「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第十話 戦の庭へ、再び・其の貳

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 沖田らが作間道場に転がり込んでから三日後、作間が言った通り渡辺昇が作間道場にやってきた。渡辺自身は沖田が作間の道場に来ていることを知らなかったが、沖田の顔を確認するなり破顔し、バンバンと強く肩を叩いた。

「おう、宗次郎!お前は無事だったようだな!いや~良かった良かった!!」

 心の底から嬉しそうな笑みに、沖田も思わず笑ってしまう。

「ええ、お陰さまで。千駄ヶ谷の借家で薩摩の兵士に襲われましたが、何とかここまで辿りつけましたよ。昇さんに駿次郎さんの道場のことを教えてもらって、本当に助かりました」

 確かに作間道場のことを知らなければ、乳飲み子を抱え野宿をすることになっていただろう。感謝してもしきれないと沖田は渡辺に深々と頭を下げた。

「良いってことよ。どのみちこの状況じゃ上方に行くもの厄介だろう。軍幹部の目が届く江戸はまだしも、そうじゃないところの規律はかなり乱れているらしい。いや、江戸もそう変わらんか」

 渡辺は腕組みをしながらう~む、と唸る。

「まぁ、確かに私達も薩摩兵に襲われましたけどねぇ。あ、でもちゃんとした捜索隊は別個にきましたから、あれはもしかしたら規律違反の兵士だったんでしょうか?」

「ああ、間違いなくそうだろうな。彰義隊の残党よりも、規律違反で罰せられる兵士の方が多くて困っているんだ。こっちに来る際もそんな輩の取り調べをやらされてさ」

 不満そうに唇を尖らせながら渡辺は、志乃が運んできた茶をすすった。

「大変ですね、昇先輩。ところで・・・・・・何か我々に隠していらっしゃるんじゃありませんか?」

 作間が鋭く切り込み、沖田が驚きの表情を浮かべる。

「駿次郎、さん?」

「ほう。何故そう思った駿次郎?」

 驚く沖田とは対照的に、渡辺はニヤニヤと愉快そうな笑みを浮かべる。どうやら作間の推理を楽しんでいるようだ。その一方、作間は面白くも無さそうに返事を返す。

「先輩は隠し事が苦手ですからね。嘘をついたり隠し事をしたりすると左の眉がぴくぴく動くんです。もしかして私か宗次郎か・・・・・・どちらかに関係するものが捕縛されたのですか?」

 すると渡辺は笑顔を引っ込め、厳しい表情を浮かべつつ作間の問いかけに答えた。

「・・・・・・お前の道場からも数人、彰義隊になったんだっけか。弟子にイノシシ野郎がいると師匠は厄介だよな。草葉の陰の勇さんもそう嘆いているだろうよ」

 近藤の名前が渡辺の口から飛び出したその瞬間、沖田の表情が強張る。

「ま、まさか・・・・・・原田さん?左之助さんが?」

 嫌な予感を覚えた沖田が渡辺に訪ねると、渡辺は沈痛な面持ちで口を開いた。

「ああ。まだ確証は得られていねぇが・・・・・・左之助らしい男が本所に潜伏しているらしい、との密告が昨日の夜遅くにあった」

 それだけ言い切ると渡辺は唇を引き結んだ。



 遠くから油蝉の声が聞こえてくる。だが、その騒々しい鳴き声を気に留めるものはこの部屋には誰も居なかった。

「本所の神保山城守邸に複数の彰義隊隊士が隠れていると、神保の屋敷の使用人からの密告があった。で、その内の一人の腹に、横一文字の傷跡があると」

「それって、まんま左之助じゃないですか!あいつ以外切腹の傷跡があるなんてそうそう居ないでしょう」

 思わず作間が声を荒らげるが、渡辺もそう思ったらしい。

「ああ、俺もそう思う。だが、そいつはかなりの重傷らしいぜ。腹の傷を知ったのも手当の際に見えたからだと密告者は言っている。だが・・・・・・さすがに下っ端が乗り込むにゃ相手が厄介だ」

