「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第二十五話 さらば、会津・其の壹

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 濃霧の中、新選組は一気に街道を下りきり、土方が待つ猪苗代の陣屋へと転がり込んだ。幸い敵の部隊と出くわさなかったもの幸いし、息は切らしているものの新たな怪我人は一人も出なかった。

「新選組、只今帰還!」

 京都ではどんな戦いからの帰還でも丁寧な口調を崩さなかった沖田だが、流石に強行軍の逃走直後ではそうはいかず、荒っぽい怒鳴り声での帰還報告だ。そしてその声に驚き、慌てて陣屋の奥から飛び出してきたのはいつでも飛び出せるように武装したままの土方だった。

「総司?斎藤はどうしたんだ?まさか戦死したんじゃねぇだろうな?」

 斎藤が率いていた筈の新選組を沖田が率いて帰ってきた。嫌な予感に思わず声を上ずらせてしまった土方に対し、沖田もかなり興奮気味に応える。

「判りません!濃霧ではぐれてしまって・・・・・・少なくとも斎藤さんの亡骸は見当たりませんでした!」

 そう言い放つと、そのことで却って落ち着きを取り戻したのか沖田は戦況報告を始めた。

「土方さんや大鳥さんの読みが当たり母成峠に敵が押しかけてきました。しかもかなり大人数で・・・・・・大砲の数もかなりのものでしたので、それに気を取られていたら遊撃隊にやられたんです。その戦いの混乱の中、斎藤さんを含めて新選組も十名近くとはぐれてしまいました。霧が濃すぎて戦死なのか、はぐれただけなのかも判断できませんが」

 沖田の報告の中、隊士達は玄関の土間にへたり込み息を整えている。流石に汚れたまま陣屋へ上がり込むわけにもいかない。そんな隊士達に上田と鉄之助が茶を配り回っていた。強行軍での逃走に付け加え、濃霧で冷え切ってしまった身体に一杯の茶はありがたい。戦いで張り詰めていた気持ちがようやくその一杯で解け始める。
 そんな部下を見回しつつ、土方は沖田にも茶を渡せと鉄之助に命じた。

「とにかく一杯飲め・・・・・・大砲の音はこっちにまで聞こえていたが、実際は遊撃隊にしてやられた、ってところだな」

 そして茶を一通り配り終えた小姓達に何かを囁くと、土方は改めて沖田に告げる。

「おめぇ達は腹ごしらえをした後そのまま天寧寺で待機してろ。俺はこれから援軍を呼ぶが、猪苗代での戦いはねぇだろうな。多分そのまま仙台へ向かうことになるだろうからそのつもりでいろ」

「どういうことですか?」

 茶を飲んでいた手を途中で止め、沖田は小首を傾げる。すると土方は心持ち声を潜め事情を説明する。

「おめぇ達がここに帰ってくる前、会津藩兵の集団がそのまま猪苗代を通過し、若松方面へ向かっていったんだ。会津の気風なのか、そういう風にしろと上から命令が出ているのか、・・・・・・いや、気風じゃねぇな。少なくとも京都じゃ新選組に負けねぇ戦いをしていた。奴らは既に最終決戦に若松を、と覚悟しているんだろう」

「そんな・・・・・・」

 会津は既に負け戦を覚悟しているというのだろうか――――――湯呑みを持つ沖田の手に力がこもる。

「だが、俺達は会津と心中するわけにゃ行かねぇ。大鳥さんとも約束しているんだ。できるだけ兵力を温存して仙台に向かう。というか、もしかしたらおめぇに率いてもらうことになるな、総司」

「どういうことですか、土方さん?土方さんは一緒に仙台に行かないんですか?」

 微かに眉根を寄せ、不安そうな表情を浮かべた沖田に土方は『後からいく』と付け加えた。

「今回の戦いで幕府軍はだいぶ戦力を削がれている。その分を補わなけりゃならねぇだろうが。俺は各所に援軍を頼んだり、仙台への集結を呼びかけに動くつもりだ。伝習隊の被害がどれ位か判らねぇが、だいぶ被害を受けているみたいだしな」

「もしかして、そんなことまで大鳥さんに頼まれていたんですか?」

「いいや。これは俺の独断だ。だが大鳥さんだっておんなじように考えるだろうよ。とにかく今できることで最善を尽くさなけりゃならねぇんだからよ」

 土方の言葉に、沖田はようやく笑顔を見せ頷く。そして土方のこの考えは正しかった。翌日大鳥も丸一日山中をさまよった挙句猪苗代に降りてきたのだが、開口一番土方に各所への援軍要請をするよう命じたのである。これによって土方は新選組、否、幕府軍本隊としばし別行動を取ることとなる。



 母成峠の惨敗は、兵士だけに影響を及ぼしたわけではない。幕府軍の後方支援――――――つまり松本良順とその下で働いている部下達、更に小夜にも影響を及ぼしていた。土方から命令を受けた新選組の隊士が、野戦病院になっていた大寺にやってきて『怪我人はひと足早く仙台へ脱出するように』との命令を伝えたのである。

