「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第二十話 満身創痍の白河戦線・其の肆

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 町守谷から湖南へと転戦した新選組は、三代村へと到着した。しかしそこで待ち受けていたのは二本松城の官軍侵攻及び二本松城の落城の知らせだった。



 二本松城最終決戦直前、二本松藩は藩主・丹羽長国を米沢藩に落ち延びさせた。しかしその際に仙台藩の護衛が付き、それはそのまま同盟に対する人質となって二本松藩は降伏を選ぶことができなくなってしまったのである。
 二本松藩が官軍に勝つためには会津藩と仙台藩の援軍が必要であった。だが両藩とも大軍を割ける状態ではなく、派遣された援軍も二本松城にたどり着く前に要所の官軍兵によって撤退させられてしまう。
 更に悪いことは続くもので、二本松藩に見切りをつけた城内の仙台藩兵、会津藩兵も城を脱出し、後には逃げ場所のない二本松藩の老兵と少年兵のみが残されてしまった。これでは二本松藩に勝ち目はない。

 覚悟を決めた重臣たちは七月二十九日、ついに抵抗を断念する。自ら城に火を放つと家老の富穀以下七名は次々と自刃して城と運命を共にしたのだ。
 だが悲劇はこれだけでは無い。官軍によって城内と城外が隔てられていた事により、この事実が城外にいた二本松少年隊に報告されず、更なる悲劇が生まれたのだ。
 激戦の最中に二本松少年隊の隊長と副隊長が相次いで戦死。指揮できる者がいない中、二本松少年隊四十名は散り散りになり十三歳から十七歳までの少年兵十八名が戦士したのである。
 この落城により、二本松藩は家老以下十八名の上級職全てを含む二百十八名が戦死した。その一方、他の被害は会津藩三十九名、仙台藩十九名の死者と、対する官軍十七名の死者に留まった。しかし二本松藩の激しい抵抗により多くの戦傷者が発生し、その戦いぶりは当時一部隊の隊長だった野津道貫によって『戊辰戦争中第一の激戦』と賞されることとなる。



「思っていた以上に列藩同盟は押されているな」

 二本松城落城の報告を聞いた土方が小さく呻く。

「ですね。少年兵まで殺されたとは・・・・・・やはり年少の三人は戦場に出さないほうが良いのでは?」

 島田がちらりと小姓三人に視線をやりながら土方に提案するが、それに真っ向から抵抗したのは他でもない三人であった。

「何行っているんですか、島田さん!僕らは鳥羽・伏見からここまでずっと生き残ってきた古参兵ですよ?」

 玉置がむきになって訴え、その言葉に上田も同調する。

「聞きかじりですが、二本松の少年兵は指揮系統が取れなくなってバラバラにならざるを得なかったとのこと。新選組に属している限り、指揮が無くなるなんてことはないでしょう」

「あと、確かに剣術やったら大人には勝てへんかもしれまへんけど小銃やったら誰にも負けまへん。っていうかうちら三人に銃で勝てる大人、いてはりますの?」

 冗談半分の鉄之助の嫌味に、島田が言葉に詰まる。確かに銃の腕では誰も鉄之助には勝てないし、後の二人も鉄之助の指導の下、めきめきと銃の腕を上げていた。

「確かに鉄くんの言うとおりですね。でもあなた達が戦場に出てしまうと土方さんの守りが手薄になってしまいますよ」

 沖田が何やら奉書紙に包まれたものを手にしながら話の輪に加わってきた。

「どういうことだ、総司?」

 会話に入ってきた沖田に土方が声をかける。

「大鳥さんからの呼び出しです。明日、幹部会を行うので中地に出向いてくれと」

 そう言いながら沖田は奉書紙に包まれた書状を土方に手渡した。それを受け取ると土方は早速それを隊士たちの前で開く。

「・・・・・・なるほど、な。そろそろ最終決戦の陣立てをするってことか」

 土方は手にした書状を手早くたたむとそれを懐に押し込んだ。

「俺は明日中地に出向く。従者は鉄だけでいい。後は今のうちに身体を休めておけ」

「鉄くんだけ、っていうことはそれほど畏まった会議じゃないんですね」

 本格的な会議であれば小姓を三人とも連れて行くだろうし、新選組幹部も二、三人付き従うことになるだろう。それをしないということは本当に軽い打ち合わせくらいだと思われた。

「まぁ、な。最終決戦に向けての根回し、ってところだな。多分各部隊の状況を今のうちにまとめておきたいってところだろう」

「せやったら、わての代わりに良ちゃんを従者にお願いできまへんか?」

 鉄之助の一言に土方が微かに眉をひそめる。

「どういうことだ?」

「単にお偉いはんに会いたくないから、というのは許されまへんよね」

 冗談半分に言いつつ、鉄之助はちらり、と玉置の方へ視線をやる。何か言いたそうな表情を浮かべているがここでは言えないらしい。

「当たり前だろうが!鉄、ちょっと来い!説教だ!」

 そう言いながら土方はわざと大仰に鉄之助の首根っこを掴み、外に出た。

「・・・・・・何が言いたい、鉄。いいや、何を隠してる、市村鉄之助?」

 厳しい口調で問いただす土方に、鉄之助は『確実では無いが』と前置きした後その理由を語り始めた。

「この頃、良ちゃん変な咳をするんです。本人はただの夏風邪だ、っていうんですけど・・・・・・戦闘中はともかく、夜なんかは皆に心配させへんよう隠れて咳することもありますし」

