「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第二十一話 母成峠の戦い・其の壹

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 二本松城の落城によって崩れかけていた均衡は一気に官軍側へ傾き、会津侵攻への更なる勢いをつけた。となると今度はどこを攻めるかが問題となってくる。
 江戸で全体の指揮を執っていた大総督府参謀・大村益次郎は『枝葉(会津藩を除く奥羽越列藩同盟諸藩)を刈って、根元(会津藩)を枯らす』と仙台・米沢への進攻を先に行うよう指示したが、二本松で実際に戦っていた参謀・板垣退助と伊地知正治は逆に『根元を刈って、枝葉を枯らす』と一気呵成の会津攻めを主張した。
 会津藩が国境へ兵を出して藩内を手薄にしている今が有利である上に、雪の降る時期に戦いがずれ込めば官軍が不利になるからである。できるだけ早く――――――遅くとも雪が降る前に会津を制圧したいというのが現場の意見だった。勿論現地からの切実な意見は即座に採用され、官軍の会津侵攻が決定する。

 だが単純にそのまま攻め入っては官軍の被害も甚大になる。どこから官軍本隊を攻め込ませるか――――――会津への進攻口を選択するにあたり、更なる激論が交わされた。
 板垣は東の御霊櫃峠からの進攻を、伊地知はそれより北側の母成峠からの進攻を推して互いに譲らなかったのである。その仲裁に入ったのは長州藩の百村発蔵であった。

「確かに御霊櫃峠は乗り越えやすいが、会津本陣である若松城に攻め込むには母成峠の方が有利だ。幸い内通者や道案内を勤めてくれる地元民もいることだし・・・・・・ここは敵の虚を突いて母成峠を攻めるというのは如何でしょうか、板垣殿」

 会津侵攻にあたり、もっと地元住民の抵抗を受けると思っていた官軍だったが、意外なことに会津藩の領民から官軍は歓迎されていた。どうやらかなりの重税に苦しんでいるらしく、城が落ちれば少しは生活が楽になるのでは、という期待が領民にあるらしい。板垣もその事を充分に知っているだけに、百村の提案を素直に受け入れる。

「確かに、彼らの手助けを獲れば厄介な母成峠も自分が予想しているより楽に超えられるかもしれませんね。承知しました、では母成峠に本隊を向かわせましょう」

 この了承により官軍の母成峠からの攻撃が決定、それを中心に陣立てが始まった。



 一方会津側もこれから攻めてくるであろう官軍に対する備えを取り始めて。その中で特に警戒して防御を固めたのは南西の会津西街道(日光口)と南東の勢至堂峠(白河口)、そして中山峠(二本松口)だ。
 特に落城したばかりの二本松と会津の本陣である若松を最短で結び、主要街道である中山峠に官軍が主力を注ぎ込んでくるだろうと会津藩は読み、主力をそちらに向かわせたのである。
 それは官軍に地の利が無いであろうという思い込みからの配置であった。勿論幕府軍も会津側の陣立てに倣い、二本松方面への配置に重点を置いた。新選組もその一部隊として猪苗代城下で宿陣をする。
 今度の戦いが最終決戦になるだろう――――――そんな予感の下、身体を休めていた八月十八日の夜、突如新選組の宿泊先に思わぬ来客があったのだ。

「土方くん、ちょっといいかな」

 供も付けず、ふらりと新選組の宿泊先にやってきたのは大鳥圭介だった。

「おい、大鳥さん。なんだこんな時間に。呼び出してくれりゃこっちから行ったのに」

 幕府軍総督のいきなりの来訪に、土方は慌てて自らで迎える。

「いや、気にしないでくれ。僕がこっちに来たのは、他の連中に聞かれたらちょっとまずい事を話しにきたからなんだ」

 冗談とも本気ともつかない言葉を言いつつ、大鳥は宿舎に上がり込んだ。そして土方の案内のまま幹部達がたむろしていた部屋に入り込み、まるで昔からの仲間のごとく入り込んで胡座をかいた。そして懐から折りたたんだ紙を取り出し、目の前に広げる。

