「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第十五話 再会と悲しみの報告・其の参

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 陸奥といえども盆地である会津の夏はそれなりに暑い。それでも時折吹き抜ける川風は京都に比べるとだいぶ涼やかだ。ここ数年とはまた違った夏の風を感じながら、沖田は口を開いた。

「話は少し長くなりますが、私達が再会したところから話し始めていいでしょうか、土方さん?」

「その理由は?」

 苛立たしさを隠そうともせず、土方は沖田を睨みつける。それでも沖田は眉ひとつ動かさずその理由を述べた。

「私達が再会したのは・・・・・・近藤先生の処刑が行われた、まさにその場所、その時だったからです。近藤先生の斬罪が行われた板橋の刑場で、私達は出くわしたんです」

 沖田の感情を表に出さない淡々とした語り口に、言い知れぬ重い空気が立ち込める。

「・・・・・・その前に、近藤さんの居場所を突き止めることは出来なかったのか?」

 悔しさも露わに、土方が呻く。だが沖田は『それは無理でした』と首を横に振った。

「はい、申し訳ありません。試衛館にも官軍の見張りは付いていましたが、そこには監禁されていませんでした。音五郎さんたちにも手伝ってもらって四方八方探したんですが、結局近藤先生を見つけたのは処刑当日――――――有力旗本が処刑されるという高札が出されたので、もしかしらたと板橋まで脚を伸ばしたら、近藤先生がそこに連れられてきました」

「お小夜。おめぇは?弾左衛門のところにいたはずだよな?」

 近藤を探していた沖田が板橋に行くのは判る。だが弾左衛門の屋敷で世話になっていて、しかも産み月間近の小夜が何故板橋にいたのか理由が解らない。その辺を土方が尋ねると、小夜は『京都に帰ろうと思って』とその理由を語りだした。

「へぇ。弾左衛門はんのお屋敷で新選組が江戸を脱したゆうのを聞きました。総司はんがおらへん、しかも官軍の多い江戸でややを生むよりは京都に帰ったほうがええかなと。で、その途中で偉い御方の処刑があるゆうのを聞きまして、もしかしたらと板橋へ寄らさせて頂きました」

「そこで出会ったのは良いんですけど、小夜が産気づいてしまって」

 ははは、と沖田は乾いた笑いを浮かべながら口を挟む。

「流石に気が動転してしまいまして、近藤先生の亡骸をきちんと確かめることも出来ませんでした。で、急いで千駄ヶ谷の植甚さんに戻って、そこで娘を産んでもらったんですけど・・・・・・上野戦争のあおりでそこが官軍兵に見つかちゃいましてねぇ」

 沖田のその一言に、土方の眉がピクン、と跳ね上がった。

「はぁ?植甚に隠れていながら見つかっただとぉ?そもそも植甚のおっさんがてめぇの家に薩長の田舎侍を踏み込ませるようなヘマをするようにゃ思えんが」

 疑い深そうに沖田を睨みつける土方に、沖田は上野戦争直後の『三日間斬り捨て御免』の状況を土方に訴えた。

「庶民は勿論、大名屋敷にも容赦なく官軍が入り込んで、残党狩りをしたんです。尤も普通の見回りは問題なかったんですけどね。だけど本来の見回りとは別に、妙に粘着質な薩摩藩兵がいたんですよ。そいつが私が捨て・・・・・・もとい、忘れていった大刀から居場所を突き止めて襲ってきたんです」

「・・・・・・今、聞き捨てならねぇ事を言おうとしたな?刀を捨てただと?」

 更に険しい表情になった土方は、沖田の襟首を掴む。今にも殴りかからんとする土方に。沖田は慌てて事情を説明した。

「だって小夜を乗せた駕籠に付いて行くのに大刀は重すぎたんです。その頃は生きるか死ぬかの状況で、立っているだけでもやっとでしたから」

 沖田は襟首を土方に掴まれたまま両手を合わせて土方に詫びる。

「で、話を元に戻します。薩摩藩兵に襲われた後、昇さんから教えてもらった駿次郎さんの道場に逃げ込んだんです。そうそう、駿次郎さん所帯持ってました」

 その瞬間、土方の顔に驚きと懐かしさが走り、沖田の襟首を掴んでいた手が緩んだ。

「へぇ、あの堅物がねぇ。一番女に縁がないと思っていたが」

「因みに駿次郎さんの相手は私の再従妹なんですが・・・・・・実は一時期、横浜で娼妓をしていましてね。三味線の糸がらみの縁でお琴さんとも既知の間柄だったそうです。私達も駿次郎さんの家でお琴さんに会いましたから」

 確かに三味線と花街は切っても切れない縁がある。土方も若いころ『琴の護衛』とばかりに新橋や品川に品物を納めに行く琴にくっついて行ったことがある。その事を思い出しながら土方は深く頷いた。

