「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第十三話 再会と悲しみの報告・其の壹

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 千住を出立して六日後、沖田と小夜はようやく奥州街道と日光街道の追分である宇都宮宿に到着した。宇都宮城の城下町にあり、国内各地を結ぶ主要道路が通る交通の要所で、街道の中でも最も賑わった宿場町だった。だがそれは過去のこと、今では戦場の最前線として官軍の駐屯地となり、物々しい雰囲気に満ちていた。

「ここも官軍の兵士だらけですね。というか今までで一番多いかもしれませんね」

 目深に被った笠の下から様子を伺いつつ、沖田は呟く。

「そうどすな」

 小夜も心配そうに周囲を見回した。本来、日光・奥州街道の関所は栗橋宿に設けられているが、戦時中ということ、そして江戸から逃げてきた幕府軍の残党がこの道を通って会津に向かう可能性が高いことから宇都宮には官軍の検問が敷かれていた。そして全ての旅人がその検問を受けることになっており、宇都宮はちょっとした関所のような状態になっていたのである。流石に旅人は少なく、待ち時間は短いがあまり気持ちのいいものではない。

「ほら、次!」

 二人の前にいた三人連れの旅人の検問が終わり、今度は沖田たちの番である。二人は顔を見合わせつつ立ち上がり、兵士らの前に進むと偽造した手形を差し出す。

「松沢音蔵と、その妻の小夜、と」

 長州者らしい兵士は二人の頭の天辺からつま先までジロジロと不躾な視線を投げかける。

「・・・・・・女房のその髪は?まるで穢多のようだな」

 侮蔑的なその一言に沖田は一瞬むっ、とした表情を浮かべるが、それを小夜がたしなめる。

「へぇ。実はうちら駆け落ち、なんどす」

「駆け落ち?」

「へぇ。うちの家族に反対されまして。せやさけうちは家族に『死んだもんやと思ってください』って髪を切って実家へ置いてきました。こんな髪やものでよう間違えられて辟易しとるんです」

 小夜の口からスラスラと嘘の説明が飛び出てくる。

(こんな時はおなごのほうが度胸があるなぁ)

 沖田は内心舌を巻きつつ小夜を横目で眺める。

「・・・・・・で、その駆け落ち夫婦がどこへ行こうとしているんだ?」

 行き先に関しては沖田の出番である。小夜のお膳立てを活かすも殺すも自分次第――――――そんな緊張感を感じつつ、沖田は口を開いた。

「はい。私の姉夫婦を頼って庄内の方へ。たぶん姉達はそっちの方へ行っていると思うんですよねぇ」

「行っていると思う、だぁ?何だ、そのいい加減な説明は!」

 あやふや沖田の答えに官軍兵は小馬鹿にされたと思って激高する。だが、沖田は表情一つ変えずに言い返す。

「だって仕方ないじゃないですか。上方から妻を連れ帰って江戸に戻ってきたら、既に姉夫婦は江戸にはいなかったんですから。官軍に怯えてどれだけの人が江戸から逃げ出したか判っているんですか?」

 その一言に官軍兵が一瞬怯む。その隙を突こうとばかりに沖田は更に畳み掛けた。

「姉夫婦の上役が庄内の方だった、というのを聞きかじっております。なのでもしかしたら姉たちはその方を頼って庄内に行っているかもしれないんです。薩長の江戸侵攻なんて無かったらわざわざ日光街道くんだりまで出向かなくても良かったんですけどねぇ」

 沖田の嫌味に官軍兵は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるが、『官軍のせいで生き別れになった』と言われては兵士も強く出にくいようだ。

「あと、もしここに渡辺昇先生のお知り合いがいましたら、その方に合わせて頂けますでしょうか?練兵館でお世話になっていたんですよ。万が一の際の紹介状も頂いておりますが、お見せいたしましょうか?」

 沖田がちらりと懐から取り出したもの、それは作間を通じて渡辺が書いてくれた身分証明だった。その名前に検問の兵士は露骨に面倒くさい、といった風な表情を浮かべた。確かに軍上層部を知り合いに持つ人物を疑ったと知られたら色々厄介なのだろう。

「判った判った!さっさと行け!」

 まるで野良犬に対しての如く手でしっしっと沖田たちを追い払った。

「現金なものですねぇ。渡辺さんの知り合いだと知ったらとたんに態度を変えて」

「せやけど、ありがたいもんどすね。渡辺はんや作間はんには何から何まで世話になって」

「ええ。きっと渡辺さんは近藤先生や原田さんを助けられなかった悔恨があるのかもしれません。今は敵味方同士なんですから気にしなくてもいいのに・・・・・・昔から本当に世話好きなんですよね、あの人は」

