「紅柊(R-15~大人向け)」
丁酉・秋冬の章

紅葉匂う・其の壹~天保八年十一月の覚悟(★)

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 霜月に入り、色鮮やかだった庭の紅葉も大方散ってしまった感応寺だったが、大伽藍横の大広間は相変わらず派手な『紅葉』に彩られていた。いつもの如く奥女中華やかな打掛が床に脱ぎ捨てられ、その上には濃い化粧の奥女中と体力自慢の若い僧侶が蠢いている。一対一で交わっている者もいれば一人の僧侶に二人、三人の女房が群がり我先にと貪っている組もある。縄で縛られて嬲られながら悦に入っている女房もいれば、衆道の如く菊座を貫かれ嬌声を上げている女房も複数いる。その姿は舞散った紅葉の上に蠢く醜い芋虫のようだ。

(いや、煩悩に溺れている分、ここにいる輩は虫けら以下かもしれないな。俺も含めて)

 三十路前後の奥女中相手をしながら、日寛はぼんやりと思う。今日の相手はお美代の方付の垣峰という女房だ。先輩僧侶から押し付けられた『売れ残り』だが、それほど貪欲ではないのがありがたかった。日寛自身はまだ一度も気を遣っていなかったが、垣峰はすでに何度か気を遣ってしまって限界が近い。

「日寛さま・・・・・・もうご容赦を」

 垣峰の甘ったるいその声に日寛は一瞬動きを止める。情けを訴えるその声があまりにも『彼女』に似ていたからだ。一瞬優しさを垣間見せそうになった日寛だったが、垣峰の顔を見た瞬間『彼女』の幻は霧散し、いつもの冷ややかな残虐性を帯びた日寛に戻る。

「・・・・・・いいでしょう。ならば四つん這いにおなりなさい」

 日寛は垣峰の緩くなった蜜壺から一旦己の逸物を引き抜くと、乱暴に垣峰の身体をひっくり返す。そして高々と脂の乗った尻を掲げさせ、淫蜜に濡れ口を開いている蜜壺を、逸物で一気に貫いた。

「ああっ!」

 甘さを含んだ嬌声が垣峰の口から溢れる。その舌足らずな甘い悲鳴はあまりにもあの人――――――あの日から一度も感応寺にやってこなくなってしまった愛らしい人に似ていた。

(浅木殿の声によく似ている)

 もしかしたら日寛の気持ちがそう聞こえさせるのかもしれないが、ここに来る奥女中にしては控えめで、やや高めの声音は浅木ことふみの声によく似ている。蜜壺の締まりや肌の張り、そして何よりも顔立ちを比べてしまうと虚しさを覚えるが、声だけは彼女を思い起こさせる。

(声だけなら、なんとか)

 油断すれば萎えそうになる己の逸物を奮い立たせ、相手を満足させなければならない。それが感応寺の僧侶の勤めなのだ――――――日寛は瞼を閉じ、激しく腰を動かし始めた。

「ああっ、おやめくださいませ!日寛さまぁ!」

 今日が二度目の来訪だという垣峰にはまだ恥じらいが見られる。抵抗を見せる姿もふみを思い起こさせた。だがそれもあと数回―――――下手をしたら二、三回ほど通ったら他の女房同様男の逸物にむしゃぶりつくようになり、ふみを思い起こさせるものなど欠片も無くなっていくのだろう。

(それまではこの声で凌ぐか)

 掌に抱えた尻の動きが更に激しさを増し、垣峰の限界が近いことを物語る。取り敢えずもう一度だけ気を遣らせておくか――――――――だんだんと掠れ、ふみの声からかけ離れる垣峰の声に嫌気を覚えつつ、日寛は止めとばかりに強く腰を打ち付けた。



 汚れた精を吐き出し、用済みになった垣峰を塵屑のように放り出すと、日寛は手水に行くふりをして大広間を逃げ出した。相手なら幾らでもあの中にいるし、僧侶が足りなければ女同士で互いを慰め合うだろう。

(やはり、今日も来なかったか)

 最後にあった日からはや三ヶ月、ふみはやはり来なかった。嫉妬にかられやりすぎたと反省しているが、まさかここまで来なくなるとは思っても見なかった。
 以前彼女と一緒に来ていた先輩女中――――――真希は別の女官と一緒にやってくるようになっていたし、真希には声もかけられるような雰囲気ではない。
 その一方、真希と一緒に新しくやってきた鷹尾という女官には一度声をかける事ができたが、何となく食指が動かなかった。ふみと同じくらい――――――否、ふみよりも美人で色気があったが、何となく鷹尾に手を出しては二度とふみに逢えないような、後ろ暗さを伴った感覚に陥ったのだ。

(ふっ・・・・・・とうとう俺も焼きが回ったか)

 自分はふみに恋をしていたのだ――――――だが今更気がついても既に遅い。このまま自分は死ぬまで感応寺という淫獄地獄をのたうち回らねばならないのだ。
 それでもふみと出会う前ならまだ耐えることが出来ただろう。しかし今は本当の恋を知り、そしてそれを失ってしまった後である。苦しみは余計に募り、日寛を苦しめる。

「せめて、ひと目だけでも・・・・・・」

 だが日寛が知っているのは『浅木』という通名と大御所付きの女官であるというだけである。身体を重ねていながら何一つ本当の彼女を知らないのだ――――――絶望感に打ちひしがれたその時である。

