「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第十一話 戦の庭へ、再び・其の参

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 約束を取り付けていた二日後、渡辺昇は再び作間道場にやってきた。ただいつもの朗らかな笑顔は影を潜め、沈痛な面持ちである。繕うことさえままならない渡辺のその表情に、沖田と作間は言葉をかけることさえできない。

「宗次郎、残念だが・・・・・・」

 暫しの沈黙の後、言いにくそうに渡辺は口を開く。その口調の重さから沖田は渡辺が何を言おうとしているのか察した。

「やはり左之助さんは・・・・・・駄目だったんですね」

 覚悟をしていたとはいえ、決定的な事実として突きつけられると辛さ、悲しみがこみ上げてくる。しんみりとする沖田に、渡辺は自分が見てきたことを語り始めた。

「ああ、脇腹と喉元を抉った流れ弾が致命傷だ。俺が神保邸に出向いた時にゃ既に仏になっていた。死ぬ間際まであいつも周りに気を使っていたんだろうな。苦しかったはずなのに仏は微笑みを浮かべていてよ・・・・・・男前の顔だけは綺麗なまんまだったぜ」

 そう告げると、渡辺は天を仰ぎ、鼻をすする。

「本当に馬鹿な奴だよ!彰義隊になんか付き合わずにとっとと嫁のところに帰るなり会津に行くなりすりゃあいいものをよ!よりによって何で勇さんのところにすっ飛んでいくかな!」

 ぶっきらぼうに叫ぶと、渡辺は男泣きに泣き出す。その背中をさすりながら、後輩の作間はしんみりと呟いた。

「確かに上野戦争の銃撃戦は激しいものがありましたからね。ところで昇先輩、左之助の亡骸はどうなりましたか?まさか打ち捨て・・・・・・」

 表向き彰義隊隊士の埋葬は許されておらず、上野寛永寺の一角に山積みになっているという。本来なら原田の遺体もそこに持ち運ばれるはずだ。心配した作間が渡辺に尋ねるが、渡辺は『安心しろ』と二人に告げた。

「関係各所に金を掴ませて口止めをしている。あと彰義隊の隊士名簿からもあいつの名前を消すように工作した。たぶん『新選組の原田左之助』があの場所にいたという証拠は書類上から嗅ぎつけられることはないだろう」

「昇さん・・・・・・ありがとうございます」

 新選組というだけでも目の敵にされるのに、更に彰義隊として参加していたとなれば家族はただではすまないだろう。少しでも原田の家族にとばっちりが及ばぬようにとの渡辺の心遣いに沖田は感謝する。

「俺にはこれくらいしか出来ねぇがな。宗次郎、お前もできるだけ早く江戸から離れろよ。どこでお前が新選組幹部だったとバレるかわかりゃしねぇ」

 死んでしまったものは仕方ないが、生きているのならまだ助かる道はある――――――沖田にそう言い残すと、渡辺は作間道場を後にした。



 渡辺が去った後、沖田は考え込んでいた。

(このまま・・・・・・京都に戻るべきなんだろうか?)

 妻子のもとに戻りたいと願いつつ、敵の銃弾に倒れた原田のことを思うと、後ろめたさを感じてしまう。
 そしてそれ以上に沖田の内側に湧き出しつつある感情――――――官軍に蹂躙され、寂れつつある江戸(ふるさと)をどうにかしたい、この場にいるべきではない者達を追い払いたいという欲求も覚えていた。

(だけど、小夜や佳世を放り出して戦場に行くわけにも行かないし)

 一旦京都に戻ってから再び江戸、そして会津に行くのは平穏な時でさえ大変である。しかも今は道中に官軍の監視の目が光っているのだ。自分はこれからどうするべきか――――――小さな溜息を吐いてしまったその時である。

「宗次郎、だいぶ悩んでいるようだな」

 いつまでも濡れ縁に座り込んでいる沖田を心配して、作間が茶を持ってやってきたのだ。

「あ、駿次郎さん」

 隣りに座った作間に、沖田は微かな笑みを見せる。そして勧められるままに番茶をひと口含むと、伏し目がちに作間に尋ねた。

「やっぱり判りますか?悩んでいるって」

「そりゃあ。俺はお前が試衛館の内弟子になった頃から知っているんだぞ?悩みを表に出すことなんて殆ど無かったお前があからさまにそんな顔をしているんだ。判らないほうがおかしいだろう」

