「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第十六話 再会と悲しみの報告・其の肆

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 会津若松を出立して二日後、鉄之助と小夜は福良にある千手院に到着した。ここは会津藩の野戦病院になっており、会津の医師の他、幕府軍と共に落ち延びてきた松本良順やその弟子たちが手当に当たっている。
 だが、千手院の堂内だけでは足りないのか、比較的軽傷の者は外に敷かれた茣蓙の上に座り込んだり寝転んだりしていた。そんな怪我人をかき分けるように千住堂に近づくと、鉄之助は上がり込み戸を開く。すると血と膿の臭いがもわっ、と二人を包み込み、横たわる重傷者の姿が目に飛び込んできた。

「失礼します!松本法眼はいらっしゃいますか!」

 一瞬怯む小夜とは対照的に、この光景には慣れきっているのか鉄之助は平然と中にいる医師たちに声をかける。する遠くの方から『おう』という声が聞こえてきた。

「鉄の字か。また土方が様子を見てこいとでも言ったのか?全くあいつぁ部下に対して過保護すぎる・・・・・・ん?おい、お小夜じゃねぇか!」

 松本は小夜の顔を見るなり大きな目を更に大きく見開き、驚きの声を上げる。

「何でおめぇがこんなところに?それとややはどうした?まだ乳飲み子のはずだろうが?」

 矢継ぎ早に質問をぶつけてくる松本に腰が引けながらも、小夜は事情を説明し始めた。

「へぇ。娘は人に預けてきました。うちは総司はんと共に会津にに・・・・・・医者が足りへんのやないかと思いまして」

「確かに医者は足りねぇが、ここは戦場だ。おなごが来るような場所じゃねぇ」

 手当をしても次から次へと怪我人が運び込まれてくる状況である。それこそ猫の手も借りたいほどだが、流石に出産直後の小夜をというのは問題がありすぎる。露骨に渋い表情を浮かべる松本だったが、小夜は必死に食い下がった。

「医者に男も女もあらしまへん。腕があるもんが手当をすればええやないですか」

 そう言いながら小夜は松本の手を取る。

「松本センセ、リウマチやっていう話やないですか。それでなくても連日の診察で疲れてはるでしょうし。流石にセンセの足元にも及びまへんけど、多少のお手伝いはできます」

 松本は小夜を一瞬睨みつけたが、その手は小刻みに、しかし明らかに震えていた。自らの意思で止められぬこの震えを抱えた状態では、大怪我の縫合などは難しいだろう。松本も自覚はあるらしく、暫く考え込んだ後、小さく呻いた

「本当はおなごであるオメェをこんなところで働かせるべきじゃねぇのは百も承知だが・・・・・・すまねぇ」

 ここは前線を支える野戦病院なのだ。一人でも使える『手』が多い方がいい。しかも小夜は京都で新選組隊士の怪我の治療にも多少携わっていた。全く経験が無いものよりは、少しでも怪我の治療に携わった者の方が即戦力として使える。
 背に腹は代えられぬ、と小夜に謝る松本だったが、小夜は柔らかく首を横に振った。

「謝らんといてください。少しでもお役に立てるよう、頑張ります」

「ああ、頼む。あとその髪――――――何があったか判らねぇが、だいぶ短く切っちまったな。だったらいっそ野郎の姿で仕事をしてくれねぇか。怪我人だけとは言え不届きな考えを起こす野郎もいるかもしれねぇし・・・・・・その方が動きやすい」

