「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第十ニ話 戦の庭へ、再び・其の肆

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「総司はん。病み上がりやのに会津に行くなんて、何を考えてはるんですか?ここで洗いざらい言ってもらいまひょ」

 逃げ腰の沖田の袖を掴み、小夜は上目遣いに沖田を睨みつける。なまじ整った顔立ちだけに、怒りを滲ませたその顔はまるで般若のように恐ろしく沖田には見えた。

「さ、小夜。ちょっとそんなに睨みつけなくても」

 及び腰で逃げ出そうとする沖田だが、小夜に袖を捕まれ後ずさることさえ出来ない。沖田は助けを求めるように傍にいる作間に訴えるような視線を向けるが、作間は『諦めろ』とばかりに視線を逸らした。

「・・・・・・ほんのふた月前、武士の魂さえ捨てはってうちを載せた駕籠に付き添ってきたお方は誰おすか?」

 進退窮まった沖田に更に小夜が追い打ちをかける。

「そりゃあ私ですけど・・・・・・でも、近藤先生や原田さんの無念をそのままにこのまま生きていくことは出来ません。半分墓場に足を突っ込んだような人間ですけど、私は新選組一番隊組長だったんです。なけなしの矜持というものがあるんです」

 小夜を説得するのは難しいだろう。だがそれでも沖田は真摯に会津へ向かいたい理由を小夜に語り始めた。

「確かに劣勢な幕府軍に身を投じるのは無謀だと思いますし、あなた達を残して戦に出向くなんて無責任だとは思います。だからこそあなた達を京都に送ってから・・・・・・」

「せやったら、うちも会津に付いていきます!」

 小夜の口から飛び出した思わぬ言葉に、沖田は目を丸くした。



 小夜の思いもしなかった一言に、暫しの沈黙が部屋の中に流れる。

「さ、小夜。あなた、自分が何を言っているか理解していますか?」

 その沈黙を打ち破り、沖田が唇を開いた。だが衝撃のあまり舌はもつれ、妙にたどたどしい。その一方、小夜は腹を据えたのかきっぱりと言い放った。

「勿論どす。仕方なかったとはいえ、ちょっと目ぇ離した隙にボロボロにならはった総司はんを、一人戦場に送り出すことはできまへん」

「しかし、あなたはおなごなんですよ?幾ら何でも戦場には・・・・・・」

「うちには拙いながら医学の心得があります。戦場に医者はいくらいても問題ないとちゃいますか?実際うちは、池田屋の怪我人や病人を介抱しましたえ?」

 その事を言われてしまうと、沖田としては何も言えなくなってしまう。十六歳の少女だった小夜に介抱されたのは他ならぬ沖田だからだ。更に沖田の休息所にいる間、沖田の部下を中心に外科の手当も数多くこなしている。経験だけではそんじょそこらの町医者よりも遥かに上だ。
 戦場行きを止めさせたいがその理由が見つからない――――――困惑し、沖田は言葉に詰まった。その時である。、

「宗次郎、諦めろ。江戸の男が女房に勝てるわけがないだろう」

 その声の方を向くと、この場から離れそこねた作間がそこにはいた。

「あ・・・・・・駿次郎さん、すみません。お見苦しいところを」

 作間の存在を忘れて痴話喧嘩を始めてしまったことに羞恥を覚え、沖田は真っ赤になって謝る。

「良いってことよ。しかし師匠と弟子のおなごの好みというのは似るもんだな」

「どういう意味ですか?」

「おツネさんも大人しそうに見えてなかなか気丈なおなごだろ?お小夜さんもそうとお見受けするが」

「・・・・・・・確かに、否定はできません」

 作間の言葉は全くそのとおりであった。沖田は頭をかきながら苦笑いを浮かべる。

「だがそうなると問題はお佳世ちゃんだよな。流石にほっぽり出してというわけにも行かないし。宗次郎、お前の姉上は?」

「姉夫婦は既に庄内藩に戻っていますし、あそこも戦場です。やはり一旦京都に戻って小夜の実家に佳代を預けるしか・・・・・・」

「その必要はないわよ」

 その言葉と同時に襖が開けられて、向こう側から琴と志乃が現れた。



 思わぬ人物らの登場に呆気にとられている三人に対し、琴がまず声をかけた。

「ごめんなさい、立ち聞きみたいな形になってしまって」

 そう言いながら琴と志乃は部屋の中に入ってくる。

「大体の事情は解ったわ。だけど、手形を取るのさえ難儀しているこの状況で無事京都にたどり着けるとは思えないの。噂でも東海道や中山道は荒れているって聞くし」

 琴の指摘に沖田と小夜は頷いた。

「だけど、それだからといって戦場に連れていくわけにも行かないでしょ?だからってわけじゃないけど・・・・・・お佳世ちゃんを私が預かろうと思うの」

「え、それじゃあお琴さんにご迷惑が」

 沖田が慌てて断ろうとするが、琴はその言葉を途中で止める。

「それは大丈夫。貰い乳の当ても二、三人あるし、幸いお佳世ちゃんも私やお志乃ちゃんに懐いているわ。それにね」

 琴はちらりと小夜に流し目をくれながら言葉を続ける。

「お佳世ちゃんはあなた達の子どもであると同時に平助さんの忘れ形見でもあるわ。そんな複雑な事情を背負った子は、『歳三先輩』の名の下に預からせてもらいます」

「それはありがたいですけど・・・・・・そんな事を勝手にしはって土方副長はん、怒りまへんか?」

「安心して。何も言わせないから」

 艶然と微笑む琴の背後に、沖田は鬼の強さを感じた。

(駿次郎さんがさっきいっていたおなごの好み・・・・・・土方さんにも当てはまっているのかもしれない)

