「短編小説」
横浜芸妓とヒモ男

横浜芸妓とヒモ男~其の拾壹・火急の知らせと改暦と

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 小春日和の穏やかな日差しの午後、仙吉は玄関前の通りの掃き掃除をしていた。海の近くで他の地域よりは木々が少ないとは言え枯葉はどこからともなくやってくる。きりがないとは言え流石に家の前が枯葉だらけになってしまうのは頂けないと、お鉄を送り出してから仙吉は掃き掃除に専念していた。

「ふぅ、大体こんな感じかな」

 目にかかった前髪をかきあげながら、仙吉は掃いた跡を見渡す。細い路地なので自宅前とは言え近所の家の前も掃いてしまったがそれだけに路地全体に清々しさが漂っている気がする。清められた場所には良い運がやってくる――――――昔、道場の師匠に言われた言葉を仙吉は思い出す。その当時は『そんなものか』と聞き流していたが、大人になった今では言っていたことが理解できるような気がした。

「今年の大掃除はいつもより念入りにやるのも悪くないな」

 塵ひとつ無い路地でひとりごちたその時である。

「お~い、仙太郎!!良かったつかまえられて!」

 路地の入り口から大男――――――仙吉の幼馴染の藤次郎があたふたと駆け寄ってきたのである。

「おいおい、一体どうしたんだい?わざわざ横浜くんだりにやってきて。ちょっとした用事なら手紙で事足りるだろう。昔に比べたらだいぶ料金も安くなっているんだし」

「そんな手紙で済まないから来たんだろうが!実は・・・・・・お前が横浜にいることが、お前の姉上達にバレたんだ」

「何だって?」

「お前、先月親父殿の墓参りに行っただろう?その翌日にお香津さんが墓を見て『自分達以外に花を手向ける人間はいないはず』と・・・・・・」

「それで言っちまったのか?」

 厳しい表情で仙吉は藤次郎を睨むが、藤次郎は大仰に肩をすくめ『仕方ないだろう』とぼやいた。

「お前、あの四人姉妹に代わる代わる尋問されてみろ。流石に俺だって口を割る」

「・・・・・・済まない」

 一人、二人でも口が立つ仙吉の姉達である。それが四人ともなれば、どんな口の固い人間でも隠し事を白状してしまうだろう。

「一応明後日の約束でこっちに案内することになっている。お鉄さんと逃げるなり何なり・・・・・・・」

「いや、それには及ばないよ。いい加減ここいらが潮時だろうし、あの姉達から逃げられるとも思えない」

 仙吉の諦観の一言に、藤次郎も深く深く頷いた。



 とにかくお鉄にまず話さなくては――――――ということで、仙吉はお鉄が帰宅するなり、姉達が横浜にやってくることを説明した。するとお鉄は落ち着いた笑みを浮かべつつ、口を開く。

「だったらきちんとお迎えしないとね。いきなりこちらに案内したらびっくりするだろうから、まずはどこかのお座敷で休んでもらってから案内しましょうかね」

「し、しかしおめぇとの間柄は・・・・・・」

「そんなの、きっと藤次郎さんから聞き出しているだろうよ。頼りない末っ子が男一人で潜伏できるとは思わないもんさ」

 お鉄の指摘に仙吉は苦笑いを浮かべる。確かにお鉄の言うとおりかもしれない。だったら隠し立てなどせず全てを見せてしまったほうが後腐れがないだろう。

「解ったよ。じゃあ、そっちの手はずはお鉄に任せる。俺は――――――できるだけ今の生活が続けられるよう、姉達に訴えるつもりだ」

 下手をすれば別れさせられるかもしれない。だが、それでも今現在の自分を正直に語るべきだ――――――仙吉は腹をくくり、お鉄に覚悟を告げた。



 もしかしたら別れさせられるかもしれない――――――そんな覚悟で仙吉の姉を出迎えようとしていたお鉄と仙吉だったが、その予定は急遽取りやめになってしまった。何故ならば政府から『来月十二月三日から改暦する』というお触れ――――――太政官布告第337号がいきなり出されたからである。年明けまであと二ヶ月弱あると思っていたら、半月と少ししか無くなってしまったのだ。これでは落ち着いて話もできないと、話し合いは来月年が明けてからとなってしまった。

「ありがたいのかありがたくないのか」

複雑な表情の仙吉に、お鉄が笑顔で応える。

「ありがたいじゃないか。わっちらにも先様にも少し冷静になる時間ができたんだからさ。それよりも大掃除!さっさとするよ!」

 珍しく姉さん被りに襷掛けのお鉄が仙吉にはっぱをかける。その勢いに気圧されつつ、仙吉も拭き掃除に勤しんだ。



UP DATE 2015.10.26 

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仙吉の姉の四姉妹、あわや横浜に殴り込みかっ!!!と思いきや政府からのトンデモお触れによってそれが阻止されました/(^o^)\
良いのか悪いのか判然としませんが、それよりも年明けの準備を早くしなければならないという(^_^;)農村部ではあまり影響がなかったと云われる改暦ですが、都会のサラリーマンたちにとっては死活問題、東京近辺ではかなり混乱したそうです。

次回はとうとう今年の拍手文最終話、今度こそ仙吉の姉&できれば母親も登場させて家族和解と行きたいところです(*^_^*)
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