「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第二十七話 さらば、会津・其の参

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 九月三日、会津若松では官軍の総攻撃が行われている最中、松平定敬と共に先に会津を脱した土方は、仙台での軍事会議にて榎本武揚より総督就任の推薦を受けていた。
 しかし『生殺与奪の権限は藩主にある』と二本松藩らが二の足を踏んだため、この話は立ち消えになる。
 それでも幕府軍は反撃を試みようとあらゆる手を打とうとするが、その努力をあざ笑うかのように九月八日には元号が改元され明治となり、仙台を始めとする奥州列藩同盟の同盟各藩が次々に官軍に恭順を示し始めた。
 このような状況の中、幕府軍に残された手は限られ、榎本は仙台から函館へ軍を進めることを決意する。



 その頃、大鳥圭介率いる新選組は榎本艦隊が入港した仙台へと向かっていた。戦いによりだいぶ数を減らしていた新選組だが、それ以上に先が見えない状況に疲労が積み重なっている。更に十二日の夜は大雨に祟られ、ずぶ濡れになりながらその日の宿である桑折に到着した。できればもう一つ前の瀬の上に宿陣したかったのだが、そこには先に仙台兵が到着しており、幕府軍を泊める余裕が無かったのである。

「それにしてもひどい雨でしたね」

 濡れた軍服を脱ぎ、下帯一丁になった沖田が皆に声をかける。否、下帯一丁なのは沖田だけではない。狭い部屋に押し込められた新選組全員が雨に濡れてしまった服を脱ぎ、下帯一丁、またはそれさえも付けない裸になっていた。東北の初冬はかなり寒い。雨に濡れたままの軍服を着続けていたら間違いなく風邪をひくだろう。
 褌一丁でも寒いことは寒いが、狭い部屋の中に押し込められた状況ならば何とか寒さは凌げる。更に上田と鉄之介の小姓組が薄っぺらい布団や掻巻を見つけてきたので、我先にとそれにくるまり暖を取っていた。

「それにしても二人共、よくこれだけの布団や掻巻を見つけてきましたね」

「ええ。宿の主にちょっと話を・・・・・・」

「銭掴ませてありったけの布団引っ張り出させたって正直に言えばええやん」

 言葉を濁そうとした上田を遮り、鉄之助が本当のことを言ってしまう。それを聞いて、沖田は思わず頷く。

「なるほどね。土方さんが鉄くんを連れて行かずに私達に預けた理由がよく判りましたよ」

 得てして元々武士だったものは交渉事が苦手である。土方もその辺を見越していたのだろう。元々国友村で小銃の売り込みをしていた鉄之助を新選組本隊につけて交渉事に備えていたようだ。そんな土方の気働きに沖田が感心した、まさにその時である。

「新選組、この雨で風邪などひいたものはいないだろうね?」

 見回りに来た大鳥が新選組の隊士を覗きにきたのである。その一声に沖田は下帯のまま慌てて身を正す。

「お見苦しい格好で申し訳ありません。お陰様で風邪の方は大丈夫ですが・・・・・・」

 沖田は大鳥に謝りつつ更に言葉を続ける。

「皆、かなり疲れ果ててはいます。折角宿場に泊まらせてもらっているのに、誰一人飯盛が欲しいと云わないんです」

 冗談とも本気とも取れない沖田の言葉に、傍に居た蟻通勘吾も賛同する。

「確かに言われてみれば。戦闘から三日もすれば、必ず誰か一人か二人くらいは『飯盛も居ないのか!』って騒ぎ出すのに」

 蟻通の茶化すような一言に皆が一斉に笑い出し、大鳥もそれにつられて大笑いをした。

「しかし、それは君達が京都や江戸の美女に慣れてしまったからじゃないのか?流石に田舎の鄙びた飯盛に食指が動かないだけとか」

 ようやく笑いを収めた大鳥が尋ねるが、それをあっさり否定したのは大鳥のすぐそばに居た島田だった。

「残念ながら。新選組は昔から土方さんによって、おなごの容姿に一切文句を言わないよう厳しく躾けられているんです。新選組で面食いが許されていたのは今は亡き近藤局長と伊東参謀くらいですよ」

「土方くんは?」

「全くですよ。許嫁は美人ですけど、遊びに関しては床上手なら顔は全く・・・・・・あ、でも気が強いおなごが良いみたいですけどね」

「確かに。多少厄介な方が落とし甲斐があるって豪語していましたし」

「土方隊長には言いよってくるおなごが多いですからね。むしろ容姿だけでは左右されないと言ったほうが」

「・・・・・・色男もなかなかだね」

 隊士達の暴露合戦に大鳥は苦笑いを浮かべる。

「となると、仙台は土方くん好みの土地といえるかもしれないね。伊達の城下のおなごたちは会津並みに気が強い」

 その一言にその場は再び笑いに包まれた。

「明後日には仙台に着くだろう。その際、部隊の再編成もあるかもしれないから、新選組は新入隊士を受け入れられるようにしていてくれ」

「我々は解散しなくても大丈夫なんですか?」

 沖田が少しばかり不安そうな表情を浮かべながら尋ねる。土方も新選組と共に活動できない中、いつ新選組が解散となり他の隊に組み込まれてもおかしくないのだ。だが大鳥はそんな沖田の心配事を一蹴する。

「ああ、勿論だ。解散するには新選組はあまりにも有名過ぎる。また遊撃隊としても優秀だからね。これからの戦いで君らはますます必要とされるだろう」

 大鳥の力強い言葉は、そのまま新選組は先陣で戦い続けるということを意味していた。



 幕府軍本隊よりひと足早く仙台に到着していた松本一行は、早速重傷者の世話を始めていた。馬や戸板に乗せられていたとは言え、道中ではろくな手当も出来ていない。幕府軍がどの方向へ向かうのかまだ定かではないが、動けるようになるのであればそれに越したことはない。