「え?そんなに私って脳天気に見られていたんですか?」

 『悩みを表に出さない』と言われて少々不服だったのか、沖田は作間に食って掛かる。

「う~ん、脳天気、というのとはまた違うな。周囲に気を使いすぎて自分を押し殺していた、というのが一番近いかな?勇さんは気づいていなかったようだが、昇さんはそういうのに敏いんだ。俺も昇さんに言われなきゃ気が付かなかっただろうな」

 どうやら沖田の『悲観的な感情はとことん押し殺す』という性格を見抜いていたのは作間でなはく渡辺らしい。作間のネタばらしに沖田は思わず声を上げて笑ってしまった。

「やっぱり練兵館の塾頭になるほどの人は違うんですね」

「ああ見えても細やかな気遣いができる人だから」

「だから貧弱な田舎道場の助っ人にも来てくださったんですかね。本当に昇さんと作間さんの助太刀には何度も助けられましたよ」

 冗談めかした沖田の言葉に作間も思わず笑ってしまった。

「確かに!あの人は困っている人がいるとすぐに手を差し伸べてしまうから」

「そうですね・・・・・・でもあまり甘えてばかりはいられませんよね。やっぱり昇さんの迷惑にならないうちに私は江戸を発ちます」

「・・・・・・京都、か?」

「ええ、取り敢えず小夜と佳世を向こうの実家へ預けてから、ということになりますね」

 すると作間は眉間にしわを寄せ、厳しい表情を浮かべた。

「聞き捨てならないな、その言葉。一旦実家にあずけて、とは。まさかその後で会津にでも行くつもりじゃないだろうな?」

 作間の指摘に、沖田は素直に頷く。

「ええ、そのまさかです。遠回りにはなりますが、江戸がここまで蹂躙されているのを指を加えて見てろ、っていうのも悔しいですし。それに・・・・・・近藤先生と原田さんのことを、皆に伝えないと」

 言葉の中身は重い決意に満ちたものだったが、その口調はあっけらかんと明るいものだった。

「もしかしたら駿次郎さんとは今生の別れになるかもしれませんが、今までありがとうございました」

 沖田は作間に向かって正座をすると深々と一礼する。

「おいおい、大したことはしてないぞ。それよりも――――――できるだけ生きて江戸に戻ってこいよ」

 優しさの籠もった作間の言葉に、沖田は思わず涙ぐんでしまった。



 できるだけ早いうちに、可能であれば二、三日のうちに江戸を発ち京都に向かいたいと願っていた沖田だったが、その願いはなかなか叶えられなかった。
 ただでさえ道中手形を出してもらうのに官軍の審査があるのだが、それが上野戦争によって更に厳しくなってしまったのである。
 逃走経路である会津方面への手形はすぐに出してもらえるのだが、その他の方面――――――特に朝廷のある京都方面への審査はかなり厳しく、最低でも半月はかかると言われてしまった。否、大店の手代でも半月かかるのだから、沖田のような如何にも下級武士といった風情の青年は『もしかしたら』とばかりに徹底的に調べられてしまうかもしれない。

「困ったなぁ」

 その報告を作間から聞いた沖田は佳世を膝に乗せつつ困惑の表情を浮かべる。

「これじゃあ二人を京都に送った後、会津に行く頃には秋に・・・・・・」

「総司はん?会津に行くって・・・・・・それ、どういうことですか?」

 いつにない鋭い声音に沖田はしまった、と顔をしかめ、佳世を抱えて逃げようとしたが既に遅かった。

「総司はん?病み上がりやのに何を考えてはるんですか?ここで洗いざらい言ってもらいまひょ」

 逃げ腰の沖田の袖を掴み、小夜は上目遣いに沖田を睨みつけた。




UP DATE 2016.8.20

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二週間ぶりの『夏虫』、お待たせいたしました(>_<)本当にこの場面はターニングポイント&史実からは離れているのでなかなか筆が進まず(^_^;)それでもやって目処がたちましたヽ(=´▽`=)ノ

原田の死、そして上野戦争で荒らされた江戸を見るにつけ沖田に戦意が湧き上がって来たようです。その前に小夜&佳世との穏やかな生活が沖田の生命力を復活させていたんですけどね(●´ω`●)
ただ、小夜を京都に送り届けてから会津に・・・という沖田の目論見の雲行きはだいぶ怪しくなってきているようで・・・果たして総司は小夜を説得できるんでしょうかねぇ・・・亭主関白か、かかぁ天下か、このやり取りで決定的になる気がします( ̄ー ̄)ニヤリ

次回更新は8/27、果たして沖田は京都に行くのか会津に行くのか・・・次回をお楽しみ下さいませ(●´ω`●)
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