 鉄之助の心配げな言葉に、土方も頷く。確かに思い当たるフシはいくつかあった。特に土方と共に小姓達も戦線に復帰した半月後くらいに 玉置は咳をし始めたのである。

「そう言われりゃあそうだな――――――判った。おめぇの代わりに連れて行って、そのついでに松本法眼に押し付けてくらぁ」

 喘息にしても労咳にしても戦闘中に発作が起きてしまえば命取りになる。本人だけならともかく心配した仲間を巻き込みかねない。

(多分厄介な夏風邪だろう)

 そう思ったが何せ二本松の落城の話を聞いたばかりである。少年兵の悲劇が玉置に重なってしまうのは否めない。避けられる悲劇なら避けるに越したことはないと土方は決意を固めた。



 翌日、簡単な打ち合わせの後、土方同様会議に参加していた松本良順に声をかけた。

「すまねぇ、松本先生。こいつをちょいと診てくれねぇか?」

 その瞬間、土方の傍に付いていた玉置は、こんなところで捕まっては堪らないと慌てて首を横に振る。

「だ、大丈夫です!俺の咳は単なる夏風邪で・・・・・・ゴホゴホッ!」

 言葉を急いだせいか、思わず咳き込んでしまった玉置だったが、その咳を見た瞬間、松本の表情が険しくなった。

「土方。悪いが三代には一人で帰ってくんな。こいつは暫く療養させる」

 松本は今まで見たことも無いような険しい表情のまま、玉置の腕を強く掴んだ。

「だ、大丈夫です・・・・・・ゴホッ、俺は戦に・・・・・・ゴホッゲホッ」

「そのやる気の空回りが皆を危機に陥れるんだよ!労咳持ちは大人しく養生しやがれ!」

 部屋を震わせる松本の一喝に、玉置は勿論土方も目を丸くした。

「ろ、労咳?でもこいつはまだ血を吐いては・・・・・・」

「その寸前、ってところだ。今のうちにきちんと養生させりゃあ治るかもしれねぇが、何せこの戦いの最中だ。今養生しなけりゃ確実に死ぬぞ」

 松本の言葉に恨めしげに松本を睨み返す玉置だったが、土方は松本の進言に従う。玉置だけの命だけでなく他の隊士の生命まで落とすことは許されない。

「お願いします、松本先生。こいつを治してやってください」

 そしてすかさず玉置の方へ向き直りまっすぐにその目を見つめた。

「まずはその咳を――――――労咳を完全に治せ。そして万が一、新選組と合流できない内に会津から撤退する状況になった場合、松本法眼以下他の医者や怪我人を守りきれ。いいな?」

 松本以下大勢の怪我人を守れ――――――まだ十五歳にもならない少年に対して無謀な『命令』ではあったが、そうでもしなければ玉置は治療を受けないだろう。土方の命令に玉置はポロポロと涙を零す。

「し、承知・・・・・・絶対に皆を・・・・・・守り、ます」

 不本意な戦線離脱に対する土方の優しさを痛いほど感じた玉置は、泣きじゃくりながらも手の甲で乱暴に涙を拭い、武士らしく大きな声で返事をした。





UP DATE 2016.10.22

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白河撤退の直後、と言ってもいいでしょう。最前線に近い場所にあった二本松城が悲劇的な落城をしてしまいました(´・ω・`)
この時、詰めていたのは留守番の老兵と少年兵のみ。働き盛りの兵士たちも城への帰還を目指していたようですが、官軍に阻まれそれも出来ず・・・。自刃する事ができた会津白虎隊とは違い、敵の手で無残に殺された二本松少年兵の伝承は今ではすっかり影を潜めてしまっております。←多分明治新政府が自分達のイメージダウンになるからと箝口令&情報規制をしいたと思われる(-_-;)

この時点で少年兵の悲劇を伝え聞いたかどうかはわかりませんが、会津にも二本松城落城の知らせは入っているはず。それを受けて最終決戦に臨もうとしておりますが・・・その直前に玉置くんの病気が発覚(>_<)咳き込みからはまだ日数が経っていませんのでまだまだ軽症だとは思われますが(´・ω・`)
次回更新は10/29、母成峠の戦いになります。
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S様、コメントありがとうございます(*^_^*) 

こんばんは、いつもコメントありがとうございますm(_ _)m
二本松少年隊、白虎隊以上の悲劇ですよね(´・ω・`)せめて自刃ができればまだ救いがあるのでしょうが、それさえも許されませんでしたから。
そしてこれからが会津戦争の本番、よろしかったら今暫くお付き合いくださいませm(_ _)m
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