で、ということになるのでしょう。そのつもりで中越も悠久をもぎ取るようですし・・・流石に溜まりに溜まっているだろうしなぁ(^_^;)

来週31日は『夏虫』はおやすみさせていただき、十一章開始は年明け1月7日とさせていただきます。
(なお、来週31日は新作拍手文UPの予定です^^こちらも宜しかったらご贔屓に(*´ω`*)』
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