「日寛様!こちらにいらっしゃいましたか!」

 下働きの寺男が日寛の姿を見つけて駆け寄ってきた。

「日寛様、お客様です!」

 その瞬間、日寛の表情が変わった。もしかしたらふみが思い直して自分を訪ねてきてくれたのかもしれない――――――そんな思いが頭をよぎったのである。

「客人とは、どのような女性か?」

 急くように寺男に尋ねる日寛だったが、寺男は罰が悪そうな表情を浮かべた。

「あ、いえ・・・・・・女性ではなく、日寛様のお兄上様が」

 もごもごと口ごもる寺男の言葉に、日寛は自嘲的に笑い寺男に軽く詫びる。

「いや、済まない。この寺のことだから、ついつい客人は女性だとばかり思ってしまってな。ところで兄上はどちらに?」

「はい。離れのお茶室の方に」

「判った」

 何せ本当は男の体目当ての奥女中達がたむろしている。まともな客人は本堂ではなく別棟の茶室や小座敷に通すことが感応寺の常識となっていた。
 だが言ってしまえば身内の面会である。わざわざ寺男に案内してもらう必要もないだろう。日寛はそう言って寺男の案内を断り、自ら茶室へと向かった。



 旗本・武嶋益太郎は日寛の腹違いの兄で、生き残っているたった一人の兄弟である。妾腹の不良息子だった日寛とは違い、生真面目な男だ。
 益太郎は父の死の直前に家督を継いだ後、特別に取り立てられて御書物同心として紅葉山文庫で働いていた。五百石持ちでは家柄がやや良すぎるきらいはあるが、その類まれなる博学ぶり、書物に関する造詣の深さから、そのうち御書物奉行になるのでは、とも噂されている秀才だ。
 生い立ちや取り巻く環境、そして性格も真逆の二人であるが、他の兄弟達が早世してしまったということもあり、兄弟仲はむしろ良い。勘当で感応寺に入った日寛を気にかけ、父親が存命中だった頃も二ヶ月に一度は必ず面会に来てくれていたのも益太郎だけだ。

「久しぶりだな、寛之輔」

 いつもなら二ヶ月に一度は顔を見せに来る兄だったが、今年は将軍代替りの年ということもあり、互いの多忙で四ヶ月ぶりの面会である。他の僧侶の家族に比べたら、それでもかなりマメな方なのだが、益太郎としては申し訳ないという思いがあったのだろう。

「ご無沙汰しております、兄上。紅葉山の文庫の方は相変わらずお忙しいのですか?」

「ああ。代替りの祝にと中国や朝鮮、阿蘭陀からも新しい書籍が送られたからな。ようやく落ち着いた、というところだ。御山の紅葉もすっかり錦に染まっている」

 そんな互いの近況を交わした後、益太郎はふと眉をひそめた。

「痩せた――――――いや、やつれたな、寛之輔。大丈夫か?」

 否、それだけではない。以前の生意気そうな表情も影を潜め、苦悩の影が滲んでいた。いつにない弟の表情を心配げに覗き込む兄に、日寛は弟の表情を垣間見せる。

「そんなに、あからさまに私はやつれておりますか、兄上?」

「ああ、今日は特にひどい――――――この寺の悪い噂は聞いている。寛之輔、もし無理をして『お勤め』をしなければならないというのであれば、今すぐにでも還俗すればいい。冥土の父上だってもう許してくれるだろう」

 還俗にはそれ相応の金銭が必要となるが、それも問題ないと益太郎は日寛に告げる。帰る場所を用意してくれる兄の優しさに心が揺らぎそうになる日寛だったが、ふと思い直す。

(もし、ここを離れたら・・・・・・浅木殿とは二度と逢えなくなる)

 ある意味苦しい恋に見切りをつけ、生き地獄から抜け出すことも一つの道だが、地獄をのたうち回っても愛しい人に逢える可能性に賭けたいという思いもある。
 自分はどうしたいのか――――――それさえ判らず、日寛は思わず涙を零した。

「・・・・・・すみませぬ、兄上。お聞き苦しいかと思いますが、私の話を聞いて頂けますでしょうか。実は・・・・・・叶わぬ恋をしております」

 そう前置きをして、日寛は己の苦しい恋について語り始めた。




UP DATE 2016.11.2

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今回は不良僧侶&女御庭番CPの決着話(予定)になります(๑•̀ㅂ•́)و✧
前回8月の出来事以来、ふみはミッションから外され、感応寺には来なくなってしまいました。流石に日寛もやばいと焦っておりますが、一介の僧侶に打つ手など無く(-_-;)
せめてふみの実家とか本名などを知っていれば行動に移すことも出来たのでしょうが、何せ知っているのは通名と役職のみ。しかもまともに役職あてに連絡をとっても本人へのアクセス前にブロックされてしまうでしょう。その点は濃密な人間関係があった昔のほうがセキュリティはしっかりしており、ストーカー対策もバッチリだったと思われます♪
(女性が本名じゃなく源氏名とか役職独自の名前で仕事に就いていたのはそういった変なやつに絡まれないようするための対策もあったんじゃないかと最近は思う・・・源氏名は変えちゃえば良いわけだし)

そんな中、日寛のことを唯一心配してくれる兄がやってきてくれて・・・次回の更新は11/9、日寛が苦しい恋を兄に打ち明けます。
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