「こりゃあ、この近辺の地図か?にしてもだいぶ大雑把だな」

 そこに描かれていたのは、ひと目で素人が描いたと判るかなり大雑把な会津藩の地図だった。

「ああ、何せ僕が描いたからね。『本物』は会津藩の人間じゃなければ持ち出せない」

「確かに」

 幕府軍としても戦略を立てる時地図は必要だ。しかし会津藩はその写しを幕府軍に渡すことを拒否したのである。疑い深い藩の性格もあるのだろうが、内通者を恐れてのことだったのだろう。戦略会議の時、必要な時に会津藩の地図を見せてもらえることはあったが、それさえも極めて少なかった。その少ない機会に大鳥は地図の内容を覚え、自ら描いたらしい。

「で、本題に入るけど・・・・・・この地図を見た上で、君だったらどこから城を攻める?」

 その問いかけに土方は言葉に詰まる。そして周囲から覗き込んできた幹部隊士や周囲で部屋の外から部屋の中を覗き込んでいた平隊士達もざわついた。

「やっぱり南側からじゃないのかな?そのほうがそのまま攻め込めるし」

「だろうけど、攻め口が三つもあるんだぜ?普通だったら一番攻め込みやすい二本松口からかな。っていうか俺達もこれからそっちに向かうところだろ」

「でも白河に敵の本隊がいるんだろ?だったら白河口じゃないかな。流石に会津は二本松とは勝手が違うだろ。できるだけ大勢の兵を連れて攻めると俺は思うぞ」

「その裏をかいて日光口、っていう手もあるよな。俺だったらそうするかな」

 そんな部下の私語を叱ることもせず考えあぐねた結果、土方は二本松口を指し示した。

「今のところあっちは定石通りに戦を運んでいるような気がする。となると二本松口が一番有力だと思うが・・・・・・でも、俺が攻め入るとしたらこっちからだな」

 そう言って土方が次に指し示したのは、他の街道口とは真逆の場所にある母成峠だったのである。

「尤もこの地域の事情を知っていてっ、て前提付きだが。会津側の虚を突くんだったら背後を攻めたほうがいいだろ」

「・・・・・・やっぱり君もそういう結論に達したか。やっぱり喧嘩を知っている男はそうなのかな」

 大鳥は苦笑いと共に小さな溜息を吐いた。

「俺も?ってことは他にも同じ考えのやつが?」

 大鳥の顔を覗き込む土方に、大鳥は鷹揚に頷いた。

「ちょっとでも『喧嘩』――――――あくまでも戦術じゃなくて実際の喧嘩を知っている者たちは君と同じ事を言ったよ。実際の勝ちをもぎ取るには卑怯も何もあったもんじゃない。相手の裏をかいたもの勝ちだって。それに母成峠からは若松城が近いしね」

 まるで歌うように楽しげに告げると、不意に大鳥は真顔になった。

「どれ位の兵を連れていけるか判らないが、僕は可能な限りの手勢を連れて母成峠に行くつもりだ。尤もこの読みが外れてくれることを願うばかりだが」

「おいおい、読みが外れたら更に会津の輩から昼行灯扱いされるだろうが」

 聞き様によっては極めて失礼な土方の一言だが、大鳥は全く気にした風もなく口の端に微かな笑みを浮かべた。

「別にかまわないよ。実際に戦に関してはそうだし――――――で、もし僕が戦死したら後のことを頼まれて欲しい」

「おいおい、幾ら何でも俺に総督は・・・・・・」

 大鳥の思わぬ一言に土方は慌てるが、その様子がよほど可笑しかったのか大鳥は声を上げて笑いだした。

「そこまで無茶は云わないよ。多分仙台に榎本君がいるはずだから、僕が死んだら新選組の皆を引き連れて会津を脱出し、仙台に向かって欲しいんだ。他の部隊はそれぞれで行動するから、そこまで面倒を見る必要もない」

 もしかしたら大鳥は一つ一つの部隊の責任者にこの事を告げて回っているのかもしれない。その覚悟に感じ入った土方は深く頷いた。

「・・・・・・判った」

 そして大鳥が部屋を後にしようと立ち上がったその時である。平隊士の一人が遠慮がちに声をかけてきたのである。

「あの、大鳥総督・・・・・・今の話とは直接関係無いかもしれないんですけど、ちょっと気になることが」

 その一言に土方はぎろり、と隊士を睨みつけるが、大鳥はそれを窘める。

「どういうことか話してくれるかな。些細なことでも構わないから」

「あの・・・・・・会津公って、かなり領民から嫌われているんですよ。というかあれは憎悪と言ったほうが言いかもしれません。かなり厳しい年貢の取り立てや過酷な使役があるようで」

