「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第二十六話 さらば、会津・其の貳

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 土方への別れの挨拶の後、斎藤は借りた刀を沖田へ返すため天寧寺に出向いた。沖田本人にも、そして別れ際の土方にも『気にすることはない』と言われたが、双方戦いはこれからも続くのだ。どんな物であれ使える『武器』は返しておくべきだろう――――――そんな思いがあった。

「あ、斎藤さん!よくぞご無事で!」

 天寧寺にやってきた斎藤に気がついた沖田や古参隊士らが、わらわらと斎藤の周囲に集まってくる。濃霧の山中ではぐれ、もしかしたら戦死したのでは?と諦めかけていた最中の登場に、皆の気勢が高ぶる。そんな仲間たちを見回しながら斎藤は口を開いた。

「ああ、ものの見事に死に損なった」

 表情一つ変えずにそう言いながら、斎藤は腰に差してあった大刀を引き抜き沖田に差し出す。

「沖田さんにこいつを返しに来たんだ」

「・・・・・・まるで永の別れのような物言いですね。わざわざ来たようなそのもの良い」

 これからも共に戦うのであれば、礼だけ言って返すものだろう――――――沖田の指摘に斎藤はほんの少しだけ眉間にしわを寄せたあと、小さく頷いた。

「ああ。俺は会津に残る」

 その一言に周囲は騒然とするが、ただ一人沖田だけは納得の笑顔を見せた。

「でしょうね。斎藤さんが会津を見捨てるはずはありませんし」

 沖田はそう言うと、大刀を握りしめたまま差し出された斎藤の手をやんわりと押し戻した。

「だったらそれはそのまま持っていてください。餞別代わり、というには使いづらいものですけど武器はいくらあっても足りないでしょう」

 沖田は斎藤が思っていた事と同じ物言いをした後、その場に集まっていた隊士らに声をかけた。

「斎藤さんと共に会津に残って戦いたいと思っている人は出てきてください!たぶんこれが最後の機会になります!」

「おい、沖田さん」

 幕府軍だって一人でも多くの兵士が必要な筈だ。それなのに何故そんな呼びかけすするのか――――――流石に斎藤も驚きの表情を露わにするが、沖田は構わず更に声がけをする。

「未練を残しながら会津を後にしても良いことはありません!会津に残って官軍と戦うことを選ぶならば斎藤さんに、会津を発って仙台に向かう人は私に付いてきてください!」

 どこを最終の地にするか、それを自ら決めさせ向後の憂いをなくそうとしているのだ、と斎藤が気がついたその時、新選組の集団の中から十人ほどの隊士がゾロゾロと前に出てきた。会津に残るため、というよりは斎藤を慕って、と言ったほうが正しいかもしれない。どの顔も斎藤にとって気心の知れた、馴染みの顔である。

「では斎藤さん。彼らを頼みます。そしてご武運を」

 晴れやかな笑顔の沖田に斎藤もようやく微かな笑みを浮かべた。

「お互いにな。もう会うことはないだろうが・・・・・・健闘を祈っている」

 普段と変わらぬ平静さを保っている斎藤だったが、その力強い目が心なしか潤んでいるように沖田には見えた。



 母成峠の戦いで勝利した官軍は翌二十ニ日には猪苗代に到着、そのまま若松へ向けて進撃を続けた。台風による豪雨の中、川村純義率いる薩摩隊は猛進し、その日の夕方には十六橋に到達した。いわゆる十六橋の戦いである。
 会津藩の佐川官兵衛は先鋒総督として出陣し、官軍の若松進攻を阻止しようと十六橋の破壊を始めていたが、薩摩隊から銃撃された上に官軍の後続隊が相次いで到着するに至り、退却を余儀なくされた。
 官軍は橋を占領し復旧させるとこれを突破し、夜には戸の口原に進軍する。会津藩は佐川が戸ノ口・強清水・大野ヶ原に陣地を築いて防戦し、前藩主・松平容保も自ら白虎隊などの予備兵力をかき集めて滝沢村まで出陣した。しかし、容保は戸ノ口原の戦いで官軍が会津軍を破って滝沢峠に迫ったとの報告を受けると覚悟を決めたのか若松城へ帰城する。
 そして容保は実弟・松平定敬に後事を託し、米沢に向かわせるのだが、その一行の中に護衛として土方も含まれることとなる。



 本格的な会津決戦を前に、幕府軍の怪我人達は会津を離れ仙台へと向かっていた。できるだけ固まって移動を試みるが、やはりぽつり、ぽつりと遅れるものが現れてくる。

「・・・・・・あら?」

 小夜が『彼ら』の遅れに気がついたのは夕暮れ近くだった。小夜自身、重傷者を見ながらの行進だったので気がつくのが遅れたのだ。

「どうした、お小夜?」

「おちびちゃん達が遅れてしもうてるらしくて、見当たらないんですけど」

「はぁ?あのガキどもか」

 それは兄達の参戦に付いてきてしまった十歳から十四歳ほどの、元服前の少年らだった。新選組の小姓組とは違い武器も全く扱えないので怪我人ら共に松本が預かっていた者たちだ。

