「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第十八話 満身創痍の白河戦線・其の貳

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「法眼!松本法眼!こちらの怪我人をお頼み申す!」

 悲痛な声に沖田ら三人が振り向くと、戸板に仲間を乗せた会津兵士ら三人が立ち尽くしていた。
 どうやら叫んだのは一番年若の青年らしい。まだ二十歳を僅かばかり過ぎた頃合いだろうか。目に涙を浮かべ叫ぶその姿は、武張った気風で自分の感情を表に出さない会津武士としては極めて珍しい。

「山代さんを・・・・・・兄者を助けてください!俺を庇ってこんな大怪我を・・・・・・」

「泣いてる暇があったらとっとと戸板を下ろしな」

 泣きじゃくる青年の言葉を遮り、松本の厳しい声が響く。そして横たわる怪我人をまたぎつつ、自ら彼らの方へと歩み寄った。

「気の毒だが、ありゃだめだな」

 松本の背中を見やりつつ、土方が小さく沖田に呟く。その呟くに同意するように、沖田も土方にだけ判るよう、微かに頷いた。

「ええ。というか普通なら苦しませないようその場でどうにかすると思うのですが、相当気が動転しているんでしょうか。切腹の介錯も罪人の処罰も他人の手は借りない会津が、あんな怪我人を運んでくるなんて」

 他藩の武士と違い、会津武士はそのあたりの教育は極めて厳しい。明らかにもう助からないという重傷者であれば自分たちの手で楽にしてやることができるはずだ。
 なのに何故わざわざ松本の許に運んできたのだろうか――――――すると若者が松本にすがり、涙声で訴えたのである。

「お願いです、松本先生!山代さんの・・・・・・兄分の治療をお願いいたします!それが無理ならせめてモルヒネを。これ以上山代さんの身体に傷をつけたくないんです!」

 どうやら大砲の衝撃にやられてしまったらしい。身体左半分は見るも無残な姿であったし、特に腹部の損傷は激しい。まだ息があることさえ奇跡的だ。
 それだけにこれ以上傷をつけたくないという若者の言葉も理解できなくない。特に介錯ともなれば首と胴体が分かれることになるので精神的にも辛いのだろう。だが、返ってきた松本の言葉は非情なものだった。

「悪い。こんな状態じゃもう手の施しようがねぇ。それとモルヒネは昨日で切らしちまったんだ。諦めてくれ」

 頼みの綱だったモルヒネまで切れていると聞いて、青年は絶望の呻き声と共に膝をつく。その時である。

「ゆう・・・・・じ、介錯を、たの、む・・・・・・」

 戸板に載せられた男がその青年に声をかけてきたのだ。本来であれば声など出せる状態ではないにも拘らず――――――きっと最後の力を振り絞ったのだろう。
 その言葉に我に返った青年は、泣きぬれたまま脇差を手に取るが、その手は明らかに震えている。あれでは仕留め損ね、余計に戸板の男を苦しませることになるだろう。その瞬間、沖田はその青年に向かって歩き始めた。

「おい、総司!」

 土方は慌てて止めるが、沖田はそのまま青年の傍まで近づく。そして背後から肩にぽん、と手をおいた。

「な、何奴!!邪魔をするな!!」

 覚悟の介錯を邪魔された青年は怒りと共に沖田の方を振り向く。だが沖田は表情ひとつ変えること無く、容赦のない指摘をした。

「そんな震える手で介錯したら、あなたの先輩は余計に苦しむことになりますよ」

 その指摘に青年はうっ、と言葉に詰まる。

「可愛がってくれた方の介錯は本当に辛いと思います。だけど・・・・・・介錯を任されたということは、男としてあなたを認めてくれている証です。その期待を裏切って良いんですか?」

 思いもしなかった沖田のその言葉に、青年は驚き目を丸くする。

「もう四年前になりますけど、私も自分を可愛がってくれた先輩の介錯を頼まれました。どれほど逃げ出したかったか・・・・・・だけど、私はその人の期待を裏切ることは出来ませんでした」

「そなたも・・・・・・先輩の介錯をしたことがあるのか?」

 すがるように尋ねる青年に、沖田は深く頷いた。

「ええ。可愛がってくださった御方に頼まれて介錯を。今の貴方と同じくらいの年齢のときでしたかね。辛いお気持ちはわかりますが、これ以上この方を苦しませるのもいかがなものかと」

 沖田は戸板に横たわっている男に視線を移しながら更に語る。

「もし、それでもお辛いならば私が代わりましょうか?一応この方を苦しませない程度の腕は持ち合わせておりますが」

「いいえ!いいえ・・・・・・それがし、が」

 青年は沖田の申し出を断ると涙を手の甲で拭い、脇差しを握り直す。それを確認した沖田は他の会津兵二名と松本に声をかけ、立ち位置を変えた。他の患者に出来るだけ介錯の現場を見せないようにする為である。

「山代さん・・・・・・今まで、ありがとうございまし、た」

 青年は例を述べるとそのまま脇差の切っ先を先輩の首に下ろす。するとその次の瞬間、むわっ、とした生臭い鉄臭が濃くなった。

「・・・・・・お見事。声一つ上げず、これほどまでに穏やかな表情を浮かべたままとは」

 沖田の指摘通り、戸板の会津兵は穏やかな表情を浮かべたまま事切れていた。その顔は切腹の際を山南を沖田に思い出させるきっと涙ながらに介錯をしなければならない青年への、最期の思いやりだったのだろう。

