「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第十四話 再会と悲しみの報告・其の貳

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 清水屋の土方の部屋に来ていた来訪者――――――それは江戸で近藤の救出をするようにと命じていた沖田と、浅草弾左衛門のところにいるはずの小夜だった。
 江戸にいるはずの二人が何故戦場である会津に来たのか?土方は驚きのあまり金魚のように口をパクパクしていたが、暫くしてようやく声をかけた。

「よ、よく会津まで来たな、おめぇたち。体の方は大丈夫なのか?」

 だがその後が続かなかった。聞きたいことは山ほどあるが、どこから聞いたら良いのか、さすがに土方も混乱している。
 というかもう二度と目の前にいる二人には会えないものだと思っていたのである。言ってみれば幽霊がいきなり自分の部屋に現れ、部下たちと談笑していたと言っても言い過ぎではないかもしれない。そんな土方の心の中を察したのか、沖田の方から口を開いた。

「ええ、色々な人に手伝ってもらってここまで来ることが出来ました。その一つ一つを報告するべきなんでしょうけど・・・・・・まず、一番嫌な報告からさせてもらいます。でないとなかなか切り出せそうもないので。宜しいでしょうか、土方さん?」

 その瞬間、土方だけでなく三人の小姓達の顔色も変わる。沖田にとって、否、新選組にとって『一番嫌な報告』はただ一つしか無い。

「ああ、勿論だ・・・・・・その為に危険を犯して会津まで来たんだろ?」

 すると沖田は小さく頷き、俯いたまま口を開いた。

「近藤先生は・・・・・・斬罪に処されました。切腹も許されず」

 その瞬間、その場に居た小姓三人が思わず小さく叫び、腰を浮かす。

「何ですって?沖田先生、それは本当なんですか!斬罪だなんて、ひどすぎます!!」

 一番若い玉置が気色ばみ、沖田に迫る。その目からはポロポロと涙が溢れている。そもそも玉置は近藤付の小姓だったのだ。主君とも思っていた上司を殺され、激高するのも当然だろう。だが、そんな玉置を宥めたのは今の上司である土方だった。

「玉置、落ち着け。近藤さんはその名を聞いただけで不逞浪士共を震え上がらせた新選組局長だぞ?長州の奴らが切腹なんざ許す筈もねぇだろう。闇から闇へ葬り去れれなかっただけでもありがたいと思え」

 一歩間違えば拷問の末に嬲り殺しにあっても文句は言えないのだ―――――――土方は泣きじゃくる玉置に言い聞かせる。否、形の上では玉置を窘めているように聞こえる土方の言葉だったが、それはむしろ自分自身に言い聞かせているように沖田には思えた。

「それでも――――――斬罪でありながらも近藤先生は最期まで武士の矜持を保っていらっしゃいました。尤も私は竹矢来に近づくことさえ出来ず、ちゃんと見れなかったんですけど。近藤先生の最期の勇姿は、江戸中の噂になりました」

 淡々と江戸の状況を語る沖田の言葉に、土方は満足気に頷く。

「なるほど、近藤さんらしいや。あの人は『形』を重んじるからな。最後の最後まで『武士の形』にこだわりやがった、ってところか。お喋りな江戸雀の噂になるくらいだから、近藤さんも草葉の陰でにやついているだろうよ」

 寂しげに呟く土方だったが、意外にも声は湿っておらず、目には涙の一雫も浮かんでいなかった。

「泣かないんですね、土方さん」

 自分のことは棚に上げ、沖田は土方が涙を見せないことを訝しむ。すると土方はふん、と不満げに鼻を鳴らした。

「泣いて近藤さんが戻ってくるんならいくらでも泣いてやるさ。だが今はその時じゃねぇし、オメェ達の前で涙見せるほど俺は落ちぶれちゃいねぇ」

 聞きようによっては強がりにも聞こえるその一言に、沖田が思わず吹き出してしまった。

「そうですか。だったら土方さんが強がっている内に、もう一つ嫌な報告をさせてもらいます」

 しれっと言い放つ沖田に、土方は更に目を丸くする。

「近藤さんの斬罪の他にもあるのかよ! ってまさか、お琴に亭主が出来たとか、ってんじゃねぇだろうな?」

 近藤の死の報告を吹き飛ばそうと、わざと自分の失恋ネタを振った土方だったが、沖田からはまさかの返事が返って来た。

「その点はご安心を。私達の娘を預かってもらっていますけど、お琴さんはまだ独り身です」

 その一言によって土方はようやく気がついた。身籠っていた小夜の腹がすっきりと細くなっていることに――――――つまり目の前にいるこの二人は乳飲み子を琴に預け、会津までやってきたということである。その事実に土方は愕然とし、思わず声を荒らげた。

「はぁ?何の義理でおめぇらの子供をお琴が預からなきゃならねぇんだよ!」

 思わぬ報告に土方もかなり動揺しているらしい。久々に見る土方の狼狽えに、沖田は愉快そうににやりと笑いつつ、『まぁまぁ』と土方を宥めた。

「それは順を追って説明します。というかお楽しみは後に取っておきましょうよ。それよりもまずは嫌な報告その二を先に・・・・・・原田さんが上野の戦争で亡くなりました。これはその報告書です」

