「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第十九話 満身創痍の白河戦線・其の参

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 福良御用場から町守谷へと転戦した新選組だが状況が好転することはなかった。むしろ日に日に幕府軍は劣勢となり、八月一日、とうとう町守谷から湖南方面へと撤退することとなった。

「そもそも白河城に関してはおめぇらが先手を打ったんじゃねぇのか、斎藤?」

 移動の途中、土方は斎藤に語りかける。一度は聞いた話だが再確認も兼ねて――――――というより、敗戦の軍特有の重苦しい沈黙に土方が耐えられなかったというのが正しいだろう。
 何でも良いから人の声が聞きたいという欲求が声を出させたのだが、斎藤に声をかけた直後に土方は後悔した。よりによって隊内一無口な男に声をかけてしまうとは・・・・・・だが土方の後悔に反して斎藤はいともあっさり会話に乗ってきた。

「ええ、そうです。田中左内殿が率いていた会津兵と俺達で白河城侵攻を果たしましたが」

「やっぱり少数精鋭は良いものですよ。会津の方も純義隊、青龍隊、朱雀隊の隊長自らが出陣しましたし、阿吽の呼吸で瞬く間に白河城をものにできましたから」

 二人の会話に入ってきたのは安富才輔である。やはり二人共言い知れぬ沈黙に耐えきれなかったのだろう。

「でも、その後の敵の攻撃が容赦なかったんじゃないですか?私が宇都宮に到着した時、あまりにも激戦だからって白河方面へ通じる道は全て閉ざされていましたよ?」

 更に元々喋るのが好きな沖田まで首を突っ込んできた。

「ああ、最初はむしろこちらのほうが優勢だった。向こうも宇都宮から無理な強行軍をしてきたのだろう。丁度梅雨時だったし、地理的有利も働いて緒戦は大勝だったぞ」

 流石に自分が新選組を率いての勝利は嬉しかったのだろう。滅多に感情を顔に出さない斎藤が微かに微笑みを見せた。

「だが、問題はその後というか・・・・・・」

 皆が会話しているところにやってきた島田が渋い表情を浮かべる。それに同調するように会話をしている幹部はもとより、周囲に居た隊士達も深く頷く。

「どういうことだ?」

 嫌な予感を覚え、土方は島田に尋ねる。すると島田は唇を尖らせ、土方に訴えた。

「会津の国家老殿ですよ!自分達や会津の精鋭たちが死にものぐるいで占拠した白河城に後からのこのこやってきて、総大将のごとくふんぞり返って」

「尤も白河口総督だから総大将であることには変わらないがな」

 島田の激高に斎藤が冷静過ぎる一言を付け加え、周囲は爆笑に包まれる。

「斎藤さんは悔しくないんですか?そもそも斎藤さんの采配で白河城を占拠したようなもなのに」

「それが雇われ傭兵というものだ。だが・・・・・・」

 どうやら斎藤にも少々不満があるらしい。それに関しては土方も思い当たるものがあった。

「頼母さんは精神論、理想論が先に行っちまう人だからな。戦下手だからな、あの人も。近藤さんがそういうところがあったから、おめぇの気持ちはよく解るよ」

 土方の慰めに、近藤を知っている古参の隊士達は何とも言えぬ苦笑いを浮かべた。指揮者として最低限の能力は持っているものの、『自分に都合の悪い現実』を直視することができないのである。それ故、その現実から起こる最悪の事態に対応できず、ずるずると負け戦に引きずり込まれるのである。

「でも理想を掲げてもらわにゃ、下にいるモンはただの人殺しに成り下がる。理想論の弱さは現場の人間が泥臭く仕事をすりゃあいいだけだ」

 土方の、ある意味開き直りとも思える言葉に皆は頷く。ともすれば見失いがちな未来を掲げてくれる指導者は必要なのだ。ただし、現場に悪影響が出ない範囲で、という前提付きである。
 実際五月一日の新政府軍白河城攻略戦において二千名から二千五百名いた列藩同盟軍はたった七百名の新政府軍に大敗を喫した。

「あの時、味方は七百名も死にました。俺もその際に怪我を負いましたし・・・・・・あの戦い以降、風向きは更に敵から吹くようになった気がします」

 島田のその一言に土方と沖田以外の全員が頷いた。今市や上野など各地で戦いを繰り広げていた官軍は勝利を収めると白河へと集結、列藩同盟の武器が旧式の小銃が中心だったと言うことも相まって梅雨時の戦いは官軍が優位となり、土方が戦線に復帰するのと前後して西郷頼母は総督を罷免され、後任として内藤介右衛門が就いた。

「会津としては頭を変える事で流れを変えようと思ったんだろうな。どのみち無理だったけどよ」

 それどころか秋田藩および新庄藩などが列藩同盟から離反、味方の足並みが更に乱れたのである。結局白河城への攻撃は七月十四日が最後となり、小競り合いを続けた後今現在の撤退へと至る。

「白河より北側の中通り・浜通りまで奴らに占拠されちまうと流石になぁ」

 既に他の列藩同盟軍は会津を経由して自藩へと軍を撤退し始めている。会津はもう自力で自藩を守るしか方法はないのだ。敗戦の色濃くなった会津及び幕府軍は、このまま会津で官軍を迎え撃つことになるだろう。

(だが、本当にそれで良いのか?)