 向こうっ気の強さを表に出すことは無いが、ごくたまに見せる心の強さや度胸にはっ、とさせられることがある。土方もほぼ間違いなく琴のそんな芯の強さに惹かれたのだろう。そんな事を漫然と思っていた沖田だったが、その隙を突いて小夜が思わぬ行動に出た。

「せやったらお願いします。お琴さんやったら安心して預けられます」

 何と沖田より先に小夜が佳世の預かりの件を許諾してしまったのである。それに慌てたのは沖田である。これでは完全なかかあ天下であるし、佳世を預ける覚悟さえできていないのだ。

「ま、待ってくださいよ!私にだって心の準備ってものが・・・・・・」

 沖田は動揺も露わに反射的に膝の上の佳世を強く抱きしめてしまう。その瞬間、佳世はびっくりしたのか大声で泣き始めた。

「ほらほら、お佳世ちゃんがびっくりしたじゃないの。ほら貸しなさい」

 琴はそう言うと、沖田から奪うように佳世を取り上げるとあやし始めた。すると安心したのか佳世はすぐに泣き止む。

「総司さん、あなたのお佳世ちゃんの甘やかしぶりもいけないわよ。父親なら父親らしくもっとでん!と構えていらっしゃい」

 佳世を抱く琴の姿はまるで本物の母親のようであった。

「そうやってお琴さんが抱いているとまるで土方さんの子供みたいなんですけど」

「あら、そういう考えも悪く無いわね。というか、誰の子だ、って拘らずに試衛館の子だと思えばいいじゃない」

 琴の一言に、沖田は眼から鱗が落ちるような思いがした。

「そう、ですよね・・・・・・」

 小夜と藤堂との過去から目を背けたいがために佳世を『自分の娘だ』と思いこむようにしていた沖田だったが、やはりそれには無理があったのかもしれない。もしかしたら一旦距離を置くことによって『本当の親子』のあり方が見えてくるのかもしれないと沖田は思い始めていた。そしてそう思っていたのは沖田だけではなかった。

「宗次郎。これは神の、否、あの世の勇さんからの思し召しかもしれないぞ。お佳世ちゃんのことは俺達が責任をもって預かる。勿論昇さんからも手を回してもらってお佳世ちゃんに官軍の手が回らないようにもしておくから安心して会津に行って来い」

 作間の言葉に妻の志乃も、そして琴も強く頷く。

「ありがとう・・・・・・ございます」

 三人の援助に、沖田と小夜は深々と頭を下げた。



 三日後、千住の宿場には旅姿の沖田と小夜、そして見送りに出向いた作間夫婦と佳世を抱いた琴がいた。

「では、ここまでで」

「生きて帰ってこいよ」

 作間の言葉に沖田は深く頷く。生きて江戸へ――――――それはほぼ不可能かもしれないが、できれば生きてもう一度佳世の顔を見たい。

「ほな、佳世をよろしゅうお願いいたします」

 小夜も琴に向かって頭を下げる。

「安心して頂戴。戸塚村の家に引き取ってからは至って元気で・・・・・・きっと丈夫に育つわよ。だから生きて帰ってらっしゃいね」

 そう言いながら琴は佳世を片手で抱えなおすと懐から一通の手紙を取り出した。

「悪いけど、これを歳さんに。土方の家の様子や、その他のこちらでの事情を書いておいたから」

「承知しました。責任をもって渡します」

 沖田は琴から手紙を受け取ると、唇を真一文字に引き結んだ。

「では、行ってきます」

 沖田と小夜は改めて深々と頭を下げた後踵を返し、奥州街道を進み始めた。


 新たな旅立ちの一歩を踏みしめた沖田と小夜。その向かう先は今までに経験したことのない、壮絶な戦場であることを二人はまだ知る由もなかった。




UP DATE 2016.8.27

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かなり強引な不時着ではありましたが、何とか沖田&小夜を会津へ旅立たせることが出来ました(^_^;)これからがまた大変なんですけどねぇ(-_-;)
史実では『沖田総司の娘は商家に預けられた』とありましたので、『三味線屋でも商家だろう(๑•̀ㅂ•́)و✧』とのことでお琴さんに佳世を預かってもらうことになりました(*^_^*)しかしお琴さんが抱くと『土方歳三の隠し子』臭がするのは何故でしょうwww
ともあれ佳世はお琴さんを中心にきちんと『武士の娘』として育てられていきますので、ある意味病んだ総司&小夜夫婦に育てられるよりはまともに育つ可能性大です(おいっ)

次回の更新は9/3、かる~く二人の道中、そして土方との再会を書ければな~と思っております(^_^;)
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S様、コメントありがとうございます(*^_^*) 

お陰さまでようやく沖田は復活し、舞台は会津へと変わります。
S様が書かれた会津戦争の悲劇、そして薩長側との確執などもこれから出てくるかと思いますので、宜しかったらお付き合いお願いいたしますm(_ _)m
(頂いた感想が拙作今回の場面ではなく、かなり未来の話でしたので少々驚いてしまいました(^_^;)気長にお付き合いいただければ幸いです^^)


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