 その瞬間、大鳥が微かに眉を顰めた。

「他所者の君にまでそんな事がバレるなんて相当だね」

「ええ。というかむしろ俺達が会津藩の者じゃないから愚痴を零したというか・・・・・・いっそ城が落ちてくれれば、なんていう男もいました」

 すると他の隊士達も次から次へと会津領民の実情が語られ始めたのである。

「ああ、それは俺も聞いた」

「へぇ。俺はかなり年配の婆さんが言うのを聞いたぜ?」

「年頃の娘さえ赤いものを身に着けられないってひどいよな。幾ら戦時中でもさ。いっそ城が落ちたほうがいい暮らしができるんじゃ、って思っているフシがあったぜ」

 他所者なのに――――――否、他所者故に領民たちも新選組隊士に聞こえてしまうような愚痴を零してしまったのだろう。しかもそれが一人、二人ではないとなると、かなり厄介だ。再び始まった雑談に、大鳥は更に厳しい表情を浮かべ、皆に聞こえぬよう土方に囁いた。

「土方くん。もし君さえ許してくれるのなら、新選組の隊士を借りたいんだが、いいかな・・・・・・一人残らず生きて返す、って保証はできないけど」

 単なる机上の予想だけならまだしも、会津藩領民の怨嗟が新選組隊士にまで拾われるとなると話は変わってくる。ここまで支配層が恨まれているとなると、官軍への密通者や裏道の案内人が出てきてもおかしくない。
 むしろ、会津軍や幕府軍の裏をかき、最小限の被害で若松城を落とせる可能性の高い母成峠攻めが現実味を帯びてきたのだ。そんな大鳥の頼みに、土方は力強く頷く。

「何寝ぼけたことを。幕府軍総督の護衛に付けさせてくれるんだったら喜び勇んでこいつら付けるぜ?というか、むしろこいつらが勝手に行きそうだけどよ・・・・・・おい、山口!ちょっと来い」

 土方は山口次郎こと斎藤一を近くに呼び寄せ、部隊を引き連れ大鳥に付いていくように命じる。その命令に黙って頷いた斎藤を見て、大鳥はようやく心からの笑みを見せた。



UP DATE 2016.10.29

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とうとう母成峠の戦い前夜までこぎつけましたε-(´∀`*)そして第十章に会津編を収められる&第十章を今年の内に終わらせることができそうということも・・・問題は11月にちょっと旅行にいくことくらいなんですが(^_^;)それさえ無事乗り越えれば今年中に会津編を無事完結させることができそうです(≧∇≦)/

新選組の母成峠出陣が決定する前日まで、新選組は二本松口への出陣を命じられていたようです。実際猪苗代までは出張っておりますからねぇ。そんな中急遽母成峠に行くことになったのはやはり大鳥さんの読みだったのでしょうか・・・実際は解りませんが、土方が新選組を大鳥に預けてまで母成峠を守ろうとしたのは何かしらの予感&確信があったからだと思います。
しかし主たる部隊はやはり南側に集められてしまっており、母成峠に行くのは少ない兵だけという・・・(´・ω・`)
次回夏虫は11/5、今回の翌日の新選組母成峠出陣決定と最終決戦開始を書きてゆきたいと思っております(*^_^*)
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S様、いつもコメントありがとうございますm(_ _)m 

いつもコメントありがとうございますm(_ _)m
『夏虫』はあくまでも私の解釈によるフィクションであり、史実とは違いますのでその辺は別個に考えていただきますようお願いいたします(^_^;)
ただ幕府の役職や軍備費にかなりのお金をかけねばならなかった分、会津領民が重税にあえぎ、官軍を手助けしたものがいたのも事実のようです。でなければ流石に塵に不慣れな官軍が母成峠から攻め入ることは不可能だったかと・・・。
小説を事実のように捉えていただけるのは作者冥利に尽きますが、話を面白くするための嘘も多分に混ぜ込んでありますので、その辺はご了承くださいませm(_ _)m

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再コメントありがとうございます(*^_^*) 

再度のコメントありがとうございますm(_ _)m
拙作はあくまでもフィクションとして、節度を持って楽しんでいただければ幸いです。
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