「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第二十ニ話 母成峠の戦い・其の貳

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 大鳥が土方の元を訪れた翌日、二本松方面への攻撃を行うために会津軍及び幕府軍伝習隊の一部が出兵した。
 ただ、この攻撃は一昨日の八月十七日、道案内役の二本松兵が道に迷い、全軍が一晩中山の中をさまようという失態を犯していた作戦でもある。前夜の軍議で、この計画に大鳥は難色を示していたが、二本松奪還に囚われている会津や二本松の幹部達は聞く耳を持たなかった。

「今までの戦いから劣勢は明らかなのに」

 出兵する兵士らの背中を見送りながら、大鳥がポツリと呟く。その呟きを聞いていた会津藩家老・神保内蔵助が激高した。

「ならば貴殿がその護りとやらに付けばよかろう!腰抜け武士はこれだから」

 吐き捨てるように吠えた神保に対し、大鳥は笑顔さえ見せて『諾』と答えた。

「勿論我々は最も手薄な北側を――――――母成峠に陣を張る予定ですので」

 すると神保を取り巻いていた会津の上級武士らから嘲笑いが起こった。

「まだそんな寝ぼけたことを!あんなところから大群が押し寄せるはずもない。もしやってくるとしても遊撃隊くらいだろう!」

 その一言に、大鳥の隣にいた土方はかっ、として何かを言い返そうとするが、それを大鳥が制する。

「ええ、遊撃隊でも攻め入られたら事ですしね。何せ地図から見ると母成峠は若松城に攻め込みやすい。この辺の地理を知らぬものでしたら、むしろそちらを選ぶでしょうから」

 そう言い残し、大鳥は土方を含む部下を引き連れその場を後にした。

「・・・・・・それにしても会津は霧が多いね」

 眼下に見える猪苗代湖を見つめながら大鳥は溜息を吐く。盆地で、しかも湖がある会津はこの季節になると霧が多くなる。今は辛うじて湖の向こう岸が見える程度の薄い霧だったが、濃く立ち込めてしまうと戦うには厄介だ。むしろ頭の固い会津藩幹部とやり合うほうが楽だと言わんばかりの大鳥に、土方が声をかける。

「ああ、確かに戦には厄介だが・・・・・・地の利があれば、この霧は身を隠すのに有利な気がするが」

 土方の気休めの言葉にも、大鳥は首を横に振り更に深く眉間に皺を寄せた。

「そうだと良いんだけどね。でも僕らはあまり官軍と変わらないから、母成峠に攻め込まれたら五分五分と言ったところかな。いや、むしろ兵が少ない分僕らは不利かもしれない」

 そして大鳥は声を低くして土方に告げる。

「じゃあ新選組は借りて行くよ。その代わり僕に何かあったら幕府軍の皆を仙台に――――――会津ではこれが限界だろう。可能な限りの兵を引き連れて仙台に向かってくれ」

 口調こそ柔らかだったが、あまりにも冷酷過ぎる会津への見切りだった。だがここで情に流されてしまえば、大鳥自らが背負っている幕府軍兵が無駄死にすることになる。

「判った。でもできるだけあんたも上手く逃げおおせてくれよな」

 土方の言葉に大鳥は特に返事をすることもなく、ただ笑顔だけを見せた。



 二本松へ部下を向かわせる前夜、大鳥は兵士全員を招集してこう告げていた。

「二本松へ攻め込めればそれでよし。だが万が一撤退するような事になったら母成峠へ来てほしい。僕らは母成峠で陣を張っているから、そこでできるだけ敵を食い止めたい。他に出張る者も同様だ。自分の持ち場が崩れたら母成峠に来てくれ」

 そして改めて自分が率いる伝習隊の残りと新選組に視線をやる。全部で四百名ほどであろうか。あと峠から山麓にかけて築いた3段の台場と勝岩の台場に先に守備している幕府軍兵が百名はいるはずだ。

「五百余名というところか。敵の本隊が来たらひとたまりもないな。せめて二倍は欲しかったところだが」

 大鳥は肩をすくめる。だが、大鳥の願いは皮肉なことに最悪の形で八割方叶うことになる。



 大鳥達が母成峠に到着すると、守将・田中源之進が率いる会津藩兵二百名が既にいた。驚きに目を見張る大鳥だったが、田中は無表情のままその理由を告げる。

「昨日、あんたが言っていただろう。もし他所者が攻め込むのなら城から近い母成峠を狙うだろうって。取り敢えず率いられるだけは率いてきた」

 言葉少なだが田中も武将として思うところがあったのだろう。他に割いている兵に比べたらかなり少ないが、それでも二百名の兵士はありがたい。

「これで六百か。まだまだ心許ないが、この辺の地形を熟知している会津軍がいるのはありがたい」

 全てが他所者の軍よりは、少しでも土地勘がある兵士がいるほうが戦いは断然有利だ。人数的にはまだまだ足りないが、贅沢は言っていられない。

(これで千名くらいの敵だったら対応できるだろう)