「へぇ。承知しました」

 松本の指示に深く頷く小夜のその顔は、既に一人の医者のものだった。



 江戸よりも少し遅めの梅雨明けを迎えた翌日、土方と沖田は新選組が宿泊しているという福良御用場へと向かっていた。

「皆似合うのは久しぶりですね」

 懐かしそうに目を細める沖田に対し、土方は冷たく言い放った。

「言っておくが、京都からの隊士なんざ半分もいねぇぞ。大体は江戸で入隊した奴か、会津に来てから入隊したやつのどちらかだ」

「会津でも入隊?直接会津藩の志願兵になるのではなく?」

 怪訝そうに小首を傾げる沖田に、土方は少しばかり声を潜めて沖田に事情を説明し始める。

「ああ、あいつらは『他所者』を嫌うからな。かと言って幕府軍本体も身分がどうのこうのと煩い輩がいるし、その点新選組は腕さえありゃ入れるからな」

「確かにそうですよね。しかし・・・・・・」

 沖田は言いかけたが、思い直したのか口をつぐんでしまう。

「どうした、総司。何か言いたいことがあるんbじゃねぇのか?」

「・・・・・・こんな状況になっても身分だ他所者だと言う人がいるんですね。一枚岩であってもこの戦、勝てないかもしれないのに」

「勝てないかもしれねぇ、じゃねぇ。負けるぞ、ここでは」

 あまりにもきっぱり言い切った土方の一言に、沖田は目を丸くした。

「ちょっと、土方さん!そんなはっきり言い切らなくても」

「言い切るさ。伊達に会津若松で怪我の療養をしていたわけじゃねぇんだぜ」

 そう言いながら土方は語り始めた。

「元々寄せ集めの幕軍が一枚岩じゃないってぇのは覚悟していた。だがよ、会津内部でも色々な派閥があって細けぇことでいちいち仲違いしているらしい・・・・・・長州憎しでは一致してるけどな」

 諦観の色を滲ませた土方の呟きに、沖田はやるせなさを感じる。

「私達も人のことは言えませんが、組織があればどうしても起こってしまうんでしょうかね、内部抗争って」

「だな。人がいればその分だけ考え方は違ってくる・・・・・・それをどうすり合わせていくかが問題だ。昔の新選組みたいに力で押し切るわけにもいかねぇ」

 京都に居た時は近藤、土方の下、隊士達を強引に一つの目的へと向かわせていた。だが、今では不可能である。入隊試験も無く、どこの馬の骨か判らぬ者を受け入れざるを得ない今、力で強引の押さえつけることは出来ない。

「変わりましたね、土方さん」

「変わらざるを得ねぇんだよ。隊士らを一人でも多く生き延びさせるためにはな」

 そんな話をしている内にいつしか日はとっぷりと暮れ、二人はようやく福良御用場へと到着した。



 福良御用場には既に新選組隊士達が帰還していた。皆一様に疲れ切った表情を浮かべていたが、土方の顔を見るなり歓喜の雄叫びが上がる。

「土方副長!お怪我、完治したんですか!」

「お久しぶりです!」

「やっぱり『鬼の副長』が来ると気が引き締まります!!」

 隊士達、特に京都以来の古参隊士達は土方に駆け寄り嬉しさを露わにする。そして次の瞬間、土方の隣りに従者然といる沖田の存在に目を丸くした。

「お、沖田先生!いつ会津にいらっしゃったのですか!」

「江戸は・・・・・・江戸はどうなりましたか?局長は?」

 前線での戦いの中、情報に飢えていたのだろう。顔見知りの古参隊士達は我先にと沖田に尋ねる。だが、それを制したのは他でもない土方だった。

「おめぇら、少しは落ち着け!総司の土産話は後でたっぷり聞かせてやるから!その前に山口、どこにいる!」

 すると隊士達の後ろから今現在の新選組隊長の山口――――――改名した斎藤一がのそっ、と顔を出した。

「ご無沙汰しています、土方さん。そして・・・・・・沖田さん」

 喜ぶでもない、何とも複雑な表情を浮かべた斎藤が、ギロリと沖田を睨む。

(あれ?何か機嫌が悪そうですね)

 この時、沖田はてっきり自分が今更のこのこ江戸からやってきたことに斎藤が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべているのかと思いこんでいた。
だが、それが誤解であること、そして沖田の来訪以上に斎藤を苛立たせている事態を知るのはこの半刻後のこととなる。



UP DATE 2016.9.24

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小夜と総司、夫婦別行動でそれぞれの持場に付きました♪
小夜の野戦病院勤務に松本法眼はあまりいい顔をしておりませんが、当の本人の手の自由がこの時点であまり効かなくなっておりますからねぇ(´・ω・`)たぶんリウマチではなく腕の酷使によるものだったと思うのですが、俗説では『リウマチ』となっておりますので拙作ではその説を使わせていただきました(*^_^*)
更に京都でバッサリ切ってきた髪ですが、この時点ではようやく男髷くらいは結える程度に伸びているかと・・・なので以後小夜は男装で治療に当たることになります。その方画面動画なさそうですので(^_^;)

一方総司の方も新選組本隊に合流いたしました(≧∇≦)/しかし喜んでくれる他の仲間とは対照的に斎藤さんは何故か複雑な表情を浮かべて・・・次回、その理由を明らかにしてゆきます( ̄ー ̄)ニヤリ
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