「動ける奴ぁ先に仙台に向かえ!向こうにゃ海軍が待っている!官軍にやり返してぇんなら先に向こうに行って海軍と一緒にやり合う準備をしてろ!」

 あくまでも『離脱』や『撤退』という言葉は使わず、むしろ軽傷の兵士達を鼓舞するような勇ましい口調で松本は兵士達に出立の準備をさせる。その一方医師たちは重傷者の支度を着々と進めていた。

「おい、お小夜」

 松本は黙々と脱出準備を進めている小夜に声をかける。

「へぇ?」

「おめぇはおなごだから、そろそろ離脱しろ・・・・・・ってぇ言っても聞かなさそうだな」

 現場で共に働いて二ヶ月近く、そのたおやかな見た目とは裏腹にかなり心が強く下手な男よりもよっぽど働く小夜である。『おなごだから』という理由で戦線離脱を訴えても本人は絶対に納得しないだろう。だが一部戦線離脱をさせる重傷者のため、誰か一人医師は残していかねばならないのだ。
 あからさまに困った表情を浮かべた松本に、小夜は近づきその手を握る。

「それはうちの科白どす。松本センセ、もう殆ど手ぇ動かへんやありまへんか。毎日毎日深手の患者はんの縫合を続けてはったから、手ぇ悲鳴あげてはります」

 小夜が握った松本の手は腫れ上がり、熱を持っている上に小刻みな震えが止まらずにいる。本人はリウマチだと言いはるがこれは明らかに激務のせいだ。戦線を離脱し、適度な休息を取れば再び松本の手は復活し、これからも患者を助けることができるだろう。だが、松本が後方支援に付いていてくれるから兵士達が心置きなく戦えるというのもまた事実である。

「これからのことは皆はんが集まった仙台で決めはったら如何どすか?向こうでは状況が違ごうているかもしれまへんし」

「そう・・・・・・だな。とにかくここから逃げるのが先か」

 松本の言葉に小夜が頷く。母成峠が破られた今、猪苗代がどこまで持つか定かではない。とにかく一刻も早く会津から離脱しなければ怪我人は真っ先に蹂躙されるだろう。慌ただしく出立の準備をする部下達や負傷兵を見回しつつ、松本は気合を入れ直した。



 一旦は新選組本隊からはぐれた斎藤が土方がいる陣屋へやってきたのは、新選組本隊が天寧寺へ向かった後だった。かなり疲れ切った様子で、上がり框で座り込む。昔からの上司の前とは言え、意外と見た目や行動の美しさにこだわりを持つ斎藤らしからぬ醜態だ。

「おう斎藤、死に損なったか。おめぇが俺の前でへたり込むなんざ相当だったんだな」

 冗談めかした土方の問いかけに、斎藤は少しだけ頬を緩める。

「ええ、どうやら俺は死神にとことん嫌われているらしいです」

「なるほどな。だったらおめぇを会津に残しも死ぬこたぁねぇ、って事だな?」

「・・・・・・どういう事ですか?」

 土方の本心が読めず、斎藤は警戒心も顕に土方を睨みつける。すると土方は斎藤の前に胡座をかき、その顔を敢えて下から覗き込んだ。

「おめぇの『本当の主君』のために戦って良いってことだよ。どうせそのつもりだったんじゃねぇのか?」

 ニヤリ、と笑う土方に斎藤は複雑な表情を浮かべる。

「まぁ、確かに」

「これから新選組は仙台へ向かう。覚悟を決めるんならここが最後だぞ?」

「・・・・・・ですね」

 斎藤はそう呟くと上がり框から立ち上がり、胡座をかいたままの土方の前で直立不動の姿勢を取る。

「土方さん、今まで・・・・・・お世話になりました」

 斎藤は土方に深々と頭を下げる。それは斎藤一の新選組離脱の瞬間だった。





UP DATE 2016.11.26

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母成峠が破られ、会津軍は若松城への籠城、そして幕府軍は仙台への移動を開始することになります。前回と時系列は重なる部分があるのですが、今回はその細かな動きを・・・ということで(^_^;)

まず新選組は一旦屯所代わりの天寧寺へと向かいます。そこで指示待ちですね。一方野戦病院組は戦がひどくならない内に仙台へと移動を開始することとなります。しかし松本法眼の手の状態はかなり悪化しているようでして・・・かといって後方支援にででーん!と松本先生がいるからこそ思い切り戦えるという事実もありまして(-_-;)最終判断は仙台に持ち越しとなっております。
そしてラストの斎藤一・・・ここで新選組離脱ということになります(´・ω・`)もしかしたら母成峠ではぐれたまま、その流れで新選組や土方とは顔を合わせること無く居残ったのかも・・・とは思いましたが、それじゃああまりにも侘びしすぎるということで挨拶だけはさせるという形に(*^_^*)ここで土方も斎藤の正体を知っている設定にしておいてよかったな~と思っております/(^o^)\

次回更新は12/3、一応新選組本隊にも別れの挨拶をしにいく斎藤ですが、そこで沖田から思わぬ提案が・・・次回をお待ちくださいませm(_ _)m
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S様、こちらへのコメントもありがとうございます(*^_^*) 

午前、午後のご来訪ありがとうございますm(_ _)m
行く道は違えど、それぞれに信念を持って己の戦いに向かいます。会津に残る者も仙台に向かい更に北へゆく者も僅かな可能性に向かって戦ってゆくと思いますので、これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。
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