「おい、お小夜。どうした?まだあのガキどもが着いていないのか?」

「へぇ。幾ら遅れてるから言うてもそろそろやと思うんですけど」

 小夜は心配そうに窓から身を乗り出しながら呟く。旅籠の一軒を借りた仮の診療所の窓からは街道がよく見える。というか、後からやってきた怪我人にも判りやすいようここに設置されたのだ。だが、季節も季節だけに街道を通るものは殆どおらず、ごくたまに他の土地からやってきた武装兵士が通り過ぎる程度である。

「そろそろ来てもらわへんと夜に・・・・・あっ!」

 遠くの方に四人連れの小さな影が見えたのだ。その小さな影に気がついた小夜は、窓から更に身を乗り出して大声をかけた。

「良ちゃんたち!こっちや!よう頑張ったな!」

 すると向こうも気がついたらしく、一気に走ってやってきた。

「うわぁ!やっと追いついた!」

 田村銀次郎がまず最初に玄関に飛び込んでくる。そして次々と子供らが入ってきた最後に、玉置良蔵が入ってきた。玄関に回ってきた小夜はその姿を見た瞬間、思わず息を呑む。

「良ちゃん?その、胸元は・・・・・・・?」

 思わず指で指してしまった玉置の胸元は、どす黒く汚れていた。



 玉置が身につけている洋装もどきの新選組の隊服は、明らかに泥や水とは違う汚れによって変色していた。もしかして道中で吐血でもしてしまったのか――――――険しい表情を浮かべる小夜に、玉置は少し困ったように眉を下げ、口を開いた。

「ああ、これですか。これは・・・・・・」

「すごいんだよ、良ちゃん!俺達を守って敵を斬り殺したんだ!」

「そうそう!暗闇からいきなり敵が飛び出してきた時はどうなるかと思ったけどさ。強かったよなぁ」

「新選組になれば俺達もアレくらい強くなれるんでしょ?俺、新選組に入隊するんだ!」

 無邪気に騒ぐ年少者を前に、玉置は複雑な笑みを浮かべた。どうやら道中に敵――――――もしかしたら物取りのたぐいかもしれないが――――――に襲われ、その返り血が胸にかかってしまったらしい。

「敵を斬り殺したって・・・・・・ほんま?」

 ほんの少しだけ表情を緩めた小夜に、玉置が照れくさそうに頭を掻いた。

「ええ。でもまともに返り血を浴びてしまって。土方隊長や沖田さん、斎藤さんみたいに一滴の返り値を浴びずに敵を倒すって難しくて・・・・・・ごほっ」

 不意に玉置が咳き込み、その場に座り込む。

「良ちゃん?」

 小夜は裸足のまま土間に駆け下り、近づく。すると真新しい、喀血独特の臭気が鼻を突いた。

「松本センセ呼んできて!それと良ちゃんを運んでくれる男衆を!」

 小夜の叫びに驚いてしまった少年たちは、体を強張らせてしまい、動けなくなる。

「早う!男の子やろ?こんなことで怯えてたら強いお侍はんにはなれまへんえ?」

 怯え、動けなくなった少年たちを小夜が苛立たしげに一喝する。だが、少年たちが動く前に小夜の声を聞きつけた松本と軽傷者が玄関に飛び出してきた。

「どうした、お小夜?おう、玉置・・・・・・喀血か?」

 松本の声に気がついた玉置が慌てて姿勢を正す。

「だ、大丈夫です・・・・・・ごほごほっ」

 自分は大丈夫だと取り繕うとした玉置だったが、再び激しく咳き込みその場に両手両膝をつく。その瞬間あらわになった細い顎は、胸元の古ぼけた血とは明らかに違う、新たな血で汚れていた。




UP DATE 2016.12.10

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会津を離れた幕府軍は徐々に仙台に集結し始めました。そんな中、土方は榎本と再会、榎本から提督に推薦されておりますが『オトナの事情』によりそれは立ち消えに(-_-;)ここに来ても身分云々がでてしまう、これが幕府軍の限界なのでしょう(>_<)

一方大鳥率いる幕府軍本隊も仙台に近づいております(๑•̀ㅂ•́)و✧雨に祟られ、褌一丁&全裸で狭い部屋に押し込められている新選組のむさ苦しさは筆舌に尽くしがたいものがありますが、こうでもしないと確実に風邪を引きます(^_^;)たまたま鉄之介の交渉力により布団&掻巻をかき集められましたが、もし彼が居なかったら間違いなく一晩裸で過ごすことになったかと・・・(-_-;)戦闘以外も行軍は過酷です/(^o^)\

更に怪我人組ですが、チビ達四人衆も辛うじて松本法眼らに追いつくことが出来ました(≧∇≦)しかしその途中玉置は暴漢を斬りつけ体力を消耗し、更に長旅でダメージを受けてしまったようでして(´・ω・`)
喀血を見てしまった玉置、本来なら仙台に残ることになるのですが、大人しく人の言うことなんて聞くとは思えないし(その辺は鉄之助以上に上司によく似ている^^;)

次回12/17は第十章本編最終話となります。誰が仙台に残り、誰が函館へ向かうのか・・・何とか今年中に第十章が終わるめどが付いてホッとしております(^_^;)
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S様、いつもコメントありがとうございますm(_ _)m 

こんにちは。そうなんです、次回で第十章本編は終了いたします。
玉置くんの容態に関しては次章に持ち越しになりそうですが、宜しかったらお付き合いよろしくお願いいたしますm(_ _)m
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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