「なるほどな。で、おめぇら二人を見ている間にお琴に奴が情にほだされて、ってところだろ」

「よくお解りで」

「あいつとはそれなりに深い間柄だからな。さぁ、そろそろ懐の手紙を渡してもらおうか?」

 土方は土方なりにかなり我慢をしていたのだろう。怒気さえ含んだ声音に、沖田は苦笑しながら琴から預かってきた手紙を土方に渡した。



 鉄之助が淹れなおした茶をすすりながら土方は琴からの手紙を読み始める。最初こそ真剣な表情を浮かべていた土方だが、その表情はどんどんと柔らかくなってゆく。

「良い便りみたいですね。私も内容は全く知らないんですけど」

 沖田が茶をすすめてくれた鉄之助に小声で囁く。

「そうなんどすか? でもあんな笑顔はこちらに来てから初めてかもしれまへん。何せ大怪我をしはってず~っと療養でしたから」

「え?そんな大怪我だったんですか?まぁ確かに斎藤さんに部隊を任せて温泉三昧なんて土方らしくないなぁ、とは思っていましたが」

「温泉三昧だけは余計だ!ったく、おめぇらの仲人を琴に頼まれたが、やめておくか?」

 そう言いながら土方は手紙を床に広げ、その部分を指し示した。そこには江戸での事細かな出来事などが書かれていたが、その中に『可能だったら沖田と小夜の仲人になって欲しい』と書かれていたのである。身分の制約で本当の意味での結婚は無理かもしれないが、せめて形だけの祝言だけでも、という琴の気遣いである。

「うわっ、お琴さんこんなことまで気を使ってくれて」

「ほんま世話になりっきりで」

「よっぽどオメェらのこと――――――というかお小夜のことが心配なんだろう。あいつ、結構世話焼きだしな」

 そう言いつつも土方は内心自分に対する琴の気遣いも感じていた。小夜が藤堂の子を身籠ったのは言ってしまえば新選組の内紛に巻き込まれての事である。
 『鬼の副長』と言われながらも意外と繊細な部分がある土方がその事を悔やんでいないはずはない、と琴は察していたのだろう。
 可能か否かは置いておいて、形だけでも『罪滅ぼし』をさせることで、土方の心の負担を取り除こうと思いやる琴の気遣いがその手紙には滲んでいた。だが、それに気がついたのは土方本人だけだった。

(まったく、あいつは変なところで察しが良いからな)

 だからこそ上洛に際にも、否、未だに琴に未練を抱いているのだろう。そんな感傷に浸りつつあった土方だが、次の瞬間その感傷は見事に打ち砕かれた。

「世話好きといえば、うちの子もお琴さんに懐いてましてね。私達の娘なのにお琴さんが抱き上げると何故か土方さんの隠し子っぽくなるんですよねぇ。あれは本当に困るんですけど」

「・・・・・・それは嫌味か、総司?どうせ俺は惚れた女を孕ますことも出来なかった甲斐性なしだよ!」

 まるで子供のようにふくれっ面を晒す土方に、その場に居た全員が大笑いをした。



 翌日、土方と沖田は戦場へ向かうための打ち合わせのため若松城へ登城し、小夜は鉄之助と共に一足先に新選組が駐屯している福良へと向かった。そこに松本も出張っているらしい。

「とにかく医者の人手が足りひんのです。松本先生やお弟子はんたちも頑張ってはりますが・・・・・・それに松本先生も体調が思わしゅうなくって」

「松本センセも?」

 小夜の不安げな言葉に鉄之助が頷く。

「リウマチやとご本人は言うてはりますが、連日の疲れもかなり影響しているんやないかと。せやからお小夜はんに手伝うてもらえたらほんまありがたいです」

 努めて明るく言おうとしている鉄之助であったが、その言葉の端々には切羽詰まったものが感じられた。状況は小夜が想像しているものよりも悪いのかもしれない。

(勢いで総司はんについてきてしもうたけど・・・・・・うちの腕が少しでも役に立つかもしれへん)

 ここは戦場なのだ――――――小夜は気を引き締め、唇を強く引き結んだ。




UP DATE 2016.9.17

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今回の報告は比較的軽めのもの・・・というか土方にとっては目の前に位る沖田たちよりも遥かに重要な報告でした。何せお琴さんからの手紙ですからねぇ( ̄ー ̄)ニヤリまさかそんなものが来るとは思わなかっただけに嬉しさもひとしおだったのでは無いでしょうか(*´ω`*)
更に『形だけでも沖田達の仲人に』とのおねだりに調子に乗ってしまったようです/(^o^)\多分『武士をやめてくれ』以外のお願いだったら、お琴さんの言うこと何でも聞くんじゃないかな、拙宅の歳は(^_^;)
流石に仲人云々はすぐには出来ないとは思いますが、この『おねだり』はそのうち果たされることになります。

そしてとうとう土方&沖田、そして小夜も戦場に出向きます。男性陣の戦場は次のタイトルで本格的に書く予定ですので、次回は小夜が中心に・・・松本良順との再会、そして前線の野戦病院の光景が次回のメインとなります。
(9/24更新予定です♪)
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