 そう言いながら沖田は日光街道へ進み始めた。

「そ・・・・・・やない、音蔵はん」

 まだまだ周囲には官軍兵が多くいる。小夜は沖田の偽名で呼びかける。

「そっちは日光・・・・・・」

「ええ、こっち周りで会津に入ります」

 沖田は周囲に聞こえないよう小夜に耳打ちする。

「あっちは戦場ですからね。新選組も出張っていると思いますけど、その前に流れ弾に当たってしまったら元も子もないでしょう?少々遠回りですけど、こちらから行きます。『庄内』に行くにしても道はこっちですからね」

 そう言いながら沖田は小夜の手を強く握り、歩き始めた。その姿に官軍の兵士たちは露骨に嫌そうな表情を浮かべる。
 夫婦であっても並んで歩けないこの時代、下級とはいえ武士と思しき男性が公衆の面前で妻の手を握って歩くということは非常識極まりない。
 だが沖田は敢えてそれをやる事で自らの正体を隠し、更に小夜を守ろうとしていた。こうやって手を握っていれば不意に小夜を攫われると言ったことはないだろう。

「土方さんや斎藤さん、元気ですかねぇ。私達が会津に行っても戦場に出ちゃっているかもしれませんけど」

 だが、沖田のその予想は全くもって外れており、沖田は会津城下で土方と再会することとなる。



 六月十五日、足の怪我がようやく回復し、若松城へと出向いて覚王院義観との面会を果たした土方は、定宿にしている清水屋へと帰ってきた。

「お帰りなさいませ、土方様。先程からお客様がお見えになっております」

 出迎えた宿の主が、土方の留守中に客人がやってきたことを告げる。

「客、だと?」

 わざわざ会津若松に自分を尋ねに来る人物に心当たりのない土方は勿論、近侍として付き従っていた鉄之助も眉間にしわを寄せる。

「その方のお名前は?」

 土方の前に鉄之助が宿の主人に問いかける。

「確か、松沢音蔵さんと・・・・・・今、留守番組のお小姓さん達が御相手してますが、結構親しげでしたよ」

 宿の主のその一言に、更に土方は混乱する。留守を預かっていた上田や玉置が親しげに話しているということは間違いなく顔見知りということだろう。だが、『松沢音蔵』などという名前を土方は聞いたことがない。

「偽名、でひょか?」

 厳しい表情のまま鉄之助が土方に語りかける。

「多分、な。っつたくそんなふざけた真似をしやがるのは一体どこのどいつだ!シメてやる!」

 怒りも露わに土方はずかずかと上がり込み、自らの部屋に向かう。すると上田や玉置の笑い声が聞こえるではないか。どちらか一方の知人ならいざ知らず、二人共に親しげということは明らかに新選組隊士であろう。
 本来なら福良の戦場で戦っているはずの隊士がここにいる事はまずもってありえない。土方は怒りも露わにばんっ!と乱暴に襖を開けた。

「おい!松沢音蔵なんて巫山戯た偽名使いやがってのこのここんなところに・・・・・・!!」

 言いかけた土方がその人物を見て言葉を失う。

「お久しぶりです、土方さん。江戸で死にそこねたんで、巫山戯た偽名を使ってのこのこ会津くんだりまでやって来ました」

 湯呑みを手に人を喰ったような笑みを見せるその男と、ハラハラとそれを見つめる女――――――それは沖田と小夜だった。




UP DATE 2016.9.3

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沖田&小夜夫婦、ぐるりと日光街道周りで会津に入りました(*^_^*)流石に白河が戦場なのでそこは通れませんしねぇ(-_-;)
あと宇都宮での検問ですがこれはでっち上げで(^_^;)ちゃんと調べれば検問の場所とか見つけられそうなんですが、私の貧相な脳みそでは見つける事ができませんでした/(^o^)\でも『日光街道と奥州街道の分岐点なら人も集まるし、効率的な検問ができるだろう』と今回検問所をでっち上げることに(^_^;)

そこを無事通過した総司たちは、ちょっと長めの時間をかけて会津へと到着しました。もしかしたら東照宮にも足を伸ばしていたかもしれない・・・(^_^;)
次回更新は9/10、のこのこ会津まで出てきた総司から、土方へ色々な報告をすることになります(伝達事項がやたら多い^^;)
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