 渡辺の言葉に沖田と作間は頷く。

「だから今日の昼八ツ過ぎに本所に出向くつもりだ。あいつが生きているか死んでいるかは判らねぇが、生きていた場合・・・・・・覚悟はしておいてくれ」

「そこは承知してます。そもそもこうやって私と話していることだって問題行動じゃないですか、昇さん」

「確かにそうだな!」

 いつもと変わらぬ豪快な笑いに、作間と沖田もつられて笑った。

「ま、この事については明後日に。今日は本所だが、明日も向島近辺の厄介どころに出向かにゃならねぇ」

 ぼやきつつ渡辺は立ち上がる。

「もうお帰りに?もう少しゆっくりしていけばいいのに」

 作間は渡辺を引き止めるが、渡辺は名残惜しそうな表情を浮かべつつそれを丁重に断った。

「そうも言っていられらねぇんだよ。略奪とかしでかしてくれた馬鹿どものせいで門限がやたら厳しくなっちまってよ。幹部もとばっちりを食っている」

 そう言い残し渡辺は作間の道場を後にした。



 その夜、沖田は小夜に渡辺から聞いたこと――――――原田が本所にいるかもしれないことを告げた。

「たとえ原田さんが生きていたとしても、昇さんに見つかってしまったら官軍に捕縛されてしまう。それは解っているんですけど」

「うちも・・・・・・生きて欲しいと思います」

 目を潤ませながら小夜が呟く。

「何だかんだで悪運が強い人ですからね。きっと昇さんが出向く前に本所から逃げ出して会津に向かうかもしれません。ところで、話は変わりますけど・・・・・・」

 沖田は小夜の腕の中で眠っている佳世の顔を覗き込みながら尋ねる。

「私達がここに来てから毎日お琴さんが来てますけど、何かあったんですか?そんなに糸の仕入れが大変だとも思えないんですが」

 というか、糸の仕入れをしているようには全く思えなかった。琴は毎日作間道場にやってきては志乃と共に小夜と佳世を沖田から引き離し、何やら喋っているようなのだ。だが、その詳しい会話の内容までは判らず、沖田は悶々としていた。

「へぇ。実はこの前、お琴はんとお志乃はんに問いつめられてほんまの事を・・・・・・こん子が総司はんの胤やないことをいうてしまったんです」

 それを聞いて沖田は小さく溜息を吐く。

「どちらか片方だけだったらともかく、あの二人から一度に問いつめられたら確かに隠し通せないでしょうね。特にお琴さんは・・・・・・」

 沖田は一度躊躇してから更に言葉を続ける。

「土方さんで『尋問』の仕方を鍛えてますからねぇ。浮気をしようものなら直ぐにバレて問いつめられていたそうですよ。土方さんでさえ耐えられなかったんですから、あなたじゃ秘密を隠し通すのは無理でしょうね」

 沖田は小夜の頬を撫でながら優しく囁いた。その声に安心したのか、柔らかい表情で小夜は口を開く。

「せやけど、お琴はんは優しいお方どす。うちを心配して毎日様子を・・・・・・」

 やはり自分達『親子』は傍から見たらぎこちないのだろう。沖田はそっと小夜の肩を抱きながらその耳許に唇を近づけた。

「状況が落ち着くまであと数日、駿次郎さん夫婦やお琴さんに少しだけ甘えてしまいましょう。これからどんな事が起こるか解りませんから」

 一寸先は闇というが、それ以上に予想できない。今は作間や渡辺によって守られているが、いつ官軍に捕縛されても文句は言えないのだ。恩をいつ返せるかは判らないが、今は助けでもらおう――――――それが沖田の中に蘇ってきた『強さ』故の余裕だとは気づきもせず、沖田は小夜の肩を抱き続けた。


 そして二日後――――――たとえ官軍に捕縛される危険性はあっても原田に生きていて欲しい、そんな沖田らのささやかな願いは無残にも打ち砕かれることになる。



UP DATE 2016.8.6

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ただでさえ書きにくい、というか難しい場面であるにもかかわらず、集中力が殺がれまくり、ようやくここまでUPすることができました(ヽ´ω`)とにかく、このシーンを書き終えればあとは年表に乗っかることができるので、もう一頑張り。このタイトルを書き終えるまでは辛抱です(>_<)

そして本編の内容ですが、作間道場にやってきた渡辺昇から告げられたのは原田の潜伏情報(>_<)この時点では生きているか死んでいるかは定かではありません。きっと傷の手当をした直後に屋敷を抜け出し、密告したのでそのへんが曖昧だったのでしょう。
沖田としては生きてもらいたいと願っておりますが、歴史はどこまでも残酷で・・・(´・ω・`)

誠に申し訳ございませんが来週13日は帰省のため休載を(>_<)原田の状況は再来週20日の連載にて書かせていただきますm(_ _)m
(左之助の死→沖田が会津へ向かう決意を固めるシーンなので少々お時間を頂きます。あと小夜の決断も)
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