「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第十七話 満身創痍の白河戦線・其の壹

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 土方、沖田が福良御用場に到着して休む間もなく、早速幹部会議が開かれた。沖田にしても土方にしても久しぶりの幹部会だ。斎藤や島田、その他幹部らから報告される戦況報告に神経を集中させる内に、気分も高揚してくる。

(久しぶりですね、戦いの最前線・・・・・・すっかり忘れていました)

 だが、その内容は善戦はしているものの官軍に圧され徐々に前線が後退しているというありがたくない報告ばかりだった。幹部達からの報告を聞くに連れ、土方の眉間の皺は徐々に深くなり、最後には重々しい溜息がその唇から零れた。

「予想はしていたが、あまり芳しくねぇな」

 一通りの報告を聞いた後、土方がぽつり、と漏らす。一応若松城や土方の療養地だった東山温泉にも戦況は届いていたが、だいぶ控えめに報告されていた。城下の士気を落とさぬ為だったのだろうが、それでも実際の戦況とは違いすぎる。

「ええ、かなりこちら側は劣勢です。戦慣れしている新選組の隊士数も減っておりますし」

 中島登の言葉に、皆が頷いた。そこまでで戦線に出ている幹部達の報告は終了し、今度は土方の番となる。

「会津からの司令だ。部隊立て直しのため新選組は町守谷へ移動するようにとのお達しだ。できるだけ今日明日の内に怪我人の手当をしておいて、それが終わり次第町守谷へと向かう。途中で倒れそうな奴は無理をさせず千手院に置いてゆけ」

 特に問題のない、平凡な言伝だったが、土方の言葉に何故か斎藤が微かに表情を変えた。その微妙な表情の変化を沖田は見逃さなかった。

(斎藤さん自ら言い出す気は無いようですが・・・・・・気になるんですよねぇ。いっそ本人に聞いてしまいましょうか)

 幹部会の席で提言しないと言うことは私的な部分での不機嫌なのだろう。幹部会が解散した後、沖田は意を決して斎藤に声をかけた。

「斎藤さん」

「何だ?」

 不機嫌も露わにした声音に沖田は一瞬怯むが、更に尋ねる。

「何だか少し・・・・・・いえ、かなりご機嫌が悪いようですけど、その機嫌の悪さ戦の劣勢だけが理由じゃありませんよね?」

 すると斎藤は一瞬大きく目を見開き驚きの表情を露わにした。

「・・・・・・ふん。体力は落ちても新選組一番隊組長の嗅覚は鈍ってはいないな」

 昔の沖田を彷彿とさせる鋭い問いかけに斎藤は怒るどころかむしろ嬉しげな笑みさえ見せる。その笑みに微かな安堵を覚えた沖田はつい口を滑らせた。

「やだなぁ、体力が落ちたなんて。これでもだいぶましになったんですよ?でなければ会津まで来ることは」

「『女』の付き添い付きでだろうが」

 苦々しく吐き出すようなその一言で、沖田は斎藤の機嫌の悪さの原因を理解した。

「もしかして小夜が野戦病院にいるのが気に入らないんですか?」

「その通り。しかも追い返すにはあんたの女房は腕が良すぎる」

 足手まといになるならいざ知らず、小夜の医師としての腕は斎藤でさえ認めざるを得ないのだろう。特に外科の腕のある医師は見習いでもいいから一人でも多く居たほうがありがたい。

「お褒めいただき光栄です。小夜もきっと喜びますよ」

「それだけじゃない!」

 あまりにもヘラヘラとしている沖田の態度に斎藤は声を荒らげる。

「あんたの女房が医者とは言え前線に出ているというのを聞いた会津のおなごたちが『自分達もいかせろ』と言い出したらしい。しかも一部のおなご達は男髷の長さにまで髪を切っているっていう話だ。まったく最近のおなごどもは恥じらいとか奥ゆかしさとか・・・・・・」

「ああ、その話ですね。あれは虱が流行ってしまったからです。戦時中だとなかなか掃除もままならないですから」

 『戦場に行かせろ』という話はともかく、髪を短く切ったのは別に理由があった。小夜の短髪とは関係ない話である。どうやら一部誤解があるようだと、沖田は斎藤に話しはじめた。

「長い髪だと洗うのも大変じゃないですか?なのでせめて短くして少しでも虱の害を抑えようと・・・・・・あとついでですけど鬢付油もそれどころじゃない、って付けてない方、多くなってますよ?若松に帰った時、あまり驚かないでくださいね」

「まったく近頃のおなご共は・・・・・・」

 斎藤は更に不機嫌そうに顔をしかめる。お洒落好きとは言い難い斎藤であるが、身だしなみには人一倍厳しい。それ故、おなご達の風紀の乱れ――――――髪結いに手を抜き、鬢付油さえつけないずぼらさに忌々しさを覚えているのだろう。この点では沖田のほうが現実を直視していた。

「仕方ないじゃないですか。普段の勤めに戦の後方支援が増えているんですから、身だしなみまで手を回せっていうのは・・・・・・おなごが身だしなみを整えるには、時間とお金と心の余裕が無いと無理です。要は男の甲斐性、って奴ですよね」

