「短編小説」
横浜芸妓とヒモ男

横浜芸妓とヒモ男~其の拾貳・老母には勝てず

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 慌ただしい年末年始―――――元々十二月三日だったものが一月一日になるという、とんでもない年末年始をようやく切り抜けたお鉄と仙吉は、仙吉の姉を迎える準備に勤しんでいた。
 基本的には馴染みのお茶屋の一室を押さえ宿泊もそちらでしてもらうことになっているが、自分達が住んでいる長屋も見たいという要望も無碍には出来ない。

「しかもこのついでに横浜見学もなんて・・・・・・母上をほったらかしてどういうつもりなんだ、姉上達は」

 ぼやく仙吉をお鉄は宥める。

「下女くらいはいるんだろ?だったら問題ないじゃないか。本当はこちらにも来ていただきたかったけどねぇ」

 足が悪いとのことなのでたぶん無理だろう。会いたければ自分達が東京に行けばいいと話はまとまり、四人の客――――――否、案内役の藤次郎を含めた五人の客を迎え入れるには少々狭い長屋を改めて拭き清め続けた。



 翌日、お鉄と仙吉は待ち合わせ場所である吉田橋の袂にいた。いわゆる『関内』への入り口である吉田橋は人通りが激しく、ともすると探し人を見失いがちになりそうだが案内役の藤次郎が仙吉の姉四人を宿泊させる茶屋を知らないので致し方がない。

「そろそろ来る頃なんだけどな・・・・・・あ、いた!」

 かなり遠くだったが、二人はすぐにその集団を見つけ出した。何せ他の者より頭一つどころか二つほども大きい大男と品は良いものの華やかな雰囲気をまとっている妙齢の四人姉妹の集団ともなれば嫌でも目立つ。更にその中央には駕籠がある。

「ねぇ、仙吉。もしかしてあの駕籠って」

「まさか、だよなぁ」

 胸騒ぎを覚えたその時、藤次郎が二人を見つけ声をかけた。

「おお~い、仙太郎!お鉄さん、おまたせしてすみません!」

 轟くような大声に周囲の視線が一気に仙吉とお鉄に集まる。

「藤次郎、声がでかすぎる」

 恥じ入る仙吉たちを気にすることもなく藤次郎達は二人の近くまでやってきた。

「仙太郎・・・・・・無事だったのね」

 仙吉を見て姉達が声をつまらせる。その時である。

「仙太郎・・・・・・仙太郎かえ?」

 駕籠の中から飛び出してきたのは、留守番をしているはずだった仙吉の母親であった。

「仙太郎・・・・・・生きていてくれたんだね!ああ、良かった!!」

 老母は仙吉にしがみつき、わんわんと泣き出す。その様子をお鉄を仙吉の姉四人、そして藤次郎は所在なげに見つめる。

「あの・・・・・・立ち話も何ですから場所を移りませんか?ここじゃ北風がまともにあたって皆さんが風を引いちまいます」

 お鉄の促しに長姉が頷く。

「そうですね。母も無理をしてここまで来ておりますし・・・・・・本当は今後の事も話したかったので、今回は姉妹だけで、と思っていたのですが」

 そう言いながら長姉がちらり、と藤次郎の方へ視線をやる。きっと仙吉の母親に迫られ横浜へ出向く日を口にしてしまったのだろう。できることなら今後の事を全て決めてから母親との対面を、と考えていたに違いない。長姉の心の底からの困惑顔は、お鉄に助けを求めているようにも見える。やはりここは自分が動いたほうが良さそうだと、未だ語り続けている仙吉らに声をかけた。

「仙吉さん、そろそろご家族を五十鈴楼に案内いたしましょう。あちらのほうがゆっくり話もできますし」

 お鉄の促しにようやく仙吉の老母も我に返り、今度はお鉄に頭を下げる。

「あなたがお鉄さん・・・・・・藤次郎さんからお話は伺いました。仙太郎を匿ってくださったとかで」

 身分云々より、愛しい我が子が生き延びていてくれたことがよっぽど嬉しかったらしい。こちらが申し訳なるほど何度も何度も老母は頭を下げる。

「いえいえ、大したことは何も・・・・・・それよりお風邪を召されませんよう、早くお茶屋へ行きましょう。私にも親孝行の真似事をさせてくださいませ」

 あまりに丁寧に頭を下げられてしまったのでお鉄は慌てる。そして仙吉の姉達もなんとも言えない苦笑いを浮かべた。どうやら誰もこの母親には勝てないらしい。それは茶屋へ到着してからも同様で、結局今回は顔見せだけになってしまったのは余談である。


 練習もそこそこの、お世辞にも上手いとはいえない門付け歌が街に流れる。それを耳にしながら新たな家族になる七人とおまけの一人は新春の横浜をそぞろ歩いた。




UP DATE 2015.10.26 

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今年の拍手文も12話目、まるっと一年分終了しました(●´ω`●)最後の落とし所はどうしようか散々迷った挙句、結局老母の末っ子可愛さになし崩しになってしまったという体たらくに(^_^;)
これは単純に嫁姑小姑のトラブルを入れると途端に話が長くなるからで、こうでもしないと拍手の範囲に収まらなかったとい裏話付きです/(^o^)\

この後日譚というか裏設定ですが『今後の事をきちんとして向後の憂いを無くしたい姉達』『同様に今後の事をきっちりさせて仙吉家族と上手く付き合っていきたいお鉄』『とにかく仙吉可愛さのあまり仙吉の傍を離れたがらない老母』『その狭間に挟まれにっちもさっちもいかない仙吉』の四つ巴のバトルが繰り広げられることとなります(^_^;)
最終的には長姉夫婦が家を継ぐこととなり、仙吉とお鉄が横浜で仙吉の母親を見ることになるのですが・・・そこまで書くとどこまで長くなるのやらやら/(^o^)\
ということで、『横浜芸妓とヒモ男』はこれにて完結とさせていただきます(*^_^*)一年間のお付き合い、誠にありがとうございましたm(_ _)m

次回(というか来年度)の拍手文は12/28、一応昭和初期の瞽女&手引を主人公とした和風ファンタジー?を予定しております(*^_^*)
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