「確か良蔵も一緒だったよな?だったら大丈夫だろう。あいつは特に土方から喧嘩殺法を仕込まれているから」

「せやから心配なんどす土方副長が面白がってあの子に妙なことばかり教えるもんやから。病を持っているのに妙にきかん気ばかり強うて・・・・・・総司はんも『土方さんは子供たちにろくでもない事ばかり教える』って困ってはりました」

 小夜は心配を露わにする。小姓組の中でも一番年少で小柄な玉置でも、大人相手に引けを取らぬようにと土方は『土方流剣術』――――――土を蹴り上げ相手の目潰しをしたり、脚を引っ掛けたりという、良く言えば実践的、悪く言えば剣術というよりは喧嘩の仕方を教えこんでいたのだ。元々の気の強さと相まって、新選組の新入隊士相手ならそこそこ勝てるまでに腕を上げている。だがそれはあくまでも稽古の上でのことであり、戦場で敵に会った場合に通じるかどうかは怪しいところだ。
 だが、心配する小夜に対し、松本は至って平然としている。

「心配するな。良蔵は下手な大人よりよっぽど実戦経験を積んでいる。しかも他のガキが一緒ならば責任感も持つだろう。労咳さえ悪化しなけりゃ問題ない・・・・・・」

 そこまで言って松本は口を噤んだ。そう、玉置良蔵にとって本当の敵は自ら抱えている『労咳』という病なのだ。今はまだ喀血を見ていないので問題ないが、仙台までの強行軍でそれが悪化してしまえば治る見込みは無くなる。

「・・・・・・むしろ、無理せずゆっくり仙台にやってきて、労咳を悪化させねぇほうが良いのかも知れねぇ」

 元服前の、病持ちの子供にさえ無理を強要しなければならない現状に、松本はやるせなさを感じずには居られなかった。



 夕日が照らす街道を四人の少年が歩いていた。

「ねぇ、みんなぁ!待ってよぉ!」

「またかよ、銀之助!早くしろよ!」

 ともすれば遅れがちになる田村銀之助に、他の二人の少年が文句を言う。その中において玉木良蔵は我慢強く彼を待ち続けていた。

――――――たとえどんなに歩みが遅くても、一人ひとりが大事な戦力なんだよ。

 甲州勝沼の戦いに赴く際、遅れがちになる兵士達に玉置が文句を言った際、近藤が優しく窘めてくれた。それを思い出しながら、今度は玉置が同じように遅れがちになる年少の少年を辛抱強く待ち続ける。
 あの時は今よりも新選組隊士も多く、更に他の部隊も共に参戦していた。それだけに多少の遅れはそのまま放っておけば良いのでは?と思っていたが近藤はそれを見捨てることは決して無かった。
 当時はそれがまだるっこしかったが、仲間が一人、また一人と戦死していく中、たとえ子供であっても人材は貴重だということを身にしみている。

(これで良いんですよね、近藤局長)

 やっと追いついてきた田村に声をかけた後、玉置は再び歩き始める。喉や胸の痛みがひどくなっているような気がしたが、それを気にしている余裕は無い。とにかく無事にこの三人を仙台に連れて行かねばならないのだ。

(お願いだから・・・・・・仙台までは持ってくれ)

 玉置は無意識に胸に手を当てつつ強く願う。不幸中の幸いは、こんな状況の玉置より他の少年三人の歩みが遅いことだろう。この歩みの遅さゆえ、辛うじて玉置は喀血を見ずに済んでいると言っていいかもしれない。
 血の色に染まってゆく街道を進みつつ、玉置は苦しさに耐えるように唇を噛みしめた。



UP DATE 2016.12.3

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どんどん攻め入ってくる官軍に覚悟を決めたのでしょう、各方面で会津から落ち延びる面々が現れてまいりました(´・ω・`)
新選組はあともう数日会津に滞在するのですが、土方は松平定敬に従って米沢から仙台へ、そして怪我人達は松本良順に引率されて一足早く安全な仙台港へと向かっております。
しかし怪我人組、すでにはぐれてしまっている者も現れているようで・・・(´・ω・`)土方仕込みの土方流喧嘩殺法を身につけている者が若干一名おりますが非常に心許なく(^_^;)彼らが無事仙台に到着することを祈るばかりです(>_<)

次回更新は12/10、新選組本隊の動き&怪我人組の仙台到着あたりが書ければと思っております(^_^;)
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