 そう言って沖田は懐から一通の手紙を差し出す。

「土方さん、練兵館の渡辺昇塾頭を覚えていらっしゃいますか?」

 沖田の質問に、土方は『勿論だ』と答える。

「ああ、昇さんだろ。うちに道場破りがやってくると押っ取り刀で何度も助けに来てくれたじゃねぇか」

 江戸三大道場の塾頭でありながら、吹けば飛ぶような試衛館に何かと目をかけてくれていた渡辺の事を、土方は勿論覚えていた。懐かしそうに目を細めた土方に、沖田は更に言葉を続けた。

「実は上野で偶然渡辺さんに出くわしたんです。その際色々助けて頂いた上に、近藤先生と原田さんに関して知りうることを全部認めて手紙にしてもらいました。なので私からの報告、というよりは渡辺さんからの密書、と言ったほうがいいですね、これは」

 沖田の説明の中、土方は差し出された手紙を開き、文面に目を走らせる。すると読み進める内にみるみるうちに表情が険しくなった。

「・・・・・・こんなに詳しく。大丈夫なのかよ、昇さんは」

 手紙から視線を上げるなり、土方は苦笑する。だが、その眉間には深いシワが寄ったままだ。

「何が書かれていたんですか?」

 もしかしたら自分が預かり知らぬことも書かれているかもしれないと、沖田は土方に尋ねる。すると土方は手紙を沖田の前に広げ、一文を指で指し示した。

「ここを見ろ。近藤さんに関しては処刑の状況・・・・・・介錯人の名前や腕前まで書いてある。今、近藤さんの首は京都にあるんだと」

「そうなんですか?流石に私はそこまでは調べが付きませんでした。となると原田さんに関しても?」

「ああ。彰義隊の名簿から奴の名前を消してくれたらしい。そのお陰で左之の亡骸は埋葬ができたようだ。バレたら昇さんに累が及ぶってぇのに」

 土方は丁寧に手紙を畳みながら西の方を――――――江戸の方を見つめる。

「本当にあの人は昔っから世話好きというかおせっかいというか・・・・・・ありがてぇよな」

「全くです」

 土方の言葉に沖田も同意する。だが、そのお節介のおかげで沖田は会津に落ち延び、原田は埋葬できたのだ。今は敵味方になってしまった渡辺だが、その心遣いに感謝する。

「で、試衛館関係の訃報はこんなもんで終わりか?」

 低い声で土方は唸るように沖田に尋ねる。

「ええ、私の知っている限りでは」

 すると土方は更に凄みを効かせ、沖田の顔を覗き込んできた。

「だったら聞かせてもらおうか?おめぇらがてめぇのガキをお琴に押し付けて会津くんだりまで来た事情をよ。そもそも他に預けられる相手はいるだろうに何故よりによってお琴なんだ、ええ?」

 よっぽど琴に子供を預けてきたのが気に喰わないのだろう。久々に見た『鬼の副長』の睨みに、小夜は勿論、沖田も一瞬怯んでしまう。

「ひ、土方さん。そんなに凄みを利かせなくても・・・・・・その件に関してはこれから順を追って話しますから」

 沖田は土方を宥めながら懐からもう一通の手紙を取り出す。

「まずは私達の話を聞いてください。でないとお琴さんからのこの手紙、渡しませんからね」

 ちらりと見えた宛名書きは、間違いなく琴の手である。それに気づいた瞬間、土方は恨めしそうな視線で沖田を睨みつけ、忌々しげに吐き出した。

「人の弱みにつけ込みやがって・・・・・・だったらその事情とやらをさっさと話しやがれ!」

 不貞腐れる土方に対し、沖田は子供のような無邪気な笑みを見せつつ自分たちが何故会津に来ることになったのか話し始めた。




UP DATE 2016.9.10

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久しぶりの再会を堪能する間もなく、まずは連絡事項報告会と化しております(^_^;)同じ仕事をしている大人の再会なんてこんなものですよ・・・感動の再開云々よりまずはホウ・レン・ソウ!それが終わってから旧交を温めるのです┐(´-`)┌

ということでまずは近藤局長&サノの死の報告ですよね。これに関しては拙宅一のお節介焼き・渡辺昇が土方宛に近藤さんの首の状況や、原田の死の状況について自分の知りうる限りのことを書いてくれたようです。これによって土方も局長の死を受け入れざるを得なくなったでしょう・・・なお涙を見せないのは部下に対する意地もあるのでしょうが、たぶんショックが大きすぎて泣くどころじゃないというのが本当のところじゃないかと思います。というか沖田が目の前に現れたことだけでもビックリぽんなのに更に次々にいろんな報告がなされますからねぇ・・・歳が局長のために泣けるのはお墓を作る頃じゃないかと思われます(´・ω・`)

次回更新は9/17、今度はもう少し楽しい報告ができるかと思います・・・たぶん。
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