 会津藩は自領での最終決戦を本望とするだろう。だが幕府軍はそうではない。

(そもそもここで死んじまったら近藤さんの仇討ちさえできやしねぇ)

 幕府軍総督の大鳥がどう考えているかは定かではないが、少なくとも会津で玉砕するとはこれっぽっちも考えていないだろう。

(取り敢えず若松に戻ってから話を聞くことになるかな)

 新選組だけ率いているのならば身軽に動けるが、今や新選組は幕府軍の重要な一部隊なのだ。迂闊な行動は差し控えなければならない。

(今思えば京都に居た頃は身軽だったよな)

 自分の後を付いてきてくれる部下たちを見回しながら土方は心の中で呟いた。



 兵数で優位に立っていた筈の列藩同盟だったが、藩同士の力の均衡を崩さないようにすることに腐心してしまったためか主導するものが現れず、数的優位を活かし切ることができなかった。
 その一方官軍は伊地知正治の指揮によって白河の戦いを優位に進め、その後の官軍侵攻の勢いを付けたと言っていいだろう。また板垣退助率いる白河軍、及び平潟から上陸した官軍の中通り・浜通りへの進軍によってこの地域の列藩同盟軍は雲散霧消していた。
 この時点で列藩同盟軍は勝機を失い、東北戦争の大勢は決している。あとは仙台藩と会津藩を直接攻撃するのみ――――――会津総攻撃に向け、官軍は虎視眈々と狙いを定め始めていた。



 撤退するのは軍隊ばかりではない。福良・千手院にある野戦病院も撤退を余儀なくされていた。軽傷の者は重傷の者に肩を貸したり、戸板に乗せたりして会津若松に向かって移動している。ただ、城下に戻ってもまともな手当をしてやることは出来ないだろう。既に薬は底をつき、医者たちの体力も限界に達していた。

「松本センセ、大丈夫どすか?」

 泥濘に足を取られ、よろめいた松本良順を小夜が慌てて支える。

「おう、済まねぇな。何とか大丈夫だ・・・・・・脚はな」

 そう呟きながら松本は己の手を目線まで上げる。その手は真っ赤に腫れあがり、震えが続いている。

「冷やせば少しは使えるようになるたぁ思うんだが」

「無理せんといてください。ホンマに難しい怪我人が来はったら松本センセやないと治せまへんえ?」

 無理をしようとする松本を小夜が辛うじて押しとどめる。毎日運ばれてくる怪我人の手当に、松本は震える手で手当を続けていた。それ故松本の手の震えや腫れは日を追うごとにひどくなっていっているのだ。

(多分松本センセの手はリウマチやあらしまへん。大怪我を縫い続け、手当を続け・・・・・・その代償どす)

 だが、自分の見立てを小夜は口にだすことはできなかった。それは松本の医者としての矜持を傷つけると知っているからだ。『リウマチ』――――――つまり病気であればまだ格好がつくが、傷の手当で手が震えたり腫れたりとしたとあっては軟弱だと言うことになってしまう。

(うちの手も、どこまで持つんやろ?)

 小夜の手も松本程ではないがだいぶ疲れがたまり痺れを感じるようになっている。否、そうでない医者はこの場に誰一人いないのだ。

(戦いに負けるんか、それとも手が動かなくなるんか・・・・・・どっちが先なんやろか)
 
 松本の背中に手を添えつつ、小夜は不安に苛まれ続けた。




UP DATE 2016.10.15

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今回は私自身の覚え書きを込め、隊士達の雑談形式での『白河の戦い、ざくっとまとめ』をお送りいたしましたwww
なお、裏設定としては『会津藩の規律がやたら厳しく、私語厳禁。新選組もそのとばっちりを受けてなかなか私語ができない雰囲気だったけど、それに耐えかねた土方が手当たり次第に声をかけた』って感じになります。何せ元々が寄せ集めの傭兵集団、きっちりしすぎるのはアカンのです(^_^;)緩めるところでは緩めないといざという時集中するのも難しいですから・・・(-.-)

次回更新は10/22、母成峠の戦い直前の様子をお届けする予定です。そして次回か近いうちに白虎隊も出したい(>_<)
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S様、今週もコメントありがとうございますm(_ _)m 

こんにちは、今週もコメントありがとうござますm(_ _)m
戦争の負け戦は兵士だけでなく彼らを支える人々にも負担を強います。時勢とはいえ書いていて辛いものがあるのは否めません(´・ω・`)
S様も今新選組の小説を書いているのですね(*^_^*)多くの作家が取り組んでいる題材ですので自分のオリジナリティを出すのが難しいかと思いますが、頑張ってくださいませね(*´ω`*)
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