「・・・・・・もてないくせに解ったような口を利くな」

 如何にもいい男然とした持論を展開する沖田に、斎藤が憎まれ口を叩く。

「ええ。持てなくてもおなごには縁がありますんでね。姉二人に妻に娘――――――あ、産まれたのが可愛い女の子で」

「そんな事は聞いちゃいない!」

 更に不機嫌そうに斎藤は吐き捨てると沖田に背を向けた。こんなふうに斎藤と他愛もない話をするのも本当に久しぶりだ。と言うか、今年に入ってから転戦につぐ転戦で落ち着けなかったのだからしょうがない。

(尤もここも戦況が良くないから、いつまで落ち着いていられるか)

 仲間たちの話によれば、白河の戦線もあと一ヶ月持たないだろうと言う。となると敵が会津に攻め込んでくるのは時間の問題であろう。お世辞にも開けているとは言えない未来に、沖田は言い知れぬ不安を覚えた。



 翌日、土方と沖田は島田に案内され野戦病院がある千手院へと向かった。つい先日まで島田も怪我をしており、ここで治療を受けている。それ故の案内役だったが、案内され堂内を見た瞬間、土方と沖田は顔を引きつらせた。
 地獄絵図とは正にこの事を言うのだろう。重傷者、軽傷者構わず堂内を埋め尽くし、その間を縫うように医者があちこち飛び回っている。血や膿の臭気が鼻を突き、怪我人の苦しげなうめき声と相まって吐き気さえ催してくる。

「聞いていたのよりもだいぶひでぇな」

 さり気なく口元を手で覆いながら土方が低く唸る。

「少しでも戦況を良く見せようと、報告が控えめになされていたのかもしれませんね」

 島田の言葉に沖田も頷いた。その時である。

「おう、土方!沖田!おめぇらもようやく合流か!」

 奥の方から懐かしい声が響き、怪我人をかき分け松本良順が三人の近くまでやってきた。

「松本先生、ご無沙汰してます!」

 松本の笑顔に沖田も顔もほころび、頭を下げる。

「おう、沖田。だいぶ良くなったようだな。それとおめぇの女房にはかなり助けられているぜ」

 そう言って松本が顎で指し示す方向を見ると、重傷者の手当を他の医師と共にしている小夜がいた。その横顔に多少疲れの色が見えるが、手は休むこと無く傷口の縫合に勤しんでいる。

「流石に野郎どもに比べりゃ体力は劣るが、お小夜の縫合の手際の良さと仕事の細かさは随一だ。悔しいが俺の弟子でも敵う者がいねぇ・・・・・・というか、お小夜の技を今盗ませている、ってところかな」

「恐縮です。松本先生に妻を褒めていただけるなんて」

「それだけに亭主のおめぇは恥ずかしい戦いはできねぇぞ。女房の出来の良さに比べてあの亭主は、ってなったらおめぇも立つ瀬がねぇだろ」

「いえ、元々ありませんって。ここに来ることが出来たのも小夜の付き添いあってのものですから」

 おどけた口調の沖田の言葉に、土方と島田は苦笑し、松本は大笑いをした。

「ははは!おめぇもしっかり尻に敷かれてんな!ま、それくれぇのほうが男としちゃ心置きなく仕事に没頭できるってわけだが」

 不意に松本が真顔になる。

「ここの戦線は持って半月だろう。ここに送り込まれてくる怪我人も日を追うごとに多くなってきている。ああやって手当をすれば何とかなる怪我人ならともかく、そうじゃねぇ怪我人も多くなっている。あんまりでかい声じゃ言えねぇが」

 松本が更に声を低くして――――――目の前にいる三人にだけ聞こえるような小さな声で告げる。

「昨日で安楽死用のモルヒネも底を尽いちまった。今、手配をしている最中だがいつ手に入るか判らねぇ。もしここで生かすことが出来ねぇ重傷者が来ちまったら・・・・・・」

 その時である。沖田らの背後にある本堂の扉が乱暴に開かれる音が堂内に響く。そして涙声の怒声がその場に居た全員の耳を劈いた。

「松本法眼!こちらの怪我人をお頼み申す!」

 その声に沖田ら三人が振り向くと、戸板に仲間を乗せた会津兵士らが立ち尽くしていた。



UP DATE 2016.10.1

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ようやく戦線に復帰した土方&沖田デス(#^^#)そして斎藤さんの不機嫌の原因は・・・元気過ぎるオナゴ達でした/(^o^)\
そりゃあ自分達の国が攻め込まれそうになっているというのに、大人しくブルブル震えている武家の女はいませんって( ̄ー ̄)ニヤリ
そんな女たちを目の当たりにして、保守的な斎藤さんはついていけなくなっているのでしょう。というか多分女性に対して夢を持っていたに違いない・・・その一方、遊び慣れている土方&一応妻子持ちの沖田は現実を直視することができるようです。というか、使えるものは猫の手でも❤根性や技術のあるおなごの手だったら大歓迎!ってところでしょうか。
というわけで、これから斎藤さんの女性に対する夢はガッツンガッツンぶち壊されていくでしょう((o(´∀`)o))ええ、書く方としてもかなり楽しみです( ̄ー ̄)ニヤリ

次回更新は10/8、飛び込んできた会津遊撃隊とその仲間の重傷患者。安楽死も出来ない状況で果たして・・・次回をお待ちくださいませm(_ _)m
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