「会津武士に相応しい、見事な散り際でしたね。あなたの先輩は」

 どこまでも穏やかな沖田の慰めに、青年はわっ、と大声で泣き出した。



 未だ泣きじゃくっている青年の近くからそっと離れ、土方の傍に戻ってきた沖田に土方が声をかけてきた。

「嫌な役を背負わせちまったな」

 土方のねぎらいの言葉に僅かばかりの驚きの表情を浮かべつつ、沖田は首を横に振った。

「いいえ、別に。山南さんの介錯に比べたらそよ風ほどの負担もありませんよ。それにしても土方さん、いつからそんな優しくなったんですか?むしろ気持ち悪いんですけど」

 未だ戸板の男の亡骸にすがりついて泣いている青年に視線を送りながら沖田は穏やかに笑う。

「気持ち悪いは余計だ!それよりも話を戻すが、山南さんの時だってお前は今回同様平然と・・・・・・いや、違うか」

 土方は何かを思い出したらしく、ちらりと忙しく手当に回っている小夜の方へ視線をやった。

「どさくさに紛れて手を出すべきじゃねぇ女に手ぇ出して、頑是ない子供よろしく未だ付き添ってもらっている野郎がいたな、総司」

 ただ会話をするだけで精一杯、手さえ握れなかった沖田が小夜と関係を持ったのは山南の介錯をした直後だった。それを思い出した土方は軽い嫌味を吐いた。

「頑是ない子供って、そこまで言いますか・・・・・・確かにここまで小夜を連れてきちゃいましたけど」

 土方の指摘に、沖田は耳まで真っ赤になる。

「・・・・・・土方さんの言う事は御尤もです」

「今回のことに免じて吹聴するのだけは勘弁してやる」

「そう願いたいものです」

 小さな声で沖田が頼み込んだその時である。ようやく傷の縫合を終えた小夜が顔を上げ、沖田と土方の方を見て会釈をした。そして立ち上がると近づいて土方に頭を下げる。

「お忙しい中、ご足労ありがとうございます」

「いいや、こっちこそだいぶ助かっている。あんたには色々助けられっぱなしだな」

 土方の労いに小夜ははにかんだ笑みを浮かべたが、次の瞬間不意に真顔になる。

「土方はんも、総司はんも・・・・・・これから前線へ行かれはるんですか?」

「ええ、そうですけど。何か問題でも有るんですか、小夜?」

 小夜の真剣な表情に、嫌な予感を覚えた沖田が小夜に尋ねる。すると小夜はまるで軍の参謀のような口調で最近の状況を語り始めた。

「ここ数日、特に幕府軍が圧され気味なんどす。怪我人も多うなって・・・・・・あんな重傷者も多く運ばれてくるようになりました。武器はそんな変わらへんと思うんですけど、勢いが違います」

 ようやく亡骸を外に運び出そうとしている会津兵たちを見送りながら小夜は報告する。

「ほんまはあかん事は承知なんどすが・・・・・・新選組の皆はんには最前線にはあんまり行って欲しゅうないと思うてます」

 沖田や土方よりもいち早く戦場に近い場所に出ていた小夜だけに、幕府軍の劣勢を肌で感じているのだろう。だが、それでも逃げるわけには行かないのが雇われ傭兵集団の悲しいところである。

「ありがとう、小夜。でも私達は京都からの戦いでずっと生き残ってきたんです。そう簡単には死にませんよ」

 先程の戸板の男の姿は、明日の自分かもしれない。それでも戦わなくてはならないのだ――――――沖田の言外の覚悟に、小夜は切れ長の目に一杯の涙を浮かべ、唇を噛み締めた。




UP DATE 2016.10.8

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運ばれてきた会津兵ですが、どのみち手遅れの状態でした(´・ω・`)本来であれば野戦病院に運び込むことはせず、仲間がその場で楽にして上げるべきなんでしょうが、かなり気が動転していたのでしょう。または『幕府御典医の松本法眼ならば』と僅かな期待を抱いていたのかもしれません。最悪モルヒネでの安楽死くらいはできるんじゃないかと・・・でも結果は最悪の事態に陥ってしまいました。
その青年の姿に沖田は自分と山南さんを重ねていたようですが、冷静にそのことを語りともすれば自分が嫌な役回りを肩代わりしようかという申し出をしたことは、それ相応に成長の証なんでしょうかねぇ(^_^;)

次回更新予定は10/15、土方、沖田共にほんとうの意味での前線復帰と相成ります(๑•̀ㅂ•́)و✧
(できれば白虎隊も登場させたい・・・史実ではびみょ~なところだけど^^;)
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S様、コメントありがとうございますm(_ _)m 

こんにちは(*^_^*)拙作をお読みいただきありがとうございますm(_ _)m
多分総司は昔の自分を若い会津藩兵に重ねていたと思われます(´・ω・`)敵を殺すのと、大事な人を殺すのでは気持ちの重さが違いますので・・・。
これからますます辛い戦いの日々が続きますが、宜しかったらお付き合いのほどよろしくお願いします(*^_^*)



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