 敵二名を一人で倒す算段だが、土地勘があれば何とかなるかもしれない――――――ともすれば不安に陥りそうになる気持ちを奮い立たせ、大鳥は会津の二百名の兵士を歓迎した。だが、集まってきた兵士はこれだけではなかった。何と二本松に出兵した軍が官軍と遭遇し大敗、命からがら大鳥の待つ母成峠へ逃げてきたのである。

「お、大鳥総督。申し訳ございません・・・・・・」

 大鳥の命で伝習隊を率いていた部下が大鳥に詫びる。

「我ら伝習隊が奮闘するも会津藩兵らが早々に撤退!しんがりを務める事になった我らは白兵戦に不慣れゆえ、三十名以上の死者を出すことに・・・・・・」

 辛うじて一時的に官軍の進攻を食い止めることに成功はしたが、他の道を通って改めて会津に侵攻してくることは時間の問題だ。

「判った。お前たちは今のうちに休んでおくように。いつ敵がこちらに来るか解らないぞ」

 大鳥は逃げ戻ってきた兵士を労い自分の前から下がらせたあと、部下達に悟られぬように唇を噛み締めた。伝習隊の他、共に母成峠にやってきたのは仙台藩兵と二本松兵、全部合わせて二百名近くだ。今まで母成峠に陣を張っていた六百名と合わせて合計八百人の兵がここに集まったのである。

「怪我の功名と言うべきか。まだまだ足りないようなきがするけどね。できれば僕の読みが外れてくれることを願うばかりなんだが」

 だが、こればかりはどうしようもない。せめて敵が千名、多くても千二百名以下だったら玉砕覚悟で防ぎ切ることができるだろう。それ以上だったら間違いなく会津城下に侵攻されてしまう。

「この場にいる兵士に告ぐ」

 腹を据えた大鳥の声が、霧が立ち込める峠に響く。

「もし、僕の読みが当たっていれば敵本隊はこの母成峠にやってくるだろう。どんな不利な状況であってもこの場を死守するように!」

 せめて気迫だけは負けぬように――――――大鳥のその声に応じ、疲れ果てていた兵士らも一斉に鬨の声を上げた。



 大鳥達が母成峠で気勢を上げていたその頃、官軍は本隊と右翼隊に分かれて母成峠を目指していた。薩摩藩兵と土佐藩兵を主力としたその軍隊は、他に長州藩兵、佐土原藩兵、大垣藩兵、大村藩兵を加えて六藩による編成である。
 その人数二千二百名。大鳥が密かに願っていた人数のおよそ二倍だが、官軍を率いていた板垣らは『会津兵や幕軍兵一名に対し、三、四人で囲んで倒す』という計画を立てていた。これは母成峠の護りは五百名から六百名と読んだからである。それよりも多くても流石に千名の兵は置かないだろうと踏んだのだ。

「霧が深いのが気になるが、この霧が俺達を隠してくれる」

 兵を率いている板垣が舌舐りをする。こちらの本隊が見えた時はもう手遅れなのだ――――――勝利を確信しながら、官軍は道案内の農夫を先頭に、静かに、そして着実に母成峠へと進み続けた。



 
UP DATE 2016.11.5

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本当におまたせして申し訳ございませんでした(>_<)
その理由は単純に私の集中力が極端に欠けていた&その為各軍の時系列での動きの把握に時間がかかってしまったこと、これに付きます(´;ω;`)
いや、本当に判らなかったんですよ~(>_<)特に伝習隊の動きが。大鳥さんは母成峠に向かっているし、伝習隊の一部は二本松に出向いている。更にそこで負けたらしい兵士たちが他の部隊ではなく母成峠へと向かっていたりと、その辺の時系列が私が手元で調べられる資料ではあまりまとまっていなくって(^_^;)
まぁ戦争ですので幾つもの部隊が同時進行で動いていたでしょうし、従軍記者なんていない時代ですから記録が時系列でまとまっていなくても仕方ないんでしょうけど・・・(´・ω・`)
なので私なりに伝習隊&新選組の動きを中心に、時系列をまとめてみた次第です。生暖かい目で見守ってやってくださいませ(^_^;)

次回更新は11/12、母成峠の戦いが始まります(ようやく本番^^;)
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S様、コメントありがとうございます(*^^*) 

こんにちは、いつもコメントありがとうございます。
会津の最終決戦が目の前に迫っております。よろしかったら今しばらくのおつきあいよろしくお願いしますm(_ _)m
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